ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

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104ありんすちゃんテニスをする

「え? テニス? ……ふーん。面白そうだね」

 

 ローブル聖王国から戻ってから数日後、ありんすちゃんはアウラとマーレを訪ねてナザリック地下大墳墓の第六階層に来ていました。

 

「あの、ありんすちゃん。……そのラケットって、その……シモベを使うのは、あの、まずいんじゃないかな?」

 

 マーレの言葉にアウラも腕組みして頷きます。

 

「うん。うん。シモベ達もさ、ナザリックの仲間なんだし、あたしも物扱いするのはどうかと思うけどな?……そういや、ありんすちゃんってシモベの扱い、酷くない? この間ヴァンパイア・ブライドを立たせて『ぼうりんぐ遊び』とかってやっていたらしいじゃん」

 

 ありんすちゃんは二人の批判を受けて、思わず口をパクパクさせました。上手く言い訳をしようとしますが、言葉が出てきません。

 

「シモベを大切にしないとさ、その内にありんすちゃんのシモベがみんないなくなっちゃうんじゃないかな?」

 

「……ちょんな事ゆるしゃないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは否定しますが、内心では戦々恐々としていました。もしもありんすちゃんの階層からシモベがいなくなってありんすちゃんが一人になってしまったらどうしましょう? 階層の見廻りもありんすちゃん一人でしなくてはなりません。それにお風呂で頭を洗うのは……? 着替えもどうしましょう?

 

 真っ青な顔で呆然と立ち竦むありんすちゃんを見ていたアウラに憐れむような表情が浮かびました。

 

「とりあえず、さ……ラケットにシモベを使うのはやめておこうよ? 別に丈夫な人間だったら大丈夫なんじゃないの?」

 

 アウラのさりげない一言にありんすちゃんの顔がパアーッと明るくなりました。そうです。手頃な人間ならいましたよね?

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ヘックション‼」

 

 魔導国傘下となり、暫定帝国の暫定皇帝と立場が変わったジルクニフは盛大なくしゃみをしました。

 

「うへぇ。……陛下、鼻水が垂れていますぜ?」

 

 近侍の一人、バジウットがおどけた様子で大袈裟な身振りで避ける真似をしました。

 

「……風邪なら気をつけて下さいね。陛下にはまだまだ頑張って頂かないと……」

 

 同じく近侍のニンブルが口を開きました。

 

(……ふん。今更この私がどう頑張れば良いと言うのだ?)

 

 ジルクニフは口の中に苦々しいものを感じながら二人の顔を交互に眺めました。かつての帝国四騎士も、一人は死亡、一人は職を辞して今ではこの二人だけになってしまいました。噂ではかの“重爆”は魔導国で解呪されて冒険者になったとか……

 

「……私も皇帝でなかったらな」

 

 ジルクニフは誰にも聞こえない位の小さな声で呟きました。そうです。もし、皇帝でなければ、現在のように魔導国から暫定皇帝として任命されなかったら──

 

「──一介の冒険者も良いものだな」

 

 思わず口から出てしまった本音に早速バジウットが続けます。

 

「……俺はそうは思いませんね。あれはあれでなかなか大変ですよ? とはいえ今の俺達程じゃ無いとは思いますがね……と。あれ……不味いんじゃないすか?」

 

 バジウットが空の彼方を指で指しました。遥か彼方の空に点のような小さな影が見えてきました。だんだんと大きくなる影は──

 

「……あれはドラゴン! 魔導国の……まあ、もう属国となったのだ。まさか無茶はすまい」

 

「……だと良いですがね」

 

 ジルクニフの目はドラゴンの背中の三人の子供達を捉えていました。そしてこれまでの理不尽な出来事の一つ一つを思い返していたのでした。

 

「……なんにせよ、だ。魔導国からのご使者殿だ。出迎えるぞ」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「なんだ。テニスラケットを借りたいだけか。それなら──」

 

 ジルクニフは魔導国から来た子供達の望みを聞いて安堵しました。テニスというのはかつて“口だけ賢者”が発明した遊びの一つで、帝国ではさほど流行っていないもののラケット等の道具はあります。

 

「ありんちゅちゃはこっち!」

 

「それじゃ、あたしはこっちにするね!」

 

 二人の子供がジルクニフの両側の二人を引ったくります。あまりの事にバジウットもニンブルも声一つ上げられませんでした。慌てたのはジルクニフです。さっき子供達は『ラケットを借りに来た』と言っていませんでしたっけ?

 

「ありんちゅちゃからいくでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは片手でバジウットを軽々と持ち上げるとブルンブルンと振ります。対するアウラは同じくニンブルを構えてポンポン叩きます。

 

「やーめーてー‼」

 

 これから始まるであろう地獄絵図を思い描きながら、ジルクニフはただただ絶叫するのでした。

 

 

 

 

 

 一時間程の死闘の後、ぐったりして身動き一つしないバジウットを放り投げたありんすちゃんがジルクニフを振り返りニッコリしました。

 

「次は皇帝の番でありんちゅよ?」

 

 仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を書いてくれました
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