東方高次元   作:セロリ

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どうもセロリです。最新話をどうぞ。


109話 だから違うってのに……

いやもう何回も言ってるでしょ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の事に、先ほどまでの怒りが吹き飛んでしまった。

 

俺の身長の五倍弱はありそうな巨大な陰陽玉。そしてその砕け散った陰陽玉が、プスプスと軽い音を立てながら煙を出している。

 

パラパラと飛散した欠片がポロポロ落ちるのを見ながら、俺は後悔をしていた。

 

スペルカードの効果範囲を見誤っていた……というよりも、俺の創造の効果範囲の限定をし忘れてしまっていたといった方が正しいのかもしれない。

 

完全なる誤算だった。あの時、彼女達に対してのみやったつもりだったのにも拘らず、紅魔館全体にやってしまったのかもしれないということだ。

 

大広間の外にまでニンニクやら水が侵食していた時から薄々感づいていた事だが……。

 

まだ紅魔館全体と決まったわけではないが、この延々と続く廊下にニンニクがあるという事を見る限り、相当な範囲に及んでいるという事だけは確かである。

 

そして、そのとばっちりを受けてしまったであろう、博麗霊夢と霧雨魔理沙。

 

2人ともずぶ濡れ、ニンニク塗れになっており、空中に浮きながら青筋を浮かべて俺の方を睨んでいる。

 

また先ほど後ろに退避させた十六夜咲夜は力が抜けた様にヘタってしまったらしく、俺と彼女等を交互に見ているだけ。

 

何とも不味い状況だと言えよう。

 

そして、何よりも俺は

 

(非情になるなんてやっぱできなかったか……)

 

先ほどの陰陽玉が此方に飛んできた瞬間、俺は咲夜が大怪我する事を恐れて、思わず自信の後ろに放り投げてしまった……なるべく怪我を負わない様に軽くではあるが。

 

案の定陰陽玉は俺の領域と接触してその強度限界を超えた後、見事に砕け散ってしまった。

 

本来敵ならば、あの瞬間に巻き添えにして漁夫の利を得る予のが常套手段のはずだったのだが、ソレが俺にはできなかった。

 

後ろに迫る陰陽玉を見た瞬間、どうしてもあの小さい頃の咲夜を思い浮かべてしまい、助けずにはいられなくなってしまったのだ。

 

紫や幽香からすれば、とんだ甘ちゃんと言われそうだが、俺はそのような非情に徹しきる事が出来なかった。

 

殺そうと躍起になっていた彼女を助ける……阿呆の極みではあるが、とりあえず今は目の前の状況を如何にかしなくてはならないと言ったところか。

 

そんな事を考えていると、フヨフヨと浮いている霊夢が此方に口を開いてくる。

 

「さあて、この異変の発生源は貴方かしら……?」

 

俺に軽く指を指しながらそのような事を述べてくる。

 

紅い霧の事ならレミリア。ニンニクと大雨なら俺の事。

 

もちろん

 

「お、俺じゃないよ?」

 

そんな事などすっとぼけて知らないと言ってみる。

 

 

「まあ、紅い霧の事なら違うかもしれないけれども……別の……ほら、この私や魔理沙に掛かってるニンニクや水の事については……?」

 

この確信めいた発言は、巫女の勘が成せる技と言ったところだろうか?

 

だが、言葉の端々に苛立ちの様なモノが見え隠れしており、元凶に対して怒りを隠せないようだ。

 

隣の魔理沙はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて此方を見てくる。

 

元来嘘を吐くのがあまり得意ではない俺にとって、彼女の言葉は随分と効果を齎したらしく、思わずスペカを持つ左手をピクリと動かしてしまった。

 

ソレを見たであろう霊夢は

 

「あらそう……魔理沙、図書館に行っていいわよ?」

 

そう言いながら後ろの方を指さして魔理沙の方を見て言う。

 

魔理沙は頷きながら、服に着いたニンニクを落し

 

「全く、乙女の肌にこんなモノを付ける奴の気が知れないぜ。掃除する身にもなってもらいたいもんだ」

 

そう言いながら、先ほど来た道とは逆方向、俺の進行方向へと引き返して行ってしまった。

 

この事に、俺は何とも言えない安心感を覚える。

 

