東方高次元   作:セロリ

14 / 116
今見ると短けえ!! としか思わないですね……はい。

後半になるにつれて文字数は増えますので、御了承を。


14話 逃げるが勝ちだ逃げるが……

小心者で結構です……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、耕也。」

 

さっきまでいなかったはずの文が男を魅了する笑顔で挨拶をしてきた。

 

「こんにちは。じゃあ、また。」

 

そう言って何事もなかったかのように文の横を通り過ぎようとする。

 

しかしそんなに世の中甘くなく、襟をガシッと掴まれてしまった。

 

「どこに行くのかしら耕也? あなたは自分の状況を分かっているのかしら?」

 

文は青筋を浮かべながら問う。

 

まったく、見逃してくれてもいいのに。

 

「いや~、分かってますよ。鴉が光りものを漁りに来たことぐらいは。」

 

「あなたが自殺願望者なのはよく分かったわ。だからそんな暴言を妖怪に言うのよね?」

 

「さて、どうだろうか?」

 

その言葉を聞いた文は、しばし考えた後、俺を突き放し、手に持っていた剣を振り上げた。

 

「どのみち殺すのだから関係ないのだけれどもね!」

 

どんなに効かないと分かっていてもやはり目はつぶってしまう。

 

どのくらいの速さだろうか? おそらく細い木なら両断してしまうだろう速さで振り下ろされた剣は、俺に届く事無く砕け散り、破片をあたりにまき散らした。

 

そして、目を開けてみるとそこには立ったまま砕けた剣を茫然と見つめる文がいた。

 

「おい? もしもし~?」

 

呼んでも返事が無い。それほど驚いたのだろうか。

 

いやまあ、ただの人間だと思ってたんだろうし、仕方ないとは思うけど。

 

「おい、文さ~ん? お~い。」

 

駄目だ。返事が無い。

 

折れた剣がよほど気になるのだろうか?

 

しばらくすると文がポツリポツリとつぶやき始めた。

 

「……さんからもらった………お母さんからもらった剣が……」

 

そして今度はこちらを見ながら大粒の涙を流しながら

 

「お母さんからもらった剣がああああ~~~~~っ」

 

と言ってその場にへたり込みわんわんと大泣きし始めてしまった。

 

「わああああああ~~~~~~~っ!」

 

うわぁ。俺って最低……

 

多分入隊祝いとかにもらった大切な剣だったのだろう。

 

自分から襲いかかったとはいえ、大切にしていた思い出の品が壊れたら誰だって泣くだろう。

 

どうしようか。謝ったぐらいでは許してもらえないだろうし、何より可哀そうすぎる。

 

直すか……ちょいと無理矢理だが何とかなるはずだ。何より生物ではないし。

 

そして俺は、外側の領域の範囲を拡大して、剣の飛び散った破片の全てを補足する。

 

補足したのち、破片一つ一つを大元の剣に戻してやる。

 

破片の向きなども考慮しながらつなぎ合わせていくと無事修復は完了した。

 

俺の領域に入っているから修復できるけど、生物に対しては効かない。

 

それに、全く同じものの剣を創造できるがそれでは文は許してくれそうにない。

 

そう思いながら文を見てみると剣が直ったおかげか、グズッてはいるが大声で泣いてない。

 

本来ならば俺が謝る必要はないのだけれども一応謝っておこう。それに暴言も吐いてしまったし。

 

「射命丸文さん。先ほどは剣を破壊してしまい、誠に申し訳ありませんでした。それと数々の非礼、ごめんなさい。」

 

そう言いながらキョトンとする文をよそに、深々と礼をして下山していった。

 

下山するまで文が追ってくる気配は無かった。

 

さて、次はどこへ行こうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耕也に切りかかった時、私の中では勝利の感覚と人間の味への期待感で満たされていた。

 

しかし、それは脆くも崩れ去って行った。私の何よりも大事にしていた剣が、入隊祝いにもらって以来ずっと共にあった相棒とも言うべき存在。

 

それが一瞬のうちに粉々に砕け散ってしまったのだ。理由は分からない。

 

耕也に剣が当たる直前に何らかの壁に阻まれたのか、手にものすごい衝撃が走り、そして剣は弾かれ砕けた。

 

私は当初その光景を信じる事ができなかった。妖力で強化してある上に、人間を切る程度で折れるわけがないのだから。

 

でも無残な剣の姿を瞳に捉えると、これが現実だと思い知らされた。

 

そしてあまりにも悲しくなってしまって、人間の目の前にいるにも関わらず、わんわんと大泣きしてしまった。

 

悔しかったのだ。あまりにも。人間に非は無いのは分かっていたがそれでも怒りを禁じ得なかった。

 

だから涙を拭き終わったら原形をとどめないほど破壊してやろうと思っていた。

 

でも、なんの術を使ったのかは分かりかねるが、私の剣を寸分の狂いも無く修復してしまった。

 

それからさらに、あろうことか私に謝罪してきたのだ。

 

驚いた。今まで生きてきた中で本当に驚いた。だから耕也からすると滑稽な顔に見えただろう。そんな顔をしていたのだ。

 

そして驚いたせいか殺意もどこかへ吹き飛んで行ってしまった。

 

しかし、疑問も残る。なぜ私の剣が壊れて、泣いているのにもかかわらず逃げなかったのだろう?

 

そしてなぜ直してくれたのだろう。私は妖怪であるというのに。

 

人間はよく分からない。バカにしてきたと思ったら謝ったり。

 

だから

 

「このお人好しめ。」

 

そう言うことしかできなかった。

 

さて、上司への報告が面倒だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。