東方高次元   作:セロリ

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36話 やはり妖怪はすごい……

なんて回復力なんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり妖怪の持つ自己治癒力というのは人間よりも高いようで、あれだけ衰弱していた藍の身体が、ものの一週間で日常生活に差し支えないほどにまで回復してしまった。

 

なんというかまあ、うらやましいの一言である。

 

そして現在、もう少しで就寝の時間でもあるのだが、藍が暇だというので将棋を指している。だがこれがまたえらく強い。

 

ルール教えただけだというのに、いきなり棒銀さしてくるとか一二三さん泣きますよ?

 

いやまあ、プロとかは別次元の強さなんだけども、それでも藍は俺より強い。

 

「……王手だ」

 

そう言いながら藍が香車を指す。

 

あ、ちょっとヤバいなこれ。

 

(とって、とられて、とって、とられる。王が下がって歩を6九に置かれて、龍王と角行が効いてるから4九に逃げて…………あ、詰みですなこれ。)

 

ふと俺が難しい顔をしながら考えていると、藍の視線が気になった。

 

そこで俺が顔を上げて藍を見やると、なんとニマニマしている。

 

うわぁ、完全に答えが分かっている顔だよこれ。

 

おそらく藍はもう俺がどう頑張っても詰みだというのがすでに分かっているのだろう。

 

確かに俺ですらこの状況から詰みに繋がっているのがありありと分かる。

 

……ああ、もう。負けだ負け。

 

これ以上どうしようもないので諦める。

 

そして俺は素直に正座から頭を下げて負けを認める。

 

「負けました……。ありがとうござました」

 

そして藍も

 

「ありがとうございました」

 

と言って頭を下げる。

 

そして両者が頭を上げ終わったところで俺がかねてからの疑問を口にする。

 

「何でそんなに強いんですか? 世の中理不尽じゃありません?」

 

すると、藍は自慢の尻尾を大きく揺らしながら自慢げな表情で胸を張りながら答える。

 

「それはもちろん、長生きしているからだな」

 

いや、長生きとかそういう問題じゃないような気がするのですが…。俺だって長生きしてるし。それと胸を張るのはやめてください。目のやりどころに非常に苦労します。

 

「いや、元々頭がいいからでしょう? 玉藻さんの場合。俺だって長生きしてるし、関係ないですって」

 

それを聞くと藍は少し顔を綻ばせながら

 

「そ、そうか? なんだか照れるな……」

 

と声を少し高くしながら言う。

 

藍は照れると言っているが、実際のところその頭の良さがあるからこそ紫の式を務められるのだろう。まだ先の話だが。

 

そんな事を考えていると、今度は藍から話しかけてくる。

 

「……ところで、私のような妖怪がここにいてもいいのか? 何日もこの家にいるのはさすがにマズイだろうし、気が引けてくるのだが……」

 

と、そんな事を言ってくる。そんな事気にせんでいいのに全く。

 

いても全く迷惑ではないという事を例を出しながら伝える。幽香だって定期的にこの家に来るのに今更って感じだ。

 

「いやいや、全く迷惑ではありませんよ。幽香もここへ頻繁にきますし、何より人数多い方が楽しい上に食事も断然美味く感じますからね。」

 

そう、常々思うのだがやはり食事は複数人でした方が一人で寂しく食べるよりも圧倒的にうまく感じるのだ。

 

大体藍の過去も聞いたが、本当に孤独の寂しさというのを嫌というほど味わっているのだ。追い出せるわけが無い。俺も追い出すつもりも毛頭ないが。

 

そして俺の言葉を聞くと、藍は満面の笑みを浮かべながら言う。

 

「そうか、ありがとう。そして、私の体調が万全になったら、いつか必ず恩返しをしようと思う」

 

そう言ってもらえるのはうれしいが、別に恩を押し売りしているわけでもないし、気にしなくてもいいのだが。

 

だが、まあ気が向いたらしてもらおうという形で言った方が無難だろう。

 

だから、俺はその考えのとおりに藍に向かって口を開く。

 

