(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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第3章後半戦スタートです!


☆これまでのあらすじ★

世界をも滅ぼす力を持つ暁美ほむらを中心に見滝原で魔法少女同士の争いが勃発。
ほむらは相棒の鹿目まどかとその仲間達と共に自分の命を狙う美国織莉子らと激闘を繰り広げていた。

まどかに瀕死の重傷を負わせてしまったことを激しく後悔するほむら。
そんな彼女の元に織莉子達と手を組んだ美樹さやかが現れ、襲撃を受けてしまう。

一方でほむらの異変を感じ取った佐倉杏子は彼女の元に駆け付けようとするも、織莉子の仲間である優木沙々によって妨害されてしまう。

満身創痍になりつつも勝利を収めた杏子だったが、その先で彼女が見たのは…橋から河へと落ちていくほむらの姿だった……


さて、どうなる第33話!!



第33話 Oは排除せよ ~ 誰がために

 

 

 

 事件から二日…見滝原の街はこれまでの騒動が嘘のように平和な時が流れていた。

 

 魔女の発生も魔法少女同士の衝突も何も起こらなかったのだ。

 

 だがその束の間の安息もまもなく終わりを迎えようとしていた。

 時刻は午後一時を過ぎた辺り、ゆまはマミのマンションで退屈そうにしていた。

 

「マミ…はやくかえってこないかな?」

 

 お昼はマミが予め用意していてくれたものを食べたので特に心配はない。

 しかしゆまはもっと別のものを求めていた。

 

 いつもなら…否、これまでの二週間通りの生活なら彼女の傍に杏子がいた。

 両親を失って天涯孤独の身となったゆまにとって杏子はたった一人のかけがえのない家族だった。

 たとえマミがどれだけゆまを気遣ってあげたとしても、彼女の力だけでは本当の笑顔は戻らないのだ。

 

「キョーコ、どこにいっちゃったの…? グスン……」

 

 寂しさのあまり涙が溢れそうになる。

 けれど、ゆまはそれをグッと堪えた。なぜなら……

 

「ダメ…マミとやくそくしたもん。もうなかないって……」

 

 幼いながらも過酷な現実に向き合おうとするゆま。だが、そんな少女に"悪意"がもたらされる……

 

 

 

コンコン……

 

 

 

「えっ?」

 

 どこからか何かを叩く音が聞こえる。

 誰かがドアをノックしたのかとゆまは思ったが、それは音は全くの反対の方向からだった。

 

「もしかして…キョーコ?!」

 

 ゆまは胸に微かな期待を抱き、後ろを振り返ってみる。すると…次の瞬間……

 

 

 

 

 

ガッシャーン!!!

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 ベランダの窓ガラスは跡形もなく砕け散った。

 

 

 

 

 

 

「昨日どれだけ探しても暁美ほむらのソウルジェムは見つからなかった…だとすれば残された在りかは決まって来る……」

 

「織莉子。私はいつでも行けるよ」

 

「まだダメよ…優木さんが彼女をここに連れてくるまでは」

 

「あのチビ助、もし失敗したら……」

 

「大丈夫よ。あの子のことだからきっと」

 

 

 

ピリリリ……

 

 

 

「ほら来た。……もしもし?」

 

「…………」

 

「分かった、彼女はあなたの好きにして構わないわ。

 でも手出しはしちゃダメよ。あの子は大事な取引の道具なのだから……」ピッ

 

「織莉子……」

 

「もういいのよ、キリカ。ここまで来たらもう後には引けない。さあ全てを終わらせましょう」

 

 

 

 

 

第33話 O(Obstacle)は排除せよ ~ 誰がために

 

 

 

 

 数時間前……

 

 静まり返った病院の一室。そこにいるのはアタシと鹿目まどかの二人だけだ。

 この病院の医者や看護師の目を盗んで折角会いに来たけども、肝心のまどかのヤツがずっと寝ていてまるで起きる気配がしない。

 

「こっちは色々と苦労してるってのに、何て顔して寝てるんだか」

 

 小さな寝息を立てながら眠るまどかの頭をアタシはそっと撫でる。

 

 あの現場を見てからアタシは河原からほむらの行方を追った。

 本当は川の中に入った方が手っ取り早いと思ったが、優木沙々との戦いの傷と河の急激な流れが相まってこっちが死にかけたので諦めた。

 微かではあるがアイツの魔力の反応があるからまだ死んではいないだろう。

 

 けど、それよりももっと気になるのが……

 

『…………』

 

 美樹さやか(アイツ)鹿目まどか(コイツ)達の仲間じゃなかったのか? どうして美国織莉子達なんかと手を組んでいやがったんだ?

