東方高次元   作:セロリ

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18話 さてさてどうすんべ……(下)

なんとかこんとかして……うん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああやばい。こいつマジ本気だ。

 

戦いが始まってすぐにそれを認識させられた。

 

確かに風見幽香の移動速度は遅い。しかしそれは妖怪の範囲であり、人間と比べれば速いのだ。

 

彼女は手に持った日傘をまるで大剣か何かのように。いや、時には槍のように臨機応変に戦法を変えてくる。

 

こちらの身体能力は、人間の平均より少し下程度なのだから避ける術が無い。

 

インパクトの瞬間にジャンプして安全圏に逃げても、あらかじめ分かっているような対処をして追いすがってくる

 

そのおかげで攻撃に回す時間が創れない。全くもって厄介な相手だ。

 

こいつは背中に目か、レーダーでもあるんじゃないか? そんなレベルの察知能力だ。

 

「ホラホラどうしたの!? さっさと攻撃してきなさいよ!」

 

そう挑発しながら俺の心臓を一突きにしようと、傘を振りぬく。だが傘は弾かれ、骨が曲がる。

 

しかし破損を確認した幽香は傘に妖力を込め、新品同様にまで修復してしまう。

 

傘が壊れ、直り、壊れ、直り、壊れ、直る。ずっとこの繰り返しだ。

 

「くそっ、反撃されたいなら少しは時間をくれ!」

 

「そんなの……できるわけ無いでしょう!」

 

そう言いながら幽香は傘を俺の前で開き、妖力で生成した光線を浴びせてくる。

 

「ふっざけんな!! 俺じゃなかったら死んでるぞ!」

 

防ぎつつ文句を言いながら、ようやく開いた時間に鋼鉄の杭を50本創造し、弓矢レベルの速度で応酬する。

 

それを幽香は危なげながら何とか回避していく。しかし3本が掠り、服ごと皮膚を切り裂く。

 

「ちっ、速いわね。でもそうでなくては。最強の人間。この私を満たして見せなさい!」

 

「勘弁してくれぇ! お前はどこかの宗教家か!?」

 

そう言いながら幽香は己の使える体術を最大限利用しながら攻撃を仕掛けてくる。

 

拳速や脚速があり得ないほど速い。全く対応できない。

 

いくら食らわないとはいえ、体力は人間。身体がもう警報を鳴らしている。

 

それに比べ幽香は疲れの色を全く見せない。これが人間と妖怪の差か。

 

俺は舌打ちをしながら上空にジャンプし、息を整える。

 

そして、すぐに幽香は俺のすぐ側まで飛んできて、相対する。

 

俺は幽香に対して、かねてからの疑問を口にする。

 

「なんで俺の転送先が分かる。なんで?」

 

それを聞いた幽香は、さも愉快そうにクスクスと笑いながら答える。

 

「あらあら、それすらも分からないの? では貴方の眼下にあるのは何かしら?」

 

その声につられて下を見て分かった。やっと理解した。彼女がなぜ背後にジャンプしても、視認できない木の裏側や向日葵の海に隠れても、俺の居場所を把握できたのか。

 

彼女は植物から情報を得ていたのだ。俺が今どこにいるのかとかといった情報を。まるで管制システムなんじゃないか?

 

そして幽香は、俺の表情を見て

 

「やっとお分かりになったようね。そうよ、植物よ。貴方の居場所を逐一報告してくれるの。ここにいるよ。今背中に移動したよ。私の茎の所に隠れているよ。あそこの木の裏側にいるよ。……ってね。

でもすごいわよ貴方。気配は全く感じられないし、霊力とかも無いからそれを辿る事も出来ない。普通だったらこの手を使うまでもないんだから。」

 

「そいつは光栄だねこんちくしょう。そのおかげでもう身体の内側がボロボロだよ。」

 

「もうちょっと鍛えなさいな。私の戦った貴方と同業の陰陽師は、同じ時間戦っても息一つ乱さなかったわ。もっとも、私の攻撃はお遊び程度だったけど。」

 

「うるさいな。どうせその陰陽師は霊力で体力を相当水増ししてたんだろ?」

 

「ふふ。正解。」

 

「全く。それができないから本気で悩んでいるのに。一体どうしろってんだ。」

 

「だから鍛えなさいな。」

 

幽香は俺の反応を楽しむかのようにコロコロと笑いながらおちょくってくる。

 

「だから、それができたら苦労しないっての。霊力無いんだから。」

 

「あらあら、ならどうするのかしら? あいにく私は貴方に攻撃を加えられないし、決着がつかないわよ?」

 

(いや、やろうと思えば、キャニスター弾食らわせれば木端微塵で終了なんだけども。)

 

思わず口に出してしまいかねなかったが、何とか我慢する。

 

どうしたものか。眼下の草原をナパーム弾で焼き払うか? それともFAEB、いやMOABも捨てがたい。

 

まあ、一応聞いてみるか。

 

「なあ、それならその情報提供者がいなくなったらどうなるんだ?」

 

「情報提供者がいなくなったら?………あんたまさか!?」

 

あ、やっぱりものすごい怒りよう。これはマズい。

 

幽香からかつてないほどの濃密な妖気がほとばしる。

 

「そう。焼き払ったら……?」

 

「あんたそんな事をしてみなさい? 命をかけて殺すわよ?」

 

彼女は今にも術を発動しそうな勢いだ。

 

そこで俺はある作戦をとる。

 

「これを見ろ。」

 

そう言いながら幽香の目の前にスタングレネードを創造する。

 

「これが落ちれば草原は火の海になる。」

 

