首輪付きと白い閃光と停滞の異世界物語   作:紅月黒羽

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いつの間にか1ヶ月経っていました…


第1話 相棒との訓練

「ここはどこだ?」

 

ラキラが目覚めたのは浜辺だった。島には人の気配もなく、林があるくらいだ。辺りには何もなく何処までも広い海が見える。

 

「俺は死ななかったのか…」

 

脳が上手く働かず記憶が曖昧な状態なラキラ。無理もないあれだけの戦闘だったのだ。多少なりとも体に負荷は掛かっているはずだ。

 

『それは違うな』

 

「!?」

 

突如聞こえてきた男の声。しかしここにはラキラ意外の人影は見えない。気のせいかと思っていたが、次の一声で衝撃を受ける。

 

『おいおい自分の姿を見てみろよ』

 

鏡なんて持っているはずがないので海を覗き自分の姿を確認する。

 

「なんだ、これ…」

 

顔立ちや見た目はそのままだったが、その身には見慣れないものが装着されていた。体の所々に黒く鋭く尖っている機械的な物だが、一見するとAALIYAHのパーツに見えなくもない。

 

「なんなんだよこれ?」

 

『おいおい自分の愛機さえ分からなくなったのかよ?』

 

「何言ってるんだ?それにこれは一体…?」

 

『分かった、順を追って説明しよう』

 

言われたことが理解できず混乱するラキラ。一度整理してから会話を再開した。

 

「まずお前は誰だ?」

 

『だからお前の愛機…ストレイドだよ。レイドで呼んでくれ。じゃないと長いから』

 

「分かった。そんで…俺は死んだのか?」

 

『あぁ、確かに死んだ。だからここにいる』

 

信じたくはないがなんとなくは分かっていた答えが帰ってきた。しかし聞くことはまだあった。

 

「…次の質問だ。ここは何処だ?」

 

『お前のいた世界とは別な世界だ』

 

恐らくこの時のラキラの顔は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていただろう。自分に言われた言葉の意味を理解していなかった。

 

(ふざけているのか…)

 

『俺は至って真面目だぜ?』

 

どうやらこちらの思考が相手にも伝わっているらしい。

 

『そもそも考えてみろよ。お前のいた世界はこんな海や空だったか?』

 

「………」

 

落ち着いて辺りを見渡せば暖かい太陽の日差しに照らされ海が輝いて見え、空は綺麗な青が視界一面に広がっている。あの世界はコジマ汚染により海や空が汚染されていた。高空域なら汚染はされてはいなかったが時間の問題だっただろう。

 

「異世界何て夢物語かと思ってたんだけどな…」

 

『でも実際に起きている。認めるしかないだろうよ』

 

「まてよ、俺とお前は繋がってるわけだよな?ネクストとしては動けるのか?」

 

『勿論動ける。しかもコジマ粒子が無くても動けるようになっている』

 

「マジか!でも何でだろうな?」

 

『こちらの世界に適応したんじゃないか?あんな汚染物質こちらの世界に持ってくるわけにもいかないだろうし。無いなら無いで良いじゃねぇか、お前の体への負担が無くなるんだか ら』

 

そんなものかと考えていると腹の虫が盛大な音で鳴った。

 

「まずはこっちを何とかするか」

 

この世界には魚はいるのだろうか?あちらの世界では水が汚染されろくに生物も生存出来るようなものではなかった。

 

『うん?腹が減ったならこれでも食っとけ』

 

そう言うなりいきなりレイドが光ったと思ったらラキラの目の前にスティック型の栄養食が置かれる。

 

「おお、随分便利だな」

 

『これぐらいしか出せないけどな』

 

「しかしあっちでこれと似たようなの食ったことはあるけどあんまし旨く無かった気がするな…」

 

『要らないなら下げるぞ?』

 

「まてまて!食べるから!下げないでくださいお願いします!」

 

『お、おう』

 

余りの必死な懇願に驚いたレイド。空腹には滅法弱いラキラだったからこその反応だったが余程耐え難いことなのだろう。

 

