(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※第9話の内容の兼ね合いもあって、追加シーンを含めて再投稿しました。

※次のエピソードを前後2話でやっていたら、やるシーンが七つもあるため文章量がえげつなくなるので……計画性が無くてすんません……

追記 文章を少し修正しました。中身事態は変わっていないので、ご安心を。



第8話 Tの危機 ~ あなたが教えてくれたもの

 

第8話 Tの危機 ~ あなたが教えてくれたもの

 

 

 

 学校を出て、かなり走ってきたけれどほむらちゃんの姿は見えなかった。

 いつも通りならこの道で合っているはずなんだけどなぁ……不安になりながら辺りを見渡すと、わたしは二つほど先にある曲がり角を曲がろうとしているほむらちゃんの姿を捉えた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 息が切れ切れで苦しいかったけれど、それでも何とか追い付くために夢中になって足を動かす。そしてほむらちゃんが通った角を曲がろうとすると足がもつれてしまって、バランスを崩してしまった。

 

「あっ……」

 

 転んじゃう! そう思いながら、ぎゅっと目をつぶる。けれども痛みはいつまで経っても来なかった。

 不思議に思い、そっと目を開けると転びそうになっていたわたしの身体を支えてくれるほむらちゃんが目の前にいた。

 

「大丈夫、鹿目まどか?」

 

 心配そうに聞いてくれるほむらちゃん。だけど、何処か態度がよそよそしくてわたしの胸がチクリと痛む。

 

「あ、ありがとう……ほむらちゃん……」

 

「それでさっき私を呼び止めたけど、用件は何?」

 

「えっと……その……」

 

「悪いのだけどこの後、大事な用事があるの。何も無ければ、もう行っていいかしら?」

 

「用事ってどんなのなの?」

 

 何気なく気になってした質問。だけど次の瞬間、わたしは自分の言った言葉を激しく後悔することになった。

 

 

 

 

 

「貴方には関係ない」

 

 

 

 

 

 わたしの目の前には、もういつものほむらちゃんは居なかった。冷たく鋭い、見たもの全てを威圧するその目に思わず後ずさりをしてしまう。

 

 じっとわたしを見るほむらちゃんはとても怖く感じたけど、勇気を振り絞って言葉を続ける。

 

「ど……どうして、かな? わたし……何か悪いことほむらちゃんにしちゃった……かな?」

 

 我ながら白々しい、あんな態度をとっていたのに……

 ほむらちゃんがきつく唇を噛み締めている。怒っているよね?

 

「ごめんなさい、ほむらちゃん」

 

 頭を下げて昨日の件、そして今日のことについてを謝る。その行為に対してほむらちゃんは、何故か不思議そうに首を傾げていた。

 

「どうして貴方が謝るの?」

 

「だ、だって……今日ほむらちゃんに話しかけられても無視しちゃったし……それに、昨日も……」

 

「気にすることないわ。大方、巴マミに何か言われたのでしょう」

 

 ほむらちゃんの口からマミさんの名前が出て、少しだけ驚く。

 

「マミさんと知り合いなの?」

 

「知り合い……そんな優しい関係じゃないわ。寧ろ私と彼女は敵よ」

 

「そんな……どうして」

 

「その理由は貴方達もよく知っているはずだけど……」

 

「…………!!」

 

「私は別に貴方達の態度が変わったからといって特にどうと言うこともない……というよりは、少し楽になった方かしら?」

 

「えっ……」

 

 意地悪そうに笑みを浮かべて、一歩わたしに近づく。そして耳元まで顔を寄せてほむらちゃんは、小さく言った。

 

「正直言って邪魔だったのよ。あなたも美樹さやかも」

 

 ほむらちゃんの言うことの意味が理解できなかった。身体が震え、全身から嫌な汗が出る。

 

「ど、どうして……そんなこと……だって、あの時一緒に……って」

 

「あれはただ路地裏での恩を返しただけに過ぎない。魔法少女なんてものに理想を抱いてふわふわしている貴方達に短い夢を見せてあげただけよ」

 

