東方高次元   作:セロリ

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どうもセロリです。お久しぶりな方はお久しぶりです。初めてな方はお久しぶりです。にじふぁんが使えなくなったので、此方に移転させて頂きました。宜しくお願い致します。

投稿していた分は、一日一話で此処に投稿していきたいと思います。宜しくお願い致します。では、どうぞ。


1話 迷い込んでしまった……

開かないのは結構理不尽な気が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんのくそ暑い中何でこのオンボロ自転車使わなきゃあならないのやら……」

 

そう愚痴が出てしまうのも無理はない。現在日本は夏真っ盛りで、自転車前方の空気が揺らいで逃げ水が形成されるほどの酷い熱気に包まれているのだ。

 

しかもその熱さの中で、このオンボロ、チェーンは錆び、ハンドルはギシギシ悲鳴を上げまくる。こんなモノに乗っていると熱さと虚しさで泣けてきそうだ。

 

「しっかも何でこの自転車は1速と2速が超クロスレシオで2速と3速が超ワイドレシオなんだ……滅茶苦茶使いにくいじゃねえか。もっと2速と3速をクロス気味にしてくれないかなあ……」

 

そんな事を言ってもギア比が近くなるわけでも無し。ただただ無駄にでかい声が空中に消えていくのと、周りに人がいたら変質者以外の何ものでもない以外に意味をなさない。

 

だが、こんな良く分からない自転車に乗り、文句を垂れつつペダルをこいでいくのにも、重要な理由がある。

 

アパートから自転車で約5分程の場所にある大型のスーパー。このスーパーはアイスの安売りを頻繁に行っているため、この真夏日における一人暮らしの大学生としてはかなりありがたい。

 

「売り切れてませんように」

 

そう願いながら俺は、坂道で十分に速度が大きくなった自転車のギアを3速に入れ、足に全力を入れて飛ばしていく。

 

が、平坦な道になった途端にトルクとギア比が釣り合わなくなり、段々と速度が落ちて行く。このギア比は非常につらい。

 

ついには立ち漕ぎしなくてはならなくなる状態にまでなるという何とも情けない醜態を世間の皆様に曝している俺。

 

「ああもう勘弁してくれ……あ……」

 

と、懇願するかのようにこの自転車に文句を垂れ、更に力を入れようとしていた俺だが、必死こいている俺の横を、4ストロークエンジン特有の排気音を響かせながら、スクーターが軽やかにぶち抜いていく。

 

その様を見たら一気にペダルを漕ぐ力が薄れそうになる。が、もちっと頑張ってみる。

 

「スクーター……欲しいなあ!」

 

と、その欲望を自身への応援歌か何かかと思わせるように何とか声を振り絞って。

 

が、ソレもむなしく更に速度は落ち、ついに2速にダウンさせることとなる。

 

「はあ~……どうしよう、スーパーカブでも買おうかなあ。中古なら買えると思うし、アイツ頑丈だし」

 

そうこの自転車の不便さにぶつくさ文句を言いながら、原付の購入の検討すらし始める。正直アイスよりも原付の検討の方が重要度が逆転している気がするが、あんな光景をまざまざと見せつけられたら、この状況も相まって逆転するのも必然なのではないだろうか。

 

「でもねえ、この自転車なんだか手放す気にはならないんだよねえ。貧乏性だもんな俺……」

 

そう言いながらも、特売のアイスの買いこみに向かう俺を貧乏性と言っていいものかどうか悩むところだが、そんなに深く気にしない事にした。

 

そんな事を考えながら、ひたすらペダルを漕いで行くと、視界に映るは目的のスーパーマーケット。

 

目的の品が買えるというのが間近になってくると、何か良く分からない期待感、それと同時に早く到着して手に入れなくてはという焦燥感の二つがごちゃ混ぜとなり、良く分からない感情となり頭の中に徐々に湧きでてくる。

 

ソレも特売品を買う際の醍醐味のようなものだと思い、駐輪場に自転車を止め、ダイヤル式の鍵が掛かった事を確認してから、店内へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

太陽光の熱による異常な熱気から、二重ドアを潜った瞬間に冷房より来る冷気の落差に、思わず身が震える。

 

37℃程の外気とこの体感20℃に近い温度の落差。どう考えてもやり過ぎだと思う。最近の推移は分からないが、2009年における内閣府の調査によれば、スーパーの冷房が効き過ぎていると感じる人は、40%強とのこと。

 

おそらくこの店もその40%強の中に入るのだろう。いや、絶対に入っていると思う。

 

そんな下らない事を考えながら、買い物かごを取り、アイスコーナーにまで足を運んでいく。

 

「確か……生鮮食品の近くだったはず……」

 

極小さな声で目的の場所を思い出すように、独り言をつぶやきながらレジの横を通り過ぎ、後は黙々と進んでいくだけ。

 

