首輪付きと白い閃光と停滞の異世界物語   作:紅月黒羽

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第2話 出会いそして想い

『おい起きろ!おい!』

 

 何だよ、もう少し寝させてくれよ。昨日の訓練で疲れたんだからさぁ…。どうせ今日することも移動すること以外特に無いだろう。

 てかやけに暑いな…今は夏か?太陽の日差しが強すぎて二度寝も出来そうにないな。

 

 目覚めたばかりの体をほぐすため背伸びをする。眠気が覚めていき、瞳に日光が眩しく映る。

 

 おぉ、朝日に照らされる海ってこんなに綺麗だったんだな。

 

 『あちらの世界』と違ってこっちは雲ひとつない青空が広がっている。あっちは曇ってたり、晴れてたとしてもここまで綺麗な空じゃなかったしな。

 

 と、そんなことを考えているうちにレイドが淡々と伝えてくる。

 

『この海域周辺に人型の生体反応を感知した。もしかしたらこの世界の住人に会えるかもしれないぞ?』

 

「…何?」

 

 まさか探さずにして人が見つかるとは思わなかった。しかしこんな海のど真ん中に人なんて来るのだろうか?わざわざ船でこんなところにまで?

 まぁそんなことはどうでもいい。この世界に来て初めて人に会えるんだ。この世界について色々と聴かなければならない。

 

 それに誰もいないってだけで精神的には相当辛いものがある。話し相手もいないし、作業も一人でやらなければいけないからめんどいっちゃめんどい。一応レイドがいるが、人ってのは集団の中か同じ人種を求めてるのか、一人だと寂しくなったり不安になったりするもんだ。

 

「なら行ってみるか。探す手間も省けたし」

 

『………』

 

 どうしたんだ?急にレイドが黙っちまった。さっきまで騒いでたってのに。あ、まだお前も眠かったのか。それで無理して起きたから眠気がまだ抜けてないと。

 

『何を考えているかは大体察しがつくが、違うとだけ言っておくぞ』

 

 おう、読まれてたよ。レイドと俺は今、文字通り一心同体だから考えてることがバレてしまう。全部を読まれるわけでもないが考え事をしているとき一々ツッコミをされるのは正直めんどい。

 一人で考えたくてもレイドに伝わってしまうのだからなかなか落ち着いて考えることができないし。

 

「で、どうした?急に黙って?」

 

『いや、自分で言ったことだがこの辺に人が来るのかと思ってな…』

 

「それは俺も思ったけど、船でも来てるんじゃないか?」

 

『だったら大なり小なり船影が見えてもおかしくないはずだ。それなのに全く見えないんだ、おかしいとは思わないか?』

 

 確かにレイドが言っていることは的を得ている。周りには海しかないのに何故生体反応が見つかったのか。

 一瞬魚か何かと間違えたのかと思ったがレイドはさっき『人型』と言っていた。

 

 ネクストのレーダー…というよりパーツの全ては各企業が他社より高い性能を持つものを作ろうと日夜研究に励んでいた。俺がある程度傭兵として名前が出るようになってからはいろんなパーツが企業から送られてきて一番しっくりときたものを選んでいた。もしこの世界に来てレイドのパーツがアセンブルしたままの状態だったら間違えるようなことはないだろう。

 

「結局直で確かめに行くしかないんだろう?だったらそんなことは何かあってから考えればいいじゃないか」

 

『…はぁ危機感というものがないのかお前は』

 

「それは一番お前が分かってると思うんだけど?」

 

『…否定はしないでおこう』

 

 よし、そうとなれば善は急げだ。どこかに行ってしまう前に見つけなくてはあてもなくこの広い海をさまようことになってしまう。

 

 

─────

 

 

「ここでいいのか?」

 

『あぁ、反応はこの周辺から感知した』

 

