首輪付きと白い閃光と停滞の異世界物語   作:紅月黒羽

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初めての書き方なので足らない点があるかもしれませんがそのときはご報告を頂けると幸いです。


第0話 夕暮れのラインアーク

そこは水上に浮かぶ巨大な橋とも言うべき場所だった。幾つもの道路が敷かれ水没したビルが建っている場所に二つの影があった。一つは最近頭角を現している傭兵─ラキラ。ネクストは漆黒の機体ストレイド。 そしてカラードランク1─オッツダルヴァ。搭乗機体はステイシス。この二人はこの場所─《ラインアーク》で目標を待っていた。

そして………

 

フオォォォォン

 

OB(オーバードブースト)で上空から舞い降りて来たのは純白の輝きを持つ機体─ホワイト・グリント。ラインアークに所属しているネクスト、そしてそのリンクスは伝説と呼ばれたアナトリアの傭兵だった。

 

『こちら、ホワイト・グリント。オペレーターです。貴方達は、ラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ実力で排除します』

 

「フン、フィオナ・イェルネフェルトか。アナトリア失陥の元凶が、何を偉そうに」

 

通信機越しから聞こえてくる僚機の声。その声には嘲りや皮肉が混じっていた。俺たちは企業から依頼されたミッション─【ホワイト・グリント撃破】を果たすためにここにいる。

 

『…どうしても、戦うしかないのですね』

 

悲痛な声で呟くフィオナ。そんな声など聞こえなかったようにステイシス(僚機)はOBで一気に加速していく。俺も自分の役目を果たすためホワイト・グリントに近づく。

 

オッツダルヴァはカラードランク1に君臨している。それはつまり、ランクだけ見るとオッツダルヴァこそカラードに所属しているリンクスの中で最強ということになる。実際俺がまだリンクスになったばかりのとき僚機としてミッションで出撃したときも、機体性能を活かしながらQB(クイックブースト)で敵を翻弄し、正確な射撃で敵を撃ち抜いていた。敵も反撃をしようとしても、速すぎて照準が追い付けていなかった。それほどのリンクスだというのに今回のミッションでは二人がかりでやれというのだ。

 

相手はカラードランク9のリンクス。ランクだけを見ればランク3の俺やオッツダルヴァと比べれば低い。しかしランクだけで判断をするのは素人がすることだ。彼はリンクス戦争を生き残り、その後数々の戦績を残してきたいわば英雄だ。それに企業に敵対しているラインアークがなぜここまで生き残っているのかはホワイト・グリントが証明している。つまり企業の連中も中々手が出せないほど強い、ということだ。

 

(やれるのか…俺に…)

 

戦いの場で迷ったり恐怖心を植え付けられたものは役に立たない。それを分かっていながらも、俺は不安にならずにはいられなかった。

 

『どうした、今頃になって怖じ気づいたか?』

 

そういって声をかけてくるのは俺のオペレーターのセレンだった。彼女は俺の面倒をよく見ていてくれた。ネクストのことに関しても俺の師匠でもある。長年付き合っているせいか俺の緊張を感じたのかもしれない。

 

『いいか、お前の持てる力を全て出しきって戦え。大丈夫だ、お前なら勝てる。私が育てたのだからな』

 

そんな確証もない励ましだったが俺の不安を払うのには充分すぎるくらいだった。

 

「ああ、勝ってくるよ、セレン」

 

全くこれほど頼りになるオペレーターがいるだろうか。

彼女がいたからここまでこれた。だったら自分は彼女の期待に応えよう。それが自分に出来ることなのだから。

 

そして最強最悪の兵器(ネクスト)同士の戦いが始まった。

 

──────

 

ストレイドの装備はマシンガン(03ーMOTORCOBRA)ブレード(02ーDRAGONSLAYER)散布型ミサイル(MP-O200I)プラズマキャノン(TRESOR)という、近中距離戦向け中量二脚型の機体だ。対するホワイト・グリントも中量二脚で右腕にライフル(051ANNR)、左腕にアサルトライフル(063ANAR)、両肩にミサイル(SALIN05)という具合だ。近つけば簡単と思うかもしれないが、その近づくのが難しいのだ。ホワイト・グリントは並のリンクスでは扱えない二段QBをしてくるのだ。二段QBとは通常のQBと比べると数倍の出力でブーストすることができる。しかも途切れることのなく続けるのだからどうしても、距離が空いてしまい相手の距離に持ち込まれる。そしてそれを扱うリンクスの腕も並のものではないだろう。ENの管理、敵の位置状況それらを全て把握しきっているのだからこれほどの動きが出来るのだろうと。

 

(確かに速い…だが!)

