戦車と麻雀のコンチェルト   作:エルクカディス

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プロローグの位置づけの一話目で14000字越え…
まさかこんな字数になるとは思わなかった(白目)



1話 ―雀士が空からやってくる―

高校時代と言うのは非常に貴重な時間だ。

子供から大人になっていくこの境目の時期は、気が付けばあっという間に過ぎて行く。

高校に入学したばかりは3年とは長いと感じるだろう。

しかし思春期の若いエネルギーに満ちた少年少女にはあまりに短い。

その若いエネルギーはどこに向けられるのか…?

人によって色々なものに向けられるのだが、多くの少年少女がそのエネルギーを向けるものと言うのが確かに存在する。

ある者は恋愛、ある者は部活、ある者は飛行機。

青春時代の溢れんばかりの情熱をぶつけ、その思い出を宝石のように大事にしながら大人になっていく。

 

部活動と言えば、全国大会。

青春を捧げ己の心技体を磨き上げた少年少女たちが競い合う場所だ。

特に麻雀、戦車道の全国大会は有名だろう。

今や全世界にウン億人ともいわれる競技人口を誇る麻雀。

その規模は他の競技やスポーツを寄せ付けない圧倒的人気を誇っている。

国麻と呼ばれる国民麻雀大会が開催されることからもその人気のほどは推して知るべし。

当然、高校には麻雀部と言うものが無数に存在し、少年少女たちは全国大会優勝と言う栄誉を目指して鎬を削る。

一方で、女性の武道と言われ、競技人口は麻雀に大きく水を開けられるが戦車道も根強い人気のあるスポーツだ。

“礼節のある、お淑やかで慎ましく、凛々しい”女性を育てる精神のもと、ダイナミックな生きた力と生きた力がぶつかり合う武道。

対戦相手の意図を読み、戦術を練り、鍛えに鍛えた鋼の精神をもって進撃する。

全力を出して砲火を交える少女たちの輝きは見ているものを魅了してやまない。

他にも人気のある競技は数多あれど、この2つこそが高等学校全国大会の双璧競技だろう。

 

さて、今は8月も中頃を過ぎた残暑真っ盛り、セミの大合唱がその熱さに拍車を掛け外に出るのが億劫になる時期。

ここ長野県は標高が高い故、東京などに比べると暑さはかなりましだが… それでも暑い。

もっともそんな暑さを気にしていられない事態が、長野県立清澄高校の麻雀部の部室で起こっていた。

清澄麻雀部は男子1人女子5名の弱小と言っていいが、女子団体戦で今年の全国大会を初出場で制覇するという快挙を成し遂げた部だ。

3年の竹井久、2年の染谷まこ、1年は須賀京太郎、片岡優希、原村和と宮永咲、これがこの部のメンバーだ。

ちなみにメンバー同士の仲は良い。

特に京太郎などは天性ともいえるコミュニケーション能力と人当たりの柔らかさから、部の雰囲気の要である。

素直で、努力を惜しまない面もありかなりの好青年。

地毛が金髪なので不良と間違われたりしてチョット損してはいるが、付き合えば付き合うほど彼の人間性に引き付けられる者は多い。

それは、部のメンバーも例外ではなく5人とも京太郎に友達以上の好意、具体的にいえば異性に向けるそんな感情を持っている。

実は、京太郎は麻雀初心者で、女子の5人は全員かなりの実力者。

全国に出場したのも女子の5人だけで、彼は県予選一回戦敗退と言う成績…

それゆえ、彼は県予選以降は自ら完全に裏方に徹し、選手の咲達のサポートに回った。

消耗品の買い出しに始まり、様々な雑用、部長の久や副部長のまこがやるべきである部の運営に関する書類事務・折衝なんかも志願し、勤め上げたのだからその滅私奉公ぶりは推して知るべし。

彼が縁の下を支え続けたので、選手の5人は自分の練習に集中することが出来た。

まさに全国優勝の陰の立役者。

そのことを理解しているからこそ、咲達は京太郎に好意を抱くことになった。

そんな清澄高校麻雀部、今、異様な雰囲気に包まれていた…

 

 

「本当にごめんなさい!」

 

そう言って日本が誇る究極の謝罪法・土下座をするのは部長の竹井久。

謝罪されているのは困り顔の京太郎。

そして、親の仇を見るかのように久を睨んで囲むまこ、咲、和、優希。

いつもは和気藹々と仲のいい6人である、こんな雰囲気になることはまずありえないのだが、いったい何があったのか…

 

「おい、久。そりゃ一体どういう事じゃ? 事と次第によっては容赦せんぞ」

 

「10月に新人戦があるのはご存知ですよね? それと、当然、初心者の須賀君にとって、大会までの2か月近くの時間が持つ意味の重要さもご存知ですよね?」

 

まこと和が土下座中の久に喋り掛けるが、かなり怖い。

まこはその広島弁のせいで必要以上に威圧感があるし、和は無表情で淡々と喋る。

 