 俺たちは今海の上で立ち往生をしている。というものレーダーから送られてきた情報を頼りにここまで来たのだが船どころか人影すらない。

 まぁ、海に人影なんてあったら漂流者ってことになるんだがな。それはそれで対処に困る。

 それで前述とおり立ち往生をしていたわけだ。てかどうするんだ、これでまた振り出しに戻ったぞ。

 

「んーこの世界に来るときに故障でもしたんじゃないか?あれだけ激しい戦闘だったし」

 

『無いとは言い切れんが、システムチェックをしたときはどこもおかしなところはなかったから問題はないと思うが…』

「でも実際に来てみて何もないんだしやっぱり壊れてるんじゃないか?」

 

『うむ………ん?』

 

「どうした?」

 

『反応が増えただと…!』

 

「えっ…」

 

『2…3…4…5。一気に増えたぞ!』

 

 反射的に周囲を見回すがそれらしい影はやはりない。本格的に壊れてきたのだろうか?

 まいったな、自分の機体だから整備班の人から調整の方法とか色々と教えてもらってはいたが、ここには機材もないし、レイドの姿も変わっているので果たして修理できるのかという問題もあるしなぁ。はぁ、どうしたもんかと考えていると…

 

 

 

 

 

 ……ゴポ

 

「…何の音だ」

 

『何か聞こえたのか?』

 

「しっ」

 

 耳を澄まし意識を集中する。海の上で棒立ちをしている状態など端から見れば自殺行為だが、俺はいつでも動けるように油断なく身構えている。

 

…ゴポゴポ

 

 音がどんどん近づいてくる。聞き覚えの無いその音は俺の不安を掻き立てる。同時に本能が警鐘を鳴らす。それはいくつもの戦場を渡り歩いた末身についたものだった。

 

ゴポゴポゴポ

 

 そしてさらに音が近づいてきたと同時に気づいた。海上には何もなく、上空にも渡り鳥と思われるものしかいない。そこからたどり着く答えは…

 

「下かっ!」

 

 本能的に察知した俺はなりふり構わず上昇。直後先程まで俺が立っていた海面が膨れ上がり―爆ぜた。

巨大な水柱が立ち上がり一瞬視界が遮られるがそれもすぐに収まった。

 

「いや~危なかったな」

 

『まさか俺が気付けなかったことに反応するとはな…お前が相棒でよかったよ』

 

「はいはい、そういう話は後でな。今は『アレ』が何か分からないとどうしようもないぞ」

 

 俺の見下ろす先にあるのは魚のような形をしたものと人の形をした『なにか』だ。

 

 大きさ的には普通の魚と比べて圧倒的に大きいが、口と思わしき場所には、中から砲身のような何かが見える。さらにその目も生き物とは思えない光を放っており、一層不気味な雰囲気を醸し出している。

 

 人型の方は、体のラインだけ見れば女性に見えないこともないが、生きているのかと疑うほどに白い肌、最初から感情などなかったかのような顔立ち、何よりも頭についている謎の黒い物体。それには人の頭など優に咥えられそうなほど巨大な口、その付近から伸びる白い触手が付いており、こんなもの生まれて一度も見たことがなかった。

  

「何なんだよ一体?『アレ』が人間だっていうのか?」

 

『流石に人間ではないだろうが、友好的な存在でもないらしいな。見てみろ奴ら俺たちに向かって殺気を向けてきてるぞ』

 

 

 肌がピリピリと感じるほどその殺気は鋭かった。例えるなら自分の縄張りに入ってきた敵に対する殺意に近いだろう…多分。

 

「で、どうする?もしかしたらただ俺たちを警戒しているだけかもしれないぞ?」

 

『楽観視しすぎだ。しかしまぁ、よくそんな能天気な性格で生きてこれたな』 

 

「うるせぇ。いつもそんなピリピリしてたらこっちがもたないわ。メリハリがあるといえメリハリが」

 