「んじゃ、いただきます」

 

袋を開け一かじりしてみる。

 

「地味に旨いなこれ」

 

程よいチョコ味が付いていて飽きることのなく食べることが出来た。

 

 

───────

 

 

「取り敢えずこれからどうするか」

 

空腹も満たされこれからを考えていくラキラ。しかし宛など何処にもない。完全な孤立状態だ。

 

『移動してみるしかないんじゃないか?』

 

「といっても現在地も分からないし…」

 

妥当と言えば妥当だが方角すら分からない状態で目的地もな歩くのはキツイ。

 

『ちょっと待て、ここはハワイらしいな』

 

ピピッと機械音を鳴らしながら現在地を答えるレイド。

 

「ハワイって何十年も前にあった場所じゃなかったっけ」

 

セレンから聞いたことがあった記憶を頼りに思い出そうとするラキラ。

 

『それはそうだが、どうする?』

 

「取り敢えず動くしかないだろうな。ついでにお前の動きも確認したいし」

 

この世界のことはなにも分からない。少しでも情報が欲しいなら動くしかないだろう。それで誰かに出会えれば良い方だ。

 

『了解した』

 

ラキラは立ち上がり海の方へ歩いていった。

 

「いつも通りにすれば動くんだな?」

 

『あぁ、それで問題ない。水に入ろうとすればオートブーストが発動するから心配するな』

 

あちらの世界と変わらないなら何も問題はないと考えていたがそうはいかなかった。

 

「よし、じゃ行くか!」

 

意気揚々と海に入っていったラキラだったがバランスがとれず盛大にコケてしまった。

 

 

───────

 

 

「おい、いつも通りでいいんじゃなかったのか…」

 

『おかしいな…こんなはずじゃなかったんだが』

 

そのせいで俺はがっつし水に濡れたわけだが、どうしてくれるんだ。

 

『仕方ない、海上を移動するための訓練でもするか』

 

「マジかよ…だるいわ。てかお前の方でジェネレーター動かせるんじゃねぇの?」

 

『確かにジェネレーターを動かすことはできるが問題はお前が移動できる姿勢でいられるかどうかだ。要するに体幹の問題だ。どうせコレといってやることもないだろう?それにいざというときの為にこういう基本行動は出来るようにしておいて損はない』

 

真面目な答えが帰って来て驚いたわ。まぁ実際そうだしやっといた方がいいか

 

『やる気になったようでなによりだ』

 

それから訓練をしたが立つことさえ時間がかかったのは言うまでもないだろう。

 

 

─────

 

 

「はぁ、はぁ」

 

『良く頑張ったな。飲み込みが結構早いじゃないか、やっば若いからか?』

 

「なにじじくさいこと言ってんだよ。俺はただセレンに鍛えられただけだ」

 

実際セレンの訓練はキツかった。俺は生身での訓練なんてほとんど意味がないと思っていた。それはネクストで全てが片付くからだ。いくら体を鍛えてもAMS適性が上がる訳でもないし、体が負荷に強くなるわけではない。体力が付くというメリットはあるが。

 

「ったく、姿勢をとるだけでこんなに掛かるとは…」

 

『良いじゃないか、リンクスになったばかりの時を思い出すな。あの時はまだろくに動かせてなかったのにな』

 

「くっ…嫌なところを突いてくるなお前は」

 

あぁ、セレンのスパルタ教育(物理)を思い出した…毎日毎日しごかれて死ぬかと思ったわ。

 

『乗るたびにゲッソリしてたからなお前』

 

「マジでキツかったわ。あんなん人にやらせるべきもんじゃないだろ」

 

そんで本当に辛い時は優しくしてやる気を出させるとか飴と鞭の使い方が超上手かったからな。

 

『それでもやってたお前も大概だがな』

 

「あの世界で生き残るにはそれしかなかったんだから仕方ないだろ。それに俺はセレンの役に立ちたかったんだ」

 