もし、戦う羽目になれば、2人同時に相手をしなければならないのだから、1人減っただけでも大助かりである。

 

俺はその事に感謝しながら、今後の対応について考えて行く。

 

彼女が俺達に矛先を向けた場合について。

 

起りえない事であろうが咲夜のみであった場合、彼女自身の消耗度から鑑みるに、彼女と闘えば一瞬で敗北するというは想像に難くない。

 

そして、あの消耗度に加えてこの博麗の巫女を相手にしたら、間違いなく大怪我する。下手したら、当たり所が悪くて死ぬ……何て事もあり得る。

 

だから、俺が嫌でも介入しなければならない。本来ならば無粋極まりない行為かもしれないが、流石に咲夜が死ぬのは後味が悪すぎる。一度俺を殺そうとしてきた者に対してこのような考えを持つのは非情におかしい事かも知れないが、俺としては彼女を一度助けた事があるのだから、生きてほしい。

 

次に、俺に対してのみ矛先を向けた場合についてである。

 

俺に対してのみ矛先を向けた場合は、何とかして咲夜から距離を離す事ができるように、反対側へと誘導を行わなければならない。もちろん、戦闘を行ったとしても、彼女にはこの収まらぬ紅い霧を止めてもらうために、なるべく消耗させないと言う何とも困った条件付きではあるが。

 

いや、最初に咲夜を俺の部屋にジャンプさせれば良いか……?

 

そのようにすれば、彼女に被害が及ぶ事は避けられるし、霊夢との戦闘についても多少なりとも楽になる。

 

…………ジャンプを敢行するための集中時間を霊夢がくれるのならば……であるが。

 

本当に心を落ち着け、更には集中をしなければいけないジャンプは使い勝手が悪い。でなければ、幽々子や小町の時みたいに酷い目にあうからだ。何とか成功する事もあったにせよ。

 

とはいえ、このようなを考えた所で、彼女の対応がどうなるかは分からないし、できる事なら戦闘せずにコトを進めたいと言うのが本音である。

 

両方に襲いかかってきた時は、俺が抱きかかえて逃げるくらいの事をしなければ無理と言う可能性も無きにしも非ずである。

 

そんな事を頭に浮かべつつ、俺は霊夢の行動をひたすら待つ。

 

魔理沙が完全に視界から消えたのを見届けた霊夢は、再度此方に向き直り

 

「さあて、どうしようかしら?」

 

と、ニッコリと笑いながらおどけるように言ってくる。

 

笑ってはいるが、眼は笑っていない。

 

明らかに此方を怪しんでいるし、機嫌が非常に悪い。彼女と接していなかった俺ですら分かるのだ。良く接している魔理沙や紫からすれば、とんでもなく怒っている可能性もあり得る。

 

「私の勘だと、貴方がニンニクを降らせたって事になってるのよね」

 

(巫女の勘と言うのは恐ろしいな……)

 

彼女の言葉を聞いて、そのような感想を即座に頭に浮かべてしまった。

 

他にもできそうな輩の候補はいくつかあるはずなのにも関わらず、霊夢は俺のみを指差して言ってきたのだ。

 

勿論、俺ではあるが俺ではないと言う事を彼女に伝えておく。

 

「いや、だから俺じゃないって……」

 

そう言っては見るものの、霊夢は全く俺のことを信じてはいないらしく

 

「ふうん、そうは言ってもねえ」

 

そう言いながら、俺の方にまで近寄ってくる。目と鼻の先にとまではいかないが、両腕を広げたぐらいの距離までに近寄ってくる。

 

にっこにこしながら。

 

そして、霊夢は俺の身体をジロジロと見始める。まるで舐めるように色々と。足から頭の毛の天辺まで。

 

まるで俺の心の奥底の思いまで見透かすようで、何とも気味が悪く感じてしまう。彼女は一体何ぞ? と言う感じで。

 

霊夢はひとしきり俺の身体を見た後、口角を片方だけ上げて

 

「ほら、やっぱり貴方は唯の人間であるにも関わらず、ニンニクもついてないし、水にも濡れてない。そればかりか妙にこの状況に驚いていない」

 

そう言いながら、霊夢はピンと人差し指を天井に向けて

 