 その時、海中に一際巨大な影が見えた。ゆっくりと海上に現れる姿は、まるでこの海の支配者とでもいうような、そんな風に感じるものだった。

 その姿はやはり異形と呼ぶにふさわしいものだった。人型の『なにか』は先ほどのものと似ているがその隣にいる『怪物』はあまりにも大きすぎた。異常に発達した腕、巨大な砲身が両肩にあり、人型の倍以上の身長はあると思われるそれは、忠犬のように人型の側に鎮座していた。

 

「これまた大物のご登場か」

 

『どうする、殺られる前に殺るか?』

 

「いや待て、一度コンタクトをとってみよう。それからでも間に合うはずだ」

 

『そうか、お前がそう言うなら好きにしろ』

 

 なんだ、やけに大人しく引き下がったな。もうちょっとうるさく言ってくると思っていたんだが。まぁいいか。あいつが信用してくれてるってことにしよう。

 と言っても誰に聞けばいいか…最後に浮かんできた奴に聞いてみるか。リーダーぽいし。

 

「なぁ、あんたらこの世界の住民か?ちょっと聞きたいことがあるんだが」

 

「………」

 

 無視られたよ。あれか、俺の顔がそんなに無愛想だったか。それなりには社交的な感じを出している自信はあったんだが…。てか無言の威圧ってやつかな、すげーキツイ。

 あっちは敵意丸出しなのにこっちがこんな間抜けなことを聞いてるのが気に食わなかったのだろうか。

 

「…コンナモノマデ作ッテイタトハナ」

 

 やっと喋ってくれた。しかしその口調は忌々しいものを見たような口調で、自分に言われたと理解するのに数秒かかってしまった。

 

 なんでそんな吐き捨てるようにいうかな~、困ってる人を見たら助けてくれよ。セレンも人助けはいい事だって言ってたぞ。

 

「所詮、正義ダ何ダト言ッテ自分タチノ保身シカ考エナイ屑ドモカ」

 

「えぇ…」

 

 いきなり『こんなもの』扱いされてその次は『屑』って言われたよ。泣くぞ俺?肉体的ダメージなら何とでもなるけど精神的なダメージは心にくるからやめてほしい。割と切実に。

 

「…帰レ」

 

「ん?」

 

「…帰レト言ッテイル」

 

 いや、帰るあてなんてないんですけど…。あったらこんな事聞かないし、即効で飛んでいきますけど。しかしまぁこの感じからするとあまり関わりたくないような、嫌われてるようなそんな感じがした。

 俺なんかしたっけ?縄張りを荒らしたなら謝って出て行くからとりあえず陸地の方向を教えてもらいたいもんだ。

 そんなことを考えていたので間が少し出来てしまったのだがこの沈黙がまずかったらしい。

 

「私タチヲ沈メニキタノカ…?」

 

「?」

 

「オ前エモ奴ラト同ジヨウニタダ敵トイウダケデ、戦ウ意思ノ無イモノヲ追イヤリ、沈メテイクノカ…!」

 

 瞬間、目の前の『なにか』からの殺気が一際強くなり、後ろにいた『怪物』が砲身をこちらに向ける。それに釣られて最初に出てきた奴らもこちらに各々の武装を向けてくる。

 

 どういうことだ?敵?奴ら?いまいちピンと来ない。言葉から察するに戦争かそれに近い何かがこの世界では起きているのだろう。

 しかし俺はつい先日この世界に来たばかりだ。いきなりそんなことを言われてもわからない。なので説得を試みてみようとする。

 

「帰ラナイトユウナラココデ沈ンデユケ…安心シロ楽二沈メテヤル」

 

「ちょっと待ってくれ!俺はあんたらとやりあう気はない。ただ俺は道に迷ってるだけなんだよ!」

 

 苦し紛れに出たような言葉だが嘘は言っていない。俺がどうしてこんな場所にいるのか、自分がこの世界に来る前の出来事やこの世界に来たばかりで帰るあてがないことを話した。