 何故そこまでして暁美ほむらの命を狙う?

 

 チッ…何もかもが分かんねぇ。

 そもそもの話だけども何でアタシが出会って数日も経っていない奴等のことで頭を悩ませなくちゃいけないんだよ。確かに協力するとは言ったけど、その話もあの件で無かったことにしたじゃねーか。

 

 そうだ。自分のことだけを考えて生きていけばいい。他人なんかに振り回されたりなんかするからあんなことが起きちまうんだ。だからこれで……

 

『キョーコ!』

 

 吹っ切ろうとするが、不意にアイツの声が聞こえて来てそれを妨げる。

 驚いて周りを見渡すもゆまの姿はどこにも見えない。なんてこった…何でアイツの幻聴が聞こえてきちまうんだよ……

 

「はあ…………」

 

 でっかいため息をついて頭を抱えていると、突然後ろで病室のドアが開かれた。

 

 ヤベッ! 部外者のアタシがこんなトコで見つかったら…!!

 窓から逃げれば…いや完全に手遅れだな。こうなったら適当に言い訳をして逃げるしかないか。

 

「あれ、アンタは確か……」

 

「えっ?」

 

 ドアの方を振り返ってみるとそこにいたのは、えっと…確か……

 

「前にまどかが運ばれたときに一緒にいた子だっけか。アンタみたいな若い子がこんな真昼間からなーにやってんだい?」

 

「げっ……」

 

 思い出した。この人まどかの母親じゃねーか。

 病院の看護師や医者なんかよりも厄介な人と出会っちまった……

 

「おいおい、人の顔見るやいなや「げっ……」はないだろー」

 

「あー……」

 

 ヤベー声に出てたのかよ。初対面での印象サイアクだったのにこれじゃもっと……

 

「ま、そんなことはいいや。ほら、そんなとこに突っ立ってないで座りなよ。

 せっかく見舞いに来てくれたお客さんなんだし、持て成しくらいさせて頂戴な」

 

「あ、あぁ……」

 

 言われるがままに椅子に座られてしまう。

 まどかの母親はそんなアタシの姿をまじまじと見つめていた。

 

「な、なんだよ……」

 

「いやー、前のときとはまどかの病室は別の場所だったのにどうやって見つけられたのかなーって思ってさ」

 

「……自力で見つけた」

 

「スゴッ…こんな広いのになかなかやるじゃん」

 

 ホント苦労したよ…朝っぱらから医者や看護師に見つかんないようにずーっとウロウロしてたからな。あの時の苦労を思い出してついため息をついてしまう。まどかの母親はそれを見て、ふっと笑いアタシにペットボトルを渡してきた。

 

「まどかの為にわざわざありがとね。

 にしても何だってそこまでして見舞いに来てくれたんだい?

 アタシとしては嬉しい限りだけどさ」

 

「……これを渡しに来たんだ」

 

 そう言ってポケットからあるものを取り出してまどかの母親に渡す。

 

「これって…指輪?」

 

「あぁ……」

 

 優木沙々と戦った際にアイツから渡されたもの。

 まどかのヤツ、前にマミ達と話していた時もずっと大事そうにしていたからな。

 無意識の行動だったっぽいけどもそれもあってよく覚えてる。

 

 まどかの母親はその指輪をじっと見つめていた。

 そして今までとは違う柔らかな笑みを浮かべる。

 

「これはな…まどかにとって大切な宝物なんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「一番最初にほむらちゃんがウチに遊びに来てくれたときにあの子がまどかにプレゼントしてあげたものなんだ」