「新人戦まで国麻(他のこと)は後回しにしてでも「京ちゃんの練習に時間を割く」って昨日言ったのは誰でしたっけ? ねぇ、優希ちゃん?」

 

「確か部長だったような気がするじぇ」

 

京太郎のことを京ちゃん呼びするのは京太郎とは家が近所の幼馴染の咲だ。

そして「じぇ」っと独特な語尾で話すのは優希。

この2人も久の方を厳しい視線で睨んでいる。

 

「まぁまぁ、皆落ち着いて… で、部長詳しく話してくれませんか?」

 

謝罪されているはずの京太郎が一番冷静で、穏便にことを進めようとしているこの始末。

一体何があったのかと言うと、事の発端は数十分前に遡る。

 

 

…………………………………

……………………

…………

 

 

「はい、清澄高校生徒会です」

 

『あっ、この声は竹井ちゃん? 私、大洗の杏だよ』

 

生徒会室に備え付けられた電話が鳴り、ちょうど近くにいた久が受話器を取る。

電話の主は茨城県立大洗女子学園の生徒会長、角谷杏である。

 

「ああ、角谷さん、おひさ―」

 

『おひさー』

 

「校長から聞いたんだけど、大洗、大変なことになったわね」

 

『まあね… で、今日電話したのはそれ絡みでちょっと頼みごとがあってね』

 

「ん? 何々? 清澄(うち)で出来る事なら協力するわよ」

 

長野県立清澄高校と茨城県立大洗学園は友好校提携を結んでおり活発に生徒会同士の交流を行っている。

なので、久と杏はかなり顔を合わせているので気安い関係なのだ。

そのまま少し、他愛もない話を続ける二人。

 

「で、世間話をするために電話した訳じゃないでしょう? 大洗が廃校になるか否かの瀬戸際でそんな悠長なことする暇なんて無いだろうしね」

 

『流石に竹井ちゃん、鋭いなぁ… その通り、廃校回避のための布石だね』

 

「ふぅん、で、私は何をすれば良いわけ?」

 

『人手を貸してほしいんだよ。何か飛び抜けた実績を作れば取りあえず廃校の件は考えてもらえるって文科省の学園艦局の人から言質は取ったからね』

 

「役所が簡単に方針を曲げるとは思えないけど… まぁ、何とかするしかないってことね? どんな実績を作るつもり?」

 

『色々探ってみたけど… 戦車道で行こうっていう結論さ。6月あたりからチームつくって準備してきたんだけど… マンパワーが足りなくてね』

 

「単純なマンパワーなら、大洗(そっち)の生徒が山ほどいるでしょ? なんで清澄(うち)にヘルプを?」

 

『なに、スキルの関係さ』

 

「…清澄に求める人材がいるとは限らないわよ?」

 

杏の言葉に少し間をあけて答える久。

それはそうだろう、戦車道はチョチョっと教えて直にできるスポーツではない。

それなりの技術と経験がモノをいう。

杏がどんな人材を求めているかによるが…

そうそう適材が見つかるとは思えない。

 

『なぁに、買い出し雑用炊事経理事務仕事その他諸々が出来てコミュ力があって機械に強い… エンジンなんかを弄り慣れた人材なら最高だねぃ。加えて力持ちならば言うことなし!』

 

「…無茶言わないでよ、どれだけ高スキルな人間を欲してんのよ?」

 

杏の言を聴き、呆れたように返す久。

そんなハイスキルな人材がいたらぜひ清澄の学生議会本部に欲しい。

と言うか「何だ?そのチートは?」と心の中で突っ込む久。

が、事実は小説より奇なりと言い、意外と身近にそういう人材が居たりするのがお約束だが…

 

『ん。清澄の副会長の内木君に事前に連絡入れてね… 居るって言ってたよ? 確か、一年生で須賀京太郎君っていうらしいんだけど?』

 

その瞬間、受話器を握る久の手元からメキョっと嫌な音がする。

表情筋を引き攣らせ、どす黒いオーラを発し始める久。

よく見れば受話器に小さくない罅が入り、持つ手にも青筋が浮かび、かなりの力で握りこまれているのがわかる。

 

「……フフフ、冗談はあなたの身長位にしたらどう?」

 

『ほー… 言うじゃないか竹井ちゃん?』

 

「そもそも、そうハイハイと清澄の生徒を貸せるわけがないでしょ?」

 

『いやー確かにそうなんだけどねぇ… こちとら廃校か否かの瀬戸際なんだ、遠慮なんて出来ないって』

 

しばし久と杏のやり取りは続く。

自身の夢、インターハイ制覇の為に、京太郎に雑用ばっかり押し付け、入学してからの4か月を奪った負い目が彼女にはある。

京太郎は笑って気にしてないと言っているのだが、せっかく麻雀部に入ったというのに数えるほどしか牌に触っていない。

その償い…

いやそんな後ろ向きな理由だけでない。

同じ麻雀部員として、自分たちが体験した勝利の栄光、それを彼にも勝ち取ってほしい。

そんな思いがここ最近の久を突き動かしていた。

その為にも10月下旬の新人戦までの時間は金よりも貴重だ。

自分の時間を最大限彼の指導にあて、自分の持てる限りの技術・知識・経験を伝えるつもり、いや、麻雀部の総力を挙げて彼をサポートするつもりなのだ。

それなのに、京太郎にとっては無関係の高校の為に、その時間が奪われる…

久にとっては絶対に容認できない。

もっとも理由はそれだけではなさそうだが…

 

「女子高の部活の助っ人に、他校の男子とかどうなのよ?」

 

『言っただろ? こっちはカマす余裕なんて無いんだって』

 

おっぱい好きでちょっとスケベ、健全な男子高校生である須賀京太郎。

そんな彼を大洗女子学園(女の園)へ行かせたらどうなるか?

