首輪付きと白い閃光と停滞の異世界物語   作:紅月黒羽

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お久しぶりです。いろいろグダグダしてた紅月黒羽です
半年以上経っちゃいましたが、言い訳は後書きにて記します。


第6話 救いの手はそこに

(私ハ……マタ失ウノカ。モウ、二度トアンナコトガ起キナイヨウニト誓ッタノニ)

 

 戦闘が激しさを増す中、忌々しい過去と今の状況が重なって見えた戦艦棲姫は心の中で一人弱音を吐いていた。

 不意打ちがましい砲撃、次々と損傷していく仲間たち。それがどうしてもあの惨劇を蘇らさせる。あんなことがもう起きないよう今まで力をつけてきたはずだった。しかし、そんな決意を嘲笑うように時は流れていく。

 このままではあの時と変わらないまま、この戦闘は終わりを迎える。それだけは絶対にさせてはいけない。

 

「戦艦棲姫様!コチラノ被害ガ甚大デス!コレデハイツマデ持ツカワカリマセン、後退シテクダサイ!」

 

「私ガ下カッテハマスマス被害ガ増エルダケダ!ソレヨリモ損傷ガハゲシイ者ハ下ガラセロ!」

 

「デスガ姫様!」

 

「奴ラハ、私ガ必ズ沈メル!!」

 

 自身の被害が激しくなっていくのにもかかわらず戦艦棲姫は攻撃の手を止めることはなかった。

 全身に痛みが走ろうと、意識が朦朧としても、そんなことはどうでもよかった。戦艦棲姫をつき突き動かしているのは『怒り』だ。

 仲間を沈められた恨み、自分の理想に付いてきてくれた仲間たちの無念。そして何より戦艦棲姫自身のありとあらゆる負の感情。

 それだけが今の戦艦棲姫を動かしている。

 

『アァ、ヨ……タ。姫……ガ…ジデ』

 

 陸奥が率いていた艦隊を退けた後、生き残っていたのはヲ級と少数の駆逐艦や軽巡艦たちだった。戦艦棲姫が駆け付けた時には既にル級は沈みかけていた。今となっては最期の時に言われた言葉すら思い出せない。

 

『見テ……カ……タ。私タチト人……カリ……エル時ヲ。ソシテ……貴女ノ……ヲ』

 

 心がどんどん黒く染まっていく。今の戦艦棲姫にあの時の理想はない。あるのは、艦娘全てを沈めるという復讐心のみだ。

 

「忌々シイ艦娘ドモガッ!」

 

 あの惨劇からヲ級は自分を責めるようになってしまった。自分が余計なことを言わなければこんなことにはならなかったはずだと、自責の念に苛まれてしまった。

 どれだけ励ましてもヲ級が立ち直ることはなく、それが一層、戦艦棲姫の恨みを加速させる。

 

(ヲ級ハアンナニ優シイ心ヲ持ッテイタ。少シデモ仲間タチガ休メルヨウニト、心カラ思イナガラ私ニ進言シタ。ソレハ間違イナドデハナカッタ……!)

 

 主砲に装填を済ませ、豪雨のように艦娘たちへと降りかかる。心は壊れそうだというのに、その射撃精度は恐ろしく高かった。嫌にでも体に身に付いた動作が、あらゆる工程を飛ばし戦艦棲姫を復讐鬼へと変貌させる。

 

 そのとき、戦艦棲姫に砲撃を行おうとした艦娘の付近に水柱が立った。

 一体誰が?と後ろを振り向くと先ほど、負傷した仲間と一緒に下がらせたはずの深海棲艦が戦艦棲姫を守るように陣形を作ろうとしていた。

 

「ナニヲシテイル!下ガレト言ッタ筈ダ!」

 

「私タチハ姫様ニ付イテ行クト決メマシタ。ダカラ姫様ガ戦ウナラ私タチモ戦イマス。タトエ沈ムコトニナッテモ」

 

「ナゼドイツモコイツモ、私ノ命令ヲ聞カナイノダ……。私ハモウ、ソンナ決意ヲ言ワレルヨウナ存在デハナイノニ」

 