 

「へぇーアイツがねぇ……」

 

 あのクールな性格に似使わず案外可愛いトコあんじゃねぇか。

 おっと…こんなことアイツの前で言ったら何されるか分かったもんじゃねぇな。

 

「扉越しにその時の話も聞いてたんだけども微笑ましくてニヤニヤしながら聞いてたよ」

 

「随分と趣味が悪いことで」

 

「まぁねっ」

 

 互いにニヤリと悪い笑みを見せる。

 だけど、ほむらの話をしている内にまたあの時の出来事が蘇ってしまう。

 

 アタシの様子が変ったのを察したのかまどかの母親の表所が真剣なものに変わる。

 

「ほむらちゃんに何かあったのかい?」

 

「……いや、アタシにも分からない」

 

 あの衝撃的な出来事を説明なんか出来るはずもなく、また嘘をついてしまう。

 だって言えるわけがねぇだろ…アイツらのダチが裏切ってほむらを殺しかけてたなんて……

 

「そっか…大変なんだな」

 

「追求しないのか?」

 

「アンタが分からないって言ってるんだからそれ以上追求したって仕方ないだろ?

 それにアタシはまどかを、アイツの友達を信じてるからさ」

 

「…………な、なあ…一つ聞いてもいいか」

 

「ん、どした」

 

「アンタ、あの後アイツと何を話したんだ」

 

「ほむらちゃんとかい?」

 

「あぁ……」

 

 まどかがこの病院に搬送された後、この人はほむらだけに何か話しをしようと引き留めた。

 十中八九、真実を聞き出すためだろう。あの状況で世間話なんざ始めるわけもない。

 

「あの時アンタは姑息な手は使わないって言っていた。アタシはそれは本当のことだけ思っている。だからこそ一体何を話していたのかが気になるんだ」

 

「なるほどね…まっ、そこまで隠しておく必要もないから話してもいいかな」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

『ほむらちゃん。そこまで気に病まなくてもいいんだ。今回のは不運な事故…そうなんだろ?』

 

『本当にそう思ってるんですか?』

 

『……あぁ』

 

『私…もうまどかには会わないです』

 

『ど、どうして?!』

 

『だって私と関係をもったせいで…あの子の日常を何もかも変えてしまった。

 これまで幾度となく迷惑をかけてきて…遂にはこんな目に遭わせてしまった……』

 

『……ほむらちゃん』

 

『ごめんなさい…本当にごめんなさい。

 謝っても許されないのは分かってます…でもッ!!』

 

『今回の件の真意はアタシには分からないよ。

 でもね…これだけはハッキリと断言出来る。

 ほむらちゃん、あなたはまどかを危険な目に遭わせて傷つける子なんかじゃない。寧ろ今までずっとあの子のことを守ってあげたんじゃないか?』

 

『……!! なんで…そう言い切れるんですか?』

 

『何度もウチに来て一緒に時間を過ごしたんだ。まどか程じゃないけど、あなたのことを色々と知ってるつもりだよ』

 

『詢子さん……』

 

『頼むからもう会わないなんて言わないでくれ…そんなことをしたらアタシも、まどかも悲しむ』

 

『うっ…うっ……』

 

『その傷が癒えた後でもいい…またアタシ達に会いに来て欲しい。いつでも待ってるからさ』

 

『……はい』

 

 

 

 

 

 

「……そんなことがあったんだな」

 

「まどかは幸せものだよ。アンタやほむらちゃんみたいに大切に想ってもらえる友達にたくさん出会えたんだから」

 

 雨が降り注ぐ中、おぼつかない足取りで歩いていたほむらの姿を思い出す。

 あの時アイツに声をかけられていたら、何かを変えられたのだろうか。

 

「アイツ…そんだけ悩んで苦しんでたんだな」

 

「それはアンタもだろ?」

 

「えっ?」

 

 突然の不意打ち気味の言葉に驚いてしまう。

 

「アンタもほむらちゃんと同じく何か悩んでる顔をしてる。

 上手く隠してるつもりかもしれないけども、アタシにはちゃんと見えてるよ」

 

