リアルが忙しくてかなり遅くなりましたが、6話の投稿です
プラウダ戦まで行くかな? と思ってましたが、行けませんでした……
そして今回、京ちゃんのお友達が少し友情出演します
一体誰なんだろうか……?
そういったネタが苦手な方はブラウザバックをお願いします
「今回から新しいチームが参加するから、皆よろしく~」
プラウダ高校との準決勝までもう何日もない、そんな日の午後のことである。練習開始前に戦車道専用のガレージ兼大倉庫の中で突然仲間が増えると告げる杏。寝耳に水の情報に生徒会の桃と柚子を除く戦車道履修者一同がポカーンと呆けている。
「あー…… 会長、いったい誰が新たに入られるのでありますか?」
いち早く復活した優花里、取りあえず誰が参加するのか聞いてみる。
「うーん…… みんなよく知ってる顔ぶれだと思うよ。まあ見た方が早いか。それじゃ入ってきて」
杏がそう声を掛けて、3つの人影が入ってくる。同じようなおかっぱの髪形に似たような顔立ちで同じ背丈の少女達。正直、初見では3人を見分けるのは困難だろう。実際、京太郎は「三つ子? いや、クローンか? イヤイヤ、良く似せて作られたこけしと言う線もあるな……」と相当失礼なことをブツブツと呟いている。よく見れば顔は似ているようで似ていないため、慣れれば間違えることは無いと思われるが「初めまして」の京太郎には少し厳しい。
まぁ、馴染のないのは京太郎だけで、他の面々はその顔を良く知っている。
「本日から戦車道に参加する三年生の園みどり子よ」
「同じく本日から参加します二年生の後藤モヨ子です」
「……二年生、金春希美」
「なんだ…… そど子、ゴモヨ、パゾ美の風紀委員三羽烏か」
新入りの自己紹介が終わると同時に麻子がボソッと言葉を零す。と言うか2年生なのに3年生のみどり子に対して「そど子」と渾名呼び、普通は出来ないことだし褒められたことではない。
「ちょっと! 冷泉さん! そど子なんて呼び方しないで!! それと三羽烏なんて纏めないで!!」
案の定、麻子に上級生のそど子が喰ってかかる、もっとも当の麻子は飄々としていて柳に風暖簾に腕押しだ。そんな2人の様子を苦笑しつつゴモヨとパゾ美が見守る。
「……秋山先輩、あの御三方は一体誰なんです? 皆良く知ってるといわれても俺はピンと来ないんですが……」
この中で唯一面識のない京太郎が優花里に尋ねる。聞かれた瞬間は「えっ?」という表情をした優花里だったが、京太郎が最近来たばっかりであること、そして京太郎が来てから今まで三人の顔をよく見る機会である朝の校門での風紀チェックが無かったことを思い出し納得した表情を浮かべる。
「そうでしたね、須賀殿は今までお会いする機会が無かったですね」
そう言いつつ優花里は風紀委員三羽烏の説明を始める。
「まず、勝気そうなおかっぱの人が園みどり子さん。気の弱そうなおかっぱの人が後藤モヨ子さん。少し影の薄そうなおかっぱの人が金春希美さん。3人とも風紀委員のメンバーです」
「良く校門前で登校時の風紀チェックをしているので今後よく見かけると思います。ここで仲良くなっておくといいかもしれませんね」
「なるほどねぇ…… じゃあ、ちょっと挨拶して来ます」
優花里の説明を聞いて大体名前と外見を一致させた京太郎。優花里の言う通り風紀委員のメンバーなら仲良くなっておけば色々融通が利くだろうと考えた彼は、優花里に一言断って三羽烏に挨拶しに移動する。
「園みどり子先輩、後藤モヨ子先輩、金春希美先輩。初めましてですね。清澄高校から短期留学で来ました須賀京太郎です。よろしくお願いします」
そど子が麻子に突っかかってガミガミ言っているところに、声を掛ける京太郎。悪印象を持たれないようにきちんと敬語を使いつつ、丁寧に初めましての挨拶をする。突然、男子の声がかかったのでビクッと身を一瞬すくませるゴモヨとパゾ美だが……