「術者以外にあり得ないのよ、こんな事。こんな短時間でね? しかも貴方は霊力を持っていない、本当に唯の人間……恰好は外来人みたいだけども」

 

見事な指摘である。仮にニンニクや水を防げたとしても、人間である以上多少なりとも動揺はしていないとおかしい。にもかかわらず、不自然な形で此処に居る。

 

つまりは、俺が発生源であると言う事。ソレを彼女は言いたいのだろう。

 

全く持って見事である。感心している場合ではないのだが……。

 

偶々範囲外に居たと言う事を言ってみるか……。

 

「いや、偶々その術の効果範囲外にいたのだけれども……」

 

そう言うと、霊夢は札を取り出しながら、目を細め首を傾げる。

 

まるで、これ以上変な事を言ったらシバくぞとでも言うかのように。

 

「それはあり得ないわ。ほら、そこにへたり込んでいるメイドと一緒に居たじゃない。片方だけが濡れてるなんてありえないわ」

 

やっぱりそうですよね。ええ、分かっていましたとも。どうせこんな事になるってのは分かっていましたとも、ええ。

 

とはいえ、なるべく……本当になるべく彼女と闘いたくないので

 

「いや、だから……例え、このニンニクが俺のせいだとしても、直接この紅い霧とは関係が無いんだって。むしろ俺は被害者だよ、抵抗するためにやったんだってば」

 

不可抗力でやったと言う事をアピールする。

 

霊夢は俺の言い分を聞いてから暫く考えていたのだが、ふと何か不思議に思ったのか

 

「あら、そこのメイドは何処に行ったの?」

 

と、そんな事を言ってくる。一体何が……?

 

俺はそう思いながら、彼女の言葉通りに首を後ろに向けて、一体何が起きたのかを確認する。

 

彼女の言葉から、大体の予想はついていた。嫌な予感しかしない事くらいに。

 

短い思考の後、振り向き切った時に俺の視界に移り込んでいたのは

 

(逃げたな……)

 

先ほどまでへたり込んでいた咲夜が、見事俺達の隙を突いて逃げおおせてしまったのだ。俺に対して害を与えるような能力使用方法では無かったため、領域が反応しなかったのだろう。

 

何とも拙い事態になったと言いたい。

 

正直な話、もう此処まで来ると、先ほどの考えが殆ど意味をなさなくなっており、俺のみに対して攻撃を仕掛けてくると言う事以外考えられなくなるのだ。

 

だから、酷い焦りが俺の心を揺さぶってくる。湧きあがってくる。

 

最初はチョポチョポとした湧水の様に軽い揺さぶりだったのにも拘らず、咲夜が逃げた瞬間、洪水のように噴出してきたのだ。

 

「に、逃げたのかな……?」

 

「まあ、逃げてるわよね。まあ、後でとっちめれば良いか……」

 

何とも物騒な事を言ってくる。如何にも異変を解決する巫女の様なセリフでもあるし、彼女自身の普段の飄々とした性分を如実に表しているようにも感じる。

 

異変に関わっている者は全てぶっ飛ばす。

 

そのようなスタンスで彼女は異変を解決していくのだから、解決しない異変など無いのだ。

 

咲夜が何処に行ったのか分からない霊夢は、俺の後ろ……つまりは、大広間へと視線を移して不敵な笑いを浮かべる。もうあそこがゴール地点だと言わんばかりに。

 

「さて……まずは貴方からね?」

 

霊夢はそう俺に告げると、微笑みながら再び上昇して距離をとっていく。

 

「だから俺は紅い霧とは何の関係もないっての! 此処は戦わずにはい、さよならで良いじゃないか」

 

そう反論してみるが

 

「ダメね、ひょっとしたら……って事もあるでしょう? 私の勘が外れてしまっているとか?」

 

そう言いながら、札を一気に20枚ほど片手に出してから構えて一言。

 

「ほら、構えなさいな。当たったら痛いわよ?」

 

もうどうしようもない。これはやっぱり戦うか逃げるかのどちらかしかないのだろうか。

 

そう思いながら、俺はゆっくりとスペカを出して彼女にある事を聞く。

 

「話しは変わるけど、巫女さん……俺と会った事……あるよね?」

 

あの幼い霊夢と一度会ったっきりではあるが、たかいたかいをしてあげた記憶が今でも鮮明に脳に記録されている。

 