コミュ力の化け物である彼だ、下手しなくても大洗の生徒とデキる可能性は低くない、むしろ高いと言えよう。

実は久、密かに京太郎に想いを寄せている。

まぁ、京太郎にホの字なのは麻雀部員全員に共通しているのだが…

取りあえず、京太郎を取られるわけにはいかないと無意識に危機感を覚えた久は強硬に反対する。

 

「と、り、あ、え、ず… ダメなものはダメよ!」

 

『ふーん… 良いのかねぇ。そんなこと言って』

 

久の強硬な反対に怯むかと思いきや、杏の声からは余裕のようなものが窺える。

と言うかその声の様子だけで、悪魔のしっぽが生えた彼女を容易に想像できた。

 

「…何よ?」

 

杏の声にゾクッとした寒気を感じた久。

聞いてはいけない、そう頭の中の自分が囁くが聞かずにはいられない状況だ。

 

『いやー、私らが初めて会った時だっけ。清澄(そっち)の内木副会長が私を中学生と間違えてナンパしたんだよね』

 

「…は?」

 

『それだけじゃなくて、大洗の小っちゃい娘を中学生と間違えてナンパすること5回。いや~、天下の清澄高校の副会長様がロリコンとは恐れ入ったねぇ』

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

『まぁ、副会長だけだと思うけど… 副会長なんて言う要職の人間がロリコン、世間はどう取るかねぇ』

 

「………」

 

挑発するような杏の声。

暗にこちらの要求を受け入れなければ、このことをバラすぞと言っている。

良くも悪くも内木君は清澄高校の顔と言える学生議会の副会長だ。

下手すりゃ清澄高校の男子生徒すべてがロリコン… 清澄自体がロリコンの巣窟と言われかねない。

風評とはかくも怖い物なのだ。

 

(ま、まだ切り抜ける方法はあるはず… 負けてはダメよ、久! まだチェスで言えばチェックがかかっただけ、チェックメイトじゃないんだから!)

 

そう自分に言い聞かせる久だったが…

無情にも杏が追い打ちをかけてくる。

 

『それに大洗と清澄の校長先生に相談して許可は取ってあるよん』

 

チェックメイトだった。

校長の裁可まであるのなら一介の学生議会長が覆すのは難しい…

止め得るとしたら京太郎本人の拒否権だけだ。

膝から崩れ落ちてorzな久。

目の前が真っ暗になりそうだった。

 

 

…………………………………

……………………

…………

 

 

「…と言うわけなのよ」

 

時間は戻って清澄高校の部室。

久はちょっと前にあったことを洗いざらい話した。

流石にこの状況で久を責めるのは酷すぎる。

彼女は清澄の学生議会長だ、当然、清澄高校の生徒全員の利益を守る責任がある。

そんな彼女が『ロリコンの巣窟清澄』と言うレッテルが広がるのを容認するわけにはいかない。

部員たちはそのことを分かっている。

だから久への怒りの矛を収めた。

尤もその矛先の向かう先が代わっただけなのだが…

 

「副会長め… ロリコンも大概にせぇよ…」

 

「取りあえず、今度みんなでボコボコにしましょう… 麻雀で」

 

「フフフ… 泣きわめいてもカンは止めないんだから…」

 

まこと和と咲が昏い情熱を燃やしつつ、内木副会長への呪詛を吐く。

目は笑っておらず相当コワい。

優希など、どこからともなく藁人形を取り出し『内木』と書かれた紙と一緒に五寸釘を撃ち込んでいた。

 

「まあまあ、皆冷静に…」

 

苦笑いしながら宥める京太郎。

 

「…でね、須賀君。あなたの意見を聞きたいの…」

 

ため息を吐いて、力のない声で久が言う。

 

「麻雀部員の私としては貴方に行ってほしくない… でも、議会長としての私は貴方に行ってもらった方が助かる…」

 

「ひどい話だと自覚はしてるわ… 後は貴方の意思次第よ。どんな結論であれ、私は須賀君の決断を尊重するし、私は出来る限りの支援をするわ」

 

そういって京太郎の目を見据える久。

京太郎は顎に手を当てて「ふむ…」としばし考える。

そして、考えがまとまったのか口を開き…

 

「わかりました、大洗に出向きましょう」

 

と言った。

 