「初めまして、後藤ヨモ子です」
「金春希美、初めまして……」
ただの挨拶と言うことが分かると直にあいさつを返してくれた。そしてそど子はと言うと……
「……あなたが噂の大洗に潜り込んだ男子ね。女の園に何が目的で入り込んだのかは分からないけど、私の目が黒いうちは風紀を乱すような行為を一切見逃すことは無いから覚悟しなさい。それが分かったら淫らな行為は一切しないこt…… ムグゥ!!」
強烈なカウンターパンチが返ってきた。
京太郎の表情は思いっきり引き攣る。そりゃ丁寧に初対面の挨拶をしたら帰ってきたのが罵倒ならそれも仕方ない。周りの空気も凍り付いている。特に哀れなのが生徒会のメンツだろう。京太郎には無理無茶を言って態々大洗に来てもらっているのに、風紀委員と言う役職持ちが京太郎への人格攻撃とすら捉えられかねない暴言を吐いたのだ。現に大慌てで桃がそど子の口を塞ぎにかかったし、柚子は一目で分かるくらいオロオロしていて、杏は彼女にしては珍しくヤバイっといった表情を浮かべて頭を抱えていた。
「……角谷会長…… これ、俺、今ここで清澄に帰っても許されますよね……?」
ギギギっと油が切れた機械のようにぎこちなく杏の方を振り返って、京太郎が一言いう。これには流石の杏も慌てた。当然だろう。全国大会の1回戦も2回戦も京太郎に派手で目立つ功績は無かったが、彼抜きでは負けていたかもしれない……
そう思わせるほどには京太郎は大洗戦車道チームになくてはならない人材になっていた。特に、1回戦での通信傍受を察知、それを逆手に取る作戦の立案、追い詰められた時の士気を鼓舞した功績は大きい。それに女所帯の中での黒一点、メンバーは唯一の異性である京太郎に良いところを見せようと無意識で張り切っていたりするのだ。
「ま、まって須賀君!! 今の件は生徒会として正式に謝罪するから!! ちょっと待って!!」
まだ皆に打ち明けていないが戦車道の全国大会の成績に学校の存続がかかっているのだ。ここで京太郎に抜けられてしまえばメンバーの士気もモチベーションもダダ下がり、おまけに様々な面で有能な人材が居なくなるという大きすぎるマイナスが生じてしまう。その結果、元々少なかった大洗の存続の可能性がさらに低くなる、杏が必死に引き留めにかかるのも無理は無かった。
…………………………………
……………………
…………
「……………さっきの発言は取り消すし、謝るわ………… ごめんなさい」
杏が必死に京太郎を宥めている間に、桃がそど子の口を塞ぎながら物陰へ連行。そして廃校の件は伏せつつ京太郎が大洗に来た経緯を柚子が説明した。凡その事情を理解したそど子。 バツの悪い表情をしつつも京太郎に発言の取り消しと謝罪をする。今回の一件は彼女の真面目さと風紀委員としての責任感が空回りした結果だ。京太郎としては謝ってもらえれば特にこれ以上騒ぎ立てる心算はない。
「まぁ、謝ってもらえればそれでいいですよ」
それどころか柚子がそど子に説明している僅かの間に、メンバーから彼女の人となりを聞き出し、事情を呑み込んでいたのでここが手の打ちどころと思っていた。
「……まぁ、誤解が解けて良かったよ……」
あからさまにホッとした様子の杏、柚子、桃。
「新しいメンバーが入ったのは良いんですが…… 肝心の戦車はどうするのでありますか?」
取りあえずゴタゴタがひと段落したので、優花里が思っていた疑問を口にする。現在大洗が所有する戦車は5両。乗員が不足している戦車もあるのだが、3人の新入り全員分の空きは流石に無かった。
なら、どうする? 杏のはじき出した回答はいたってシンプルだが無茶でもあった。