 

「…ソンナコトヲ信ジルトデモ?」

 

 帰ってきた反応は予想通りだった。いきなり目の前に現れた外敵が、「この世界とは違う世界から来た」なんて言ったり、「こんなにも綺麗な海はなかった」などと言っても信じてくれるわけがなかった。

 当たり前か。こんなこと言ってる自分でも信じないだろうからな多分。

 

「言イ残シタコトハソレデ全部カ?」

 

 どうやら和平は無理なようだ。こうなったら殺るしかないとこちらも身構えようとしたが───

 

『なるほど、そういうことか』

 

「?」

 

 さっきまで黙っていたレイドがいきなり喋りだした。おう、いきなり声出すのやめーや。ひびってまうやろ。ほら目の前の『なにか』も驚いて困惑してるぞ。

 しかしなにがなるほどなのか。さっきの会話で分かることなんてあったか?強いて言うなら戦争が起きてることくらいだぞ?

 

「何処カラダ?コノ声ハ?」

 

『おっとご紹介が遅れてしまって申し訳ないな、俺はお前らの目の前に居るやつの装備、お前らの所で言う『艤装』に宿っている者だ』

 

「艤装ニ?」

 

『あぁ。しかしこの世界では『艦娘』と『深海悽艦』、どちらにも艤装に宿るなんてことはないようだな。信じられないと思うがさっきいった通り俺たちは別世界から来たんだ。それで色々と聞くために人を探してたときに…』

 

「私タチニ出会ッタ…ソウイウコトカ?」

 

『話が早くて助かる』

 

 え、なに?艦娘?深海悽艦?何のこっちゃい。全く聞いたことがないぞそんな言葉。

 てかなんでお前がそんなこと知ってるんですかね?

 

「おい、どっからその情報を仕入れた?」

 

『この世界のネットワークに侵入したんだよ。そこから世界情勢を見てみたんだがお前の予想通りこの世界では戦争が起きている。といっても人間同士じゃない、『深海悽艦』といういきなり海から現れ宣戦布告してきた未知の勢力だ。それから深海悽艦はシーレーンを破壊。各国の連携を弱体化させた。しかし同時に過去の軍艦の魂と名を継いだ存在『艦娘』が現れた。それによりほとんどの兵器が効かなかった深海悽艦に対抗できる存在が生まれたわけだ』

 

「長い、三行」

 

『取り敢えず平和な世界に未知の敵対勢力登場

戦争が始まるがこちらの兵器が効かない

唯一の希望の登場、これで勝つる

以上』

 

「長かった気がするけど何となく分かったので良しとします」

 

『ったく、お前は何様だ…それと艦娘と深海悽艦に関する情報だ、一応目を通しておけ』

 

 ふむふむ、まぁ何となくは把握した。この世界で過去に起きた戦争で存在した過去の軍艦が生まれ変わった姿ね~。てか、こんな可愛い女の子が昔軍艦で、命張って戦うって世も末だな。

 てか、あれ?ネットワークに侵入した?だったら人探す必要無かったんじゃね?

 

「お前、そんなことが出来るんだったら人探す必要なかっただろ」

 

『お前が任せろって言って暇だったから色々と自分の機能を確認してたら出来たんだよ。最初から分かってたらこんな回りくどいやり方をするわけないだろ』

 

「それもそうだな…」

 

 うん、正論だからなんも言えねぇ。でもさぁ、文句の1つは言いたくなるじゃん。こんなめんどくさいことになってるんだしさぁ。

 

『知らん』

 

「ひでぇ」

 

「…話ハ終ワッタカ」

 

 あ、ごめん。除け者にしてたね。悪気はなかったんだよ?ただこいつ(レイド)がいきなり訳わかんないこと言うからなんだ。俺は戦うつもりだったんだよ、もうこれしかないって。で、始まるって時にこいつがねぇ。

 

『なに人のせいにしようとしてるんだお前は』

 

「なんのことでしょうか。俺にはさっぱり」

 

「オイ、聞イテイルノカ!」

 

 やべ、ついにキレた。またこいつが余計なことを言うから。まぁ俺にも非があるのは自覚してるけどな。にしても殺気がさっきより増してるな。これは本格的にまずいか?