「須賀君! 新人戦は諦めるのですか!?」

 

目を見開き驚愕の表情で和が京太郎に詰め寄る。

自分たちの優勝の陰には京太郎の尽力在り。

彼女もそう認識していたからこそ、次の新人戦では京太郎に活躍してほしいと願っていた。

同じ麻雀部の仲間として栄光を掴んでほしい、その想いを袖にされたかのような返答なのだから、憤慨してもおかしくはない。

 

「まあ、落ち着け和。俺は新人戦を諦めるなんて一言も言ってないぞ」

 

「へっ?」

 

「どういうことだじぇ?」

 

肩透かしを食った和の間抜け顔。

優希も一体どういうことかと首を傾げている。

 

「何も、大洗に行ったとしても… 麻雀の練習が出来ないとは限らないからな」

 

そう言って、自分の考えを披露する京太郎。

曰く、大洗学園艦にも雀荘はあるだろうからそこで武者修行をする。

曰く、メールやチャット、ネット麻雀などを使って夜に皆と対局や情報の交換が出来る。

曰く、大洗で麻雀を打った場合、牌符をとっておきメールやチャットで指導を仰ぐ。

そして極めつけは…

 

「金曜の夜に向こうを出発して、土日は清澄で麻雀の練習すれば良い」

 

「む、無茶だよ! 京ちゃん!」

 

「そうじゃ! ワリャ清澄から大洗学園艦まで片道どれくらい時間が掛かるんか知っちょるか!?」

 

京太郎の無茶な発言に度肝を抜かれた咲達。

当然、猛反発する。

そりゃそうだろう、大洗学園艦は日本周辺を航行しているとはいえ海の上だ。

移動には船、もしくは航空機の利用が必須。

船の場合だと下手すりゃ1日は掛かるし、航空機に関しても茨城県からしか大洗学園艦行きの便は出ていない。

長野から茨城までの移動を踏まえるとかなりの時間がかかる。

物理的に不可能だし、何より金銭の問題が大きすぎる。

 

「それについては考えがあります。と言うか、当てがあるんですよ」

 

そう言い切る京太郎。

自信満々なその様子に、本当に言葉が無くなる咲、和、優希、まこ。

一方、久はため息をつきつつ…

 

「…須賀君、私や学生議会のことを考えているなら心配は無用よ。それは私が絶対に何とかするから…」

 

そういう久に、京太郎が右手を出して抑える。

 

「確かに部長のことも考えて… この結論にしました」 

 

久の「京太郎が、また、自分以外に配慮しているんじゃないか」と言う懸念を肯定する京太郎。

しかしその後、「だけど…」と言って続きを話す。

 

「どっちの選択肢を選んでも部長は自分を責めるか苦労するでしょ? 行かなければ大洗の生徒会長が仕掛けてくるだろう風評の対策。行けば俺を人身御供にして見捨てたと思い込んで負い目を感じる…」

 

京太郎の言う通りだろう、どちらに転んだとしても久には悪い事態しかない。

こういった読みがサッと出来るあたり、京太郎の頭の回転はそこそこ速い。

そして、その予測は京太郎にとっては許容できるものではなかった。

 

「部長にそんな思いをさせる訳にはいきません」

 

「それで両方選ぶということけぇ? 幾らなんでも無茶じゃ!」

 

「無茶は承知の上です。「淑女を守れる紳士たれ」 我が家の家訓です。それに、親父にはよく言い聞かせられてるんですよ… 「良いか、京太郎。道は一つだ、信念に従い行動する。それだけだ」ってね」

 

そう言い切る京太郎の表情は今まで見たことのないほど凛々しいものだった。

諌めようとしたまこすら、その表情に見惚れてしまう。

そしてその場の全員が悟る。

京太郎の決意を曲げさせることは出来ないということを…

 

 

…………………………………

……………………

…………

 

 

「…と言うわけなんだ。父さん、母さん」

 

「はぁ… 今どきの高校生は大変ねぇ」

 

「獣のお兄ちゃんをそんな乙女の園に放り込んで大丈夫?」

 

時刻は午後8時ごろ、須賀家では親子4人水入らずの夕食のひと時だ。

我らが主人公、須賀京太郎。

少しくすんだ金髪の長い髪をポニーにまとめた中学2年生の妹、須賀京子。

ちょっと釣り目な瞳に髪の毛は綺麗な茶色のショート、若々しい母親の須賀(旧姓:永瀬)ケイ。

帰化日本人であり透き通った青い瞳に綺麗な金髪を持つ一家の大黒柱、須賀エイノ。

これが京太郎の家族。

彼と妹の金髪は父親譲りなのだ。

 

「おい、京子… それどういう意味だ?!」

 

「フン! この間、おっぱいの大きい私の同級生見て鼻の下伸ばしてたくせに!」

 

「あらあら、京子はお兄ちゃんにベッタリねぇ。他の子に取られて寂しいのかしら?」

 