「それなんだけどね…… この前、五十鈴ちゃんにも手伝ってもらって書類を整理してた時に見つけたんだよ。他に戦車があるみたいだねぇ」
その杏の言葉を聞いてどよめく一同。
「探そうか? 戦車」
…………………………………
……………………
…………
「全く…… いくら戦車はデカくて目立つからって、空から探せとはなぁ……」
蒼空に快調な誉のエンジン音が響く中で京太郎がぼやく。文句を言いながらも操縦桿とフットバーの感触にはいつも以上に気を配りエンジン出力を時折微調整しながら紫電改を飛行させる。
「それに茂みや森の中とかだと見つけられないんだけどなぁ……」
時折、機体を右へ左へとバンクさせる。戦闘機は左右上方の視界は良いのだが、下の方は別で、特に前下方の視界はほぼ最悪と言っていい。地上を偵察しようと思うと機体をバンクさせないと殆ど見えない。おまけに地上偵察では出来るだけ速度を落とさなければならない。当然対気速度は失速ギリギリ、結構ストレスの溜まる飛行だ。で、何故京太郎が不向きな戦闘機で偵察飛行をしているかと言うと、杏が新しい戦車を探すと宣言した時までさかのぼる。大きいとはいえどこにあるか分からない戦車を求めて広い学園艦の中を探すのだ、当然手分けして探した方がいい。この時、みほが京太郎に恋心を寄せていると知っている沙織、優花里、華、麻子の4人は京太郎とみほを同じチームにしようと画策するが、思わぬところから横やりが入る。
「甲板は須賀君に空から探してもらったら効率いいんじゃないですか?」
思い付きであやが言ったのだ。大洗学園艦は数ある学園艦の中では小型と言えど全長7.1 km、全幅1.1 kmを誇る超超弩級船舶である。甲板上を探すだけでも相当な苦労だ。
だが、ヒコーキなら高速で移動でき、高い視点から俯瞰的に探すことが可能、ナイスアイディアである。当然、反対意見など沙織たち以外から出るはずもない。その沙織達も大野案の合理性の高さと周りの空気から反対を言い出せずにいたが……
発案者のあやが生徒会からお褒めの称賛を受けると同時に、『みほ京太郎ラブラブ作戦』の第一段階を実行しようとして妨害された四馬鹿から突き刺すような非難の目線を一身に浴びてたじろぐ一幕もあったのはご愛敬である。
「こんな廃校舎みたいなところもあるんだな……」
虱潰しに上空から戦車探索をしていると、かつての部室棟で今は全く使われていない建物の上空に差し掛かった。「結構荒れてるなぁ」と思ってみていると見覚えのある人影がちらほら見えたので双眼鏡を取り出し見てみると、人影はみほとバレー部のメンツだった。そして何か思いついたのかニヤっと笑って進路をみほ達の頭上の空域へ向ける。
丁度その時、みほと麻子、バレー部の四人は戦車を探して草が茫々と生えて荒れた旧部室棟の周りを歩いていた。
「戦車だから直に見つかりますよね」
「だと思うけど……」
「手がかりはないのか?」
「冷泉先輩、刑事みたい!」
「それが、部室が昔と移動したみたいで…… 良く分からないんだって」
「まぁ、とりあえず部室の中を探してみようか」
麻子がそう提案してすぐ、彼女たちの耳に唸るようなエンジンが聞こえてきた。
「え、エンジン音!?」
「やっぱりこの近くに戦車が!?」
「嘘!?」
「馬鹿者、よく聞いてみろ。この音は星形エンジンの『誉』の音だ。つまり……」
突如聞こえてきたエンジン音に、すわ戦車かと慌てて周囲をキョロキョロト見渡し始めるみほとバレー部の5人。よく考えてみれば、まだ見つかってもいない放置された戦車からエンジン音が聞こえるなどおかしいにも程があるのだが、慌てている彼女らにそんな理屈は通用しない。一方の麻子は冷静で音でエンジンの種類を判別すると空を指差す。
「須賀の紫電改だ」
麻子の指差した先には、こちらに向かって飛んでくる単発低翼のレシプロ戦闘機。スロットルを開けたのかエンジン音はより力強く、尚且つアプローチ速度も速くなっているようだ。
