ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

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144ありんすちゃんリベンジする

〈ん? どうした?〉

 

〈アインズ様。先程ありんすちゃんが戻ったと姉から報告を受けました〉

 

 アインズはアルベドからの〈メッセージ〉を受けて思案を巡らせました。

 

〈わかった。私もすぐに氷結牢獄へ向かう。アルベドよ。そこで落ち合おう。詳しい話はそこで聞こう〉

 

〈かしこまりました〉

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「さて、報告を聞こう」

 

 ナザリック地下大墳墓 第五階層の中にある〈氷結牢獄〉でいつものイベント──狂乱するニグレドに赤子を模した人形を渡す──を終えたアインズはさっそく尋ねました。

 

「……はい。……それが……そのう……」

 

 何故かニグレドの口が重い様子なのにアインズは不安を覚えました。

 

「……アインズ様。ありんすちゃんはどうやら負けたようです」

「…………なん……だ……と?」

 

 姉のかわりに答えたアルベドの言葉にアインズは絶句しました。無理もありません。ありんすちゃんは幼児の姿ではありますが、ナザリックの階層守護者の中でも最強の一角を誇る実力者です。しかも念のためにワールドアイテムを渡しておいた筈です。

 

「……相手が何ものだったのかは不明です。突然地上のログハウスの近くに転移してきたと思ったら、泣きながら〈屍蝋玄室〉にとじ込もってしまったそうです」

 

 ニグレドが簡潔に報告します。

 

「ありんすちゃんは泣きながら『負けちぅくやちいでありんちゅ』とか『アイテムルビキュのしぇいで負けたでありんちゅ』とか叫んでいました」

 

「……負けた、だと? ルビキュ? ワールドアイテムなのだろうか?」

 

 愕然とするアインズにアルベドがとりなします。

 

「恐れながらアインズにおかれましては直ぐにもありんすちゃんを召喚し、事情を聞くべきかと思われます」

 

「うむ。そうだな。まずはありんすちゃんから詳しい話を聞かねばなるまい。……ニグレドよ。ありんすちゃんは今、どうしている?」

 

「あれからずっと〈屍蝋玄室〉にとじ込もっているようです。魔法阻害障壁があるようで、中の様子は確認出来ませんが……」

 

 アインズはしばらく考え込むと静かに言いました。

 

「……仕方ない。今日はそっとしておいてやろう。ありんすちゃんは幼児に過ぎないのだからな」

 

「…………かしこまりました」

 

 アインズはニグレドに引き継ぎ監視を続けさせる事にすると、エイトエッジアサシンを呼び出し屍蝋玄室に向かわせました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 屍蝋玄室のベッドにもぐり込んだありんすちゃんは泣いていました。

 

『……くっ……こうなればこれで勝負だ!』

 

『ルビキュ!』

 

 ありんすちゃんはハーフエルフの少女が取り出したアイテムを見て思わず叫びました。そのままでも勝負はありんすちゃんの勝ちで決まったはずでした。そう、ありんすちゃんがルビクキュー対決さえしなければ……

 

『しょの勝負うけちぇあげるでありんちゅ! どうしぇありんちゅちゃが勝ちますでありんちゅ』

 

 ありんすちゃんは鼻からフンスと息を吐きました。ありんすちゃんには自信がありました。だって──『ありんすちゃん様。流石です。私たちでは到底敵いません』──シモベのヴァンパイア・ブライドは誰一人ありんすちゃんにルビクキューで勝てませんでした。ありんすちゃんは得意気にルビクキューの好きな色をどれでもあっという間に揃えてみせます。ありんすちゃんはナザリックでのルビクキューチャンピオンでした。

 

『相手は……漆黒聖典隊長“漆黒聖典”だッ!』

 

 ありんすちゃんと“漆黒聖典”との対決は呆気なくつきました。ありんすちゃんは1面しか揃えられないのですが、“漆黒聖典”は3面まで揃えてしまうのでした。

 

『──うわわわーーん!』

 

 ありんすちゃんは大声で泣きながら腕をグルグル回しながら走り出しました。ドヤ顔のハーフエルフ、戸惑い顔の“漆黒聖典”、次々にありんすちゃんは殴りつけます。

 