「うん? 貴方と会ったことなんてないわよ」

 

紫が一生懸命霊夢を育てると告げてから、10年余り。紫さん、貴方の娘はとんでもなく凶悪になっております……。

 

とはいえ流石に咲夜と同じく俺の事を忘れているか……。まあ、幼少期に一度会っただけで、それから10年間会っていないのだから、忘れるのは当然だと言ったところか。

 

「本当に会った事無い……?」

 

そう確かめるように霊夢に言うと、霊夢は首を傾げてから顎に手を当てて考え始める。まるで自分が何時お前と会ったんだっけ? とでも言いたそうな表情を前面に押し出しながら。

 

そのままの姿勢で10秒程考えてから

 

「やっぱり会って無いわよ?」

 

結局彼女から出た言葉は否定であった。覚えていないと言うのがやはり普通なのだろうなあ……。

 

俺はそんな事を思いながら、ゆっくりと構えをとる霊夢に一言

 

「そうかあ…………じゃあ、もの凄くやりたくないけれども結局弾幕ごっこになるのかな?」

 

そう言いながら、霊夢と同じ高さにまで上昇してみる。

 

上昇しきったところで、霊夢が口を開く。

 

「ええ、逃げないでよ?」

 

思いっきり逃げる気満々であります博麗霊夢様様様様。

 

 

 

 

 

一瞬で視界を埋め尽くす針と札。

 

全てが俺に対して向かってくると言う訳でもなく、また全てが当たっても死ぬ事が無い危険性の少ない弾幕ごっこ。

 

とはいえ、当たればそれで負けは確定してしまうだろうし、何よりも俺もこれから幻想郷の住人になるのだから経験はしておきたい所。

 

…………な~んて事を思ったが、実際には逃げて逃げて逃げまくって、丁度霊夢が疲れ始めてきた所でドロンをする予定である。

 

そう思いながら、何とか隙間を縫って彼女の所に接近を試みる。

 

「あなた……弾幕ごっこは初めて?」

 

そう言いながら、霊夢は待ってましたとばかりに、札を方向転換させてくる。

 

その軌道は勿論俺がそのまま進めば確実にヒットするコース。

 

「おわっと!」

 

急激な攻撃に驚きの声を上げながら、何とか方向転換をしていく。

 

弾幕ごっこでは飛ぶのが普通……格闘もあるので勿論地上でも行われはするが。

 

俺は危なっかしく玉を避け、姿勢を立てなおしがら彼女を見据えてみる。

 

「ド下手くそ」

 

「はあっ!?」

 

何とも酷いその一言。

 

初めて? の言葉が来たと思えば、ぎこちないわねとか動きが堅いわよだとか色々と言い方があってもいいモノである。

 

しかし、彼女の発した言葉は何とも酷い、ド下手くそ。

 

思わず驚きと抗議を混合させた声を上げてしまった。

 

霊夢は当然でしょとでも言わんばかりに、ニヤリと笑いながらその通りとでも言わんばかりに、札を投げつけてくる。

 

誘導性を持ったそれは、一直線に俺へと向かい

 

「こんなに追ってくるんかい!」

 

避けても避けても追いすがってくる。

 

霊夢が射出する針や札を避け、一部の誘導弾を巻き込みながら紅魔館の廊下を逆に飛んで行く。

 

霊夢も勿論此方を倒すためか、追いすがってくる。

 

引き離す。

 

その意思を持って俺は飛ぶ事に全力を挙げる。しかし、悲しかな。どんなに振り絞っても原付の限界レベルにまでしか速度は上がらない。これは数千年間ずっと同じである。いくらやっても上がらない。

 

霊夢はそんな俺の遅さにクスクスと笑いながら、簡単に追いついてくる。

 

「不思議ねえ……。貴方見た所外来人になのに、空も飛べるなんて。おまけに私の攻撃を危なっかしくも避けてく……でも、センスが全く無いわね」

 

素質が全く無いと言われる始末。恐らく紫が真面目に教育したのだろう。原作で見るよりもずっと強く感じる。……いや、原作でも異常に強いのだが、更に落ち着きや分析力が上がっている気がする。

 

俺はそんなしょうもない事を考えながら、霊夢の言葉に返してく。

 