「須賀君だ! おーい!!」
そのままヒコーキはロールを打ちながらみほ達の頭上をフライパスする。主翼と垂直水平尾翼の先端半分を濃いブルーに染めたグレーの機体、垂直尾翼に描かれた清澄と大洗の校章とパーソナルマークの「首輪に繋がった鎖を噛み千切らんとする赤い番犬」、そして機体番号の「VL032」。間違いなく京太郎の機体だ。
その後、インメルマンターンで高度を稼いだ機体は横倒の8文字を空に描くキューバンエイトやスプリットS、バレルロールなどのアクロバットを次々に披露していく。どうやら機上の京太郎、速度を抑えた飛行で相当ストレスが溜まっていたらしく、ここぞとばかりにアクロバットで発散しているらしい。
「うわー! 凄―い!!」
いきなり始まった頭上での曲芸飛行に大興奮のみほ達。ここまで間近でアクロバットを見たことなどなかったのでその迫力に当てられたようだ。ひとしきりマニューバを披露し終わったのか今度は彼女たちの頭上をグルグル旋回しだす紫電改。そんな紫電改に思いっきり手を振るみほ達。と、その時、紫電改から紅白の長い布付きのオレンジ色に塗られた筒のような何かが落とされる。
「通信筒だ!!」
そう叫ぶ典子、戦車探しを始める前に京太郎からヒコーキからの通信手段についてのレクチャーがあったので、すぐに投下されたのが文書通信に使われる通信筒だと分かった。
数秒で地面に到着する通信筒、京太郎の紫電改は通信筒を投下するとそのまま何処かへ飛んで行ってしまう。あわててみほ達は通信筒の落下地点に駆け寄り、その皮製の筒を手に取る。
「冷泉先輩! 須賀君は何て!?」
「まぁ、慌てるな。中に通信文が入っているからな」
あけびの催促をマイペースに流し、通信筒を開けて中の通信文を確認する麻子。
「じゃあ、読むぞ。『コノ付近ノ上空カラ見エル場所ニ戦車ノ姿ハ見エズ。上空カラ見エナイ場所ヲ重点的ニ探サレタシ』だと」
「流石にヒコーキですね。これで私たちが探さなきゃいけない場所は大分絞り込まれましたね」
通信文の内容を聞いた忍はこれで捜索範囲が一気に絞りこまれたと喜ぶ。一方のみほは通信筒の落下地点であるものを見つけて一瞬呆けてしまった。
「? どうかしたのか? 西住さん」
「これって……」
そう言いながらすぐ傍にある何故か干されていた洗濯物を指さすみほ。いや、正確には洗濯物ではなく、彼女が指さしたのはそれが干されていた物干し竿だ。
「これって…… 戦車の砲身だよね……」
「ええええええええっ!?」
どうやら京太郎が投下した通信筒、偶然にも物干し竿として使われていた戦車の主砲砲身のすぐそばに落下したようである。
さて、知らず知らずのうちに通信筒を戦車の主砲身の傍に落とすというファインプレーをかました京太郎、紫電改の機首を学園艦の甲板の上にある森林エリアの方へ向けていた。
「それにしても、ここって船の上だよな? なんで森とか沼とかあるんだよ……」
機体を左に傾けて地上を窺いつつ、独りごちる京太郎。
「それにしてもやっぱり空から地上を偵察するのって大変だな…… 自動車くらいの大きさの物がゴマ粒に見えるぞ。戦争で襲撃機や急降下爆撃機の誤爆が多かった理由が良く分かるぜ」
京太郎が飛んでいるのは戦場の空ではなく平和な学園艦の空。当然、対空砲火なんぞ撃ってくる訳はないので戦時中の偵察機に比べかなりの低空を低速で飛んでいる。それでも安全マージンを十分に取って飛行高度は100 – 200 mといったところ、この高さだと戦車サイズのモノでも見分けるのは中々に難しい。時折、操縦桿を太腿で挟み双眼鏡で地上を見るが戦車らしきものは発見できない。
「この周辺は木で覆い隠されてるな…… 地上の皆に此処の捜索は任せて別のエリアへ向かうか…… ん?」