「家族ガ家族ヲ守ッテ、ナニガオカシイノデスカ?」

 

「ッ!」

 

 そう言われて戦艦棲姫は思い出した。自分がなんの目的で部隊から離れ、この海域に移り住もうとしていたのか。自分の本当の望みは何だったのかを。

 それは、自分の復讐で仲間を傷つけることではない。仲間がもう傷つかないように自分ができることをしようと、そう決めていたはずだ。

 

(部下カラ言ワレテ気ヅクヨウデハ私モ、マダマダノ様ダナ……)

 

 無論艦娘は憎い。過去の出来事を水に流すつもりなど毛頭ない。

 だが今は、仲間たちを離脱させることが最優先だと分からないほど戦艦棲姫も落ちぶれてはいなかった。

 

「姫様?」

 

「スマナカッタ。オ前タチノオ蔭デ私ハ、自分ノ成スベキコトガ思イ出セタ」

 

 戦艦棲姫の様子を見て心配した深海棲艦が声を掛けると不敵に笑った顔で戦艦棲姫は後ろへ振り返る。

 その顔には先ほどまでの怒りはなかった。

 もう道を間違えることはない。自分には仲間(かぞく)がいることを改めて理解した戦艦棲姫に迷いはなかった。

 

(みな)ヨク聞イテクレ!コレカラ私タチハ反転シ撤退スル。ソノ時、二人程艦娘ヲ抑エル為ニ私ト一緒二残ッテ欲シイ。私タチハ勝ツタメニ戦ウノデハナイ。生キ残ル為ニ戦ウノダ。ダカラ頼ム、力ヲ貸シテクレ。私ノ復讐ノ為デハナクオ前タチノ為ニ」

 

「何度モ言ッテルジャナイデスカ。私タチハ姫様二付イテイクト。ナラ答エハ決マッテイマス」

 

「……アリガトウ」

 

 それからの行動は迅速だった。部隊をさらに細かく分け、一度にではなく少しずつ離脱するようにし、離脱する艦以外は艦娘を抑え、最後に戦艦棲姫と志願したタ級が撤退する。

 この方法が最善だと戦艦棲姫は考え出した。

 無論、後退するのが後になるほど危険は増すがネ級とタ級はそれを承知で戦艦棲姫の援護をすることを決めた。

 

 今更下がれ、などとは言わない。

 深海棲艦たちは今まで不甲斐なかった自分を信じている。だが戦艦棲姫は心のどこかでは仲間を信じ切れていなかった。

 自分が守らなければ、と独りよがりに進んできていたがそもそもが間違っていた。もう自分の保護などいらない、深海棲艦たちもこれまでで成長してきたのだ。誰もが自分の意志を持ち戦艦棲姫と共に理想のために歩んでいた。

 結局のところ戦艦棲姫はそのことに気づかないまま勝手に、守るべき存在だと決めつけていた。

 

「ドウヤラ昔見タ顔ガイルガ、恐ラク奴ハ私ヲ狙ッテクルダロウ。危険ナ役目ダガ、ココデナントシテデモ被害ヲ抑エル。頼ムゾ、タ級」

 

 無言でうなずき艤装を構えなおすタ級。

 タ級が志願してきた理由は自分の装甲に自信があるが故だ。タ級の艤装は、他の深海棲艦と違い派手なものではないがその性能は戦艦という名に恥じない性能を持っている。

 

「ワカッテイルト思ウガ、ココカラガ正念場ダ。各艦、気ヲ引キ締メテイケ!」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

「長門、深海棲艦たちは撤退を始めたようデース!戦艦棲姫とタ級が一番前で殿をしているようですが、どうするネ?」

 

「各艦、戦艦棲姫に集中砲撃!やつらの思惑に嵌るのは癪だが、やつを沈めれば後はどうとでもなる!瑞鶴と加賀は制空権を抑え続けろ!」

 

「了解!いきますよ加賀先輩!」

 

「えぇ、鎧袖一触よ」

 