 

ラキラも負けじと二段QBでホワイト・グリントに近づきブレードを振るう。惜しくも浅くしか入らなかったがこちらのペースに持ち込むには充分だった。

アサルトライフルとミサイルで弾幕を張り、相手のPA(プライマルアーマー)を削り、ブレードでの一撃を狙う。相手がストレイドから離れようとすればステイシスからの援護で動きを封じる。しかしホワイト・グリントもただではやられない。隙を見てはライフルのトリガーを引き、ミサイルで離れさせる。この多弾頭ミサイルも厄介だ。八発の追尾ミサイルは、速度、威力、追尾性能、何れも高性能だった。

 

『ステイシスから熱源感知!PMミサイルよ、気をつけて!』

 

ステイシスは本来の用途とは違うアセンブルだった。その機体は近距離向きの機体だというのにオッツダルヴァは中距離射撃戦向けにしていた。しかしそれが今回はストレイドと相性が良かったのだろう。お互い近距離と中距離を分けて戦い、ホワイト・グリントを押していく。

 

『いいぞ、その調子だ。相手の距離に持ち込ませるな!そうなれば勝ち目がなくなるぞ!』

 

セレンからの通信もラキラは理解していたが、今の戦況は膠着状態と言えるだろう。照準をあわせられないようQBで避け、APを削ろうとトリガーを引くがどちらも当たらない。当たったとしてもPAに防がれて大したダメージにならない。大威力な一撃か継続的に攻撃しなければプライマルアーマーは壊れない。たとえ壊れとしても一気に決めなければ回復してしまう。

だから必死に食らいつく為に二段QBを躊躇いなく使う。AMSから流れ込んでくる情報が脳の中で暴れまわるが構っていられない。何故なら

 

 

 

 

 

「ああ、この感じだ…この高揚感!俺には戦いが必要だ!」

 

ラキラは楽しんでいた。別にラキラは人殺しが好きなわけではない。ただ純粋に楽しいと思っているのだ。それは子供が遊んでいるときと同じように。被弾すれば一気にやられる。しかしどちらも避ける。海上で、白と黒が舞う。一手一手先を読みながら命の駆け引きをする。それがラキラにとって最高の喜びだった。互いに全力を出しあい、戦う。こちらの攻撃が通ったかと思えば思いもよらぬ動きをして避ける。そうして反撃してくる相手をこちらも受け流す。次にどんな手で攻めてくるかわからない。そんな戦場でしか味わえない気分をラキラは楽しんでいたのだ。

 

『まったく、こんなときだというのにお前は…』

 

セレンが呆れてため息をついていたがラキラには聞こえていなかった。セレンからすれば回りが見えなくなってつまらないへまをするのではないかと内心ハラハラしていたが、むしろラキラの動きは洗練されていた。

あらゆる方向からの攻撃を全て捌ききっている。

二段QBによる高速戦闘をしているというのに最小限の弾薬でミサイルを撃ち落とし弾幕をかわす。

 

『なんて動きなの…』

 

いくら傭兵のAMS適性か低いといえど、今まで戦ってきた猛者達との激闘で得た戦闘経験は並みではない。それは適性などでどうにかなるものではなく、傭兵自身が作り上げたものだ。だというのに目の前の新人(ルーキー)は傭兵と互角以上に戦っている。数の差があるとはいえ殆どストレイドがホワイト・グリントを押さえ込んでいる。ストレイドから少しでも意識を外せば一瞬にして沈められる。そんな予感が傭兵にはあった。しかし意識を向けすぎると今度はステイシスの攻撃が飛んでくる。まるでストレイドがホワイト・グリントをステイシスの撃ちやすい場所へ誘導しているように見える。