次の空域に移って捜索を続行しようかと思い始めた京太郎の視線に何か引っかかるものが映り込んだ。正体を確認するため機体を緩降下させ地面スレスレまで高度を下げる。
「おいおいおいおい…… マジかよ…… マジで戦車があったぜ」
京太郎の双眸にはハッキリと沼に嵌まり込んだ戦車が映った、それも結構大きな戦車が。すぐに太腿にベルトで固定するバインダーに挟んである地図で発見位置を確認すると、無線機のスイッチを入れる。
『大洗HQ、大洗HQ、This is
『こちら大洗HQ、サイファーお手柄だね。取りあえず近くに居る秋山ちゃん達を向かわせるから上空で待機してくれる? 燃料の残量は大丈夫かな? オーバー』
『大洗HQ。This is Cipher, Roger. 燃料にはまだ余裕がある。目印の発煙弾の支援は必要か否か? Over!』
『こちら大洗HQ。サイファー、発煙弾の支援を要請する。オーバー』
『Cipher, Roger.』
無線機のスイッチを切ると、すぐにスロットルを全開にする。大量の燃料混合気を供給された誉エンジンはその回転数をと出力を大きく上昇させ機体を更に前へ前へと引っ張る。十分に加速したところで操縦桿を引きインメルマンターンで高度を稼ぐ。そして武装の安全装置を解除する。
「安全装置、解除…… Target in sight…… 投下!」
戦車のある場所に向かってエアブレーキを展開しつつ緩降下でアプローチを掛けていく、そして高度が一定以下になると操縦席左側に備え付けられた爆弾投下スイッチを押し込んだ。翼に吊り下げられていた発煙弾が切り離され放物線を描きながら狙い通りの場所に着弾し、夥しい量の赤色の煙を吐き出し始める。
「あそこです! 須賀殿が戦車を見つけたという場所は!!」
赤い煙は物凄く目立つ、当然、生徒会からの指令を受け取った優花里たちはすぐに煙を発見し現場に急行する。
「見つかりました! ルノーB1bisです!!」
現場に到着した優花里、エルヴィン、カエサル、左衛門佐、おりょうの目に映ったのは沼に半分嵌まり込んだフランス製の重戦車だった。
「流石はモントゴメリー」
「あの…… それはちょっと……」
「ではグデーリアンではどうかな?」
B1bisの発見に目をキラキラと輝かせる優花里、そんな彼女に左衛門佐がソウルネームを贈り呼んだ。そのソウルネームは英陸軍の名将の名前だったのだが、当の本人は少し不満気だ。それを見たエルヴィンが独陸軍の戦車戦の名将の名前を優花里のソウルネームとして提案する。戦車戦の名将が由来のソウルネームだ、当然、優花里は大喜びする。
「……はっ 取りあえず生徒会に戦車確認の連絡を入れましょう」
ソウルネームをつけてもらって浮かれ気味の優花里だったが自分たちの成すべきことを思い出してエルヴィン達に携帯で連絡を取る様に指示、エルヴィンも頷いて携帯を取り出し生徒会の番号を呼び出して連絡を始める。
「はい、はい、ではそのように」
携帯を耳に当て、生徒会とやり取りをするエルヴィン、自動車部が戦車を回収するために必要な正確な位置や戦車の車種が分かったので生徒会はエルヴィン達に戻るように指示を出す。そして支持通り優花里たちは校舎に戻っていった。
…………………………………
……………………
…………
「ふぅ、次はエンジンだな」
戦車道履修者に開放された倉庫の一角でオイル塗れになっている京太郎、新しい戦車探しで飛ばした愛機の整備中である。
「フフフ…… やっぱり何回見ても誉エンジンは美しいな」
今回のフライトでは長時間の高出力運転を行っていなかったのでエンジンを降ろした本格的な整備などではなく、機首にエンジンを取り付けたまま行う簡易整備を行っていた。それでも点検個所はそこそこあるのだが京太郎はそれを手際よく終わらせていく。