 長門の号令により瑞鶴と加賀は流れるような動作で矢筒から矢を取り出し構える。この二人の練度ならばあの程度の数の深海棲艦に制空権をとられるようなことはない。

 

「やぁっ!」

 

「はっ」

 

 裂帛(れっぱく)の気合いで矢を放つ瑞鶴に対し加賀は、余裕のある落ち着いた声で上空へと矢を放つ。全くぶれることのない矢はやがて、その姿を艦載機へと変える。その数は、二人合わせておよそ八十機ほど。後のことを考え余力を残すことと、慢心をしているわけではなかったがこの数でも十分に深海棲艦たちを撃破するには十分だと考えたからだ。

 

「よしっ!今回もお願いね妖精さん!」

 

「妖精たちの力も大切だけど、艦載機の性能は私たちの練度で決まるということを忘れてはいないわよね?」

 

「もちろんですよ加賀先輩。私だって毎日鍛えてるんですから。それにいつも頑張ってくれている妖精さんたちに応援くらいしたいですし」

 

「……そうね。貴女はよく頑張っているわ。今の動きを見ただけでもそれは分かるもの」

 

 深海棲艦へと向かっていく艦載機を見つめながら、瑞鶴は笑顔ともとれるような表情を浮かべ成り行きを見守っていた。

 その間に長門は金剛たちと共に戦艦棲姫たちを追撃するために最大船速で戦場へと向かっていった。

 

「あれ?もしかして今褒めてくれました?」

 

「……気のせいよ。今は目の前のことに集中しなさい」

 

「え~今絶対褒めてくれましたよね~」

 

「……」

 

「いだい!いだいでふ!加賀先輩!」

 

 あからさまに話題をずらした加賀にニヤニヤと意地の悪い表情をした瑞鶴が近づいていくと頬を思いっきり引っ張られた。加賀としては瑞鶴のことは認めているがどうしても素直になれないのでちょっとした隙を見せると、調子に乗っていじりにくるのでこうしてやり返しているわけだ。

 

「全く、少しでも褒めるとこうなるのだから。これならもう少し厳しく接していこうかしら」

 

「えぇ~今でも厳し―――いだい!いだい!」

 

『あー、すまないが二人とも、作戦中だからもう少し緊張感をもってくれ。それと艦載機からの報告を頼む』

 

 また同じようなやり取りが始まりそうになったとき長門からの通信が入った。その声には非難や真面目にやれといった感じではなく呆れや微笑が含まれていた。

 もっとも、長門もこのやり取りを聞くのは初めてではなく、この二人が一緒だと決まってこういう風になると分かっているからだ。

 

「了解。……っ」

 

『どうした?』

 

「第一次攻撃隊三分の二が撃墜された模様。残りの艦載機は敵の弾幕を超えて様子を見ています……敵は、リ級が小破しその他はほぼ無傷……と」

 

「えっ」

 

『なんだと!?』

 

 加賀の口から告げられた言葉が理解できず曖昧な反応しかできなかった瑞鶴とその内容に驚く長門。これがまだ練度が低い艦ならまだ分かる。相手は『姫級』だ。通常の深海棲艦よりも段違いの性能を持っている『姫級』なら対空性能も高いだろう。

 だが加賀と瑞鶴は鎮守府の中では古参に入る部類だ。その二人の航空隊があの数の深海棲艦にほとんど何もできなかったのは長門としては予想外だった。

 

(そこまでしぶといのかやつは……まだ加賀と瑞鶴には艦載機が残っているが今それを放ったとしても結果は同じだろう。やはり私がこの手で沈めるしかあるまい)

 

「金剛、私は戦艦棲姫を叩きに行く。そのときにお前たちには他の深海棲艦を頼む」

 

「なぜですか?さっき長門は(みんな)で戦艦棲姫集中的に狙うと言ったじゃないデスカ?」

 

「奴らの目的が撤退だと分かったからこちらは攻めるだけでいいと考えた。だがそれは間違いだった。改めて感じたんだ、奴らが陣形を立て直した直後から雰囲気が変わったのを。恐らくこのまま進んでも倒すことはできないだろう」