「じ、じゃ……じゃあ今までわたし達と仲良くしていたのは?」

 

「相手に好意を向けられたら同じように返す。ただそれだけのこと」

 

 覚束ない口調で話すわたしとは真逆にほむらちゃんはすらすらと、今までどんな風に接してきたことについて話していた。そして……

 

 

 

「でもある時、その好意は一方的なものになった」

 

 

 

「…………!!」

 

「巴マミに何を吹き込まれたのか知らないけれど、貴方達は急に露骨に私を避けるようになった。今日の態度でハッキリと分かったわ。そして貴方達は私にとって敵であることも」

 

「そんなこと……」

 

 否定しようにも上手く話すことが出来ない。それはわたしの心の何処かでほむらちゃんのことをそう思っているからなのであろう。

 

「以前から美樹さやかは露骨に怪しむ態度を取っていたけれど、本音を言うと貴女も私のこと疑っていたのでしょう? ただ一緒にいたのは私が貴女にとって都合のいい力を持っていたから……」

 

「違う……私の話を聞いてよ。ほむらちゃん……」

 

 わたしはそんなこと考えてない。ほむらちゃんを利用しようとなんてそんな酷いこと考えてないよ……

 何も反論できずにただ俯いているだけの自分が情けなかった。

 

「けれど今となってはそんな信用できない奴よりもずっと良い人が現れ、貴女は彼女の方についた。つまるところもう私は用済み。必要なくなったのでしょうね」

 

「違う!!!」

 

 わたしは自分でも考えられないような大きな声で叫んでいた。

 

「わたしがほむらちゃんのことを必要としていない? そんなことない!! この一週間でほむらちゃんにたくさんのことをしてもらった!! たくさんのことを出来るようになった!! 

 そして今まで何の取り柄もなくて、自分に自信を持てなかったわたしにわたしにしか出来ないことを教えてくれた!!

 そんなたくさんの大切なものをくれたほむらちゃんを嫌いになったりしない!!」

 

 胸の底から溢れる激情に任せ、口を動かし続けた。気がつけば、わたしは泣いていた。

 溢れる涙を止めようと必死になっているとほむらちゃんは強くわたしの肩を掴んだ。爪が服を越えて、肉に深く食い込んでくる。そしてほむらちゃんは静かに言い放った。

 

「なら、どうして……どうしてなのよ。まどか……」

 

「ほ……むらちゃん……痛い、痛いよ……」

 

 声を荒げるのと一緒に肩の痛みも増していく。それに我慢できなくなって思わず声を漏らしてしまう。

 その言葉にほむらちゃんはハッとした表情になり、手を私の肩から離す。そして自分の手を見て、身体を震わせて泣きそうな顔をわたしに向けた。

 

「ごめんなさい……」

 

 そう言ってほむらちゃんは走り出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 私はまどかから逃げて人通りのない路地裏にいた。そしてもう一度、まどかを掴んでいた手を見つめた。

 

『ほ……むらちゃん……痛い、痛いよ……』

 

 まどかの泣きそうになるのを必死に我慢していた声が甦る。私は壁をその手で殴り続けていた。

 

 

 

 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も…………

 

 

 

「うっ……ううっ……」

 

 両手は見るのも痛々しいほどに真っ赤に染まっていた。それでも何故だろうか……どれだけ自分の手を痛め付けても、まどかを傷つけたことによって締め付けられる胸の痛みを上回ることはない。

 

 

 私……バカだ。

 

 何度も時を繰り返すごとに、私とまどか達の心の幅はどんどん広がっていって、すれ違っていく。そんなこともうこれまでのループの中で痛いほど理解してきたつもりだった。

 

 なのにどうして今になってそれが辛くなるの? 苦しくなるの?