「須賀殿! おられますか~?」
愛機の整備と言う至福の時間を過ごしていた京太郎に声が掛けられる。大洗女子学園一の戦車マニアの優花里の声だ。
「あれ、秋山先輩、どうしたんですかこんな所に?」
「いや、今日大活躍だった須賀殿が何をしているか気になりまして、あんこうチームみんなで様子を見に来たんですよ」
後ろをチラッと見ながら優花里がそう言う。確かにそこにはみほ、沙織、華、麻子の姿があった。
「うわ! これがヒコーキのエンジンなんだ! 初めて見た!!」
「戦車のエンジンとは全然形が違いますね」
「凄い、おっきい」
「これは現代版の『誉』か?」
整備のためエンジンカウルが外されているのでエンジン本体がむき出しになっている。戦車のそれとはまったく異なるフォルムを持つ星形のそれを見てみほ達は思わず息を呑む。流石の麻子はそれだけで終わらず、エンジンの種類を聞いてきた。
「ええ、そうですよ。これは富士重工製の『NK9-20-C』、通称『誉2000シリーズ』とか『ミレニアム誉』と呼ばれる世界に誇れる傑作エンジンです!」
「『誉2000シリーズ』?」
「2000年代にフルモデルチェンジして生産された『誉』系列のエンジンのことです。こいつはC型なので2回目のマイナーチェンジモデルですね。『誉2000シリーズ』の中でも最高傑作と名高い名エンジンですよ! 見てくださいこの形状、惚れ惚れしますよねぇ」
そう言いながら恍惚とした表情で剥き出しのエンジンシリンダーに頬擦りし始める。傍から見ればドン引く奇行なのだが、あんこうチームの面々は秋山優花里という同レベルの変態を見慣れているので苦笑いを浮かべるだけだ。ちなみに、みほも同じ性癖の気があるので内心同意していたのは内緒だ。
「原型は戦時中の『誉』のままなのか?」
「まぁ、あながち間違いではないですが…… 原設計は1940年の『NK9』なのでベースの冶金技術や工作技術が段違い、なので1940年のモノと比べると大分かけ離れた代物ですね。ただ基本的には改良型なので、ある程度の互換性は確保してあります」
「1940年って…… 100年近く前のエンジンを今でも作ってるの!?」
カチャカチャとエンジンを弄りながら麻子と会話していた京太郎。その内容を聞いて沙織が素っ頓狂な声を上げた。
「五月蠅いぞ、沙織。私たちの乗っている戦車のエンジンだって似たようなモノだろうが」
「そりゃそうだけど、まだ作られてるんでしょ! ビックリだよ!!」
大声を上げた沙織を麻子が窘める。苦笑を浮かべて京太郎はその様子を眺めている。
「まぁ、中古機や再生産機、レストア機用にかなり需要があるんです。規格さえ合えば元々は違うエンジンを載せていた機体にも載せることがあります。特に現代版『誉』は戦中版と違って信頼性、整備性、汎用性、スペックが同クラスの他社エンジンと比べ物にならないくらい高くて海外でも非常に人気があるんですよ。業者が常に買い漁っているのでいつも品薄です」
京太郎の説明を「へー」っと言いながら聞き入るみほ達。
「ところで何の用事でここに来たんですか?」
「ああっ、そうでした! 本来の目的を忘れていました!!」
「……おい」
あきれ顔でジト目を優花里に向ける京太郎。流石の彼女もタジタジになったので代わりに華が要件を切り出した。
「この後、あんこうチ―ムの皆さんでご飯会をするのですが、須賀君をお誘いしようと思いまして」
そう、この後にあんこうチ―ム恒例のご飯会があるのだ。で、なかなか煮え切らないみほの背中を押す為に京太郎をご飯会に招待しようと言う流れである。発案者は沙織、その思惑の中にはモテる為に男子の手料理に対する反応のデータが欲しいと言う魂胆も見え隠れするのだが、気づいてもスルーする優しさがあんこうチームのメンバーにはあった。