突如はじまった兄妹喧嘩。

しかし、母親のケイは微笑ましそうに感想を溢す。

そしてそれに京子が「ちょっと! お母さん! それどういう意味!?」と頬を染めながら突っかかるが、(ケイ)は涼しげな顔でどこ吹く風。

母親の貫録勝ちである。

そんな家族を微笑ましく見つつ、サラサラと締めのお茶漬けを掻っ込んだエイノは茶碗をテーブルに置きながら京太郎に声を掛ける。

ちなみにお茶漬けの添え物は信州名物野沢菜漬けである。

 

「…で、京太郎。足に当てがあると言ったが… アレのことか?」

 

「うん」

 

「…ふむ…」

 

顎に手を添えて何やら思案する須賀父(エイノ)

暫くして考えがまとまったのか、京太郎を見据えて徐に一言…

 

「京太郎、食後に一服したら父さんの仕事場に来い」

 

そう言って食後のお茶をすする父だった。

 

 

 

…………………………………

……………………

…………

 

 

 

「それにしても親父の奴、いきなり仕事場に来いとか何考えてるんだ…?」

 

ブツクサと文句を言いつつも父の言いつけを守って自宅に隣接する仕事場(ハンガー)へ向かう京太郎。

夕食の後の一服時に京子と口喧嘩と言う微笑ましい一幕もあったりした。

ちなみに2人仲良く母親の鉄拳制裁をもらって元の鞘(仲良し兄妹)に収まっていた

父・エイノの仕事だが、レシプロ航空機の整備、中古機の販売・レストア、整備部品の販売などを手掛けており、自宅横のハンガーも学校の体育館以上の大きさがあったりする。

そんな父の仕事場に足を踏み入れた京太郎、まっすぐに父親の元にはいかずまずハンガーの一角に足を運んだ。

 

「よう、今度から長距離飛行で世話になるぜ」

 

そう声を掛けた先にあるのは複葉複座の単発レシプロ機、主翼と胴体に細白線で縁取りされた日の丸(日本国籍マーク)、垂直尾翼には機体登録番号と所有者のパーソナルマークが誇らしげにペイントされている。

なお、通学に使用していないので清澄の校章は描かれていなかった。

この全体をオレンジ色に塗られた川西九三式中間練習機(赤とんぼ)・K5Yは京太郎の愛機だ。

 

「おう、来たか京太郎」

 

「で、いきなりここに呼び出しって何の用だよ、父さん」

 

まぁ、座れと入り口付近の応接セットを指さすエイノ。

対面でソファーに腰を掛けると早速、エイノが話を切り出す。

 

「K5Yで大洗に通うって話だがな… 止めておけ」

 

「なっ! なんでだよ!?」

 

父親の言葉に突っかかる京太郎だが、とりあえず抑えろと手でジェスチャーされて大人しくソファに座りなおす。

 

「なにも大洗に行くなって話じゃあない、K5Yが適してないって話だ」

 

「…航続距離は足りると思うんだけど…」

 

「K5Yの航続距離は凡そ1000kmだ… 房総半島か伊豆半島の先端あたり、館山か下田で給油すれば確かに小笠原まで届く。心もとないが出来ないことは無いな」

 

「ならどうして…」

 

「最大の理由は速度だ、巡航で150 km/hだぞ? 900 km飛ぶとして6時間… お前、部活で疲れた体で6時間も操縦できるか? おまけにK5Yは中間練習機、洋上航法装置や無線帰投方位測定器なぞ積んでないんだぞ?」

 

「うっ…」

 

「それに対気速度で150 km/hなんだ、風向きによっちゃ短い航続距離が更に短くなる。そんなことが分からんお前ではあるまい。ちょっと頭を冷やせ」

 

そう言ってコーヒーの入ったマグカップを傾ける父。

反発はするが心底慕っている父親の言葉に徐々に冷静になっていく京太郎。

 

「…じゃあ、どうするんだよ…」

 

「アレをお前にやる」

 

そう言って親指で後ろに駐機してある機体を指さすエイノ。

 

「…N1K2? 良いのかよ、アレ、父さんの大切な機体じゃないのか?」

 

N1K2-J、川西航空機が製造した旧海軍最後の量産型戦闘機で紫電二一型とも紫電改とも呼ばれる機体だ。

レシプロ機としてはトップクラスの性能を持っている。

だた、ハンガーに鎮座しているこの機体、ちょっと見には紫電改とは判別しづらい。

その原因は塗装にある。

大戦後期の日本海軍機は濃緑に塗装されているものがほとんどなのだが…

この紫電改は基本色がグレーのロービジ迷彩で主翼、垂直水平尾翼の先端半分が濃いブルーに塗られている。

国籍マークも大戦機よりも小さく、垂直尾翼には機体登録番号である「VL032」と首輪に繋がった鎖を噛み切ろうとしている赤い番犬のパーソナルマークが描かれている。

 

「フフ… お前もようやく一人前の男になったみたいだからな、一人前の男ならそれなりの機体に乗らないと、な…」

 