 

「だから貴女が囮になっている間に私たちがその他を沈めるということデスカ?」

 

「半分は正解だ。だが残りの半分は私の私情でもあるが、やつにはデカい借りがある」

 

 金剛の目をじっと見つめながら長門は語った。それに対し金剛は少し考えた素振りを見せ頷きと共に答えを返した。

 

「分かりましター。旗艦である長門が言うなら私も文句はありまセーン。ただし、万が一のことも考えてなにかあったときは私が艦隊の指揮をとりマース。いいデスネ?」

 

「あぁ、こちらも無理を言っているのだ。それくらいで済むなら安いものだ。そのときは私のことは気にせず―――」

 

「ノー、それを決めるのは私デース。というか引きずってでも連れて帰りマース!」

 

 離脱しろ、と長門が言う前にそれよりも早く金剛が割り込んできた。片目だけを開きまるで、長門がなにを言おうとしているのか全てお見通しというような表情をしている。

 

「ふっ、お前という奴は、相変わらず考えているのだか考えていないのか分からないな」

 

「鎮守府の皆からもよく言われマース。でもこの際言わせてもらいますが、それって遠回しに馬鹿にしてますよネ?」

 

「さぁな。皆なりの愛情表現だろう」

 

「えぇーなんだか納得いかないネー……」

 

 ジト目で不満を表している金剛だがそれにつられてか、金剛のトレードマークの一つであるアホ毛がしな垂れていた。

 それを面白そうに見ている最上とそれを嗜める熊野もまた今のこの雰囲気が気に入っているらしく、戦闘海域に入るというのにとても和んでいるかのように見えた。

 

「そう拗ねるな。そういうところも含めて提督はお前のことを頼りにしていたぞ?」

 

 長門が一言付け足した瞬間、アホ毛がピンッ、と立った。それを見た最上が声を出して笑いそうになるがギリギリの所で踏ん張った。その隣の熊野も口に手を当てて笑い出すのを堪えている。

 やはり提督の話題を出すと扱いやすいなと、内心長門は少々意地悪く思っていた。

 長門たちが所属する鎮守府の提督は、誰にでも優しく無理な作戦を決行しないことから、大なり小なり艦娘たちから好意を持たれている。

 と言っても、もともと金剛はそういうことに関してはものすごくオープンなので自分から積極的にアプローチをかけている。その結果、鎮守府内では度々その光景が目撃され、やがて鎮守府の日常となってしまった。

 

「Wow!それは本当ですカー!」

 

 予想通り金剛が食いついてきたことに内心笑いながらも長門は言葉を繫げた。

 

「あぁ、本当だ。これまでのお前の功績も買っていたようだから、今回の作戦で結果を残せば提督からなにかあるかもな」

 

「そうならそうと直接言ってくれれば良かったのにネー。提督ったら恥ずかしがりやさんデスネ!」

 

 気持ちの切り替えが早いのも金剛の一つの利点だろう。先程までの落ち込みとは打って変わって今では元気ハツラツだ。

 単純な奴だ。

 そう軽く毒づく長門だが勿論金剛が嫌いなわけではない。

 むしろ金剛には尊敬の念を抱いていた。

 仲間と気軽に触れ合い、場の雰囲気を良くしてくれる。

 自分とは違うその在り方は、艦隊に―――いや、鎮守府にとって無くてはならない存在だ。

 

「なに、今までこんなことは幾らでもあった。多少不利な場面でも私たちなら乗り越えられるそれだけの力を私たちは持っている」

 

 嘘偽りなく、過信もなくただ事実を述べ仲間を鼓舞する長門。

 その姿は、見た目は違えど当時の長門の荘厳たる姿がそのまま人になったように見えた。

 いや、これこそが『長門』だ。日本が世界に誇った、世界に認められた戦艦。

 姿が変われどその魂はずっと昔から変わってなどいなかった。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 艦娘そして深海棲艦。互いのエゴを通すための戦いが今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 戦いは加賀と瑞鶴の艦載機を叩けたのが大きかったのか深海棲艦側が有利だった。