そして、漸く見えてきたアイスコーナーの一角にある特売コーナー。が、落胆してしまいそうになる。

 

「あまりないじゃないか……」

 

そう呟くしかないほどアイスの量が少なかった。両の指で数えられるぐらい。だがまあ、6個ほど買えばそれなりに持つだろう。毎日食べるものでもないし。

 

そんな事を思いながら、自分のお気に入りのアイスを籠の中に入れていく。最中の中にアイス、板チョコを挟んであるモノ。クッキータイプ生地がアイスを両側から挟んでいるモノ等様々である。

 

氷が付着するほど冷えた容器の中に手を入れ、アイスを取り出す作業は、店内の冷房で冷えた身体をより一層冷やすものがあり、一つ一つ取り出すごとに身体がブルブル震えるほどのモノである。

 

サッサと会計を済ませて、外気で中和したい。そう思いながら、鳥肌が出るまで冷えてしまった皮膚を擦り摩擦熱を起こす。

 

が、特に改善する見込みなどまるで無いので、足早にアイスコーナーを後にし、レジに並ぶ。

 

子連れ、老夫婦、若いカップル、友人同士で来たと見える小学生ぐらいの子達。様々な年齢層でごった返すこのスーパーは、何とも言えない心地よさがある。騒がしいのも好きだからだろうか?

 

そう考えていると、前の客が会計を終わらせ、商品をビニール袋に入れに別の机に運んでいく。

 

「次の方どうぞ」

 

その声にハッと気が付かされ、ペコリと頭を下げながらレジ台の上に籠を乗せていく。

 

そして、置いたと同時に店員が籠を自分の前まで引き寄せ、商品名を口に出しながら、一点、二点と言う。

 

支払額が加算されていくのを見ながら、ちょうど良い小銭は無いかと財布をごそごそと探る。

 

「合計377円になります」

 

快活な声を聞くと同時に、財布から407円を取り出し、カルトンの上に置き、釣銭30円とレシートが返されるのを待つ。

 

店員は支払額を確認し、口に出しながら釣銭を取り出し、レシート共に俺の手の上に置く。

 

「ありがとうございました」

 

その声と共に、俺は押し出されるように、机の方に向かい、渡されたビニール袋の中にアイスを入れて行く。

 

(帰ったら、妖精大戦争でもやって、暇を潰すか……生憎皆実家に帰っちまったし)

 

大学は様々な所から学生が学校に来るので、長期休暇になると実家に帰省してしまう者も多い。

 

まあ、中には俺のように実家に帰省しないでそのままという学生もいるが。

 

アイスを袋の中に入れ、籠の中に入れ忘れが無いかどうかを確認してから、返却台の部分に重ねる。

 

「さって……帰りますか」

 

そう言いながら、自動ドアに向かって足を進めて行った。

 

 

 

 

 

レジから、約30m程先にある二重自動ドア。店内の温度をなるべく下げないように、設計されているのだろう。他のスーパーよりも閉まる感覚がせっかちな気がする。

 

俺はそんな感想を頭に浮かべながらも、一つ目のドアをくぐる。潜った瞬間に来るのは、外気と内気の中途半端に混ざった生温かい空気。

 

何とも言えない気持ち悪さに、思わず身体が震えてしまいそうになる。入ってくる時は、炎天下に曝されていたため、唯涼しいとしか感じなかったが、此処まで冷やされた後だと気持ち悪い温度にしか感じない。

 

ああいやだいやだ。

 

そう思いながら、二つ目のドアの外を見やる。大きな駐車場が眼の前にあり、直射日光に曝されているアスファルトから空気の揺らぎが生じ、その中に駐められている自動車は何とも苦しそうに感じてしまうほど。

 

改めて冷房の便利さを把握しながら、奥のドアをくぐろうと、センサー探知範囲内に近づき、ドアが開くのを待つ。

 

いや、待つ自体がおかしいのか。数秒経っても開かない。ガラスドアが開かないのだ。

 

「おいおい」

 

そう呟きながら、そのままの姿勢で数歩下がり、またセンサー探知範囲内に近づく。先ほどのはセンサーの誤作動だったのだ。そうに違いない。

 

そう決めつけながら、俺は近づく。

 

 

「は?」

 

またもや同じ現象が起こる。数秒経っても開かないのだ。アホらしさに苦笑しながら、今度は開くまで我慢強く待ってみる。

 

が、一向に開く気配は無い。

 

「壊れてんじゃねえか」

 

そう言いながら、店員に報告をしようと後ろを振り向いた瞬間に、俺は固まってしまった。

 

あまりの異常な事態に、俺の身体が動く事を止めてしまったのだ。

 

「へ? 何が起こってんだ……?」

 

自分の目の錯覚なんじゃないかと思うほど、異常な事態、あり得ない事態。

 

閉じられた内側のドアの先には、店員を含めて誰ひとりとして店の中から消えていたのだ。あまりの事態の急変に俺の頭が付いていかず、唯茫然とするしかない。

 