「あの機体なら増槽を積めば2300 kmは飛べるし、巡航速度も370 km/hは出る… エンジンは最新の誉エンジンを載せ替えた、フレームなんかもチタン合金製に交換してあるし、洋上航法に必要な機材も最初から載せてある。今からでも飛べるぞ」

 

父親からその息子に受け継がれる愛機。

ハンガーの天井の照明に照らされるその銀翼はどこか誇らしげだった。

 

 

 

…………………………………

……………………

…………

 

 

 

そして日は流れ、京太郎が大洗に出向く日がやってきた。

朝早くから咲たち麻雀部5人娘は松本空港へ京太郎の見送りに来ていた。

 

「あっ、咲ちゃん! こっちこっち!」

 

「おばさん、おはようございます!」

 

京太郎の母親が咲を見つけて手を振りながら呼ぶ。

咲は京太郎の幼馴染なので須賀家の面々とも親しいのだが…

何故か京子は咲のことを警戒している様子が伺えたりする。

 

「それにしても、京太郎がヒコーキの免許もっとるとは驚きじゃ」

 

5人娘+ケイと京子の7人で一般貸出の駐機エプロンに向かいつつ、まこが零す。

それに和優希久はうんうんと相槌を打って同意する。

この世界、レシプロ限定なら試験に合格さえすれば年齢に関係なく操縦士資格が取得できる。

かなりのレアケースだが小学生でも免許を持っている強者も居たりするのだ。

特に通学に時間のかかるド田舎の中学生や高校生なんかは通学に使う目的で免許を持っている割合が高い。

尤も、都会なんかではヒコーキは不良の乗り物と偏見を持たれたりしているのだが。

閑話休題(それはともかく)

女が三人寄れば姦しいと言うが、7人も集まっている… 当然話は盛り上がる。

おしゃべりしている間に目的の場所に到着する。

 

「おう、京太郎! おはようだじぇ!!」

 

久しぶりに大空へ飛び立つ機体だったので、出発前の最終点検を念入りに行っていた京太郎と京太郎父。

もちろんエイノは日ごろの整備を怠っていないので機体の状態は完璧だ。

しかし、念には念をと言うことで二人はオイルまみれに成っていた。

そんな京太郎におはようの挨拶と同時に抱きつく優希。

受け止めようにも両手はオイルまみれ、受け止めることができずに少しよろける。

 

「須賀君、おはようございます。 …やっぱり向かうのですね…」

 

「京ちゃん、おはよう。これ5人で早起きして作ったんだ、途中で食べてね」

 

少々残念そうな表情の和と、アルマイト製の大きな弁当箱を渡す咲。

中身は昨日から仕込みをして5人で作った手作り弁当、中身は当然、パイロットご飯の巻寿司だ。

 

「まあ、気を付けて行きんさい。向こうに着いたら連絡せえよ?」

 

これから遥々1000 kmに及ぶ長旅に向かう京太郎をねぎらうまこ。

ついでに向こうでの生活を報告するように約束を取り付けたのは一年生にはない年上の貫録。

 

「おはよう、須賀君。学生議会本部がしっかりしてないせいで、君にこんな負担を負わせて… 本当にごめんね」

 

挨拶と同時に、申し訳なさから未だに謝ってくる久。

しかし彼女は天下の清澄高校学生議会長兼麻雀部元部長である。

謝るだけの能無しではない。

 

「大洗の生徒会と話を付けたわ、向こうの希望でこうなったんだからね、色々要求をねじ込んだわよ!」

 

「…具体的には?」

 

明るい声でハッスルして宣う久に若干引き気味で答える京太郎。

 

「須賀君が向こうに滞在する時の生活費、毎週週末に帰ってくるときの往復のガス代に消耗品代、大洗学園艦の雀荘の利用料金、それと金曜の17:00から次の月曜までは拘束しないことを呑ませたわ」

 

楽しそうに語る久。

テンション高く「いやー、電話越しの杏の引きつった声が良かったわー」と宣う表情は今日の天気以上に晴れやかだ。

麻雀部面子全員がドン引きしてなければ時微笑ましい光景だったが…

息子たちのやり取りを微笑ましそうに見ていた京太郎の両親。

エイノがチラッと腕時計を確認して京太郎にそろそろだと促す。

 

「京太郎、そろそろシャワー浴びて着替えてこい、後は俺がやっておく。それと航空管制部に行って悪天予想図(FBJP)離陸用飛行場予報(FCST)は確認しておけよ?」

 

「ああ、分かったよ父さん」

 

返事をしてターミナルビルの方へ歩いていく京太郎。

そんな彼を名残惜しそうに見つめる麻雀部の面々。

そこへジッと黙っていた京子が声を掛けた。

 

「私、ヒコーキで上空まで飛んで兄さんを見送るのですが… もう一人だけなら乗れますよ」

 

ただちに第一回清澄高校麻雀部大じゃんけん大会が開催されたのは言うまでもない。

 

 

…………………………………

……………………

…………

 

 

 

『Victor Lima 032, Runway 18, Runway is clear, wind calm.(VL032、ランウェイ18上に障害物なし、風は無風)』

 