「……オイオイ、マジかよ」

 

「マジ! 何について悩んでるのかまでは分からないけどね」

 

 なんて人だよ…将来まどかもこんなのになるとしたら末恐ろしいや。

 

「別にその事情に首を突っ込むつもりはないけども一つアタシからアドバイスをしてあげる」

 

「アドバイス?」

 

「アンタやほむらちゃんの年頃の子は誰しも他人には言えない大きな悩みを抱えている。

 時にそれは自分を惑わせ、正しい道を見いだせなくなる。

 これから先に起こりうるかもしれない事に恐れていたって何も始まらない。

 そんなときはね…自分が一番正しいって思うことをするんだ」

 

「自分が一番正しいと思う?」

 

「そっ、人生何が起こるのかは誰にも分からない。

 その先の道を決めるのはアンタ自身で、今みたいに思い悩んだ末に決めるのも、直感的に感じて選んじまうのものも悪くない。全部自分の自由だ」

 

「…………」

 

「でも今のアンタは悩み過ぎて何も答えを見つけられずにいる」

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」

 

「簡単だ。難しく考えすぎなんだよ…もっとバカになんな」

 

「…………」

 

「まあ、これはアタシの一意見に過ぎないからそれを信じるも信じないも自由だ。

 けど、自分自身が正しいと思って決めた選択に後悔だけはしないで欲しい…それだけは信じてもらいたいかな?」

 

「……そうか。ありがとう、色々と教えてくれて」

 

「良いの良いの、もし良かったらまた会いに来て頂戴な。今度はしっかりともてなしてあげるからさッ」

 

「あぁ……」

 

 一応の礼儀としてまどかの母親に頭を下げて病室のドアに手をかける。

 

「そういやアンタの名前なんていうんだい?

 アタシは鹿目詢子。知っての通りまどかの母親だ」

 

「……佐倉杏子だ。ほむらとまどかの友達…みたいなもんかな?」

 

「そっか…じゃあ杏子ちゃん、また会おうな」

 

 詢子の言葉にアタシは静かに頷き、そして病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「杏子ちゃん…変わった子だねぇ」

 

 詢子はそう呟きながら眠り続けているまどかの頭をそっと撫でる。

 

「まどか…アンタも早く目ェ覚まして大事なお友達に元気な姿を見せてやんな。そしたらきっとみんなも元気になれるはずだからさ」

 

 そう優しく声をかけて、杏子が持ってきてくれた指輪を近くの台に置く。

 そして自分の腕時計を見て今の時間を確認した。

 

「もうこんな時間か…そろそろ仕事に戻らないとな。

 ……じゃあな、まどか。また来るよ」

 

 鞄を抱えて病室から出ようとする詢子。

 するとドアがゆっくりと開けられて病室内に誰かが入ってきた。

 

「あれ、アンタは……」

 

 

 

 

 

 

 アタシは病院を出て、そのすぐ近くにあった公園に立ち寄り、先程まどかの母親に言われた言葉についてを考えた。

 

『難しく考えすぎなんだよ…もっとバカになんな』

 

「もっとバカに、ね……」

 

 バカな自分…昔あの人と一緒に正義と平和の為に魔女と戦っていた頃のアタシ。

 ただひたすらに一直線で誰かを助けようと必死になっていたっけ。

 

 今のアタシは…自分一人の為に魔女と戦って生きている。この生き方は誰が何と言おうと正しい…それがなくちゃこの世界で生き抜くことなんざ出来やしない。

 

「…………」

 

『キョーコ!』

 

 じゃあ、何故あの時その生き方に背いた?

 なんでアタシはアイツに手を差し伸べた?

 

『お前といた数週間、悪くなかったぜ……』

『久しぶりかもな、一人になるのって……』

 

 どうして悔む必要がある?

 一番懸命な選択をしたんじゃなかったのか?

