東方高次元   作:セロリ

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13話 処刑ですかそうですか……

あんたら人間なめすぎでしょ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牢屋にぶち込まれて二日目。今日は俺の処分が正式に決定されるそうだ。

 

とは言っても、あまりに暇なので牢番に話かけた。

 

「いや~今日俺がどうなるか決まるんですね~?」

 

「まあ、そうだな。でもお前はうまそうだしな~。多分、食われるんじゃないか?」

 

何言ってんだこいつ……

 

「あはは、そんなこと言わないで下さいよ。腹壊しますよ?」

 

(ぶっ殺してやろうか? こいつ。)

 

本当にそんなことを思ってしまった。やっぱり価値観とかが、人間とはずれているのだと再認識させられる。

 

そしてさらに牢番が

 

「いやいや、そんなこと言うなよ。お世辞抜きでうまそうに見えるんだよ。今すぐに食いたいさ。」

 

なんて事を言うんだこいつは。勘弁してくれ。

 

どうも俺は普通の人間よりも遥かに美味く見えるらしい。これが襲われていた理由なのだろうか。

 

「え~とそれはそれでおいといて、どうですかこの鯨の缶詰。」

 

話を逸らすために、先ほどから二人でつついている物についての感想を聞いてみる。

 

「鯨……というのはよく分からんが、美味いなこれ。でもお前の方が遥かに美味いだろうな。」

 

このやろう……

 

やばい、キレそうになる。こんなことを言われたら誰だってキレるだろう。でも俺は我慢することにした。

 

表情を出さないために、下を向いていると落ち込んでいるように思われたのか、天狗はさらにこんなことを言い始めた。

 

「そんなに落ち込むなよ。妖怪の俺が美味そうだって言ってるんだ。誇りに思えよ。」

 

(もう限界だ。こいつぶっ飛ばす。)

 

そう俺が思い、ガソリンを生成しようと思った瞬間に牢屋に声が響き渡った。

 

「人間の判決が決まった! 連行せよ!」

 

すると牢番は

 

「はっ!」

 

と生真面目に返事をして俺を牢屋から連れ出す。

 

さてさて、そうなる事やら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は牢屋から木造の大きな屋敷らしき所まで連れて行かれた。

 

まあ、これから何されようが死ぬことはあり得ないから平気なんだけどね。

 

そして俺は大きな部屋に通され、正座させられた。

 

部屋の内部は案外大きく、俺の周りを多くの天狗たちが取り囲んでいる。

 

体格のいいものや、まるで小学生なのではないか? と思うほどの者もいる。

 

そして、俺の目の前にいる大天狗の横に何故か文がいた。

 

射命丸は俺の方を見ながら微笑んでいるが、目はギラギラと輝いており、殺気を向けてくる。

 

非常に居心地が悪い。

 

この嫌な雰囲気を改善しようと俺が口を開いた。

 

「あの、縄を解いて頂けませんか?」

 

その言葉を口にした瞬間、文から先ほどよりも猛烈な殺気が放たれる。

 

顔は完全に無表情になっている。

 

やばい、スベッた……

 

そう思った矢先に大天狗が口を開いた。

 

「さて、今はお前の縄を解く事はできないが、代わりにお前の罪に対する判決を言い渡す。」

 

ついに来たか。

 

その言葉を聞いた瞬間、周りの天狗たちの表情がサディスティックなものに変わった。

 

中でも文の顔が一段とサディスティックだ。嫌な笑みだ。

 

まるで、ようやくお前を殺す事ができる。という感じな顔だ。

 

まあ、ただの人間にしか見えないのだろうから当然だろうな。この世界では妖怪と人間の差が絶大なものだから。

 

そんな事をポヤポヤと考えていると、大天狗が続きを言い始めた。

 

「判決は死刑。……と言いたいとこだが、我々にも慈悲の心がある。よってお前に二つの選択肢を与えよう。それは、このまま死刑となるか、我々の提示する試練を乗り越えて生を勝ち取るかだ。今この場で選べ。」

 

はあ、選択肢は有って無い様なものじゃないか。

 

おそらくこの場にいる天狗たちは試練を取ると思っているのだろう。

 

心の中でため息をつきながら答える。

 

「では、試練を受けます。」

 

そういうと天狗たちがワッと歓声を上げた。

 

ウザいことこの上ない。俺が普通の人間だったら、すでに泣きじゃくっていただろう。はらわたが煮えくりかえる。

 

そこで大天狗が話し始める。

 

「静粛に!……よし、では試練の内容を伝える。射命丸文。」

 

すると呼ばれた文が俺の前までずずいと出てくる。

 

「試練の内容は、まずお前に30分の時間を与える。そして30分経ったら射命丸がお前を追いかけ始める。お前が文に食われたら負け。食われずに下山できたらお前の勝ちだ。」