この提案に一番慌てたのはみほである。何せ会場は自分の部屋、今まで男っ気の全くなかったみほにとって異性を自分の部屋に上げるというのは些かハードルが高い。もっとも、沙織、華、優花里の三人に押し切られて首を縦に振らされたのだが……
「あー…… すいません、この後予定が入ってまして…… せっかくのお誘いなんですが……」
で、招待に対する京太郎の返答はお断りであった。どうやら先約が入っているらしく歯切れは悪かったがほぼノータイムの返事だ。
「えー、そんなー」
「はぁ…… そうですか」
「もしよろしければでいいのですが、どのような用事でありますか?」
あからさまに落胆した表情の沙織に、残念そうな華、優花里は丁寧な口調ながらもちょっと突っ込んだところまで聞いてきた。
「この後、雀荘に行くんですよ。大洗に来て知り合った人達が居まして、その人達麻雀が物凄く強いんですね。で、特訓をつけてくれることに成りまして、今日がその日なんです」
用事と言っても何のことは無い、大洗の雀荘での武者修行である。まぁ、わざわざ特訓に付き合ってくれる人が居るのだから予定を変えるわけにはいかないだろう。それに京太郎は現役麻雀部員、本業を疎かにできるはずはない。大事な新人戦が近々あるとなればなおさらだ。
「うーん…… どうしますか? 流石にこれは無理に来てくださいとは言えませんよ?」
「予想外だよ……」
「おい華、まだ食材は買ってないよな?」
「はい? ええ、帰りに買って帰る予定でしたから……」
「なら、予定変更だ。ご飯会は取りやめて外食にしよう。それなら須賀に付いて雀荘に行った後でも大丈夫だろ? ついでに須賀をご飯に誘えるからな」
「おお! 流石大洗の才女、冷泉殿です!」
「確かにそれなら行ける! 流石は麻子! ナイスアイディア!」
「流石は冷泉さんです!」
京太郎の返事を聞いて円陣を組んでヒソヒソ話を始める沙織、華、優花里、麻子の4人。京太郎とみほは置いてきぼりである。で、4人の密談でこの後の予定がどんどん組み替えられていく。
「では須賀殿! 我々も雀荘にご一緒してもよろしいでしょうか?」
「えっ!? ま、まぁ、別にいいですけど…… 楽しいものじゃないですよ?」
優花里たちの唐突な予定変更に戸惑う京太郎、まぁ雀荘に付いて来られても京太郎にとって不都合なことはほとんど無いのでOKを出した。
「じゃあエンジンを仕上げて、軽くシャワーを浴びてくるのでしばらく待っていてください」
そう言って残りの整備を手早くこなし、シャワーで油汚れを落としてから再びあんこうチームと合流した。整備の時間はともかく、シャワーの時間が僅か十数分と余りの速さに沙織が吃驚する。まぁ、男子のシャワー時間などそんなものだろう。学校から雀荘までの道のりを歩く6人、もうすでに日は落ちて辺りは暗くなっていた。
「須賀さん、雀荘というのは遠いのですか?」
「いえ、もう着きますよ。ほら、あそこです」
そう言って華の問いかけに答える京太郎、彼の指さす先に『雀荘 福本』の看板がかかった建物が見えてくる。見た目は普通の平屋、看板が無ければ民家と思ってスルーしてしまうだろう。
「へー、こんなところに雀荘があったんですねぇ」
「まぁ、取りあえず入りましょう。先輩方」
京太郎は慣れた手つきで入口の扉を開けて中に入る。その様子だけでもここに通い詰めていることが良く分かる。彼について入店していくみほ達は初めて入る雀荘に少し緊張している。中も至って普通の雀荘だ、かなりの数がある卓を老若男女が囲み、皆楽しそうに麻雀を打っている。
「へー、雀荘の中ってこんな感じなんだ」
キョロキョロと物珍し気にあたりを見渡す沙織、そんな彼女に構わず京太郎は目的の卓に迷わず歩いていく。