 

「…………はあぁぁぁぁぁあ」

 

 バッカみたいにデカいため息をつく。

 もう考えるのはヤメだ、この一か月にあったこと全て忘れちまおう。それが一番だ。

 誰かの為にだなそんな生き方はな……

 

「アタシには似合わないんだよ…そういうのはさ」

 

 風見野に帰ろう…そしてこの街にはもう二度と訪れない。たとえ魔女の狩場に困ることになったとしても…だ。

 

 見滝原から去ることを心に決めるアタシ。

 けども…そう簡単に運命は逃してくれなかった。

 

「アンタ…こんなトコで何してんの……」

 

「はっ…? 何だよ急……ッ!!」

 

 咄嗟に声をかけられてその方を向いてみると

 

「テメェは……」

 

「何だ…まだアンタこの街にいたんだ」

 

 三日前にアタシとやりあったあの青い魔法少女だった。確か…美樹さやかって言ったっけ?

 

 いや、今は名前なんかどうでもいい。

 それよりもコイツにどうしても聞かなくちゃいけないことがあるんだ。

 

「お前…二日前、鉄橋に美国織莉子達と一緒にいたよな?」

 

「うん……」

 

「そこで一体何をしていた…?」

 

「何って…アンタも見たでしょ。そんなことわざわざ聞いて__」

 

「ほむらを殺そうとしたんだろ」

 

「ッッッ!!!」

 

 これまで虚ろだったアイツの目が一気に見開かれ、鋭い目つきでこちらを睨み付けてきた。

 

「……んだよ、その目は」

 

「別に関係ないでしょ…自分の為に魔女に人を殺させてるアンタには」

 

「……否定はしねぇよ。けどよ、アイツはお前の仲間じゃなかったのかよ」

 

「…………」

 

「だんまりか。そんなに言いたくねぇんなら…力ずくで吐かせるまでだ」

 

 ソウルジェムを取り出していつでも変身出来るように構える。ここじゃ少し人目につくかもしれねぇが知ったことか。

 だが、戦う気満々のアタシに対して美樹さやかは極めて落ち着いていた。

 いや…正確には覇気がまるで感じられないって言った方がいいか。

 

 なんて不気味に思っていると美樹さやかが口を開き、しわがれた声でゆっくりと話し出した。

 

「言ったところで何になるっていうのさ……

 あたしはもう越えちゃいけない一線を越した…

 もう後戻りは出来やしない……」

 

「何でそうなっちまったんだよ…美国織莉子らに脅されてんのか?!」

 

「違う…これはあたしが自ら決めたこと……」

 

 自分の意志でほむら達を裏切った…?

 それを聞いて堪えられなくなったアタシは思い切りアイツの肩に掴みかかった。

 

「どうしてだよ! 何がお前をそうさせた!!」

 

「…………」

 

「答えろ!! アイツらがどれだけお前のことを大切に思ってたのか分かってんかよ!!」

 

 

 

 

『確かにさやかにはそういう一面もあるけれども、その真っ直ぐさが彼女のよいところなのよ』

 

『そうね。彼女のお蔭で私達もたくさん助けられてもらったわ』

 

『随分と信頼してるんだな。アイツのこと』

 

『だってさやかちゃんはわたし達の大切な友達で仲間だもの』

 

『……そっか』

 

 

 

 苦楽を乗り越えて、美国織莉子達と戦ってきた仲間だったはずだ。

 アタシがマミの生き方をバカにしたときアンタは怒り、何も考えずにがむしゃらに向かってきたよな。

 

「テメェにとってアイツらはその程度のモンなのかよ…アイツら一緒に戦ってきた時間は…全部偽りだったのか!」

 

「黙れッ!!!」

 

「ッ!!」

 

 とんでもない力で突き飛ばされて地面に倒れてしまう。さっきまでの覇気のない姿はどこにいったのか、美樹さやかは凄まじい形相でアタシを見下ろしていた。

 

「アンタには関係ないって言ってんでしょ!!