 

──────

 

「あのときとは比べ物にならなくなったな、君は」

 

オッツダルヴァが初めてラキラとあったのはミッションの僚機としてだ。新人リンクスのお守りをするなどあまり趣味ではなかったが、楽に報酬が貰えるならいいかと思っていた。しかし、リンクスになったばかりだというのにラキラの動きは圧巻だった。まだおぼつかないような動きはしていたがそれを差し引いても充分な強さだった。そのときから少なからずオッツダルヴァはラキラに興味を持ち始めた。オーメルが企画したパーティーに彼が来ると聞いたときは迷わず自分も出席した。オッツダルヴァはあまりパーティー等には出ないのだが珍しく来るということで上層部も困惑していた。

あまり人付き合いには馴れておらず自分の性格も合わさり、友人と呼べるのは数人くらいしかいなかったが、ラキラには自分から声を掛けに行こうと思った。しかし名前が分かっても顔が分からなければ声も掛けられない。そんなことを考えていたら、

 

「やめてくれ、セレン。子供じゃないんだからさ」

 

「おいおい、その年にマナーのひとつやふたつ出来ずに何が子供じゃないだ、なぁラキラ?」

 

「うっ…」

 

「だいたいお前は………」

 

まるで親子だなと思いながらも目的の人物が見つかったので声を掛けに行く。

 

「話の途中すまない、いきなりだが君がラキラか?」

 

「あ、あぁそうだけど貴方は?」

 

ラキラの方はまだ自分のことを分かってはいなかったようだが、「どっかで聞いたような気がするんだけど…」

と呟いていたので忘れたわけではないのだろう。

 

「お前は…」

 

「久しぶりだな、霞スミカ。いまではセレン・ヘイズだったか」

 

「セレン、知り合いだったのか?」

 

「知り合いも何もお前も知ってるやつだよ。会ったことは今回が初めてだがな、オッツダルヴァ」

 

「あの天才のか?」

 

「そうだ…それでその天才がなんのようだ?前のミッションの皮肉でも言いに来たか?」

 

随分な言われようだったが、実際自分は毒舌家で上から目線な言動が多いのは自覚しているので気にはしない。

 

 

「いや、そういうわけではない。彼に興味を持った。それだけだ」

 

「ほぉう、一体どういう風のふき回しだ?お前が他人に興味を持つなど以外だな」

 

「彼はリンクスになってから日が浅い。それでもあれだけの動きをしてみせた。そんなリンクスがどんな人物なのか確認したかったのさ」

 

セレンが探るようにこちらを見ていたが、他意はないと思ったのか視線を上げる。

 

「ふん、何を企んでいるかは知らんが一応こいつを認めたことには感謝してやるさ」

 

「そうしてくれると助かる。君もこれから頑張ってくれ。敵としては戦いたくはないがね」

 

「あぁ、こちらこそよろしくな」

 

初めて見た印象は正直言って子供かと思った。あどけなさが残る顔に身体もあまり大きくはなかった。しかし、オッツダルヴァはラキラの戦闘のときとの違いに面白さを感じていた。あんな子供っぽさが残っているが戦闘になれば上位リンクス顔負けの動きになるのだから。

その後もラキラは順調にその技術を伸ばしていった。そしてランク3となったところに今回のミッションが入ってきた。

 

──────

 

「ここまで強くなるとは想定外だったよ。つくづく君には驚かされる」

 

密着し、ブレードで切りつけようとするストレイド、それを引き離そうとするホワイト・グリント。オッツダルヴァも付いていってはいるが、二人のリンクスの次元が違いすぎる戦いを見て、この二人は規格外(イレギュラー)としか思えなかった。

 

「私には役不足かもしれん。だが私とてランク1のプライドがある!」

 

弾幕が厚くなりホワイト・グリントの動きが鈍る。その隙にストレイドがブレードでこの戦いに幕を閉じようとした。だが…

 

『…まずい!離れろ!』

 

ホワイト・グリントの全身から緑色の粒子が放出される。ラキラもホワイト・グリントが何をしようとしているのか気づいたが既に間に合わなかった。QBでブレードを回避し、すぐさまQBでストレイドに接近する。

