東方高次元   作:セロリ

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16話 顔を見に来ただけなのに……

輝夜ってドSだよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝夜姫に結婚を建前とした謁見をしに行く予定だったのだが、家の場所が分からん。

 

早く行かないと行列できたりするんじゃないか?

 

さてさてどうしたものか。方法としては、空から探索して行列を探す事が最適ではないか?と思った。

 

しかし、この時代に空を飛ぶ事のできる人間なんて都お抱えの陰陽師ですらできない。だから上空を飛びまわっていると妖怪と間違われて攻撃されるのでこの案は却下だな。

 

だから、都に行くしか俺に選択肢は無かった。

 

都で俺の知り合いの貴族に聞いてみるしかないな……。多分条件として、またタダで妖怪退治させられるだろう。先が思いやられるなぁ。

 

そう思いながら俺は、よっこらせと座布団から腰を上げて靴を履き、都手前の人がいないところを見計らってジャンプした。

 

 

 

 

 

さて、都に来て知り合いの貴族に輝夜姫の住所を聞いた。聞いたまでは良かったのだが、やはり俺の推測通りに条件を突き付けられた。

 

どうせそんなこったろうと思ったのだが、妖怪退治は結構疲れるんだよなぁ。しかももともと報酬を相当低く設定したため他の陰陽師から嫉妬や恨みを買ってしまうのだ。

 

おまけに今度はタダ。タダ働きですか…。また他の陰陽師とのコミュニケーションが駄目になる。ちっくしょい。

 

しかもこの事態を招いている当の本人が

 

「お主の腕前は超一流なのになぜ人気が無いのかのう? 不思議じゃな。」

 

なんて事をのたまったのだから腹が立つ。相手が貴族じゃなかったらハリセンで頭を軽くひっぱたいていただろう。スパァーンとね。

 

まあ済んでしまった事は仕方ないので諦めるとして、さっさと輝夜の所に向かわないと日が暮れる。

 

俺はなぜか、必ず輝夜姫の所に行かなければならないという強迫観念に駆られながら都を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中では、やはり俺と同じところに向かおうとする人が多く、雑談などをして楽しんでいた。

 

やはり貴族は牛車に乗っているのか、やけに牛車の数が多い。

 

そして驚いたのが、貴族でも陰陽師でもない一般人がいるという事だ。その光景を見て思った事があった。

 

(やはりただ美しいだけではないのだろう。毎日を生きるのが必死な庶民でさえも会いに行くという事は、それだけ希望の光になっているのだろう。)

 

帝でさえもこうはいくまい。だから貴族も必死に手に入れたがっているのだろう。己の家の格を上げるために。

 

そう思いつつ、周りの人に話しかける。

 

「あの、すみません。輝夜姫とはどんな方なのですか?」

 

容姿などはとっくのとうに知っているのだが、話した事が無い。声も知らない。

 

しかし、俺の今話しかけている男はもう何度も結婚を申し込みにいっているらしい。

 

そのたびに断られているのだとか。そして輝夜の声は今まであったどの女性よりも涼やかで艶のある声だとのこと。

 

この男は俺と同業の陰陽師であり、なかなか腕が立つらしい。

 

そして、俺の質問に男が答える。

 

「輝夜姫様は本当に美しいお方だ。この世のどんな女性よりもお美しいだろう。もしも婚約できたのなら俺の家の格も相当上がるだろう。」

 

あ、やっぱり家の格上げ目当てでした。輝夜も可哀そうに。見られるのは自分ではなく副産物目当てとは。

 

その時に俺は、それだったら俺が結婚した方がいいのでは? という黙示録的に馬鹿なことを考えてしまった。

 

まあ、俺みたいな別段美男子でも何でもない男に靡くとは到底思わないけどね。

 

しかし、謁見するにあたってどうしたらいいのだろう。やっぱり貢物だってガッチガチのラリーカーじゃあ門前払いだろうし。

 

この男に聞いてみるかな。

 