 何も知らないくせに…好き勝手に喋ってんじゃわよ!!」

 

「……んだと!」

 

「それに…話したトコで……どうしようもないよ……

 どうしたってほむらを殺した罪は消えない!!」

 

「お前……」

 

 もう一度掴みかかってやろうとしていたが、また一変したアイツの様子にアタシはどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

 だがそんな時間は直ぐ様なくなってしまった。何故なら……

 

「見つけたよ、佐倉杏子」

 

「!!」

 

「その声はまさか…ッ!!」

 

 呉キリカ。その名を呼ぼうとした瞬間、辺りの景色に変化が起きた。

 この感覚…優木沙々の時と同じ!

 

「ん、なんだキミもいたのか。美樹さやか」

 

「暁美ほむらの時といい、ターゲットの元に着くのが早いことで」

 

「……今度は意図していたわけじゃない」

 

 その返答に呉キリカは興味がないといった様子を見せ、視線を美樹さやかからアタシに向ける。

 

「あっそ、まあそんなことはどうでもいいや。

 佐倉杏子。キミに一つ聞きたいことがある。」

 

「何だよ」

 

「暁美ほむらのソウルジェムを知らないかい?」

 

「!!」

 

「はっ? ほむらのソウルジェム?

 そんなもん聞いてどうする……いやお前のすることは分かりきってるか」

 

「で、どうなんだい」

 

「知らねえなァ、それに知ってたとしても誰がテメェに教えるか」

 

「ふぅん…そうかい」

 

 

 

 

 

「ならいいや、キミは最早不要だ。ここで死ね」

 

「なッ?!」

 

 身の危険を本能的に察したアタシは身を伏せる。

 さっきまで身体のあった場所に呉キリカの鉤爪が通る。

 もし判断が一瞬でも遅かったら……

 やっぱコイツは段違いにヤベェ!!

 

 魔法少女の姿に変身して武器を取り出し身構える。

 過去に対峙した時と同じくアタシの身体は少し震えていた。

 

 武者震い…ではないよな。

 でももう逃げ場は何処にもねぇんだ…腹くくるっきゃない!

 

「これから行われる織莉子の計画にとってキミは邪魔な存在だ。

 あのガキんちょと同じ運命を辿らせてあげるよ」

 

「あのガキ…?!!」

 

 その言葉を聞き、悪感が走る。

 

 アイツらに接点のあるガキといえば…アタシの知る限りでは……

 

 青ざめているアタシを見て呉キリカはニヤリと笑い、ポケットからあるものを取り出した。

 それは緑色のデカいリボンだった。

 

「そうさ、キミの予想通りだ」

 

「ゆまに…ゆまに一体何をしたッ!!!」

 

「私は何もしてない。やったのはあのチビ助だ。

 マンションにいたガキんちょに奇襲を仕掛けてそのまま魔女の結界に閉じ込めてやったって言ってたかな?」

 

「魔女の結界にだとッ?!」

 

「残念だけど今キミのいる結界ではないね。まっ、仮にいたとしてもどうなってるのかはこのボロクズを見たら大体察しがつくと思うけど」

 

「テメェら……」

 

 何故だ…何故なんだ。

 あんときといい、どうしてアイツを巻き込む……

 魔法少女としての道もアタシは進ませたくなかった…なのにテメェらはゆまを地獄の道に引きずり込んだ……

 アイツがテメェらに何をしたっていうんだ。

 アイツはただ普通の平凡で幸せな生活を送りたかっただけなのに……

 

 前にゆまは言っていた。

 両親と共にいた暮らしは辛かったって。

 母親からの虐待を受けて、アイツの身体には酷い傷がいくつもあった。

 普通じゃねぇ過酷な人生をこんな小さな頃から体感していた奴に…何でそんな真似が出来んだよ……

 

 もう限界だ…テメェらには一切の情けなんかかけねぇ……

 呉キリカ、美国織莉子、優木沙々…テメェら全員ッ__

 

「ぶっ殺す!!!!!」

 

「やれるものなら…やってみろッ!!!」

 

 アタシの槍とヤツの鉤爪が火花を立ててぶつかり合う。死闘が今、始まった……

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕方。

 マミは授業を終え、ゆまの待つ自分の家へと向かっていた。

 

「ゆまちゃん、ちゃんといい子でいるかしら?