 だが撤退するのと侵攻するのではどちらが有利かは言うまでもない。

 加えて数では勝れど練度は艦娘たちの方が上だ。先程のように被害を出さないよう艦載機を退けられる確証もない。

 

「姫様!艦隊ノ七割ノ退却ヲ確認シマシタガコノママデハ……」

 

「弱音ヲ吐クノハ後ニシロ!マダ負ケタワケデハナイ、最後マデ諦メルナ!」

 

 戦艦棲姫も鼓舞をするがいずれこの均衡は崩れるだろう。ならば、それよりも早く、より多くの仲間たちを逃すために全力を尽くす。

 しかし、戦艦棲姫の思いを裏切るかのように突然とそれは訪れた。

 

「ッ……!」

 

「ヲ級、大丈夫カ!」

 

 速度が急速に落ちたヲ級を見て戦艦棲姫が声をかける。自分自身でも原因が分かっていないのかヲ級は明らかに動揺をしていた。

 

「誰カ、ヲ級ヲ連レテイッテクレ!コノ場ハ私ガ……」

 

 その時、戦艦棲姫は喋りかけた口を閉じて絶句した。視界の端に今も自身の不調に混乱しているヲ級に狙いを定めている艦娘の姿が見えたからだ。

 今から止めに入っても間に合わない。

 しかし、庇うにしてもヲ級までの距離が遠く間に合わない。

 だがそれでも戦艦棲姫は諦めたくなかった。身を翻し全力でヲ級の元へと向かった

 

 (嫌ダ。私ハ、モウ仲間ヲ失イタクナイノニ……)

 

 刻一刻と時間は進み砲撃を行う寸前になった艦娘。無駄だと分かっていても自分にはこれしかできない。

 そして、遂に砲撃が放たれた。

 

 「ヲ級!」

 

 しゃがれた声で叫ぶ戦艦棲姫。その声に反応してゆっくり振り向くヲ級。

 その時、戦艦棲姫は言葉を失った。

 笑っていたのだ。自分の命が今なくなろうというのに何の不安も無いような優しい笑顔で。

 それはかつてル級の死ぬ間際の表情にとても似ていて。だからこそ戦艦棲姫は認めたくなかった。また目の前で死なれるなど死んでも御免だと。

 

「ヲ級ゥゥゥーーーー!」 

 

 黒い風が吹き砲弾は確実にヲ級に当たる軌道を描く。

 戦艦棲姫の叫び声は砲撃が着弾した音にかき消され誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 ヲ級は己の運命はここで尽きたと。そう思っていた。元より既に自分は死んでいるような身だ。それが今更死んで何を思うというのか。

 

「……?」

 

 しかし、覚悟をしていた痛みが未だにこない。それにまだ戦闘をしているはずの仲間たちや、艦娘たちの砲撃音も聞こえなくなっていた。

 なぜか。それは目を開けた瞬間に分かった。

 

「!?」

 

 自分を庇うように立つ人間。本来敵であるはずの人間がなぜ 自分を庇っているのか。

 それに周りの仲間たちや艦娘たちもソレを見て動きが止まっていた。

 

「ふぅ……。何とか防げて(・・・)良かった……」

 

 目の前の人間は息を大きく吐き安堵していた。しかしその言葉の意味を理解できずヲ級はさらに困惑した。

 

『まさか庇うんじゃなくて、砲弾をブレードで叩き斬る(・・・・・・・)とはな』

 

 そう。ラキラはヲ級に砲撃が当たる直前に目の前に滑り込み左手に装備されているブレード(02-DRAGONSLAYER)で文字通り切り落とした。

 

「いや。いくらお前(アリーヤ)でも直撃は危ないと思ってな。不安だったけどやってみたんだよ」

 

『言えばどれくらい耐えられるかくらいは教えたんたが。まぁいい。前にコジマ粒子が無くても動けるといったがPAもある程度は生きている。ただ、あの世界ほど出力は高くないから基本は避けた方がいいな』

 