セレンには小さい頃から育てられた。なんの繋がりもない俺を優しく実の子のように。それに少しでも恩返しが出来れば良かったんだが…結局この様だからな、とんだ親不孝だよ。

 

『…マザコンかよ』

 

「何か言ったか?」

 

『別に』

 

まぁ本人が言ってないんなら何も言ってないんだろう。

 

「じゃ、次はやっと海上移動の練習か」

 

『そうだな。一応言っとくがいきなり吹っ飛ばす様なことはするなよ?海面にヘッドスライディングしたくなかったらな』

 

ご忠告ありがとよ。さすがに俺もそこまでバカじゃないとは思うんだが。

 

「といってもほとんどお前が操作出来るんだからお前の方で調整すれば良いんじゃないか?」

 

『通常時はそれでもいいが戦闘中なら俺がいちいちお前の状況を判断して調整するより、お前から直接伝えてくれた方が早い』

 

「そんなもんかねぇ」

 

『それに俺が調整するといってもさっきの姿勢に力が加わる訳だからそのまんまの姿勢だとコケるぞ』

 

これまた時間が掛かりそうだ。しかし周りには海しかないのでこれが出来なければ話にならない。

 

『やった分だけ結果が付いてくる。当然だろ?』

 

「正論だな」

 

ネクストの実戦でもそうだった。AMSの差は変えられなくても何度も戦場を渡り歩けば自ずと技術が身に付いていた。

 

「っしゃ!やってやるぜ!」

 

さっきのような失敗は繰り返さないようにしないとな。

 

そんなラキラの小さな誓いも顔面を海に打ち付けた音によってかき消された。

 

 

─────

 

 

「提督、敵艦隊を撃破したぞ。こちらの損害は、金剛、熊野が小破、最上、瑞鶴、加賀そして私は無傷だ」

 

凛とした瞳に艶やかな黒髪をした女性─長門が先程の戦闘での被害を報告する。彼女達はこの海域周辺で深海悽艦の目撃が相次いでいたので出撃していた。

 

『うーん…金剛、熊野はまだ行けるか?』

 

不安が混じった声で訪ねるのは恐らく男性の提督だろう。長門は二人に問いかける。

 

「この程度の傷どうってことないネー!」

 

「まだまだ行けますわよ」

 

「だそうだが?」

 

そんな二人の声を聞いて安心したのか幾分か和らいだ声で提督は伝える。もともと練度が高い彼女たちならこの程度の敵は問題ではない。提督の心配性といっておこう。

 

『なら進撃してくれ。金剛と熊野はくれぐれも無茶をしないように』

 

「あぁ、二人にもちゃんと言っておく」

 

といっても素直に聞くような二人じゃないだろうと思っている長門だったが言わないでおいた。

 

『それじゃ気をつけて』

 

 

───────

 

「………」

 

いてぇ、顔面から行った…何でだ何でこうも上手くいかない…

 

『おーい生きてるか?』

 

海の中ってこんなに綺麗だったのか。おぉすげぇ色の魚が居たぞ。

 

「ブクブクブク」

 

やべ、息が出来ない。海の上だから手で起き上がることも出来ないしレイド何とかしてくれ。

 

『横に寝返りすればいいじゃねぇか』

 

それもそうかと思いよっこらせと寝返りを打つ。

 

『そういう頭の判断は遅いな』

 

「うるさいな、生身の状態で状態で海なんて来たことないしずっとネクストに乗ってたから感覚が分かんないんだよ」

 

『そこが問題なんだ。お前は俺に頼り過ぎだ。あっちの世界では確かにお前は強かったがこっちの世界とは勝手が違う。そこを理解しないと死ぬぞ?』

 

『死』、という言葉が俺に重くのし掛かった。あまり気にしていなかったが、俺はホワイト・グリントと戦って敗れた。あの時は戦いに夢中になっていたが、一度『死』を経験してから分かった。やり直しなんてきかない、一度死んだらもう会えない。そんな当たり前のことが俺には堪えた。

 

「修正が必要だな」

 

俺に必要なのは今の自分を見直すこととそれをどうするかという事だ。初心を忘れないとはよく言ったものだ。

 

『分かっているならそれでいい。俺もお前に死なれちゃ困るからな』

 

心配するところはそこなのかと少し複雑な気分だった。。相棒なんだがらもう少しくらい気遣ってくれても良いんじゃないか?

