紅魔館マッサージ   作:yourphone

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変なTシャツヤローの場合

「昔々、あるところに」とはよく言うものの、では現在の事や未来の事はどう表せば良いのだろうか。

 

ま、これは過去の事だから「ついさっき」で良いですかね!

 

ついさっき私の家、守矢神社で

 

「あ、貴女は変なTシャツヤローじゃないですか」

「あら? そんな事言われたのは初めてね」

「あれ?」

 

そんなやりとりがあったとか。

 

『あらん? この間貴女も会ったでしょう?』

「知らないよ? ・・・あ、いや、あの時か。夢の中で弾幕ごっことやらをしたときの」

『そうそう。その子は私の服のセンスが分からないようなのよ』

「安心して? 私自身にも分からないから」

『酷い』

『何時も通りだねー』

 

「えぇと?」

「あらごめんなさい。ほら、私って体が三つある上にそれぞれが意識を持っているじゃない? だからたまに、こういう事が起きるのよ。私は地球のヘカーティアよ、宜しく」

「は、はぁ」

 

この神様は、相変わらず、いえ、服装の通りブッ飛んでますね。

 

「それで何の用ですか? 神様に信仰されても嬉しく無いんですけど」

「んーとねぇ。私の部下の、クラウンピースって知ってるわよね?」

「あー、あの鬼畜妖精ですか。あいつが何か?」

「居なくなったのよ」

「はい?」

「だから、居なくなったの。跡形も残さず」

「はぁ」

 

それで探している途中、と。うちに来たのは偶然ですかね。

 

「どうして居なくなったとか、何とか、心当たりは?」

「んー。それが異界の私が教えてくれないのよ。渡されたのはこれだけ」

「手紙? どれどれ」

 

そこには、下のように書いてあった。

 

『ご主人様へ。私、クラウンピースにはご主人様と友人様の相手を同時にするのは手に余ります。ですので、ちょっとの間休暇を頂きます。存分に、体を休ませて頂きます。ご容赦を。』

 

「えーと、これでどうしろと?」

「貴女、クラウンピースを見なかった?」

「見てませんね」

 

と言うか、もう会いたくない。

 

「どうしよぅ、このままだと異界の私に怒られちゃうわ」

「まぁ、少しは手伝いますよ。昨日の敵は今日の餌って感じで」

「餌!?」

 

大幣をバッサバッサと振る。

奇跡~奇跡~奇跡が~おこーる。

 

「はっ! 閃きました」

「え、どうなの!?」

「はい! 英国気違い、もといクラウンピースは恐らく、紅魔館に居ます!」

「な、なんだってー!    で、えっと、紅魔館って何?」

「ズコーッ!」

 

古きから伝わる必殺のずっこけ。まさか使う時が来るとは。

 

「こ、こほん。紅魔館はレミリアさんとか、咲夜さんとか、まあ、言ってしまえば吸血鬼の館ですね」

「吸血鬼。吸血鬼かぁ。クラウンピースは妖精だから、まさか血を吸われたりは無いと思うけどねぇ」

「多分、マッサージされに行ったんだと思いますよ」

「マッサージ?」

「はい」

 

分かりやすく説明する。

 

曰く、マッサージ師は可愛らしい吸血鬼の女の子(つまりフランちゃんウフフ)。

 

曰く、マッサージ自体は物凄く効果がある。

 

曰く、代金はお金か少量の血で良いらしい。

 

 

「私も一度行きましたけど、何故か門前払いくらったんですよねー。何ででしょう?」

「さ、さぁ? とにかく、クラウンピースはそこに居るのね?」

「恐らくですけど」

「ありがとう! また来るわ!」

 

そして飛び立つ変なTシャツヤローのパンちらを見ながら、呟く。

 

「そっち、方向違います」

 

 

 

 

 

 

永遠亭にて。

 

「え、ここ紅魔館じゃないの!?」

「ええ。うどんげに送らせますから、帰ってください」

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで。やっとこさ紅魔館に着いたよ、私」

『遅い。速くして』

「ちょっと! 元々は私が悪いんでしょ! 私が尻拭いするのは、本来おかしいんだから!」

『まぁまぁ、落ち着いてよ地球の私』

『本当は月の私に行かせたかったんだけどね。地球の私が一番近かったから仕方無く選んだのよ?』

「何で今それを言ったの!?」

 

話ながら紅魔館の中へ。

 

喧嘩してるように見えて、実はただのお喋りなのよね。

自分同士で喧嘩することほど詰まんない事は無いわよん?