『Roger, Runway is clear, Victor Lima 032, Thank you.(了解、ランウェイに障害物なし、VL032、ありがとう)』

 

レディオとの交信で滑走路上に障害物がない事を確認した京太郎。

ぐっとスロットルレバーをゆっくり押し込むと、搭載された星形18気筒エンジンがそのパワーを開放する。

エンジンによって機体が加速し、その心地よい加速感とエンジンから響く独特の誉サウンドが気分を高揚させる。

スピードが乗り離陸決心速度(V1)を越え、機首引き起こし速度(VR)に近づくにつれ迎角を取っていた機体が次第に水平になっていく。

VRを越えて機体が浮き上がり安全離陸速度(V2)に達したのを確認すると操縦桿を引き、ぐんぐん機体を上昇させていく。

 

「やっぱり、空は良いなぁ」

 

眼下に流れていく故郷の大地を見つめながら空の蒼さを堪能する京太郎。

父親と母親の血の影響か、彼も生まれつきの飛行機乗りのようだ。

 

「さて… 大洗学園艦は小笠原沖を航行中だからな… 南南東に進路を取って… ん?」

 

巡航高度まで上昇して進路を変更しようとした矢先、視界に何かが映った。

 

「おいおい、京子のやつ…」

 

それはオレンジ色に塗られた九三式中間練習機だった、尾翼のマークも見覚えがあると言うか自分の乗っていた機体だ。

父親と母親はエプロンで見送っていたから、誰が操っているかは一発でわかる。

露出した操縦席から愛しの妹が手を振っているのが見える、そして、後部座席にもう一人乗って手を振っているのも確認できた。

 

「あれは… 咲か? ようし…」

 

速度を落とし、ぐっと機体を京子と咲の乗る赤トンボに近づける。

ギリギリまで近づいたら手を振り返し、手信号で京子にメッセージを送る。

そして機体を大きくバンクさせ、速度を上げつつ今度こそ大洗に向けて進路を取る。

目指すは小笠原沖、南南東の空!

 

 

 

…………………………………

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…………

 

 

 

「京ちゃん、行っちゃったね…」

 

「そうですね…」

 

京太郎を見送った咲と京子。

京太郎機が見えなくなると手を振るのを止めて、伝声管で話をしていた。

 

「さっき京ちゃんがジェスチャーでなんか言ってたけど… なんて言ってたの?」

 

「…秘密です」

 

「えー、教えてよ! 京子ちゃん!」

 

黙秘権を行使する京子に抗議の声を上げる咲。

京太郎が何を言ってきたのか気になって仕方がないのだ。

 

「咲先輩…」

 

「ん? 何?」

 

「私、負けませんから…」

 

操縦桿を握る手に力を込めて、何やら心に決めた京子であった。

 

 

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…………

 

 

 

離陸してから凡そ3時間…

途中で皆のお手製の巻寿司で腹を満たし、サイダーで喉を潤した。

もちろん、サイダーを噴出させてキャノピーにブッ掛けるなんて無様なマネはしない。

ちなみに巻寿司、それぞれ作り手の特徴がよく出ていた。

優希の巻寿司などはタコスの味がするある意味ブッ飛んだ代物で、苦笑いがこぼれるのを我慢できなかった。

それなりに食える味になっていたのが不思議ではあったが…

 

「さて… そろそろ見えてきてもいいんだけど…」

 

低く唸るエンジン音を聞きつつ洋上を見渡す。

30分ほど前に学園艦から常時発せられる電波信号を受信しているので進路に間違いはなかった。

 

「…見えた、2時の方向」

 

水平線の先にポツンと艦影が現れたのを京太郎は見逃さなかった。

 

 

 

 

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…………

 

 

 

 

 

「おーい、全員集合!」

 

午前の10時を回ったころ、大洗女子学園のグラウンドで生徒会長の角谷杏が戦車道履修者に全員集合の号令を掛けていた。

凡そ22人の大規模と言うか小規模と言うか微妙な人数が大洗戦車道チームの全員である。

 

「よし、全員揃ったな。会長から重大発表がある」

 

メンバーのうち生徒会役員を除く19人が集まったことを確認した河嶋桃。

今時珍しく片メガネをかけている大洗生徒会の広報担当だ。

 

「はい! 重大発表って何ですか?」

 

手を挙げて元気に質問するのは武部沙織。

料理洗濯掃除など家事が大得意の女子力の高い二年生だ。

ただ、恋に恋する少女でもあり、モテる為に如何なる努力も惜しまない行動力からついたあだ名が『婚活戦士ゼクシィ武部』…

幸い本人の耳には未だに入っていない、まさしく知らぬが仏と言えよう。

 

「長野の清澄高校って知ってるか? 大洗女子の友好提携校なんだけど」

 

杏の言葉に全員が首を縦に振る。

そりゃそうだろう、麻雀と言えば戦車道よりも広く一般に普及している競技だ。

その麻雀のインターハイを初出場で制するという特大の大金星を挙げた高校、それが清澄高校だ。

当然、全国レベルのニュースで流れていたので、みんな知っている。

 