「輝夜姫様への贈り物は何になさいました?」

 

失礼かもしれないが、聞いておかなければ分からんのだ。知り合いの貴族に聞いておけばよかったと今更後悔した。

 

「私はだな、絹織物だ。」

 

何て高い物を。庶民では一生見ることもないような代物をよくもまあ当然のごとくポイポイと。

 

もちろん俺の場合も簡単に手に入る(というより創りだす)のだが、この時代の通貨を使って取引をするとなると無理なのだ。

 

なんせ仕事を安い報酬で引き受けているために、金がなかなかたまらずろくなものも買えないありさまだからだ。

 

そして俺の隣にいる男の報酬額を聞いて驚いた。そして妙に納得してしまった。この男が色鮮やかな絹織物を買えることに。

 

この陰陽師の報酬は時には、俺の1000倍以上の報酬で引き受けているのだ。しかもなまじっか腕はいいので文句も出ないのだそうだ。

 

でも依頼するのは貴族だけだそうな。当然だわな、そんなに高かったら庶民が依頼できるわけが無い。

 

ちなみに俺の場合、報酬は相場よりもあり得ないほど低いので、庶民からの依頼が多い。

 

貴族連中に関しては、名前は知られているが他の陰陽師が依頼を横取りしてしまうのであまり回ってこない。

 

まあ、俺の行為は価格破壊だし仕方ないっちゃあ仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、こんなことを考えているうちに随分と家が近くなってきてしまった。

 

どうしようか。本気で貢物を決めないとヤバい。中に入れるかさえも怪しくなる。

 

もう適当に酒か食い物か、もうそこらへんでもいいか。

 

そんな弱気な事を考えていると、俺の前に他の牛車よりも明らかに大きいであろう牛車が5台姿を現した。

 

(何なんだ? これは。)

 

そう思っているとその牛車は家に着くなり、従者たちが大慌てで主の降車の準備を始める。

 

そしてしばらくすると5台の牛車から合わせて6人の男女が現れた。それとほぼ同時に周囲がざわざわとし始める。

 

騒がしい空気の中、その団体は律義に列の最後尾に並び謁見を待つ。

 

はて、こいつらどこかで見た事が…?

 

ちょいと思い出せない。のどあたりまで来ているのだが。

 

何だったかなぁ?

 

少々気になるので後ろの人に小声で聞いてみた。

 

「すみません。あのお方たちは一体どなたなのでしょうか?」

 

それを聞いた男は信じられないとばかりの表情を見せ

 

「あんた、何も知らんのか!? 仕方が無いな。教えてやるからよく覚えておけ。あのお方たちは前から阿倍御主人様、大伴御行様、石上麻呂様、藤原不比等様、そしてその御娘の藤原妹紅様。最後に石作皇子様だ。分かったか?」

 

あれ……?なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたような……

 

藤原妹紅? 藤原不比等? マジでビンゴじゃねぇか!!

 

もしかして、これで難題が出されるのか? 凄く見たい!

 

やったね!! こんなことは早々に無いぞ。

 

でも待てよ? ………てことは俺が謁見できるかどうか分からないじゃないか。

 

あれで最後で謁見が終わりだったら来た意味無いじゃないか。

 

うわぁ。最悪だな。

 

そうして俺は一人でウンウン唸っていると先ほどの男が

 

「何をやっているんだ? 気持ち悪いぞ?」

 

なんてひどい事を言いやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は大貴族の人達のひとつ後ろに並んでいるのだが、ついに順番がやってきた。

 

この大貴族たちが入って終わりかと思いきや、俺まで入る事になってしまった。

 

今更ながら嫌な予感がしてきた……

 

そう思いながら建物を案内されていく。そして、まず最初に出迎えてくれたおじいさんに、ツナ缶と鯖缶と鰯缶、最後に鯨の大和煮を渡す。そして開封の方法を教える。

 

俺が渡している間、他の大貴族は変質者でも見るような眼で俺を見ていた。ほっとけ。

 