これはもちろん嘘。

 

普通なら信じないはずだが、幽香は焦りと怒りで正常な判断ができない状態だったらしい。

 

「やめなさい!! そんな事をしたら……! そんな事をしたら…!!」

 

だから俺の嘘を簡単に信じてしまった。

 

それにしても俺のやっている行為は最低だな。

 

人間基準だと人質を取るようなものだし。

 

でもこれが双方に害が無い方法の一つだと思うんだよな。他にも良い手があるのかもしれないが、今の俺には思い付かない。

 

こんなことをしているのを同業者にばれたら、アマちゃんだと軽蔑されるだろう。

 

でも仕方無い。俺は基本的にヘタレなんだから。

 

おまけに今回は俺が押し掛けているようなものだし。やっぱ退治屋は向いてないかもな。

 

だからこそ

 

「俺に近づくなよ。俺が創造した物は意のままに操れるのだから、お前の手が届く前に向日葵畑に落とすぞ?」

 

「くっ………!!」

 

騙してしまう。

 

俺に近づけない幽香を確認しながら、手の内にあるスタングレネードを自由落下させる。

 

そして心の中でつぶやく。土下座する勢いで。

 

マジでごめんなさい!!

 

「あっ!!」

 

幽香がその声と共に、手榴弾に手を伸ばす。

 

しかし、幽香の意に反して手が届く前に炸裂した。

 

圧倒的な閃光と爆音。

 

人間を遥かにしのぐ耳と目を持つ妖怪に効果は絶大であった。

 

それはゆっくりと幽香の意識を刈り取っていったらしい。

 

俺は倒れ行く幽香を抱きとめ、今度は彼女に伝わるように、伝わらなくても伝わるように口に出す。

 

「騙して本当にすまない。ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は突然発生した光と音に意識を刈り取られた。

 

でも完全に意識を失う前に誰かに抱きしめられた。

 

温かい。なぜだろう。温かい。そして声も聞こえた。

 

すまない。と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは一体……私の家?」

 

目を開けると自分の寝室だった。

 

確か私は、大正耕也と………………っ!!

 

「私の向日葵畑は!! どうなったの!?」

 

私はベッドから跳ね起きると、窓に駆け寄った。

 

そして私の視界にいつも通りの花畑が映ると緊張していた糸が切れてしまい、その場にヘナヘナと腰をおろしてしまった。

 

でもよかった、私の大切に育てた花たちが無事で。

 

そう思っていると、突然ドアが開いた。

 

「あ、起きたか。よかったよかった。」

 

入ってきたのは私とついさっきまで戦っていた大正耕也だった。

 

こいつ、よくも騙してくれたわね。

 

「何の用かしら?」

 

私は立ちあがって耕也を見据える。

 

すると耕也は

 

「いや、何と言いますか。…え~とですね。その。………騙してしまって本当にすみませんでした~っ!!」

 

そう言いながら私に土下座しまくったのだ。何度も何度も。

 

その滑稽な姿を見ていると、私の中に燻っていた怒りがどこかへ消えてしまった。

 

全く。こんな人間が陰陽師最強だなんて。本当に飽きないわねこの世は。

 

「良いわよ。顔を上げなさいな。」

 

そう私が言うと、耕也は顔を上げ立ちあがった。

 

そしておもむろに耕也が口を開いた。

 

「あの、それでだな。非常に言いにくいのだが……その。」

 

「何よ? 言いたい事があるならはっきり言いなさいよ。」

 

そう言うと耕也は少しの間逡巡してから切りだす。

 

「実はだな。お前の上着が欲しいんだけど。一着もらえない? 変わりのは用意するからさ……」

 

こっこの男は……男ってやつは……

 

「変態ね。」

 

「言うと思ったよ! 俺だって恥ずかしさを我慢して必死に言ったのに!………なあ頼むよ~。なんなら金貨200枚上乗せするからさ~。」

 

どうしたものか。くれてやってもいいのだけれど、素直に従うのは癪ね。

 

そうだ。良い事を思い付いたわ。

 

条件を付けてやりましょう。私を恐れない男。私より強い男。こんなにピッタリな相手はいない。

 

ならば

 

「良いわよ。ただし条件があるわ。」

 

「はいはいなんでしょう? 何でもおっしゃってください。」

 

やっぱ変ねこいつ。

 

心の中で思ったが口には出さずに条件を言った。

 

「わっ私の友人になりなさい。そして定期的に私の所へ来なさい。いつかあんたを負かしてやるわ。それと、ゆっ友人らしくお茶や食事にも付き合いなさい。分かったわね?」

 

おそらく今の私は、自分では見られないほどに顔が赤いだろう。

 

一世一代の決心なのだ。

 

そして耕也の返事は

 

「もちろん。喜んで。」

 

その言葉を聞いた瞬間、私の心に温かい物がコンコンと湧いてくる。

 

初めての感覚だ。これが本当のうれしいという気持ちなのだろう。

 

何故かよく分からないが、涙があふれてくる。拭っても拭っても止まらない。

 

初めての友人、初めての気持ち、初めての温かみ。

 

私が涙を必死に拭っていると、突然目の前が暗くなった。

 

耕也が何も言わずに私を抱きしめてくれたのだ。

 

何て温かいのだろう。心と体の温かさが合わさるとより一層温かい。

 

だから私は声を上げて大泣きしてしまった。

 

それでも何も言わずに抱きしめてくれる耕也。

 

本当にありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもこの時、私は予想もしていなかった。

 

耕也を、あの女狐達と取り合う事になるとは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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