「いや、まあ気にしなくてもいいのですが、玉藻さんの気が向いたらという形でお願いします」

 

それを聞いた藍は少し苦笑しながら

 

「わかった。……あと、頼むから敬語はやめてくれ。なんだか他人行儀で落ち着かない。もっと……なんというか…ええと……。こい……そう、友人同士の喋りみたいな感じだ!」

 

突然の大きな声に少し面食らってしまったが、再度頼まれたのなら仕方が無い。敬語は取りやめだな。

 

「わかったよ、玉藻さん」

 

そう俺が返すと目をつぶりながら藍はうんうんと頷きながら

 

「そう、それでいい」

 

と愉快そうに言う。

 

見ていて飽きない、元気をもらえる素晴らしい笑顔だと思う。迫害されてきた事が不思議に思えるくらいに。

 

ふと俺は壁に掛けてある時計に目をやる。時計の針はすでに日にちが変わったという事を示している。そろそろ寝た方がいいだろう。

 

そこで俺は、深夜になってきたので、藍に就寝の提案をする。

 

「玉藻さん、そろそろ寝ない?」

 

俺がそう言うと、藍は時間を忘れていたのかハッした表情になり、服を少々整え、髪を撫でながら言う。

 

「確かにもう夜も更けてきたことだし、寝るとしようか。すまない、遅くまで付き合わせてしまって」

 

「いやいや、俺も楽しかったし迷惑でも何でもないよ」

 

そう言うと、藍は軽く頷きながら立ち上がり布団の中へと入っていく。

 

俺も部屋の電気を消して2メートル程離して敷かれている布団にもぐりこむ。

 

俺は藍が苦しんでいた時、何かあってはいけないと念のために居間に布団を敷いて寝ていたのだが、いつしかそれが癖になってしまって今でも居間で寝るということになってしまっているのだ。

 

だが、美女が同じ屋根の下にいるとなんだか落ち着かない

 

やはり看病が始まって一週間しかたっていないのが理由として大きくある。

 

俺が布団の中で色々と悩んでいると、布団に入っている藍から声がかかる。

 

「耕也、起きているか?」

 

「起きてるよ。どうした?」

 

すると藍は少々間を開けながら言い始める。

 

「実を言うとだな。あと数日したら、しばらく色々とこの国を見て回りたい」

 

いきなりどうしたというのだろうか? 何かこの家に不満でもあるのだろうか? やはり近代的な道具や設備があるからその空気が合わないのだろうか?

 

そんな事を考えてしまったため、自ずと口から言葉が出てしまう。

 

「やっぱ、この家の空気が合わない?」

 

すると藍は否定の言葉を口に出す。

 

「いや、そうではない。実のところ、私はこの国に来た時は逃げてばかりでこの国の景色や人間の生活、妖怪の営みなどをろくに見ていないのだ。だから今度はゆっくりと見てみたいのさ。そう、存分にこの目に焼き付けたいのだ。この国の素晴らしさをな。」

 

そうか、そういう考えがあってもおかしくはないよな。

 

あれほどにまで追い詰められ続けて、苦しい目にあったのだ。この国を見回る事なんてできなかったに違いない。

 

なんだかデジカメ渡して記念写真を撮ってきてもらいたいなぁ。冗談ではあるが。

 

「玉藻さんの好きにするといいよ。俺はその考えに賛成するし、全力で支援もしよう」

 

すると、藍はうれしそうな声を出しながら俺に返答する。

 

「そうか、賛成してくれるのか! ありがとう。お前に出会えてよかったよ…心からな」

 

「友人が頑張ってるんだ。応援をするのは当然だよ。」

 

俺がそう言うと、藍は何故か声を不機嫌にしながら

 

「……それもそうだな。おやすみ」

 

そんな事を言って寝てしまった。

 

あっれ~? 俺何か変なこと言った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、のどが渇いた。

 

そう思った私は布団から起き上がり、台所へと向かう。

 

この台所に向かうまでに色々な事が頭の中に溢れ返る。

 