 きっと一人で寂しい思いをしているから早く帰ってあげなくちゃね」

 

 その足取りはいつもよりも軽く、マミ自身も早くゆまの顔を見たいと思っていた。

 しかし家へと近づくにつれて普段とは違う違和感を強く感じるようになる。

 

(何かしら…この胸騒ぎは……?)

 

 そんなことを思いながら自分の部屋の前まで歩いていき、鍵を開けて部屋に入る。

 マミはそこでとんでもない光景を目の当たりにしてしまう。

 

「ッ!! 何よ…これ……」

 

 酷く荒らされた自室。

 粉々に砕け散ったベランダのガラス。

 微かに感じる魔女のいた痕跡。

 

 そして____

 

「ゆまちゃん?! どこにいるの!!

 お願い…返事をして!!!」

 

 大声でゆまの名を呼びかける。

 だが幾ら呼んでも彼女の返事はなかった。

 

「千歳ゆまなら既に連れ去られた後だよ」

 

「キュゥベえ…何でここに……?

 それに連れ去られたってどういうことなの…ゆまちゃんに何があったの?!!」

 

 突然現れたキュゥベえに問い詰めるマミ。

 しかしキュゥベえは一切動じることなく彼女にある問いかけをする。

 

「マミ、君は暁美ほむらのソウルジェムがどこにあるのか知っているかい?」

 

「暁美さんの…知らないけども、どうして?」

 

「そうか、なら僕から一応の警告をしておく。

 もうこれ以上、美国織莉子達の件には関わらない方がいい」

 

「急にどうしたの、らしくないわね」

 

 異様な様子のキュゥベえを見て不審に思う。

 

「これ以上、魔法少女同士で互いを潰し合って無駄な犠牲が出るのは僕としても不都合なんだ」

 

「魔法少女同士で…? じゃあゆまちゃんはそれに巻き込まれて?!」

 

「いや、千歳ゆまは彼女達に誘拐されたんだ」

 

「!!!」

 

 誘拐。その言葉を聞いたマミは直ぐ様、玄関へと走り出した。だがキュゥベえは彼女の前に回り込んで足を止めさせる。

 

「待つんだマミ!!」

 

「どいてキュゥベえ、ゆまちゃんを助けにいかなくちゃ……」

 

「そうか、君とは知らないんだったね。あの後に起こった事件を」

 

「事件?」

 

「あまり時間がないから手短に話すよ。

 君が病院を出て佐倉杏子と別れた後にね___」

 

 そうしてキュゥベえは二日前に起きた裏切りの事件の顛末を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

「オラァァァ!!」

 

「くっ…!」

 

 鉤爪による攻撃をかわして槍で大きく薙ぎ払う。

 確実に当たると確信していたが、寸でのところで避けられた。

 

 チッ…アイツの能力のせいで攻撃が全然当たらねぇ!!

 

 詳しくは分からねえが戦い始めてからかなりの時間が経っている。

 向こうには速度変化の固有魔法があるが、今のアタシにはそれはない。

 その有無のせいでがアタシら二人の戦力の差は決定的ものになっていた。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「さすがのキミもそろそろ限界みたいだね」

 

「ナメんじゃねぇ、まだまだこれからだ……」

 

「フッ…その強がりはいつまで続くかなッ!!」

 

 速度を操り、"高速で"アタシの背後に回り込む。

 アタシを遅くして一気にたたみかけるつもりみてーだが、そうはいかねえよ。

 

「そこだァ!!」

 

 背後にいる呉キリカへ向けて全力で槍を振るう。

 ……だがその攻撃は空を切るだけだった。

 

「なっ?!!」

 

「腑抜けが!」

 

 気が付くと奴はアタシの目の前にいた。

 

 この一瞬でまた移動しやがったのか!!

 ヤベェ…防がねぇと……

 

 咄嗟に槍を構えて防御する。だが……

 

「ハァッ!!」カァン!