 

「さぁ続けるか。まだまだやることはあるしな」

 

気合いを入れ直し再び訓練に戻ろうとする。もう俺は死ねない。その為には少しでも動きに慣れる必要がある。ならやることは決まっていた。

 

『それじゃ少しずつ出力上げていくから上手く体勢を取れよ。緩い訓練じゃ遅いんだ、これくらいは着いてきてくれなきゃこまる』

 

「俺を誰だと思ってる?」

 

『…愚問だったか』

 

なんとなくだがレイドと意思疏通が出来た気がして少し嬉しい気分だった。

 

『なら早速入るぞ。基礎の事だがいつもはコックピットに入っているから分かりにくいが高速で移動するということは空気の抵抗を大きく受けるということだ。俺は(ネクスト)そんなもん関係無いように動いているがそれでも多少は受けている。それをお前自身で流さなきゃならない。体を縮めて受ける空気の面積を減らすことも出来るが戦闘中にそんなことはしていられない、だからお前がいかに流れを読むかだ』

 

つまり体を上手く使って何とかしろってことか。生身での戦闘なんて銃を射ったくらいしかないからな。体術なら幾らか出来るが使えるときが来るのかどうか…

 

「俺なりにやってみるから取り敢えず動かしてみてくれ」

 

『分かった。お前がやるって言うならいくらでも付き合ってやる』

 

レイドは中々の熱血系なのだろうか?何にしても俺の相棒(レイド)は良い奴だった。

 

 

─────

 

 

「ふぅ、こんなもんか」

 

『それなりには慣れてきたようだな』

 

あれだけ失敗をしたのだ、上達するのも当たり前だ。心構えが変わったからという理由もあるかもしれないが。

 

「それでもまだまだあっちと比べると遅いけどな。お前の性能を引き出せれば良いんだけど上手くいかないなー」

 

さっきよりかは格段に移動速度は上がっているがそれでもあちらと比べるとまだ遅い。

 

「お前ってあっちと同じくらいの速さ出んの?」

 

『出来なくはないがお前がそれに着いてこれるかは知らないからな?』

 

おぉ、やっぱり優秀だったよ俺の相棒は。その分俺は劣っているように感じるが…

 

「何で俺の問題になるんだ?」

 

『あの速さでQBをした時Gが掛かるのは分かるな?前は機体がお前を守っていたが今はほとんど生身だ。所々俺の装甲が付いているが全部はカバーしきれない。それにまだ全力を出す必要もないだろう』

 

言われてみれば確かに。あれは中々キツかった。セレンからの教えがなかったらどうなっていたか…それに焦って怪我をしたら元も子もないもんな。

 

『まぁいい。今日はここまでにするか』

 

気がつけば太陽が海の向こうに沈んでいくところだった。海が日光を反射して輝いている。あっちの海も昔は綺麗だったのだろうか?

 

「俺はまだいけるぞ?」

 

『焦るな。夜になったら視界が悪くなる。まだこの世界がどういうものか、何がいるのか分からないのに暗闇を歩くのはリスクが高い』

 

「お前にはレーダー付いてるだろう?ならそれで察知すれば良いじゃないか?」

 

『さっき言ったことを忘れたか?いくら事前に察知出来てもお前が反応できなければ意味がない。それに俺にばっか頼るなとも言っただろう』

 

それもそうだった。先程自分の事を見つめ直したというのにもう忘れていたとは。自分で自分が情けなくなってくる。

 

『今日はもう休め。それなりのことはやったんだ今は体を休めて明日に備えろ』

 

「あぁ、そうするよ」

 

島に戻り砂場で横になるラキラ。疲れが出てきたのか眠るのにそう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 




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