自分の頭の中でどんな計算が繰り広げられたのかは分からないが、何故か店内に入って別の出口から出ようと。そんな考えが生まれた。

 

俺は自分でも驚くほどゆっくりとした足取りで、内側のドアに近づく。

 

しかし、先ほどの考えが見事に瓦解していった。

 

「何で開かないんだ……何で……」

 

そう言うしかできなかった。外側のドアの時と同じ現象がまた起きているのだ。理由は全く不明。センサーの故障では済まない気がする。

 

先ほどは行わなかったが、ロックが掛かっていないのなら、電力による補助が無いため重くなりはするが、手動でもこの手のドアは開けられるはず。

 

そのように結論付けた俺は、多少溶けてしまうのも仕方が無いと思いながら、アイスの袋を床に置く。そして閉じられたドアの僅かな隙間に手を無理矢理突っ込み、全身の体重を掛けて開けようとする。

 

「んのやろ……! 開け!」

 

全身に力を込めているはずなのに、ドアが開く気配は一向に無い。

 

普通ならこの半分以下の力でも楽々と開くはずなのだが、そのドアは貝が口を閉じているかのように、ガッチリと固く閉ざす。

 

「開けコンチクショウ!」

 

反動をつけて片側のみを引っ張り、無理矢理こじ開けようと頑張る。が、無駄に汗が出るだけで全く進展が無い。

 

「ふざけんなよ……」

 

そう言いながら、外側のドアについてもやる。が、結果は同じであった。

 

「くそっ!」

 

そう言いながら、内側のドアに近づき、激しくドアをたたく。

 

「すみません、誰かいませんか! すみませ~んっ!」

 

が、空っぽの店内から人の声が返ってくるわけも無く。何が起きているのか全く理解できないまま叫び続ける。

 

「お~い! 誰か! 誰かいませんかっ!?」

 

それでも結果は同じ。

 

この理不尽な状況に対する怒りと、得体のしれない、まるで俺だけ現実世界から切り離されてしまったかのような恐怖すら覚え、ドアを思いっきり蹴る。

 

ガラスにゴムが打ちつけられるような、鈍い音が数回。しかし、唯それだけ。その音以外何も変化が無い。ガラス製のドアが割れても良いのに、割れる気配がしない。店員が音に気が付いて来てくれる気配も無い。蹴った代償に俺の脚が音と共に痛むだけ。

 

「もういい。警察には事情を説明……しても駄目だろうなあ。怒られそうだし犯罪だろうなあ。……でも、背に腹は代えられぬってか」

 

そう自分を奮い立たせるように自分に言い聞かせ、緊急避難が適用できないかどうかをチョロっと考えた後、肩を前方に、身を守る壁のように出し、突進の体勢を取る。

 

だが、割れたガラスが眼に入るのは怖いので、ぶつかる直前に眼を閉じるようにする。

 

「いっせーのっ!」

 

その掛け声とともに、俺は足に反動をつけ、足に全力を込めて走り出す。

 

痛いんだろうなあ。ガラスで切れたり血まみれになったりするんだろうなあ。

 

そんな考えが一瞬過るが、もう身体を止めることはできない。止めようとしない。急速に迫るガラスドアを脳が把握すると、俺は眼を堅く閉じて何時衝撃が来ても良いように覚悟を決める。

 

ドンとこいや。そんな感じである。

 

が、その一瞬の覚悟は何かに躓く事で消え去ってしまった。

 

「うわっ!」

 

ガラスにぶつかったと思っていたのだが、何故か倒れた先には、草の匂いしかしない。

 

ゆっくりと眼を開けてみる。

 

すると、そこには生い茂る草原という光景が飛び込んできたのだ。

 

またもや異常な事態が起こった。ドアにぶつかり、大けがをするはずだったのにも拘らず、ドアにぶつからず。更には外は駐車場だったはずなのに、眼を開ければ生い茂る草ばかり。

 

文明的なモノが一切見当たらない。

 

「はあ!?」

 

そう俺は素っ頓狂な声を上げて、一気に立ち上がり、後ろを見てみる。先ほど俺が眼を瞑りながら走ってきた方向を。

 

「…………………は?」

 

もう訳が分からない。走ってきた方向には、必ずスーパーがあってもおかしくないのに。いや、この草原がある時点で非常におかしいのだが。

 

今まで以上に可笑しな、尋常ではない事態に、唯茫然とするしかない。先ほどよりも遥かに長い時間。

 

そしてぽつりと。何を思って言ったのかは分からない。

 

 

 

 

 

 

「俺のアイス……」

 

 

 

 

 

 




書きなおしたい。物凄く書きなおしたい。具体的には50話ぐらいまで書きなおしたいです。ですが、ソレをやるとエタること間違いないので、やりません。頑張ります。ではでは。

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