「そうか。なら良かった」

 

 そう言いながらラキラはヲ級へと振り向く。得体の知れない存在に見つめられヲ級はビクッと体を震わせた。

 逃げたいと思いながらも体は思うように動かず、後ずさることしかできない。自分はどうされてしまうのか。結局殺されるのか、それとも死よりももっと(むご)いことをされるのか。

 そんな思考を繰り返し、身を震わせていたヲ級だったが───

 

「怪我はないか?」

 

 返ってきたのは自分の身を案じる優しい声だった。それと同時に腰が抜けていた自分を立ち上がらせるために手を差しのべてきた。

 それはヲ級にとって戦艦棲姫以外に初めて救われた時だった。仲間に助けられたことならいくらでもある。しかし、戦艦棲姫やラキラほどに優しさを感じたことはなかった。

 だからこそヲ級は迷いなく頷きを返し立ち上がることができた。

 

「本当はもっと早くに助けに入れば良かったんだが……悪かったな」

 

 そんなことはない、とヲ級は頭を横に振った。確かに危うく沈められそうにはなったが、助けてくれたことは事実だ。それ以外に何を望めるだろうか。

 

「ヲ級!」

 

 そこへ戦艦棲姫が安堵した表情で向かってくる。

 しかし、ラキラに向ける視線はひどく険しいものだった。それもそのはず。今まで、いや。これからもずっと敵であろう人間が深海棲艦を助けたのだ。警戒をしないほうがおかしいだろう。

 

「助ケテクレタコトニハ礼ヲ言ウ。ダガ解セン。貴様ノ目的ハ何ダ?ナゼ私タチヲ助ケタ?」

 

 戦艦棲姫の質問にどう応答するべきか少々困った表情で悩むラキラ。やがて一巡し終えたラキラが出した答えは───

 

「なんとなく……かな」

 

「……ナニ?」

 

 それはあまりに不純な動機であり同時に純粋な気持ちという矛盾を抱えたものであった。

 

「いやさ。他にも理由はあるんだ。だけど、なんて言うべきなのか、お前たちが助けを求めているように見えたんだよ」

 

「……フザケルナ!私タチガイツ助ケヲ求メタ、私タチヲ欺キ貶メル貴様ラ人間ガナゼ、私タチヲ助ケル必要ガアル!」

 

 火山が噴火したように激しい怒りをラキラにぶつける戦艦棲姫。それをラキラは黙って受けとめていた。

  

「そうだな……。確かにそう思うかもしれない。だけど俺が助けようと思ったのはお前が死ぬつもりでこの戦いを乗りきろうとしたからだ」

 

「ソレガドウシタ。(みな)、ソレヲワカッタ上デ戦ッテクレテイル。ソレニ応エルベク私ハ───」

 

「お前こそ何も分かってないんじゃないか。本当に仲間がそれを望んでいるのか?お前がいなくなった後、普段と変わらず生活することができると本当に思っているのか?」 

 

「クッ……」

 

 戦艦棲姫はラキラの言葉に何も返せず言葉が詰まっていた。もちろんその事は考えていた。仲間もそれを承知で後を継ごうと思っていた。しかし、いざハッキリと言われると何も返せない自分が悔しくてしょうがない。

 

「本当は分かっているんじゃないか?お前は仲間に必要とされていると。お前はただ、無責任にそれから逃げようとしてるだけだ。都合のいいようにな」

 

 自分の心の内を見透かして来るような視線に動揺をしながらも堪えるようにラキラの言葉を聞く。

 

「分カッテイル……。ダガ、コレシカ方法ガ思イツカナインダ……。モシ、仲間ガ沈メラレルト考エルト……」

 

 それは戦艦棲姫が溜め込んでいた仲間に隠していた弱音だった。ずっと一人で抱えていたそれはどんなに自分を強く見せようと無くせるものではなく、ラキラの言葉で遂に吐き出してしまった。

 いくら他の深海棲艦が強くなったとしても、自分の助けが要らなくなったとしても、いつも現実はそれを打ち壊す。

 それがどうしても怖い。自分がやって来たことは本当に正しかったのかと、自問自答を繰り返しこんなところまで来てしまった。

 だから───

 