 

「ソレデ?マタソンナデッチ上ゲタ事ヲ信ジルトデモ?」

 

「ほらやっぱりな。結局殺るしかないだろう?」

 

『それはどうだろうな?』

 

 この期に及んでまだ何か言うつもりか…何でそんなにペラペラ喋れるんだろうね。俺がコミュ障なだけか?機械に負けるとか…それも殺しの道具にしか使われてない最強の兵器に。

 

 うわっ…俺のコミュ力、低すぎ…?

 

(馬鹿なことは後で考えてろ、いいな?)

 

(アッハイ)

 

 

「ドウイウコトダ?」

 

『お前らが艦娘と敵対していることはお前の感情や言葉から見ても明らかだ』

 

「ソウダ貴様ラハ―「だが問題はそこじゃない」

 

『問題は、何故俺らをすぐに攻撃しなかったのか、ということだ』

 

「…」

『そんなに憎いならすぐさま攻撃すればいいだろうに。それにお前は『帰れ』といった。つまり戦えない理由があるということ違うか?』

 

 おぉ、何か名推理をしてる探偵みたいな流れになってる。こいつこんなに頭回るんだな~。戦闘以外できないと思ってたんだが。

 にしても言われてみれば確かにって思うシーンが何回もあったな。あんなに殺気を向けてたのに攻撃してきたのは最初の何かの爆発くらいだしな。

 

「それにお前はこうも言っていた『戦う意思のないもの』と。それは自分たちのことじゃなかったのか?」

 

「ッ!」

 

「多方何度も繰り広げられる戦争が嫌になったか、静かに暮らしたくなったんじゃないか?」

 

 目の前の深海悽艦―《戦艦棲姫》はレイドの言葉に所々反応しているが今は黙って聞いている。後ろにいる奴らもそれに従ってか黙って聞いている。

 組織としては整っているのかもしれないが、それでも全部の個体をまとめるのは難しいのだろうか。何体かは困ったように視線をさまよわせている。

 

「だから誰も傷つかないように帰ることをうなが「ソレ以上ハ言ワナクテイイ…」

 

「…オマエノ言ッタ通リダ。私タチハ戦ウコトガ苦手ダッタ。戦ウタメニ生マレタ存在ダトイウノニナ」

 

 自らを自嘲するように言葉を並べていく戦艦棲姫。しかしその表情は言葉とは裏腹に後悔など無いような清々しい顔に見えた。

 

「最初ノ頃ハ私モコノ戦争ニ参加シテイタ。シカシ戦ウ内ニ思ッテキタ事ガアッタ。コノ戦争ニ意味ハ有ルノカト?。

私ハタダ仲間ト静カニ暮ラシテイケレバソレデ良カッタ。ダカラ本隊カラ離レ、同ジ考エヲモッタ仲間ト共ニコノ海域ニ移リ住ンデイタ」

 

「…」

 

『…』

 

「ダカラ私ハコノ子達ヲ守ル義務ガアル。ソノ為ナラ自分ガ沈ムトシテモ私ハソレヲタメラワナイ。ダカラココデ貴様ラヲ沈メルッ!」

 

 あっ、そういえば戦う直前にこいつが割り込んできてたからそういう流れだったのすっかり忘れてた…

 てかさっきから何回も言ってるんだけど全然聞く耳を持ってくれないな、コミュ症の俺にはキツイ仕事だったようだ…

 

「だーかーらー!俺は艦娘じゃないって言ってるだろ!それに艦娘は皆女の子だろ?だったらどう見ても男の俺が艦娘だってのはおかしいだろ!?」

 