そうして俺のみょうちきりんなやりとりが終わり、輝夜のいる部屋へと案内される。

 

緊張するなぁ。皆の顔も強張っているし。

 

俺は何とか緊張を顔に出さないように努力しながら部屋の中へと入る。ただし妹紅は部屋の外で待機。やっぱり不機嫌か。そりゃそうだよな、大好きな父親が見知らぬ女にうつつを抜かしているのだから。

 

そして俺たちは輝夜の前に横一列に並び正座する。はっきり言って正座苦手です。

 

それで漸く顔を見れるかと思ったら、今回は体調が優れないとの理由で、簾か何かが輝夜の顔を見事に隠していたために、顔を拝見する事ができなかった。ちくせう。

 

しばらく場に沈黙が漂い、俺がしびれを切らそうと思ったら、意外にも輝夜の方から声をかけてきた。

 

「皆さま、いらせらりませ。このような辺鄙な場所まで御足労いただき誠に感謝致します。して、御用は何でしょうか?」

 

そう輝夜が問いかけると、俺と正反対の左の端に座っている阿倍御主人が口を開いた。

 

「この度私めはこの世で最もお美しい輝夜様に婚約の申し込みをしに参りました。」

 

それを皮切りに次々と他の者が口々に愛の言葉を口にし始める。正直吹き出しそうだ。

 

おそらく誰もいなかったら確実に抱腹絶倒していただろう。自信はある。

 

そして、皆が言葉を言い終わるのを待ってから、輝夜が口を開いた。

 

「申し訳ありませんが、貴方さま方の婚約の申し込みをお受けすることはできません。」

 

その言葉を聞いた俺以外の者達が落胆する。

 

しかしそこで輝夜は次に例の言葉を言い始めた。

 

「もし、私をどうしても諦めきれないと言うのであれば以下に述べる宝を私に持ってきてください。阿倍御主人様には火鼠の裘を。藤原不比等様には蓬莱の玉の枝を。大伴御行様には龍の首の珠を。石上麻呂様には燕の産んだ子安貝を。石作皇子様には仏の御石の鉢を持ってきてくださるようお願いします。」

 

その言葉を言い終わった後に、石作皇子が異議を唱えた。

 

「お待ちください輝夜姫様。この妖怪退治屋には何も課題を出さないのですか?」

 

言ってくると思ったよ。俺だって不思議だったんだから。

 

皆課題あって俺だけないって変だろ?

 

そして、石作皇子の異議に対して輝夜が答える。

 

「分かっております。……して、妖怪退治屋。名前は?」

 

「大正耕也でございます。」

 

そして輝夜は信じられない言葉を口にする。

 

「よろしい。では、貴族の方々。貴方様方の知る中で最も強き妖怪は何ですか? 貴方様方の答えを妖怪退治屋には、退治屋らしく、退治していただきます。」

 

嫌な予感が大当たり。今まで退治したのって都付近だから大したのいないんだよな。

 

でも案外貴族って世間知らずかもしれないから強い妖怪を知らないかもしれない。

 

そう俺が楽観視していると貴族たちが

 

「伊吹萃香が一番かと。鬼は強大です。」

 

「いやいや、星熊勇儀ですな。力において勝るものはいまいて。」

 

「風見幽香では?鬼とは違って自分より強い存在にしか興味を示さない程。しかも未だに退治できておらん。」

 

「私も風見幽香かと。」

 

「私も。」

 

と口々に意見を言った。

 

勘弁してくれ!マジかよ!お前ら空気読めって。

 

やばい。泣きそう。

 

そして皆の意見を聞いた輝夜は

 

「決まりですね。では大正耕也殿には風見幽香の討伐を依頼します。そして討伐完了の証として、風見幽香と断定できる物を持ってきてください。」

 

この言葉を最後に皆はゾロゾロと帰っていく。

 

そして、帰路に着きながら俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やべえ、終わった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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