やっぱり人が多いと楽しいよね。
天狗の一件が過ぎて、俺の生活に落ち着きが戻ってきた。
しかし、俺の家はいつもキャンプセットという何とも心細い代物なのだ。
だからそろそろ定住しようと思う。それに最近人と会わないもんだから寂しい。
自分としてはなるべく都付近に住みたい。
そこで俺はエッチラオッチラと都にまで来たのだがなんともまあ…
豪華です。すごい豪華です。貴族の屋敷がものすごく豪華です。
しかし、貧富の差が激しい。都の中でも建物に差が表れている。
「朱雀大路は広いなぁ。幅84メートルは伊達じゃないな。」
行商のおっさんとかが品物を広げて商売をやっているのだが、この時代はまだまだ物々交換が主流のようだ。
実際には和同開珎が製造されてはいるがあまり出回ってはいないそうな。
にしても都へ来たのは良いのだがやる事が無い。
全部自分で簡潔できるもんだから本当に暇なのだ。
「どうしよう。妖怪退治屋でもやろうかな。」
幸い、力もあるし妖怪退治は都お抱えの陰陽師よりもできると自負してはいるのだが、依頼は来るのだろうか?
依頼料を低く設定すればいいのかも知れん。強い陰陽師ほど一回の依頼料がバカ高いと行商のおっちゃんも言っていたし。
でもその前に、家を建てるか見つけなくては。
ちょいと探し回ってみますかね。
という事で色々と探し回ってみたのだが、都の中に家を建てる事が許可されなかった。
その理由が根無し草の旅人だったというしょうもないものだった。ちくしょい。
仕方ないので都から少し離れたところを上空から探す。
「どこかにないものかな~。俺でも住めそうな一軒家。…………お?」
山にちょっと近いが都から30km程離れた場所にボロい建物があった。小屋っぽいような。少し見てみますかね。
そう思いながら俺は建物の前までジャンプした。
ジャンプしてまず目に入ったのは所々瓦の剥げた屋根と壁に穴のあいている寺だった。建築されてから随分経っているようだ。
「これは、随分と荒れてる寺だなあ。もしかしたら山賊とかにやられたのかも知れないな。見たところ人の気配もないし。」
そう呟きながら俺は、寺の中へと入っていく。
寺の中は、床の所々に穴があいていたり、外からは見えなかったが屋根に穴が開いており、そこから光が差し込んでくるといった散々な状況だった。
そして何よりも
「こりゃひでえな。何があったっていうんだここで。」
血まみれだったであろう黒ずんだ衣服に、それに突き刺さっている折れた槍。
遺体等は無いが、明らかに何らかの争った形跡があった。
「これは数珠も転がってるし、僧侶さんのかなぁ……住みたくねぇ……。」
本当に厄介だ。幽霊とかが存在する世界だからなおさら厄介だ。マジ勘弁。
仕方が無いので槍や衣服は外に持ち出して、ガソリンで燃やしてしまった。
そして外の領域を拡大し、寺の損傷個所を修復していく。
とはいっても修復したのはほとんど中に集中している。
外側の壁や屋根は修復したが、傍から見ればただのボロい廃寺である。
しかし、中の床は完璧に新品同様であり住居性は申し分ない。
「やばい、これは褒められてもいい出来だ。蛍光灯も水道も冷蔵庫もエアコンもあるし、完璧だな。」
電力は無意識のうちに供給しているため、意識すればオンオフも可能だ。
そして自分で言うのもなんだが、やはり現代生活は欠かせない。
数千年前からこの世界にいるが、生活水準は全く変わらない。いや、変えられないのだろう。
この世界に来て分かったのだが、緑があふれていると、こんな所に住みたいと思う人もいるだろう。自分も思う。
しかしそれは現代のインフラが完備されていれば、という無意識の条件が設定されているのだ。
何が言いたいかと言うと、家電製品万歳。
数ヵ月ここで暮らしていて分かったのだが、最近どうも都の空気が普段と違う。
何というかこう都全体が賑やかと言うか浮足立っているというか。いや、色めき立っていると言った方が正しいのだろう。
なんでも、都近辺にお住まいの家にそれはもうこの世のものではない程の絶世の美女が生まれたとのこと。
聞いた瞬間に一発で分かった。こいつは蓬莱山輝夜だってな。
俺も結婚申し込んでみようかしら? 顔を見るために。
妖怪退治屋としてはそこそこ名前が売れてきたころだし、御尊顔を拝むぐらいなら許されるはず!
そう思ったら俄然やる気が出てきた。
ではでは身支度をして都へ向かいますかね。なんか贈り物とかどうだろう?
いや、都で買うよりも自分で出した方がいいかもしれない。
ネタでラリー仕様のインプレッサとかどうだろう? 月は科学が進んでるらしいし。
それに月にガソリン車は無いと思うし。奇抜なものは逆に喜ばれるかもしれないし。
こんな痛い子全開の考えをしながら意気揚々と都へと向かって行った。
後に、この興味本位で顔を見に行くという考えが、後悔を生むことに気がつかなかった。
結婚を申し込んだばかりに……。
本当に毎日毎日うんざりだわ。何でこんなにしつこいのかしら。
美しいのは自他共に認めているのだけれでも、何も断られているのに何回も婚約を申し込みに来ることないじゃない。
月の連中から離れられたのは良かったけれども、地上の人間がこんなにしつこいなんて思わなかった。
毎日がこれじゃおじいさんとおばあさんに負担が大きくなるし、なによりこの騒ぎが申し込みの増加を招いている負のスパイラルだわ。
おまけに結婚を申し込んでくる輩は全員自分の家の格や、嫁を自慢したいと言う下らない理由ばかりなのだから会う気にすらならない。
そして退屈。自分の時間が持てない。それに伴ってやり場のない怒りがふつふつと沸いてくる。
ああ、もうそろそろ限界ね。この怒りはどうしてくれよう。
私は怒りの処理方法を考えているとふと頭の隅に意地悪な考えが浮かんでくる。
人間を使って紛らわそうと。結婚を申し込んでくるのなら条件をつけてやればいいと。
ならば今度婚約を申し込んでくる者たちにちょっとしたゲームをしてもらいましょう。
絶対に達成不可能な問題を。
ふふ、楽しみだわ。