 

「すみませんお客様」

「うわっと」

 

急に目の前にメイドさんが出てきたわ。

面白そうな能力ねぇ。ま、今はそれどころじゃ無いんだけどね。

 

「今日の営業は終了しました。また次回、来てください」

「あら、違うのよ。私はね、部下のクラウンピースを探しているの」

「クラウンピース、ですか」

「そうよ。ピエロみたいな格好の地獄の妖精よ」

「ピエロ、ですか」

 

『怪しいね。月の私がビビッと来たよ』

『そうなの?』

「じゃあ問い詰めてみるわよん」

 

「ねぇ貴女」

「何でしょうか?」

「クラウンピースの居場所、知らない?」

「すみません。存じておりません」

「そう? でも」

 

すっ と右手の人差し指でメイドの鼻を押さえる。

 

「貴女の目は、知ってるって言ってるわよ?」

「……気のせいでしょう」

「私はこんなんでも神様よ? 嘘を見抜くなんてちょちょいのちょいよ」

 

嘘よん。まぁ、そういう魔法を使えば良いだけだけども。

 

「成る程。仕方ありませんね。こちらへどうぞ」

 

メイドが紅魔館の中へ入っていく。

私も、それに続く。

 

「クラウンピース~! 居るんでしょ~!」

「お客様。お静かに」

「あらん? そんなに睨まないでよ。分かったから」

 

スタスタと歩いていく。

 

「こちらです」

 

案内されたのはとある扉。

 

『中には強敵がいる気がする…』

「しないわよん?」

『入りますか? はい いいえ』

『はい一択ね。ほら、地球の私、さっさと入りなさい』

「命令しないで欲しいわ」

 

中へ。

 

 

 

そこには

 

「はぁ~~~~~~癒される~~~~」

 

今まで聴いたことの無い、『気持ちいい時に発する』声を出しているクラウンピースと、

 

「あれ? 咲夜、この妖精で終わりじゃ無かったの?」

 

クラウンピースに跨がっている吸血鬼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラウンピース、何やってるのかしらん?」

「ご主人様!? どうしてここに!?」

「勝手に出ていっちゃうんですもの、逃げた部下を探すのは主人の役目でしょう?」

 

ヘカーティアがクラウンピースに詰め寄っていく。

しかし、咲夜に止められる。

 

「お客様。少々お待ちを」

「あら、危ないわよ? 私に刃を向けるなんて」

 

咲夜の持つ銀のナイフは、ヘカーティアの首元に押し付けられ、鈍く光っている。咲夜が少しでも動けば、ヘカーティアの首からレミリアの食料が吹き出るだろう。

 

「妹様。こちらは気にせず、マッサージをお続けください」

「う、うん。はい、お客さん。もうちょっとだからリラックスしてね?」

 

フランドールは、どうしていいか分からずオロオロしているクラウンピースを改めてベッドに寝かせる。

 

「私たちは外に出ましょうか、お客様?」

「ふーん? 私と弾幕ごっこでもしたいのかしらん?」

「どう受け取ってもらっても結構。あの妖精の所在が分かったんですから、ここに留まる必要はないでしょう?」

 

目で牽制しあいながら部屋を出る二人。

 

外から聴こえてくる弾幕ごっこの音をBGMに、フランドールはクラウンピースの『目』を握る。

 

「ご主人様、大丈夫かなぁ」

「大丈夫だよ。咲夜は強いし、万が一怪我をしちゃってもマッサージ出来るしね!」

 

盲目的に咲夜を信じるような声を出すフランドール。

『目』を握る力加減は常に一定だ。

 

もはや、他の事を考えながらでも的確な力で『目』を握る事が出来る領域――プロの領域にまで、フランドールは到達していた。

だからこそ、フランドールは気を緩めない。

 

咲夜に言われた事が頭に残っているから。

 

『妹様。他の事を考えながらマッサージするのは危険ですし、何よりお客様に失礼です。疲れてしまうでしょうが、マッサージするときは気を緩めないようにしてください』

 

「気持ちいいですか?」

「う、ん。気持ちいいよ、お姉さん」

 

クラウンピースから見たらフランドールは『お姉さん』なのか。『悪魔の妹』であるフランドールにとって、『お姉さん』と呼ばれるのはなかなか無い。

あまりに嬉しくて、つい数日間引き留めてしまったが…潮時なのだろう。

 

「ねぇ、クラちゃん」

「何? お姉さん」

「ずっと引き留めちゃってごめんね」

 

少し悲しそうな声で話しかけるフランドール。

その声を聞いて、クラウンピースは

 

「良いんだよ、お姉さん! あたいは楽しかったよ?」

 

笑顔で返す。

 

「何、また来るさ。今度はご主人様と友人様も連れてくるよ」

「そうなの? また、来てくれるの?」

「うん!」

 

 

 

 

数分後、フランドールはクラウンピースのマッサージを終える。そして、弾幕ごっこに僅差で負けたヘカーティアのマッサージを始めるのだった。

 




紅魔館マッサージに、常連客が一人増えました。

人間、妖怪、神様。
種族問わずマッサージする妹様は天使なのでしょうか。
いいえ、悪魔です。

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