「すいません、お待たせしました」
「ククククク……」
「ようやくメンツが揃ったな、早速打つか」
「そんなに待っていませんよ、須賀君。まぁ、まずは座ったらどうですか?」
「ありがとうございます、傀さん。アカギさん、哲也さん、今日もよろしくお願いします」
既に卓には、顎のとがった白髪の初老の男性、黒髪に黒シャツの青年、癖の強い黒髪でどこかニヒルな笑みを浮かべた男性が着いている。この3人が、大洗での京太郎の師匠である。空いた一席に座る京太郎。京太郎が据わると同時に、雀卓のボタンが押されて全自動卓が牌をセットする。
「さて、今日こそは…… って、あれ? 傀さん、今日は「御無礼」って言わないんですね?」
「フフフ……」
「まぁ、京ちゃん、さっさと始めよう。時間がもったいないんだろ?」
「はい!」
こうして京太郎の第一打で赤木、阿佐田、傀の3名による京太郎の麻雀レッスンが始まった。ついてきたみほ達は京太郎の師匠ともいうべき人物のキャラの異常な濃さに言葉がでず、茫然と成り行きを見るだけだった。
…………………………………
……………………
…………
「もー、凄い雰囲気の人達が居て驚いたよ」
「ははは、でも良い人達だったでしょ?」
「そりゃまぁ、見た目とは違っていい人たちだったけど……」
雀荘を出てから近くのファミレスに入った京太郎たち、ちょっと遅めの夕食を摂りつつ雀荘での話題に花を咲かせている。ちなみにこのファミレス、安くて(量が)多くて旨いと学生にとっては大変に嬉しい店で大洗生御用達である。
「凄く実力のある方たちなのでしょう? 初心者の私達にもすごく分かりやすく教えてくださいましたし」
京太郎へのレッスンが一通り終わったあと、赤木から「フフフ…… 嬢ちゃんたちもちょっと打ってみるか?」と、思いもよらない提案があった。で、みほ達はその言葉に甘えて京太郎と同じ卓につき、後ろに控えた赤木、阿佐田、傀からアドバイスをもらいながら麻雀を打った。
「まぁ、あれも俺へのレッスンの一環だったんでしょうね。あの人たちはホントに無駄なことはしないですから……」
そう言いながら店一押しの看板メニュである600gの爆弾ハンバーグ定食ライス大盛り、税込み650円を食べながら話す京太郎。ちなみに、みほはビーフシチュー、沙織はオムライス、優花里はミックスフライ定食、麻子はミートドリアである。華は京太郎と同じオーダー、正直言って本当に女子高生かと疑わんばかりの食欲だ。
「あっ、須賀君飲み物なくなってるよ。入れてきてあげるね。」
「あっ、流石に先輩にそこまでさせるのはチョット……」
「いーのいーの! 気遣いの出来る女はモテるって雑誌に書いてあったからね~ で何がいい?」
そう言って京太郎のグラスを持ってドリンクサーバーのところへ歩いていく沙織、京太郎はその背中に「じゃ、じゃあオレンジジュースで……」と声を掛けるのが精いっぱいだった。
「……それにしても武部先輩って、あの面倒見の良さ…… 同年代の女子と言うよりはお母んって感じですよね。あと恋をしたいんじゃなくて、恋に恋したいんじゃないですか? あれ」
「須賀もそう思うか?」
「恋に恋するとはまた言い得て妙ですねぇ」
鼻歌を歌って上機嫌にグラスにジュースを注ぐ沙織を横目で見つつ、ヒソヒソと彼女のことを話す京太郎と麻子と優花里。その内容を聞いて華とみほは苦笑いしつつも心の中で大いに賛同したのは言うまでもなかった。
はい、今回の投下は以上になります
京ちゃんのお友達はアカギ・傀・哲也の他麻雀漫画のお三方でした
誤字脱字等あれば報告お願いします
あと、感想などいただけるとすごく励みになりますのでどんどん書いてください、よろしくです!
次こそプラウダ戦に行きます
ではまた次回お会いしましょう!