ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~   作:善太夫

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102番外編・“美姫”ありんすちゃん

(おかしいな……ナーベラルがいない。……まさか、まだかくれんぼなんて事は無いだろうが……急に“漆黒”のモモンとして仕事をしなくてはならないのに困ったな。……先方は『ナーベさんも是非』というたっての願いだから俺一人ではまずいんだよね。……はぁ。どうしたものかな?)

 

 ナザリック地下大墳墓の執務室でアインズは頭を抱えていました。脳裏に以前ナザリックに戻ってきた晩に、椅子の後ろに隠れたつもりのナーベラルの姿を思い出しました。かれこれ一週間前の事になりますが、それがナーベラルの姿を見た最後でした。

 

(……まさかな。あのままずっと隠れたままとは思えないが……それにかくれんぼならすぐに見つかるだろう。そもそもあれから随分経つし、いくらナーベラルでもまさか、ね? ……いくら融通がきかない性格とはいってもまさかあれから一週間もかくれんぼを続けるなんていう事は……うーん……)

 

 アインズはこの所忙しくしていた為、ナーベラルの不在に全く気がつかなかった自分を恨めしく思うのでした。

 

「アインズ様、シャルティア様がおみえになりました」

 

 アインズが頷くと、ありんすちゃんが部屋に入ってきました。見ると銀色だった髪を黒くしてポニーテールに結んでいます。服装もいつものボールガウンではなく茶色のローブを着ていました。

 

(……うん? ……これはまるで……)

 

「アインジュちゃまにはご機嫌うるわちく、ナーベのかわりにわたちが行くますでありんちゅ」

 

 緊張していたので『行きます』を『行くます』と言ってしまいました。

 

「……シャルティアよ。気持ちは嬉しいのだが、ナーベのかわりにはちょっと……」

 

「大丈夫でありんちゅ! あ、り、ん、ちゅ!」

 

 駄目です。ありんすちゃんはもはや聞く耳を持ちません。それもそうです。アインズ様がナーベラルの所在を探しているという話を聞いて、時間をかけてありんすちゃんはナーベラルに変装したのでしたから。本当は本物のナーベラルと間違って見つけてもらい、アインズ様の所に連れていってもらう計画だったのですが、さすがに無理がありますとメイドに断られてしまったのでした。

 

 結局、ありんすちゃんの激しい熱意に負けて“美姫”ナーベの代役をさせる事になってしまいました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「依頼人は貴族と聞いていたが……あの若者かな? ……しかし……何ゆえ私をあんなに睨み付けてくるんだ?」

 

 依頼人との待ち合わせ場所に来たアインズとありんすちゃんは依頼人からの視線に戸惑うのでした。

 

「わらわがあんまり、可愛いからでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは可愛く小首を傾げてから続けました。

 

「──ころちましゅか?」

 

(……いや、そんな変な所だけナーベラルの真似をしなくていいから……)

 

 アインズは少しばかりウンザリしながらありんすちゃんをたしなめます。

 

「……その『取り敢えず殺せばいいや』という考えはよせ。死なせてしまえば利用出来なくもなる。良いな?」

 

 ありんすちゃんは少し考えてから平伏しました。

 

「さしゅがアインジュちゃま。えっと、モモンしゃ──ん」

 

(いや、そんな所ばかり真似しなくて良いから……うーん……やっぱりシャルティアを連れて来たのは失敗だったかな……)

 

「お二人は、仲が、よろしいんですね!」

 

 アインズとありんすちゃんに依頼人の若者が棘のある言い方で呼掛けて来ました。

 

「まあ、仲間ですから……初めまして。今回は名指しの指命だそうで……私がアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”のモモン、こっちが──」

 

「ナーベでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんが胸を張って名乗ります。

 

「モモンさんにナーベさん。この度は依頼を引き受けて下さってありがとうございます。私はアンドレと申します。そしてこちらが──」

 

「トーケル・カラン・デイル・ビョルケンヘイムだ」

 

 依頼人の若者はありんすちゃんを見てとても驚いた顔をしました。

 

「……あの……ナーベさんが少し若返ったりしていませんか? 少し幼くなった──」

 

「まさか。ご冗談を……気のせい、ですよ。気のせい。ハハハハハ」

 

 トーケルも釣られて笑いだしました。

 

「気のせいでしたか。ハハハハ……」

 

「そうですよ。ハハハハハ……」

 

「そうですね。ハハハハハ……」

 

 互いに腹を探りあうような空虚な響きの笑い声がしばらく続きました。

 

「ところで……組合から話は聞いていますが、ビョルケンヘイム卿が──」

 

「まだ、家督を継いだ訳でないので卿ではないがな」

 

 アインズの言葉をトーケルが遮りました。そんなトーケルにむっとしたありんすちゃんが呟きました。

 

「……ちゅまんないゴミムシでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんの呟きにトーケルは真っ青になりました。

 

「いや、その……この成人の儀を澄ませれば家督を継いだも同じというか……ですから私の事はビョルケンヘイム卿と呼んでいただいても構いませんとも。問題ありません……」

 

「……では、なんとお呼びすれば?」

 

 トーケルはありんすちゃんの顔色を伺いながら答えました。

 