 様々なモノを殴り倒しながらありんすちゃんは駆け続けました。気がつくとありんすちゃんは別の都市に来ていました。

 

 うーん……仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「出来ちゃでありんちゅ! こりでありんちゅちゃは負けないでありんちゅ!」

 

 〈屍蝋玄室〉にこもっていたありんすちゃんは高々とペンキまみれの立方体を掲げました。どうやらルビクキューのようです。

 

 なるほど。この塗り替えたルビクキューと気がつかれないようにすり替えるつもりですね。ありんすちゃん、なかなかズル賢い──ゴホンゴホン。戦略的頭脳が優秀ですね。

 

「こりで負けないぜたい、ぜーたい、でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは鼻息も荒く、ナザリックを飛び出していきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

〈──アインズ様。ありんすちゃんがナザリックを出ました。まだ、転移をしませんが、姉にオーレオールとのリンクをさせて転移先を追いかけます〉

 

〈うむ。転移先が判明したら座標を教えろ。私とアウラ、マーレとで現地に向かう。なにしろ我が階層守護者に打ち勝つ存在だからな。ワールドアイテムの一つは持っているとみて間違いない〉

 

 アインズは脇に控えるアウラとマーレに目をやりました。

 

〈わかりました。念のためわたくしも直ぐにアインズ様の元に駆けつけられるように致します〉

 

〈うん? まあ、アウラとマーレがいるから大丈夫だろう。まあ、それでも万が一にアルベドに備えてもらうのも良いな。さて……〉

 

〈……アインズ様。ありんすちゃんが転移しました。転移先は──スレイン法国です!〉

 

「……予想通りだな。よし、では行こう。〈ゲート〉」

 

 アインズは〈ゲート〉を開くとアウラ、マーレと共に法国に向かうのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 スレイン法国に着いたアインズ達の前に現れた光景は──

 

 ふんぞり返って得意そうなありんすちゃんと土下座をする法国の神官達──

 

「どうか我々の降伏を認めて頂きたい」

 

 最高神官長が弱々しい声で言いました。

 

「ダメでありんちゅ! ありんちゅちゃはルビキュで勝ちゅますでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはキョロキョロとあたりを見回しました。どうやら“漆黒聖典”を探しているみたいですね。

 

「……“漆黒聖典”も“絶死絶命”も貴女様に殴られて絶対安静の状態です。もう、法国には貴女様に歯向かう事は出来ません」

 

「!!」

 

 ありんすちゃんは口をポカンと開けました。

 

「……じゅるいでありんちゅ! 勝ち逃げしるゆるちゃないでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは腕をグルグル回しながら駆け出しました。

 

「──ウグェ!」「──フングッ!」

 

 ありんすちゃんに殴り飛ばされた最高神官長達が空高く飛んでいきます。

 

「──そこ、まで、だ……この最強の“絶死絶命”が相手になるッ! ……グハァ……」

 

 崩れかけの建物からヨロヨロと銀髪と黒髪のハーフエルフが姿をあらわしました。

 

「……勝負しるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんのリベンジが始まりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

「……アインズ様。どうします?」

 

 ずっと様子を離れて見守っていたアウラが尋ねました。

 

「…………帰るか……」

「はい。アインズ様」

「はい。……では、〈ゲート〉……」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「こりでありんちゅちゃの勝ちでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは得意気にルビクキューを掲げました。ベタベタと塗りたくったニセモノのルビクキューです。

 

「──いや、それはニセモ──グハァ!」

 

 番外席次は思わず叫ぼうとした神官を殴り黙らせます。

 

「……うわースゴーイ。全部そろーてるー! ワタシの負けダワー!」

 

 何故か棒読みでありんすちゃんの勝利を讃えると、ありんすちゃんはさらに胸を反らしてふんぞり返ります。

 

「……また、あの幼女を泣かせてみろ? 法国は跡形もなくなるぞ。いいか、絶対に泣かせてはならない」

 

 番外席次は小声で皆に言い聞かせます。うーん。 

 

 かくしてありんすちゃんの大活躍でスレイン法国はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の傘下に入る事になったのでした。

 

 もちろんありんすちゃんにはスレイン法国が降参した本当の理由は知るよしもありませんでした。

 

 仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ、5歳児位の女の子に過ぎないのですから。

 

 


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