 

 ふとあることを思い付いて自分のソウルジェムを取り出す。ジェムはもうほどんど濁りきっていた。予備のグリーフシードはまだ残っているけど、浄化するしようとは思えないわね。

 

 いっそこのままソウルジェムを砕こうかしら……? そんなことを考えながら盾から銃を取り出そうとしていると、ふと近くに魔力の反応を感じた。

 

 魔女の使い魔ね……いいわ、どうせ死ぬなら最期は派手にやってやろうじゃない。

 

 全身に大量の銃と爆弾を付けて、盾から二丁拳銃を取り出し、臨戦態勢に入る。

 

「ふふふ、たかが使い魔相手なのにここまで必死になるなんてね……」

 

 自嘲気味に笑いながら、魔法で強化した脚力で建物を一気に駆け上がっていく。

 

 

 

 

 

 そこから先はよく覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと私は血だまりの上で倒れていた。服はボロボロで自分の血でかなり汚れていた。

 朦朧とする意識の中で自分が何をしていたのかを必死に思い出す。

 

 そうだ。確かあの後、使い魔を追いかけていたらその中の一体が魔女へと変わってそれで……

 

 身体の痛みを我慢しながらソウルジェムを見えるところまで持ってきて穢れの状態を確認する。これだけボロボロになったいたはずなのにジェムは綺麗なままだった。

 不思議に思っていた私だったけれど、その答えは右手の中にあった。

 どうやら無意識の内にグリーフシードを使い、浄化していたのだろう。

 

「案外しぶとい奴ね、私も……」

 

 あれだけ絶望してもなお、生への執着心を忘れなかった自分を嘲笑うように言う。そして重い身体を無理矢理起こして変身を解除する。

 

 傷の方はまだ塞がってはいないが、明日にもなれば完全ではないが治っていることだろう。

 

「危なっかしい戦いではあったけれど、想像以上にできるみたいだね。暁美 ほむら」

 

 用も済んだし、もう帰ろうと思って家へ戻ろうとしたその時、何処からか私に話しかける声がした。

 

「チッ……一体何の用?」

 

 あの忌々しい声……! その声を聞き、思わず舌打ちをする。

 

「随分な嫌われっぷりだね。それともストレスでも溜まっているのかい?」

 

「黙りなさい、キュウベぇ……いや、インキュベーター。こそこそ隠れていないで姿を見せなさい」

 

「その名前を知っているってことは、もしかして君は……」

 

「もしかしなくても私はお前の企んでいることは全て知っている。そして今回のまどか達のこともお前が一躍買っているってことも」

 

「君がここまで生き延びられたのは、単なる強さではなく、その頭の回転の良さのお陰なのかもしれないね」

 

「お前に誉められても一文の価値もない。いいからさっさと姿を見せなさい」

 

「やれやれ……」

 

 めんどくさそうな口調で言いながら、暗闇の中からキュウベぇが現れる。

 

「それで、何故私を付けていたのかしら?」

 

「マミの為に、君がどのような魔法を使って戦うのか観察しようと思っていただけさ。とは言っても……収穫は得られなかったけれどね」

 

 思ってすらもいないことを口走るキュウベぇを見て、思わず笑ってしまう。決して愉快な訳ではない、いけしゃあしゃあと善人ぶった態度を取っていて殺意が湧いたからだ。

 

 そんな私の様子を見て、キュウべぇは首を傾げる。

 

「何がそんなに可笑しいんだい?」

 

「よく言うわよね。人間をただのエネルギー回収の道具としか思っていない分際で……大方私が絶望して魔女になる様でも見ようとしていたのでしょう?」

 

「なるほど……僕たちの目的知っているっていうのはハッタリでもなんでもなかったようだ」

 

「えぇ、そうよ。分かったのならさっさと消えなさい。今にもお前を撃ち殺したくてうずうずしているのだから」

 

「別に構いはしないけど、勿体無いからここらで退散するとするよ」

 

 拳銃を取り出して、奴の眉間へと銃口を向ける。しかし、キュウベぇは焦る様子もなく、優雅にUターンして私に背を向けながら再び暗闇の中へ溶け込もうとしていた。

 