ホワイト・グリントの体の所々にある六角形のパーツがせり上がる。そしてカシャッ、という音と共にカメラアイの保護シャッターが降り、次の瞬間ホワイト・グリントが纏っているコジマ粒子が周囲を飲み込んだ。

──アサルトアーマー

近年開発されたコジマ粒子の応用兵器だ。ジェネレーターに格納されているコジマ粒子を解放することで広範囲に無差別攻撃をすることができる。そしてそれは威力が高いだけでなくコジマ粒子の特性で相手のPAを一時的に無効化することができる。加えて機能障害を引き起こす効果もありネクストといえど完全には防げない。

 

『AP、40%減少!簡単には終わらせないということか…』

 

『直撃を確認しました!ストレイドを重点的に狙ってください!』

 

あの劣勢の状況からここまで巻き返したホワイト・グリントの判断には舌を巻くしかなかった。APは半分近くになりPAも消滅している。PAが消滅しているのはホワイト・グリントも同じだが、ストレイドのフレームのAALIYAH(アリーヤ)は装甲が薄くPAに頼るところが大きい。まともに攻撃を受けたら一瞬にして沈んでしまうだろう。

 

「無事か?ここは私に任せて君は回避に専念してくれ」

 

「すまんが、頼んだ。PAが回復したらすぐに戻る」

 

攻撃はステイシスに任せ、ストレイドは回避に徹する。しかしステイシスもPAがあるとはいえそのフレームは速さを求めたためストレイドと同じように薄い。多少の不安がラキラの中にはあったがオッツダルヴァを信じることにした。

 

(さすがと言うべきかホワイト・グリント。いや、この場合はリンクスの方が正しいか。レイレナードの先鋭を退け、更には本社を崩壊させたその実力、伊達ではないか…そして彼も英雄を相手にあれだけの動きをした。ならば私も負けてはいられないな)

 

「見せてみろ。リンクス戦争の英雄の力を!」

 

──────

 

QBで的を絞らせないように動く。右腕のライフルと左手のレーザーバズーカのトリガーを引きながらミサイルを絡めていく。ステイシスとは直訳すると【停滞】という意味がある。それは自分以外は止まって見えることから付けられた。それほどの速さがあるのだ。加えてオッツダルヴァはAMS適性が他のリンクスと比べると桁違いに高い。それゆえステイシスの動きが機敏なのだ。傭兵が技術を武器にするならオッツダルヴァは才能を武器にしている。しかしオッツダルヴァは自分の才能だけでランク1になったわけではない。才能に溺れたら最後に待つのは死だけだ。

 

レイレナードが崩壊しオーメルに取り込まれたとき気づいた。人とは他者を蹴落とし、自分のことだけを考える愚かな生き物だと。仲間や友情、そんなものだけにしがみついていてはいつか裏切られ後悔する。そして力無き者は生き残れない。

 

この世界の全ては幻想だ("all is fantasy")

 

企業などという利益しか求めない屑どもの集まり。優遇されのうのうと生きているクレイドルの人間たち。そして汚染され土地も少ない地上に残された人間。着実に蝕まれていく地上。それを理解せず企業は日々争いを起こす。

 

おぉ、私は恐れている("oh,I'mscary")そうだ、私は恐れている("so,I'mscary")

 

この世界がこれで成り立っていることが。それを変えられない人類が。しかし変革をもたらすなら力が必要だ。アナトリアの傭兵のように。

だから私は戦い続けた。

しかし彼女と出会いその考えは変わっていった。彼女の強い心に、信念に引き込まれたのだろう。そしてラキラとも出会った。生きるために力をつけ、誰かの為に戦う。そんなことでも私には輝いて見えた。

 

─────

 

「くっ…」

 

ミサイル数発が直撃しAPが持っていかれる。ステイシスのAPの方がまだ多いだろうが、このままいくとどちらが勝つかはわからない。追尾性能の高いPMミサイルも当ててはいるもののいまひとつ決め手に欠ける。レーザーバズーカを当てれば話は変わるが、あの機動力を相手に直撃させるのは難しい。

 

『右腕左腕、残弾残り僅かです!』

 

