天狗ってなんでこんなに偉そうなの?……
旅に出てから2000年か、もっと経ってる気がする。
当初はやはり相当引きとめられたが、何とか説得した。その代わり条件を突きつけられたが。
その条件とは、定期的にここに寄る事。無事かどうかを確かめたいとのこと。
そして、旅に出る際には諏訪子の子供の様子を見ていった。うん完璧に美女。それしか言いようがない。
まあそんなこんながあって旅に出た訳だが、2つの悩みがある。それは……地理が少々分かりづらい。
コンパス等を使ってみるのだが、正確な位置とかは全く分からない。この時代は当然のごとくGPSもないし、蓮子みたいなことはできない。
仕方が無いので人がいたら声をかけ、どこらへんかを尋ねていく。
もう1つの悩みは、俺が他の人に比べて異常なほどまでに妖怪に襲われやすいという事だ。いやもう本当に襲われやすい。
どのくらいの頻度かというと、1日に1回以上は絶対に襲われる。訳が分からない。
まさか、東方の世界で得た能力がソレだったり? 妖怪に襲われやすい程度の能力? バカ言え。冗談じゃない。
もちろん、俺に襲いかかってくる妖怪は全て殺しているが。
皆雑魚ばかりなので瞬殺できる。手段としては空中に銃をズラリと並べて一斉射撃したり、液酸とケロシンを使ったロケットエンジンレベルの火炎放射等々。
しかし、旅をしているうちに分かったのだが、人型の妖怪に会わない。全く会わない。
まだ、縄文時代だからだろうか?
そして現在、……今は奈良時代だろうか? おそらくそのくらいだろう。俺は当然旅に出ているのだから根無し草だ。
だから住居を作らなくてはならない。でも、俺の場合はキャンプセットを創造して、適当に組み立てれば良いのだけれども。
この時代に法律なんて無いようなものだから許可を取らなくてもBBQのし放題だし、何より自由だ。
だから腹は減らなくったって食い物は食う。だから食材を創造して、適当に調理する。
そして風呂はドラム缶風呂。
ここまではいい。順調だ。しかし、最近の旅で一番嫌な時間帯が就寝時間なのだ。なぜかと言うといっつも突風でテントが吹っ飛ばされてしまうのだ。勘弁して。
幸い、寝ていても敵性の攻撃は遮断されるので問題は無いが、そのせいで俺の睡眠時間は削られる一方だった。
「ああ~~っ! もう勘弁してくれ! 俺に安眠をくれ。誰でもいいから安眠をくれ!」
夜中に何ともむなしい俺の叫び声が響き渡った。
目を覚ますと太陽の眩しさに思わず暴言を吐いてしまう。
「くそったれ! また飛ばされたのか! 一体いつになったら俺に安眠「動くな。この侵入者め。ここは我々の領地だ。」……へ?」
振り向いてみるとなんと黒い翼の生えた美女が、俺に剣を差し向けている。
おまけに顔はどこかで見たような………ああ、射命丸文じゃないか。
へえ、この時代の文は哨戒天狗だったのか。服装は原作と違って軍服っぽいような何かを着てる。
そしてさらに友好的な態度ではない。剣を突き付けている時点で友好なんて消し飛んでしまっているが。
ま、ここは話し合いをば
「え~と、どちらさまでしょうか?」
「無駄口を叩くな人間。ここは我々の領地だ。侵入者に喋る権利など無い。」
おいおい、のっけから交渉不可能じゃん。
だが、それでもあきらめずに話してみる。
「まずは話し合いま「今ここで殺されたいのか?人間?」……はい、申し訳ありません。」
別に怖くはないんだけど、なんだか逆らったらいけない気がする。
「喜べ人間。私は今ここでお前の首を切り飛ばしてやりたいところだが、規則に従い、お前を連行する。」
連行か。大天狗とかそこらへんに連れて行かれるのかねえ?
どうなるのしら?
そんな事を考えていると突然両脇に手を突っ込まれ、抱えられるような格好になる。
「あの、これは一体……」
「人間なんぞの亀のような動きに合わせていられるか。飛んで連行する。」
あの、当たっております、2つの大きなやわらかいものが……
そうして俺と文は飛び立っていった。
そして、俺は連行されてすぐに牢屋にぶち込まれた。
いや、抜け出すとかそういうのは朝飯前なんだけども、脱出したらしたで射命丸に責任が及びそうだしねえ。
おまけに今後もマークされ続けられるだろうし。
でも飯が不味いのはいただけない。というよりも正直食えたもんじゃない。ガソリンぶっかけて燃やしてやりたい。
だがそれは食べ物に失礼すぎるので我慢して食べる。うん、不味い。そして、もう一杯なんて言うもんか。
とりあえず俺はどうなるのかと牢番に聞いてみると、どうやら上で俺の処遇について議論されているとのこと。
近隣の里の出身ならばすぐに解放されたのかもしれないが、俺は根無し草なので食われる可能性が圧倒的に高いのだと。
まあ、そんな事態になったらジャンプするさ。おまけに攻撃手段も諏訪子の所に居た時よりも手段が大幅に広がったし。マッチから核兵器まで何でもござれだよ。伊達に数千年は生きてない。
身体的に強い妖怪でも科学の塊の銃を脳に食らって生きてられはしないだろうし。
さてさてどうなることやら。
そんなしょうもない事を考えながら、俺は目をつぶった。
私は侵入者を牢番に引き渡し、自宅に戻って今日の出来事を振り返る。
我々の領内に侵入しているあの男を。
最初は警告のつもりだった。あの男が寝泊まりしている、布で出来た小屋のような物を何回か吹き飛ばしてやれば出ていくと思っていた。
普通の人間なら私の持つ大きな妖力に気づいて逃げていただろう。
でもあの男は逃げなかった。わざわざ鴉天狗が人間ごときに慈悲をかけてやったのに。
だから連行したのだ。自分のしでかした罪の重さを後悔させるために。
しかし妖怪を見て恐怖すら抱かない人間がいるとは。
普通どんなに優秀な妖怪退治屋でも、いざ妖怪に立ち向かうとどうしても恐れや不安、緊張などといったものが表面に出てしまう。
それが人間というものだ。
なのにあの男は。くそっ、バカにして!
なぜ私を恐れなかった。分からない。もしできる事ならこの私が殺してやりたい。今まで私と向かい合って恐れなかった人間はいない。
だから
「私が直々に殺して、食ってやるわ人間。喜びなさい? 私が初めて食べる人間があなたなのだから。」
あなたの顔を恐怖で染め上げてやりたい。