 

どう考えても逃がす気が無いじゃないか。

 

この山を生きて下山しろだって? 普通の人間には無理だろ。

 

敵はなにも天狗だけではない。野良妖怪もいるのだ。

 

生存率は限りなく低いだろう。

 

つまり、これは奴らにとってのこの上ない娯楽なのかもしれない。

 

そう俺が思考していると文が俺に話しかけてくる。

 

「人間。名前は?」

 

「大正耕也です。」

 

俺が答えるとより一層凄絶な笑みを浮かべ

 

「じゃあ、耕也君。短い間だけどよろしくね?」

 

と脅してくる。

 

「ええ、よろしくお願いします。文さん。」

 

でも、俺にとっては怖くもなんともないので笑顔で返した。

 

すると文が

 

「あなたのその緩みきったアホ顔を恐怖に染めてやるわ。覚悟なさい?」

 

とあからさまに挑発してくるので、今までのお返しに小声で

 

「かかってこいや鳥類。鴉は生ゴミでも漁ってな?」

 

と返してやった。

 

その言葉に文は相当キレてしまったようだ。

 

表情は笑顔だが、視線だけで人を殺せそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試練の時間がやってきた。

 

俺は縄を解かれ自由になっている。会場と言うのだろうか。そこには多くの天狗が集まっている。

 

やっぱ娯楽なんだなと思ってしまう。

 

そして今回は天魔が合図をかけるらしい。

 

天魔も美人さんですね。うん美人。

 

「では、これより試練を開始する。人間は位置につけ。……では始め!」

 

その声と共に俺はジョギングしながら下山を開始する。

 

後ろから、もっと速く走れだの、さっさと食われちまえだのうるさいのだが無視して森へと入っていく。

 

道は本当に何も無く、けもの道すらも無い。

 

だが、蚊に刺されることすら無い俺は気にせず突き進んでいく。

 

「飛んでもいいのかなあ? でも飛んだら飛んだで試練不合格! なんて事になったら嫌だしな。…仕方が無い。足で行くか。」

 

しかし下山まであと1500ぐらいあるんじゃないか?体力の無い俺にはきついぞ。

 

そう思いながら時計を確認すると開始から20分経っている。そろそろか。

 

ま、適当に撒いて逃げますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっとあの人間を相手にする事ができる。そう思うと胸が高鳴る。

 

そう。やっとだ。やっとあの忌々しい人間を……

 

最後に言ったあの言葉。生ごみを漁っていろですって!? ふざけるんじゃないわよ!

 

妖怪をどこまでもバカにしたような態度。人間ごときが生意気な。

 

私は奴が出発する直前にあの時のやりとりを思い出していた。

 

そして、合図とともに奴が出発していく。

 

「あなたの命はあと一時間も無いわね。」

 

そう独り言を言っていた。

 

そこに私の上司の大天狗がやってくる。

 

「射命丸よ。気を抜くでないぞ。お前は少し自信過剰な部分がある。相手がただの人間だからと言って手を抜くと痛い目を見るかもしれぬ。」

 

「はい。承知しております。この射命丸文。全力で任務にあたります。」

 

「うむ、期待しているぞ。」

 

そういって大天狗は去って行った。

 

そして、猶予の30分が過ぎた。狩りに行こう。

 

さて、耕也? 私が狩るまで野良妖怪に食われないで頂戴?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、猶予の30分が過ぎた。倍率の高い双眼鏡で会場を見たが、文はもういないようだ。もう俺を探してるのだろう。

 

と言ってもすぐに見つかるだろうな。なんせ俺は最短距離で下山するためにほぼ直線で降りているのだから。

 

とは言っても、相手が空を飛ぶ以上変に道を逸らしても結局時間の無駄になるだけだろうし。

 

文の速さは、だいたい300km/hぐらいかな? その前後ぐらいなのだろう。

 

速いって。無茶苦茶速い。自力でそんな速度を出すのは反則だろう。

 

人間なんて機械に頼らなくては永遠に到達しえない領域なのだから。

 

まあ、人間の恐ろしさはその科学なんだけども。

 

さて、くだらない事を考えてないでさっさと下山しよう。でももう少しだけ見まわしてから。

 

「さ~ってさってさって、文ちゃんはどこにいるのでしょうかね~。」

 

そう俺が双眼鏡であたりを見回していると、肩を叩かれた。

 

「ちょっと後で。今忙しいから。」

 

それでもさらに強く叩かれる。

 

「まったく、さっきからなん……。」

 

俺が振り向くと、ものすごくいい笑顔で文が立っていました。

 

「こんにちは。お久しぶりね、耕也?」

 

あの、気配が無かったんですけど……

 

とりあえず

 

「あ、こんにちは。」

 

挨拶をしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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