「確カニ艦娘ハ女ダ。シカシ人間ガ艦娘トハ違ウ、我々二対抗デキル兵器ヲ作ッテイタラ?」

 

「…」

 

 俺は何も言い返すことができなかった。いくら俺が弁明したところで敵である人間の言葉など、真面目に受ける奴なんて居ないだろう。そんなことをして後ろからやられれば笑い話にもならない。

 故にこの深海棲艦の言っていることは正しい。仲間を守りたいなら尚更慎重にならなければ取り返しのつかないことになってしまう。

 

「無駄話モココマデダ。貴様ラヲ海ノ底へ―」

 

 戦艦棲姫の言葉はそこで途切れた。何故なら―

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

戦艦棲姫の傍にいた帽子のような何かをかぶってる人型―《ヲ級》がいきなり爆発したからだ。

 

「「!?」」

 

 俺も含め誰もが唖然としている中爆発をしたヲ級は、衝撃で倒れていた。

 

「大丈夫カッ!?ヲ級!」

 

「マダ…ダイ…ジョウブ」

 

 ヲ級は、頭の艤装と思われるものから火を出しながら苦痛に耐えているようだった。艤装は跡形もないくらいに破壊され、血も流れている。よく沈まずにいられたと思うほどだ。

 

 「ッ!全艦回避!」

 

 続けざまに海面で巨大な水柱が立ち、深海棲艦たちにさらなる混乱が生まれる。リーダーが混乱している者たちを指揮している状況を見てようやく俺はこれが『戦闘』だということに気づいた。

 

「いきなりかよっ!ったくどうしろってんだ一体!」

 

『落ち着け、昨日やったことを思い出せ。こういう時に焦ったらそれこそどうしようもなくなるぞ』

 

 俺とは対照的に落ち着いているレイドの言葉を聞いてようやく落ち着いてきた。しかしその間にも眼下で繰り広げられる『戦闘』は続いていた。

 

 深海棲艦たちは態勢を立て直し、反撃に出ていた。しかしその動きはとても満足に動けているようには見えず近くに砲撃が飛んでくるたびその動きは止まっていた。

 さらに独特のプロペラ音と共に近づいてきたのは見たこともない機体だった。大きさは何かの模型と見間違うほどの大きさだ。しかしその下に抱えている魚雷や爆弾を見て兵器だということに気付く。

 

「チィッ!忌々シイ艦娘ドモガッ!」

 

 対空迎撃が行われるが思うように命中せず落とせたのは4分の1程度だ。迎撃をくぐり抜けた機体は目の前の深海棲艦に目掛けそれぞれの獲物を落とす。

 それがまた混乱を生み、陣形が崩れる。そしてそれに連鎖するように被害が増えていく。

 

「これがこの世界の戦闘…」

 

『そうだ。人類と深海棲艦。両方の存続をかけた戦い。これがこの世界の戦闘だ』

 

 俺はいくつもの戦いを経験し、見てきたというのに目の前で行われている戦闘に目を奪われ同時に何とも言えない気持ちになっていた。ネクスト同士の戦いとは比べ物にならないほど貧弱で、到底及ばないはずなのにずっと目を奪われたままだ。

 

 俺は咄嗟に動くことができなかった。この状況だけ見れば深海棲艦側を助けても問題はない。しかしそれはあくまで今の状況だ。アイツ等は人類の敵で今も戦争を続けている。そんな相手を助けてしまったら俺は人類の敵になってしまう。人類からも深海棲艦からも狙われる身に。

 

 その場の勢いで助けに行くのは簡単だ。しかしそのあとは一体どうする?確かに艦娘たちは不意打ちとも言える行為を行ってきた。少なからず俺はそれに対して不快な気持ちが表れた。でもそれは数で劣る自分たちが勝つために選んだ方法だ。ましてや今は戦争中。卑怯やなんだと言われても結局は勝たなくてはいけない。人類はそうして今まで生きてきたのだろう。