不思議な機構で開け閉めをするドアに蝋燭を遥かに凌ぐ明るさを誇るけいこうとう? だったか。とにかくそんな物がこの家には溢れ返っている。

 

そしてお目当ての台所には、取っ手を上げ下げする事によって自由に水量を調節をする事ができる水道というものがある。

 

これらの不思議な機械を動作させるための水やでんりょく?という物はすべて耕也から自動的に供給されているという。

 

本当に不思議な男だ。だが、同時に心地よい雰囲気を持つ男だ。

 

私はそんな事を思いながら水道の取っ手を上げてまるで宝石でできているのではないかと思えるほどの透き通った硝子製の洋盃に水を満たす。

 

そして満たされた程良く冷えている水を口に入れ、渇きを癒す。

 

やはりどんな時代、どんな国で飲んだ水よりも透き通っていて飲みやすい。地下水に負けず劣らず。いや、それ以上だ。

 

耕也は、いおん交換膜を応用した物と言っていたが。

 

水を飲みながらふと今の自分の状況を考える。

 

確かに私は今までにないほど心地の良い環境にいる。そしてその幸せを十分に享受している。

 

耕也は優しいし、幽香はなんだかんだ言いながらも、献身的に看病をしてくれた。

 

そして想い人もできた。心の底から自然に、確信的な。

 

今の私は状況を見れば十分に幸せだろう。

 

だが、ひとつ。

 

「はぁ……やはり一人で寝るのは……寂しいな」

 

そう、やはり寝る時の孤独感が癒えない。

 

なぜかここ最近はそれが顕著に表れるようになった。

 

耕也という男に接したからだろうか? やはり心の中は意識をしてもなかなか抑える事ができない。

 

だから私は、洋盃を金属製のしんくに置き、居間へと戻る。

 

暗闇でも私の眼は人間よりも遥かに強く、視界を確保できる。

 

だから、耕也が寝ている所を発見することなど、朝飯前である。

 

「さて、耕也。私の寂しさを紛らわせてくれるな? お前は、私が心の底から認めた唯一の男なのだから。」

 

そう言って耕也の布団にもぐりこみ温かみを分けてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ああ、本当に心地良い。そして温い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、暑い。なんだかものすごく暑い。それになんだか俺の身体に妙な圧力がかかっている気がするのはなぜだろうか? おまけになんだか妙に柔らかい感触もするし、毛布が増えた感じもするし。

 

しばらく睡眠の為に意識を手放しているとそんな考えが浮かんできた。

 

全く何なんだ。いつの間に俺の布団はこんなモッフモフになったんだ?

 

(……ん? モッフモフ?)

 

そんな疑問が自分の中に湧いてきて、ゆっくりと目を開けてみる。すると、信じられない光景が目に飛び込んできた。

 

(コラコラコラッ! 一体なんで藍がここにいるの!?)

 

そう、藍がいたのだ。おまけに尻尾がしまわれておらず、そのままで俺の布団に溢れ返っているため、非常に寝苦しい温度となってしまっている。

 

寝惚けて布団を間違えたのか? よく分からんが。

 

とにかく寝苦しい。自分の布団に戻ってもらいたい。

 

そう思い、俺が藍を布団までジャンプさせようとする。

 

だが、俺が力を使おうとしたその瞬間に、藍の眼から一筋の涙が流れるのが見えた。そしてわずかばかりの嗚咽も聞こえてくる。

 

……泣いているのか。

 

おそらく夢で過去の事を思い出しているのだろう。

 

その顔は今まで見せた事のないような悲痛な顔であり、過去にどんな酷い目にあわされたのかが、ありありと伝わってくる。

 

流石にここまでの事を見せられて一人で寝させるほど俺もバカではない。

 

だから、俺は藍を安心させるために少し強く自分の方に抱きよせ、背中をポンポンと撫でるようにたたいてやる。

 

すると藍から次第に嗚咽が止み、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

そして俺は藍を抱きしめたまま再度眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして朝になって、突然訪問した幽香が俺たちの寝ている姿を見てキレまくり、三日程口をきいてくれなかったのはさすがにしょんぼりとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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