「ビョルケンヘイムで構わない……です。あ、トーケルでも……」

 

「了解しました。ではビョルケンヘイムさん。今回の依頼は身辺警護という事でよろしいですね? ビョルケンヘイムさんはお家の掟によりモンスターを討伐しなくてはならないとの事ですが」

 

 トーケルの代わりにアンドレが答えました。

 

「出来れば人型のモンスターがいいですね。モモンさんは以前、ゴブリンの集団を追い払ったと聞きましたが?」

 

「ああ、南方の森から出現したゴブリンの件ですか? それはナーベがやったんです」

 

「ほーう。やっぱり凄いんですね。ナーベさんは!」

 

 トーケルがわざとらしく叫びました。ありんすちゃんは自分が今、ナーベだという事を思い出して胸を張りました。

 

「わたちがナーベでありんちゅ! しゅごいでありんちゅ」

 

 そして打ち合わせの結果、ゴブリンの残党を討伐しに行く事になりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「どう思う? アンドレ」

 

 一頭の馬に相乗りするモモンとナーベから距離を保ちつつ移動しているトーケルはアンドレに尋ねました。アンドレは頭をかきながら答えます。

 

「……うーん……やほり坊ちゃんには脈が無さそうですな。ああしてあからさまに代役を立てられたって事は、拒絶とみた方が良いでしょうね」

 

「アンドレもそう思うか……しかし……何故ナーベさんはそんな事をするんだろうか? しかもよりにもよってあんな少女が代役など……」

 

「うーん……そうですね。明らかにすぐばれる代役、しかもモモンさんはそれを認めていません。これはあまり深く追求しない方がよさそうです」

 

 一人なにやら考え事をしていたトーケルは顔を上げました。

 

「アンドレわかったぞ。これはきっと試験に違いない。ナーベさんは私を試しているんだ。考えてもみろ? いくら代役とはいえ全く無関係な少女を代役にする筈はない。それに少女とはいえあの美貌……おそらくはナーベさんの妹かなにかなのだろう。そして彼女にいかに紳士的に振る舞うかをナーベさんは試しているのに違いない」

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「ビョルケンヘイムさん、アンドレさん、なにか悲鳴のようなものが聞こえてきませんか?」

 

 先頭のモモンがいくらか緊張した様子で振り返りました。すかさずナーベが魔法を発動させます。

 

「モモンしゃ──ん。うさみみ、可愛いでありんちゅ。悲鳴がよおく聞こえて便利でありんちゅ」

 

 いつの間にかうさ耳姿のナーベが答えます。

 

「ふむ。どうやら私達が向かっている村でゴブリン達が何者かに襲われているようです。私達は依頼人の要望を第一に考えますが……」

 

 トーケルは結局偽ナーベのうさ耳は何だったのだろう、と疑問に思いましたが口には出さずにいました。

 

「モモンさん。私達を守ってくれますか? そしてもう少し村の状況がわかる場所まで移動しましょう」

 

「わかりました。私達は依頼人の安全を守りつつ要望をかなえてみせます。もしもの場合には私達が後ろを押さえますので振り返らずに逃げて下さい。では、一気に行きますよ。ハイヤー!」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 一行が村の近くまでやって来るとひときわ大きな悲鳴が上がりました。見ると巨大なモンスターがゴブリンを襲っていました。

 

「──八本の足、頭部に王冠のようなトサカ、バジリスク! しかもあの大きさはギガントバジリスク! 石化の視線や猛毒の体液、そしてあの皮膚はミスリル製の鎧に匹敵する固さ! 最悪の相手です! 逃げましょう! モモンさん!」

 

 モンスターを見たアンドレが叫びました。と、アンドレの前に小さな影が立ちはだかりました。

 

「ここは、チャル──ナーベにまかちぇるでありんちゅ!」

 

 なんと小さなナーベがギガントバジリスクに向かっていきます。と、次の瞬間──

 

──パクリ!

 

 なんとありんすちゃん扮するナーベはギガントバジリスクに一呑みにされてしまいました。

 

「──ナーベさああん!」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ナーベを一呑みにしたギガントバジリスクは今度はモモンに向かいました。と、突然ギガントバジリスクの腹部が光りだして──

 

「〈ヴァーミリオン・ノヴァ!〉でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの超位魔法、ヴァーミリオン・ノヴァによりギガントバジリスクは消滅してしまいました。

 

「ベチョベチョで気持ち悪いでありんちゅ……クチュン!」

 

 ギガントバジリスクの腹の中で体液まみれになったありんすちゃんはくしゃみをしました。すると、ナザリック地下大墳墓の第九階層でかくれんぼを続けていたナーベラルの姿が現れました。

 

「お風呂入るでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは着ていたローブ等を脱ぎ捨てて裸になると〈グレーターテレポーテーション〉を発動させてナザリックに帰ってしまいました。

 

 尚、その後で残されたアインズと事情を知らないナーベラルがトーケル主従に説明をするはめになったのでしたが……ありんすちゃんはそんな事も知らずにのんびりお風呂に入っていたそうです。仕方ありませんよね。ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。




ありんすちゃんが挿絵を描いてくれました
【挿絵表示】

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