「その清澄高校から1人だけど助っ人がやってくるんだよね、しかも買い出し雑用炊事経理事務その他諸々が出来て機械に強い人材が。エンジンも弄れるって話だ」

 

皆の口から「おおぉ!」と感嘆の声が漏れる。

聞く限りチートと言っても差し支えない人間が自分たちの味方に加わる、期待が膨らむというものだ。

 

「はい! その御方はいつ来られるのでありますか!?」

 

「もうそろそろ来る頃なんだけどねぇ…」

 

元気に手を挙げて質問するのは秋山優花里。

かなり癖っ毛の二年生で、戦車が大好きな少女、常に鞄の中にサバイバルグッズが入っているなど筋金入りである。

 

「まぁ、どんな人間かは会ってからのお楽しみってことで…」

 

杏がそう締めると、周りからブーイングの嵐。

桃が注意… と言うかキレて喚いたり、副会長の小山柚子が宥めたりと、少女が22人も集まるとまさしく喧しい。

そんな賑やかな空気の中に小さいが異音が入り込んでくる。

 

「ん? なんだ、この音は…?」

 

誰が言ったかは分からないが、確かに「…ゥゥゥゥゥゥゥゥ…」と唸るような音が聞こえる。

 

「…来たねぇ、かーしま!」

 

「はい! おい、バレー部! この旗をもって思いっきり振れ!」

 

桃が元バレー部のメンツに渡したのは蛍光色の黄色と青色の超大型の旗が4つだ。

ハッキリ言って掲げるだけでもしんどいサイズ、これを振るなど普通の女子では無理だろう。

だから比較的体力のある元バレーのメンツに渡したのだ。

渡された方はたまったものではないが…

取りあえず、言い渡されたことはこなさなければいけない。

ぶつくさ文句を言いながらも旗を振り出すバレー部。

その内、異音ははっきり「ヴォォォォォォオ…」と聞き取れるようになってくる。

 

「これって… エンジン音?」

 

戦車道家元の次女、西住みほが呟く。

疑問形なのは彼女が乗る戦車のエンジンは水平対向エンジン、V型エンジン、直列エンジンが殆どで、この独特な音を聞き慣れていないからだ。

誰の耳にもハッキリエンジン音が聞き分けられるようになったとき、音の主が遂に県立大洗女子学園の空に姿を現した。

 

「キャァァアア!」

 

「ええっ! ヒコーキ!?」

 

まるで地を這うかのような超低空飛行で学校に侵入してきた飛行機。

度肝を抜かれた少女たちの中には腰を抜かして尻もちを搗いている者もいる。

 

「ゼロ戦! ゼロ戦だ!!」

 

本当は紫電改なのだが、飛行機… 特に戦闘機に詳しくない一般人には零式艦上戦闘機と紫電改が同じに見えるのは仕方ないのだろう。

一旦、グラウンド上空をフライパスした紫電改はそのまま180°ループを打ちながら上昇し、最高点でハーフロールを打つ…

所謂インメルマンターンで方向転換を行い、再びグラウンド上空に侵入する。

今度は機速を落として、グランドの様子を伺いつつフライパス。

充分に距離が離れたところで旋回し、グラウンドへの最終着陸態勢(ファイナルアプローチ)に入った。

 

「着陸してくるぞぉ!!」

 

徐々に高度を落としつつ、接近してくる紫電改。

もうすでに主脚は降ろされていて、着陸の準備は万端。

そしてグラウンドの端に差し掛かるとさらにエンジンを絞って高度を落とす。

機体が水平のまま主脚が地面に接し、さらに速度を下げて尾輪が接地する。

向かい風を完璧に捉えた、滑らかな美しい着陸だった。

着陸を決めた紫電改は10 ktほどの速度でタキシングし、大洗戦車道メンバーの近くまで移動してくる。

 

「ふわぁあ…」

 

間近でレシプロ戦闘機の着陸を初めて見たためか、誰ともなく感嘆の声が漏れる。

近くに来ると停止し、エンジンが切られプロペラの回転が止まる。

そして、キャノピーが開き中から濃緑の飛行服を着た180 cmはある人物が出てくる。

 

「大洗女子の戦車道の方たちですか? 清澄高校の須賀京太郎です。学生議会の依頼で助っ人に参上しました」

 

飛行眼鏡と飛行帽を脱ぎながら自己紹介する京太郎。

 

「大洗生徒会長の角谷杏、ようこそ大洗女子高校へ。歓迎するよ、須賀君」

 

ここに本来交わるはずのなかった戦車道と麻雀、違った青春を過ごす少年少女たちの物語が始まる。

 




今回はほとんど清澄と移動の話で大洗メンバー出せなかった…
次話からはちゃんと出るから、主砲をこっち向けないでください

京ちゃんと妹ちゃんに操縦技術を叩き込んだのは両親です。
いったい何者なんだ…?

ちなみに作者、飛行機大好きでエスコン信者です。

次話の投下は少し時間がかかるともいますので気長に待っていてください。

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