「全く……つくづく君はイレギュラーだよ。君と鹿目まどかを引き離せば、事は上手くいくと思っていたけれど、こうも手こずるなんてね」

 

「ご生憎様、まどかは契約なんかさせないし、私はもう簡単に絶望したりしないわ。お前が目的を教えてくれたお陰でね」

 

「どうかな? どちらも時間の問題さ」

 

「黙りなさい、害獣」バキュン

 

 嫌みをぶつけて、少しだけスカッとした気分になったけれど、奴の一言で今度は銃弾をぶつけてやりたくなった。

 だから撃った。後悔なんてあるわけない。

 

 

 今度こそ帰ろうと今いる建物から出ていく為、出口の場所へと歩こうとする。だけど…………

 

 

 

 

 

「ちょっと待てよ。転校生」

 

 

 

 

 

 私はまた引き留められた。美樹さやかに。

 

「あんたここで何してたのさ」

 

「決まっているでしょう? 魔女退治よ」

 

 相変わらず私のことを警戒しているようで、一定の距離を保ちながらいつでも逃げられる体制をしていた。別に貴女のことなんか誰も襲いはしないのに。

 

 じっと敵意のある目付きで睨んでいた彼女だったが、急に驚いた様子で私の身体を見始めた。

 魔女との戦いでの傷は塞いではいるけれども、身体についた血とかは隠せないからね。

 

「あ、あんた……その血、大丈夫なのかよ?」

 

「私のことを心配するなんて貴女本当に美樹 さやかかしら?」

 

「な、なんだよ!! その言い方!!」

 

「柄にもないことは止めなさい。私達はもう今は敵同士、情けなんか無用よ」

 

 美樹 さやかの横を通りすぎて、出口へと歩みを進める。彼女がここに来ているということは恐らく巴マミも近くにいるのだろう。だとしたら厄介この上ない……面倒事になる前に退散しましょう。

 

「敵って……待てよ、転校生!!」

 

 公園の時のようになにか後ろで言っているようだけど、そんなものなど気にせずに私はこの場を立ち去った。

 

 

 

 

「待てよ、転校生!! くっ……また逃げるのかよ……!!」

 

 遠ざかっていくほむらの背を見ながら、さやかは悔しそうに唇を噛み締める。

 

「美樹さん? 今大きな声がしたけれど、なにかあったの?」

 

 ほむらが出ていった場所からマミが駆けつけてくる。多分、入れ違いになったのだろう。さやかはそう思った。

 

「いえ……今さっき転校生の奴の姿が見えたから話をしようと思って……」

 

「暁美さんと? 思い切った行動をするのね……」

 

「ごめんなさい……マミさん」

 

「いいのよ別に。それで彼女は何か言っていた?」

 

「あたし達のこと、敵って言ってました……」

 

 答えるさやかの声は震えていた。

 

「なんでだよ……なんで何も言ってくれないんだよ……」

 

「…………」

 

 制服の裾を強く握りしめて呻くさやかの姿をマミはただ見ているだけでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 まどかは暗い表情をしたまま、自宅へ戻った。

 

「まどか、おかえ__」

 

 娘が帰ってきて、いつものように出迎えようと彼女の父、知久はリビングから顔を覗かせるが、どこか様子がおかしいことに気づく。

 

 そしてそっと寄り添い、尋ねた。

 

「何かあったのかい?」

 

「パパ……パパぁ……」

 

 するとまどかは知久の顔をじっと見つめて、涙目になる。

 

 

 

 

 

 傷つくまどかの心、揺らぐほむらの想い……本当のことを伝えられずにすれ違う少女達。物語の行方は、果たして……

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※薔薇園の魔女は人知れずログアウトしました(^^)

※追加シーンは、キュウベぇ&さやかの部分です。後、若干の修正も入れてあります。次回から一章の要となる場面なので頑張っていきたいと思ってます。


☆次回予告★

第9話 Yの過ち ~ 本当の友達 

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