「ダカラ、仲間ハ誰一人トシテ沈マセハシナイ。ソレガ私ガ償エル唯一ノ方法ダ」

 

 己の意志でハッキリと告げる。ラキラに何と言われようとこれはもう決めたことだ。曲げるつもりはない。

 だが───

 

「ったく。強情なやつだな。これじゃ仲間が苦労するよ」

 

『だから助けるんだろう?このお人好しが。まったく、大人しく人類に味方すれば良かったものを』

 

「そのお人好しについてきてくれたのはどこのどいつですかねー」

 

『……』

 

「だぁぁーー!怒んな怒んなって」

 

 先程までの重圧はどこへやら。ラキラはレイドと勝手に話始め戦艦棲姫たちは完全に置いてきぼりだった。

 やがて───

 

「……まぁ、お前の覚悟は分かった。だが俺は納得していない。だから、俺が納得するようにさせてもらう」

 

「何ヲスル気ダ?」

 

「こっから先は俺が引き継いでやる。お前らはさっさと撤退しな。じゃないと更に被害が増えるぞ」

 

「……ナゼダ。ナゼソコマデ私タチニ……」

 

「言っただろう。俺が納得するようにするって。お前を救って他のやつらも助ける。それが俺の納得する結果だ。そのために俺は戦う」

 

 艦娘たちの方へ体の向きを変え姿勢を低くするラキラ。それを見た艦娘たちも警戒を高めていた。

 

「イイノカ……?ソンナコトヲシテ?」

 

 戦艦棲姫は自分の声が震えていることに気づかず質問を投げかける。艦娘と戦うということは人類の敵になるということに他ならない。戦艦棲姫は、その重大さを分かっていないのかと思い投げかけた言葉だったが、それを聞いたラキラは不敵に笑い。

 

「気にするな。元々こんなことでしか生きてこれないんだ。だからここは任せてくれ」

 

 絶対の自信を込めた口調でそう断言した。

 それを聞いた戦艦棲姫は目を見開き先ほどとは打って変わって穏やかな口調で。

 

「……アリガトウ」

 

 それからの深海棲艦の行動は迅速だった。タ級を先頭に負傷している者に合わせながら撤退し、やがて艦娘たちの射程内から逃れた。

 なぜ、艦娘たちが何もしなかったのか。それは目の前のラキラの圧に押さえつけられていたからだ。少しでも動けばその瞬間に沈められる。相手の正体が分からない艦娘たちでもそれだけはすぐに分かった。

 

「できるだけ艦娘(あいつら)を傷つけず無力化したい。ブレードの出力を最低まで下げてくれ」

 

『なんだ、カッコつけといて結局どっちつかずじゃないか』

 

「いいだろ、俺は艦娘(あいつら)を沈める理由がないんだからさ。それに少し話を聞きたいからやりすぎたら意味がない」

 

『まぁいい。だが出力を下げる分、刀身も短くなるから気をつけろよ』

 

「おう。そこんところは俺のことを信じろ。伊達にお前を扱ってきたわけじゃないさ」

 

 相棒とのやり取りを艦娘に聞こえないようにし準備をする。

 それはこれから一体、何が起こるのかを表していた。

 

 

 




ええまずは投稿が遅れて本当にすみませんでした!
言い訳としては別作品「黒い鳥は海を舞う」を一気に書き進めた結果、燃え尽きたような感じになってしまいました……。
それからはチマチマと書いてはいたんですが、FGOだったりアズレンだったりのイベントや、リアルが忙しかったなどがあったのでなかなか手が付けられませんでした。

まぁ湿った話はこれで終わりとして今回はやっとラキラに戦闘させられる前まできました。
次回はNEXTとしての力を皆様にお伝えしていければと思います。また、もし誤字脱字、誤った言葉の使い方などがありましたら報告をお願いします。
読んでいただいた皆様に応えられるよう頑張っていきますのでこれからもよろしくお願いいたします。

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