 

 もしかしたらあの深海棲艦はそんな人間のやり方に耐え切れなくなってきたのではないだろうか?それで離れて暮らしてたってのに望んでもいない戦争がまた始まってしまった。今もアイツは仲間を守るために必死に戦っている。自分にどれだけの被害が出ようと仲間を守るために一歩も引いていない。どれだけ傷つこうと歯を食いしばって必死に耐えている。

 

 アイツはなんて言った?たとえ自分が沈むとしても仲間が守れるならためらわないと言った。しかしそれではダメだ。少なくともその周りにいた深海棲艦たちはアイツを必要としている。ならばアイツはそのために生きなければならない。それがリーダーとしてのアイツの役目だ。

 

 それに、大切な仲間が死んだら残ったやつらはどうするんだよ…。お前がいたから皆生きてこれたんじゃないのか、お前のその強い思いに皆が答えようとしたんじゃないのか。

 ならアイツを死なせてはいけない。アイツが死んじまったら必死に頑張ってきたことが全て無駄になってしまう。それだけはダメだ絶対に。

 

それに…

 

 

 

 

 

 

 

 

大切な存在が遠くに行っちまうのは寂しいからな…

 

『お前…』

 

「正直まだ迷ってる部分はある。殺しをしてきた俺がこんな自己満足な事をしてもいいのかって思ってもいる。だけど俺は…」

 

『いいじゃないかそれで』

 

「え…」

 

てっきり反対されるのかと思っていた俺はレイドの即答に面食らってしまった。レイドには何の利益もないことは分かっている筈なのに、どうしてそこまではっきりと言い切れたのか俺には分からなかった。

 

『別に殺しをしてきたからって人を助けることなんてって、考えるのはおかしいだろ?前の世界でもその殺しをしたことで結果、人助けをしていたことには変わらないんだからな。それに─』

 

少し間をおいてから聞こえてきた声は、母親が子供を優しく包むようなそんな柔らかい声が聞こえてきた。

 

『セレンも言ってただろう。お前が道を選べって。俺もセレンと同じようにお前についていくさ』

 

「そうか…ありがとう」

 

まったく、本当に俺は最高の相棒を持ったよ…。

 

「つくづく思い知らされるな。俺がどれだけお前に助けられてきたのか」

 

 あの世界で俺はいつも無茶ばかりしてきた。時にはAPが0になりかけた時だってあった。時には腕や足が破損してしまった時もあった。でもあの時の俺は目の前のことしか見えていなかった。生きるため。戦うため。セレンのため。そんなことしか考えていなかった。

 でもやっと分かった。お前がどれだけ頑張ってきてくれたか。俺の我が儘に付き合ってきてくれたのかが。

 

 お前はいつも文句一つ言わずいつも俺の傍にいてくれた。兵器だから言葉なんて話すはずがない。そんなことは分かっている。でもこいつは、いつも俺の全力に答えてくれた。それこそ機体のトラブルが起きてもおかしくないほどに使っても。いつも万全の状態でいてくれた。

 兵器にだって魂は宿る。誰だってそんなことは分からないだろう。でも俺は気づくことができたんだ。こいつが見守ってくれてたことに。俺がこいつにどれだけ支えられていたのかも。

 

「なら、答えてみせるさ…」

 

 世界が変わったって俺のやることは変わらない。戦うことしか能がないんだ、それ以外に何ができるという。せめてセレンにもう一度会えた時に自信を持って言えるような生き方をしよう。

 

 

 

 

 

 

「お前の我が儘に!」

 

それが俺にできることだ。

 




亀投稿すぎて本当にすみません。色々と忙しかったので書く時間が中々とれませんでした。

書くことは頭のなかで大体決まっていてもいざ書き始めると中々うまくいかないのがもどかしいです…

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