「センスが無いからどうしたって―――――言うんだいっ!」

 

そう言いながら、俺は通常弾のつもりである、水弾を次々と射出していく。

 

「ほい、ほいほいっと。……やっぱ下手くそよ」

 

霊夢の髪の毛を掠り、巫女服の一部を撫でて行く水弾。だが、彼女に当たる気配が全く無い。そればかりか、俺の攻撃を楽しげに、踊るように避けて行くのだ。

 

軽く100以上の水の弾を打ち出したのにも拘らず、まるで何も攻撃されていないかのような余裕を持ちつつ、更に俺を貶してくる。

 

「あまり逃げないでちょうだいな」

 

「うるっさい! こちとら急いでんだよ」

 

「知ったこっちゃないわ」

 

次々と打ち出される彼女の弾。

 

もちろん、俺だってそう簡単に捕まる訳にはいかないから、何とか旋回飛行を続けて回避に重きをおいて逃げ回る。だが、確実に大広間から離れていっている。

 

勿論、この速度で飛んでいると言う事は前からくる風圧は中々のモノであり、雨が降った後でもあるせいか、やけに肌寒く感じる。

 

そして時折耳元をかすめて行く針が奏でる衝撃音。

 

ブンと重い音と共に直線の軌道を描き、壁に突き刺さって罅割れを形成させていく。

 

まるで弾丸のように俺を射止めんとする針。そして絡みつくように俺を追いかけ、包み込むような仕草をしながら攻撃を仕掛けてくる札の誘導弾。

 

霊夢の持つ攻撃手段はどれもが鬼畜であり、当たれば雑魚妖怪等一瞬で消し飛んでしまいそうだ。

 

と言うよりも、弾幕ごっことは思えないほどの威力を持っているのは気のせいだろうか? 気のせいだと信じたい。

 

ひたすら飛び続ける中、俺が全く撃墜されない事に苛立ちを覚えたのか

 

「何で下手くそなのに避けられてるのよ……いいわ」

 

そんな事を霊夢が述べてくる。

 

その瞬間、俺は何か嫌な予感がして後ろを振り返ってしまう。

 

「ちょっと痛いけど、我慢しなさいよ!」

 

振り向いた瞬間、霊夢が懐より一枚の紙を取り出し、宣言し始める。

 

 

 

霊符「夢想封印」

 

 

 

その宣言と共に霊夢の身体から虹色に輝く光の弾が、数発程滲み出るように顕現する。ジリジリと大気を焼くように球の形を保つ、霊夢の力の一部。

 

圧倒的な霊力がそこに込められていると言う事は俺にだってわかる。

 

分かるのも当然。なぜなら、こんなにも鳥肌が立ち、背筋がブルリと震えてしまったのだから。

 

「さて、食らってもらうわよ」

 

そう言うとともに、待機するように彼女へと突き従っていた虹色弾が、猛禽類のごとく俺へと襲いかかってくる。

 

「無理だっつうの!」

 

圧倒的な速度と威圧感、優雅さを持ったソレが迫ってきた時、俺はそのような情けない声を上げて逃げ回るしかできなかった。

 

しかし、霊夢の用意したスペルカードは、非常に執念深く俺を襲ってくる。

 

(まずいな……このままだと確実に当たる)

 

景色が飛ぶように流れる中、俺は高度を激しく上下させたり、左右に振ったりして壁に当ててやろうと思ったのだが、そうもいかず。

 

背後で一瞬だけ見た霊夢の顔が、ニヤリと笑った瞬間

 

「ヤバっ!」

 

正面から1発。

 

側面から2発。

 

後方より4発。

 

ソレを極短い時間の中で食らってしまった。

 

食らった瞬間の悲しみよりも、鼓膜に響き渡る轟音への驚きの方が優先されてしまっていた。

 

視界が真っ白になり、光と音以外何も聞こえて無くなる。

 

内部領域が働いているせいか、身体に対しての衝撃は全く無い。だが、食らってしまったの事実。一体これがどれほどのダメージになるのかは分からないが、もし領域が無かったら25%ぐらいは持って行かれただろうか? 等と言った事を呑気に考えてさえもいた。

 

漸く視界が晴れたとき、俺は丁度霊夢と対面する形になっていた。

 