流石にトップクラスのリンクス二人を相手にしていてはホワイト・グリントも攻めきれなかったのだろう。ホワイト・グリントも限界を迎えつつある。

 

『ミサイル残弾、左右どちらも残り六発です!もう後が………

っ!PA間もなく回復します!アサルトアーマー使用可能です!』

 

もうすぐこの戦いも終わると思っていたオッツダルヴァだったが、油断した隙に回避が遅れPA消滅しAPが一気に削られる。

 

─────

 

(こんなところで私は終わるのか…)

 

あの日から強くなるためだけに戦い続けたというのに。彼女やラキラと出会い、ようやく分かったというのに。結局英雄には勝てず、この地に果てる。ステイシスのフレームも所々破損し、左腕は既に使い物にはならないほどだった。あとは運命という死を受け入れるだけだった。しかし…

 

(なんのためにここにいる…なんのために今まで生きてきた。

私はこんなところでは終われない。まだやるべきことが私には有り余る程あるのだから!)

 

─────

 

ステイシスに止めを刺そうとしたホワイト・グリントだったが異変に気付く。

 

『なんなのこれは…ステイシス出力上昇!気をつけて!』

 

『なにが起こっているんだこれは!?』

 

ステイシスのモノアイが再び蒼く輝く。剥がれたコジマ粒子がステイシスに集まり即座にPAを再展開する。通常とは比べ物にならない速度で回復したPAに驚いたフィオナとセレンだったがそれだけではない。

 

『この速さ…一体どういうことだ…』

 

先程とは違うブースト─二段QBだ。ステイシスはその軽さでホワイト・グリントに付いていっていたが、今ではその逆だ。ステイシスが離し、ホワイト・グリントが付いていく。さっきとはうって変わったその状況にオペレーター二人は困惑を隠せなかった。

 

(…お前もまだ死ねないのか?)

 

オッツダルヴァは自分の機体に問いかける。勿論答えなど帰ってこない。だが言われずとも理解できた。こいつはついてきてくれると。今まであまり乗り気ではなかったオーメルの機体。しかし今では頼りになる相棒のような存在に感じる。

 

「大丈夫か!」

 

そこへ回復から戻ってきたラキラが心配そうな声で訊いてくる。ステイシスの損害を見て息を呑んでいたが「大丈夫だ」と軽く返したら安心したのかそれ以上はなにも言ってこなかった。

 

「さぁ、いこうか」

 

オッツダルヴァの一言で再び戦いの幕が上がる。

 

──────

 

(驚いたわ。限界を迎えるはずだったステイシスがあんなことになるなんて。まるでリンクスとネクストが本当に一体化したみたい…)

 

機動力が増したステイシスとストレイドの猛攻で傭兵は勝つための策を考える。こちらはもう弾が少ない。アサルトアーマーはまだ残っているがタイミングを間違えれば更に不利になってしまう。凡人に勝つのならば既存の策でいけば問題ない。だが目の前のリンクス二人はそれを大きく上回っている。どこにでもあるような策で仕掛ければやられる。それを理解していた。ならば違う策でいけばいい。傭兵はただそう考え、行動に移す。

QBで一度後方に下がり、引き付けてから瞬時に前方にQBをする。ホワイト・グリントの得意距離であるはずの中距離を捨てるという意表を突き、近距離での接射。これが傭兵の考えた策だ。アサルトアーマーを射っても良かったが、この状況でPAが無くなるというリスクは負いたくなかった。

左右のミサイルを一発ずつ発射しライフルへ切り替える。流石に接射となればPAも殆ど機能しない。これで傭兵が一気に有利になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

ストレイドはなんとミサイルをものともせず突っ込んできた。正気の沙汰とは思えない行動だったがこの近距離からのミサイルの回避は難しい。そう判断したラキラはあえて突っ込みブレードで斬り込むことにした。ブレードが直撃しホワイト・グリントのAPが大きく削られ遂に0になった。

 

『ネクスト、ホワイト・グリントの撃破を…』

 

ラキラは海面に落ちていくホワイト・グリントを見据えながらセレンの通信を聞いていた。しかし、

 

『いや、待て…再起動だと!?有り得るのか、こんなネクストが…』

 