先ほどの攻撃より、進行方向に飛ぶ力を入れていないため、唯の惰性で2人とも動いてはいるが、俺と霊夢の表情は見事に対称的だった。

 

「なんで何ともないのよ……」

 

先ほどの攻撃が予想していたよりも凄まじかったため、それに呆気にとられた俺。

 

攻撃を食らわないと言う事を目の当たりにして驚きの表情を浮かべる霊夢。

 

見事に対称的であった。本当に見事に。

 

 

 

 

 

 

 

「後4回食らったら俺の負けって事で! それじゃ」

 

霊夢の反応を無視するかのように、俺は反転して再度図書館を目指していく。

 

だが、いくら飛んでもそのような扉が見えてこないのは、恐らく咲夜が空間を拡張しているせいだろう。

 

ゲームでも相当な広さを持っていたのだから、如何に咲夜の力が強大かと言うのが分かる。

 

「ま、待ちなさいよ! 逃げるな!」

 

動揺を隠しきれなかったのか、霊夢が一瞬の間をおいて此方に追いすがってくるのが分かる。

 

一々後ろを気にしながら飛ぶというのも中々に面倒である。一度この勝負を引き受けてしまったからにはキッチリとやらなければならないのかもしれないが、此方としては付き合っている暇はない。

 

レミリアが此方に来ない間に何としてもパチュリーから荷物を取り返し、無事に地霊殿に戻らねばならない。

 

が、そのためには早めに戦いを終わらせなければならないのだが……霊夢に対してわざと弾に当たって負けるとか、だらけたりするとそれはそれで問題なんだろうなあと思う。

 

霊夢が怒ったら、それはそれで面倒な事になりそうだ……。

 

そんな事を考えながら、全速力で飛ぶ。

 

かなりの体力を消費してきてはいるが、此処で折れてはならないと自分を叱りつけて何とか速度を維持していく。

 

「この……」

 

と、その時。

 

いつの間にか追いついてしまったのだろう。すぐ後ろで霊夢の声がしたと思えば

 

「待ちなさいって言ってるでしょうが!」

 

その声と共に、俺の右腕を掴まれる。

 

その素早さゆえに反応できなかった俺は、掴まれて初めて彼女の存在が急接近していた事に気が付き、慌てて右方向を見てしまう。

 

霊夢は此方の方を見ながらニヤリとして

 

「弾幕ごっこは何も弾幕だけじゃあないのよおっ――――!?」

 

霊夢が何かを言おうとした瞬間、ガクンと急激に高度が下がり、霊夢が素っ頓狂な声を上げる。

 

突然霊夢が視界から消え、次の瞬間には俺の真下に来るようになってしまった。つまりは俺の腕に全体重が掛かるようになってしまったのだ。

 

勿論、彼女の全体重が掛かれば、嫌でも高度が急激に下がる事になる。

 

「な、何が起きて――――――何が起きてるのよっ!? あ、ちょ、ちょっと離さないで!」

 

急に空を飛べなくなった事に驚いてしまったのか、木登りをするかのように腕をしがみつかせて何とか空中に留まろうと必死になる霊夢。

 

勿論、此方としても落ちたくないのだが、余りの急激な重量増に付いていけなく。

 

「ちょ、ちょっと待ったあ!!」

 

「きゃあっ!」

 

仲良く一緒に地面に落ちる羽目になった。

 

スッテンコロリン何て可愛くではなく、何故か咄嗟に霊夢が俺を下敷きにしてドッスンゴロゴロといった具合である。

 

2人でもみくちゃになりながら、カーペットを転がる。

 

勿論、全て一緒に転がっていると言う訳ではないので、途中で霊夢が外れて別々に転がる。

 

眼が回って気持ち悪いという感想を抱く俺だが、霊夢は無事だろうか? なんて考えも同時に頭に浮かべていた俺。

 

だが、そのような余計な心配はいらなかったようで、クラクラする頭を必死に抑えつけながら立ちあがってみると、霊夢は顔を真っ赤にして何とも言えない怒りの表情を浮かべていた。

 

恥ずかしいやら、コケにされただのと複雑な感情が渦巻いているのが手に取るように分かる。

 

が、すぐにその顔を元の表情……落ち着いたモノへと抑えてからフッと笑って

 

「まあ、良いわ―――――」

 

その言葉を言った瞬間に、俺の眼と鼻の先にまで瞬間移動をして、眼を細めて囁くように

 

「格闘だってスペルカードルール内なのよ?」

 

小さく小さく言った後、霊夢は目にもとまらぬ速さで、何かをした。

 

「え?」

 

俺がそのような言葉を呟いた瞬間、まるで金属板をハンマーでぶっ叩いた様な激しい音共に、霊夢が吹き飛び、壁を崩壊させて別の部屋に突入してしまった。

 

一体何が起こったのか分からない。攻撃された俺自身が分からないのだ。後は霊夢が何をしたのか語るのを待つのみなのだが、生憎彼女は壁に大穴を空けて向こう側。

 

砂埃やら何やらで全く状況がつかめない上に、彼女があちらから出てくる気配すらない。

 

一体全体何が起きたのか分からない。一瞬で近づかれて、大きな音がしたと思えば……吹き飛んで向こう側に行ってしまった。唯それだけしか分からない。

 

何かしらの攻撃を敢行したとは思うのだが、ソレが何なのか分からないのだ。

 

俺は突っ立ったまま、このような考えを頭に浮かべていたが

 

(このまま逃げるべきだよな?)

 

そう思った瞬間

 

「全く。打撃も効かないなんて反則じゃない……鳩尾を狙ったのに」

 

巫女服についた誇りを手で払い、乱れた髪を元に戻している霊夢が、砂埃の中から出てきた。

 

打撃……俺の鳩尾部分に一撃をかましたのだろう。しかし、彼女は俺の内部領域に跳ね返され、その作用で思いっきり自分を吹き飛ばしてしまったと考えるべきだろう。

 

普通ならこんな事あり得ないのだが、この世界でそのような事は通用しないのだろう。

 

とはいえ、自分の打撃がそのまま跳ね返り、尚且つ壁にぶち当たっても大したダメージも無い所を見ると、どれほどの霊力を自分の防御に回していたのかがうかがえる。

 

才能の塊、そしてソレを腐らせずに真面目に育て上げた紫による効果が、今ここで発揮されているのだろう。

 

そんな事を思っていると霊夢は首をコキコキと鳴らしながら

 

「大体変だとは思っていたのよね。外来人の格好をしているくせに、空は飛ぶわ紅魔館のメイド長とやりあえるわ、挙句の果てには私の技すらも効かない……おまけに異変なのに此処にいる時点で犯し言ってモノよ」

 

そこまで言い切った霊夢は、息を大きく吸ってから

 

「でも、弾幕ごっこのセンスは零ね」

 

また痛烈な一言を突き付けてくる。もう勘弁してほしい。

 

「まあ、あんまり長引かせるのも拙いんだけども、それほど時間は経ってないし……行くわよ」

 

そう言いながら、再び霊夢が急接近してくる。

 

 

 

 

 

 

この訳のわからない男は一体何だろうか? どこかしら紫と似たような匂いがしてくる。……性格的にだけど。

 

恐らくこの男は姿恰好からするに、紅魔館に餌として招き入れられた外来人なのだろう。何とも御愁傷さまと言ったところだろうが……。

 

ピンチだったら私が問答無用で保護して外の世界に返してやるところだったのだが、私の眼に映ったのはあまりにも予想とはかけ離れた光景だった。

 

(男が圧倒してる?)

 

圧倒と言う言葉は正しくないのかもしれない。正確には彼女が追いすがって泣きながら彼を止めようとしていると言うところだ。

 

良く分からないが、彼は何かしらの手段を用いてあのメイド長を封じ込めたのだろう。

 

…………外来人が?