先程ステイシスに似たようなことがあったが、あちらは出力が上がっただけでAPが0になってはいない。それでも十分不可思議な現象だったが、ホワイト・グリントはその状態から蘇ってみせた。

 

『くそっ、どうしてこんなことばかり起こるんだ!』

 

半ば投げやり気味に叫ぶセレン。そんな驚いているセレンとは対照的にラキラとオッツダルヴァは落ち着いていた。天才アーキテクトのアブ・マーシュが作ったワンオフ機体、それがホワイト・グリントだ。ならばなにか一つくらい仕込んでいても不思議ではない。

 

『ここからが正念場だぞ!油断するな!』

 

──────

 

ストレイドの残弾はもう底を尽きそうだった。マシンガンは一マガジンしかなく、プラズマキャノンも二発、ミサイルは無くなってしまったのでパージして機体を軽くした。唯一ブレードだけは弾を気にしなくていいが当てるのは難しいだろう。

ストレイドはプラズマキャノンを起動。マシンガンでPAを削りプラズマキャノンを叩き込むことにした。たとえ当たらなくてもこちらにはオッツダルヴァがいる。片腕がなくともその動きは鈍ることはない。今は数の有利を使って地道に削ることにした。二段QBでホワイト・グリントに接近。マシンガンを放ちながら三次元的な動きで相手を翻弄しようとするが、ホワイト・グリントは難なく対処した。その間にステイシスからの援護もあったが後ろに目があるのかと思わせるほどの回避をしてみせた。

 

「なるほど…貴様も本気を出したということか」

 

空中で三つの輝きが舞う。ブースターの噴射炎が尾を引き、さながら流星のように見える。戦闘は過激さを増し、三機はどんどん上昇していく。

 

『綺麗………』

 

ラインアークを越え、戦場が空へと変わる。沈みかけた夕日を背景にリンクスたちは命を懸け戦う。しかしその戦いももうすぐ終わろうとしていた。三機が空中で止まる。

ストレイドはブレードにエネルギーを注ぎ、次の一撃に賭ける。ホワイト・グリントも弾薬が尽きアサルトアーマーしか残っておらず、ステイシスも右腕のライフルだけだった。

お互い限界が近いことを分かっていた。

だから次の一撃で全てが決まる。

そう確信していた。

 

『証明してみせろ、お前の可能性を!』

 

『お願い、絶対に帰って来て!』

 

二人のオペレーターの声が引き金となり三機が同時に動く。ストレイドは鮮やかな紫色のブレードを出しながら、残り少ないAPを刈り取ろうと唸る。ホワイト・グリントはアサルトアーマーで敵を破壊しようと高速で接近してくる。ステイシスはもうワンマガジンしかないライフルのトリガーを引きながら、自分に出来ることをしようと最後まで足掻く。

そして、規格外(イレギュラー)なリンクスたちはぶつかり合った。

 

──────

 

『ネクスト、ホワイト・グリントの撃破を確認…馬鹿野郎が…』

 

『…ストレイド及びステイシスの撃破を確認しました』

 

オペレーターの報告が入る。しかしその声はもう届かないだろう。

 

 

 

 

結果は相討ち。ストレイドのブレードによりホワイト・グリントのPAが減少。アサルトアーマーが発動し周囲を飲み込んだが、最後に放ったステイシスのライフルによりホワイト・グリントはコアを撃ち抜かれた。

そしてクレイドルで最も優れたリンクスたちは誰一人生き残ることなくこの戦いは終わった。

 

──────

 

こうしてとある世界で歴史に名を残すはずだった英雄達が死んだ。しかし彼らの魂は死して尚戦いの場に有り続けるだろう。彼らがそれを求める限り。

そしてそれはとある世界に引き継がれる。

─誰かの為に戦う

─誰かを救う為に戦う

─誰かを守る為に戦う

 

これはとある英雄たちの物語である。

 

 




王子の定番セリフが無いことに関してはすみません。(;゜∀゜)今回の終わりかたには合わなかったので省きました。またこの作品は投稿がかなり遅くなると思われます。次回は今回より字数か減ると思いますがご了承をお願いします。m(__)m

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