 

あり得ない。あのメイド長の実力ならば、外来人に等遅れを採るはずはない。そればかりか、一瞬で殺すこともできるだろう。

 

なのにも拘らず、一体何故彼が此処で生き残っているのだろうか? 何か特別なからくりが……。

 

そんな考えを頭に思い浮かべた瞬間、私は陰陽玉を発射してしまっていたが……防がれてしまったが……。

 

また、あの弾幕ごっこをしていたとき夢想封印や手を掴んだ時に突然空を飛べなくなってしまった事を鑑みてから、一つの答えに至ってしまった。

 

(攻撃無効化……? 確か昔紫がそのような能力があるとか何とか言ってた気がする……先ほどは覚えていないと言ってしまったがもしかすると……いや、10年も時間が経って記憶が正しい訳が無い。私の気のせいなのだろう)

 

と、そんな事を考えた所で私は砂煙をはたきながら立ちあがり、ゆっくりと彼の前に出て行く。

 

色々と奇妙な点やらセンスが全く無いと言う事を伝えてみたら、ションボリとしてしまっていたが、私は構わず

 

「行くわよ」

 

そのように言ってから、彼に攻撃を仕掛けて行く。

 

拳を固め、霊力を全神経、全筋肉に流し込み、腕の強度を最大にまで高めてから弾丸を撃ち込むように拳を前に出していく。

 

こん度は顔面。当たったら痛いじゃすまないのだが、それくらいをしておかないと彼にダメージは与えられないと考えて、一気に攻め込む。

 

弾かれてもまた打ち込む。側頭部、後頭部、指先を剣のように固めて肺への攻撃。勿論、刃物を突きさすように横に向けて。

 

しかし、またダメだった。

 

金的を試しても見たが私の足がジンジンするだけ、全く意味が無い。

 

打撃の威力は正直な話、スペルカードルール以前のレベルだったはず。それでも効かないのは本当に不思議だし異常だ。とはいえ、効かないのは事実であるし、捻じ曲げる事はできない。

 

ならば……打撃が効かないのならば寝技に移るのみである。

 

柔術系ならば全て習得しているため、素人であろう彼よりも勝機はでかいだろう。

 

背後に回って彼が驚いている隙に、もう一度正面に回り込んで彼の右腕を外側に、横に引っ張る感じで重心を崩しにかかる。およそ眼に見えぬ速度で行った事は彼にとっても十分な驚きと更なる威力の増加を期待する事ができるはず。

 

だが、思うように彼の重心が最後まで崩れない。崩れたら足を掛けてひっくり返せばいいのだが、ソレができる部分にまで到達する事ができない。

 

全く、これだからイレギュラーってのは困るわ。此方がスムーズに異変を解決できないじゃない。まあ、出会うやつ全て蹴散らしている私が言えた事ではないのかもしれないけれども。

 

そして、私が次の体勢に移ろうとして彼の身体から離れたとき

 

 

 

水煙「視界強奪」

 

 

 

そのような言葉が聞こえたと同時に、私の視界全てが白い水煙に包まれ、一切が見えなくなってしまった。

 

あ~あ、仕方が無いわね……今回は諦めて次に行きましょうか……今度会ったらニンニクの件でとっちめてやるけど。

 

それにしても妙だ……名前も知らないが、彼の腕を掴んだ時に霊力も能力も使えなくなってしまって、飛べなくなるなんて……。

 

少し……と言うよりも、かなり不気味ね。

 

 

 

 

 

 

 

危ない。何とか逃げ切った。

 

一瞬の隙を突いて、水煙を発生させて霊夢の視界を奪った後、全力で飛んで窪みのある部分に隠れているのだ。

 

もう彼女が追ってくる気配はない。そればかりか、段々と落ち着きが俺に齎せて来ており、何とも言えない安心感が俺の身体を包む。

 

この窪みに入れたことを感謝しつつ、壁に寄り添ってから、また外の様子をうかがう。

 

どうやら本当に彼女はどこかに行ってしまったらしい。

 

そう思いつつ、暫く外をチラチラと見ていると

 

クイクイと服を引っ張られる。

 

「ん?」

 

何ぞやと思いながら、俺は振り向く。

 

「げっ!?」

 

視界が悪く、窪みだと思っていたのはどうやら部屋に続くための通路だったらしい。しかも地下……。

 

そう、目の前にいたのは

 

「一体何が起きてるのよお……ぐすっ」

 

大きくくりくりした目をウルウルとさせ、涙をボロボロと流しながら鼻水を啜るフランドール・スカーレットがそこにいた。

 

 

勿論ニンニク塗れでずぶ濡れ状態の………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話はいかがでしょうか? ご批評を宜しくお願い致します。

今回の霊夢は、軽めの戦闘です。本気の戦闘をやると耕也も現状のスペカ何てモノでは対応できなくなってしまうので……。

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