 

「ッ!! しまった」

 

 金属同士がぶつかるような甲高い音がなり、奴の攻撃でアタシの槍が手から離れ、弾き飛ばされてしまう。慌てて武器を拾いに行こうとするが___

 

「隙を見せたな」

 

「あっ……!」

 

 アタシは焦りのせいで判断を見誤った。

 

 次の瞬間、奴の鉤爪によりアタシの身体を引き裂かれ、斬り口から大量の血が溢れ出る。

 

「ガアァァァッ!!!」

 

 激痛で地面に倒れ込む。

 斬られた部分に手を当てて、治癒しようとするが精々出血を抑えるくらいのことしか出来なかった。

 

 やっぱマミのようにはいかねぇか…ならッ!!

 

「うおおおおお!!!」

 

「へぇ…その傷でもまだ立ち上がれるのか」

 

「けっ、これくらいどうってことねぇさ……」

 

「痛覚遮断、美樹さやかのを真似たか。

 けど…それも全部無意味だ」

 

「くっ……」

 

 槍までの距離はまだ遠い……

 下手をすりゃさっきと同じことになるが、このまま丸腰ってわけにも……

 

 焦りを感じていると呉キリカはアタシのあることについて気が付いてしまった。

 

「何故キミは新たに武器を出そうとしないんだい?

 巴マミや美樹さやかならとっくにそれをして私に向かってくるはずだが」

 

「悪りぃがアタシは一途なモンでねぇ…そういった真似はしないのさ」

 

「隠そうとしたって無駄だ。キミは武器の生成や傷の治癒には長けていないだろう?

 私も同じさ…この手は織莉子の為に邪魔者を排除するためだけにある!!」

 

 武器を取りに行かせまいと攻撃の手を再開する。

 けど残念。時間は十分に稼がせてもらったぜ!

 

「多少時間はかかるがなァ、出来ねぇってわけじゃねぇんだよォッ!!」

 

 槍を生成して再び構え、空高く飛び上がる。

 そして狙いをさだめ、魔力の全てをぶつける!

 

「くらいやがれッ!! 盟神抉槍(くがたち)!!

 ハアアアアアアアッ!!!」

 

「ぐっ……!!」

 

 攻撃は僅かに当たったらしく呉キリカは顔を歪めていた。一安心…と思ってるかもしれねぇがまだ終わらねぇよッ!

 

 槍を多節棍に変形させて奴の身体に巻き付ける。

 

「何っ?!」

 

「もらったッ!」

 

 そのまま力を込めて奴を拘束する。

 いくら素早く動けようともこうしちまえばこっちのもんだ!

 

 完全にアタシのペースとなり、このまま勝負をつけてようとした。

 けど……

 

「うあっ…!」

 

「…………」

 

 突然肩に刺さった剣がそれを妨げた。

 美樹さやかが背後から攻撃をしかけてきたのだ。

 

「テメェ……」

 

「あたしらの邪魔をするなら…誰であろうと容赦はしない」

 

 アタシの肩から剣を抜いてそれをこちらに振りかざす。そのせいで拘束が緩んでしまい、呉キリカを自由にしてしまった。

 

「全く余計なことをッ…!!」

 

 呉キリカは爪を多節棍の節々に目掛けて振り下ろす。次の瞬間、アタシの武器はただのバラバラの棒に変わる。

 そして……

 

 

 

 呉キリカの鉤爪全てがアタシの身体を貫いた。

 

 

 

 その一撃がアタシの意識を根こそぎ持ち去ろうとする。消えゆく意識の中、アタシは必死に手を伸ばしていた。相手は呉キリカでも美樹さやかでもない。

 こんなアタシを____と呼んでくれた……

 

「ゆま……」

 

 

 

 

 

 

 杏子にトドメをさしたキリカはこのことを報告するために携帯を取り出す。

 

「さてと…織莉子に連絡しなくちゃ」

 

「…………」

 

「お前はどうするんだ、このまま織莉子の所へ戻るのかい?」

 

「いや……」

 

 素っ気ない返事をするさやかにキリカは大きなため息をする。

 

「ふん。また単独行動か」

 

「別にいいでしょ…アンタらには迷惑はかけないんだし」

 

「ならさっさと行きな。また何かあれば連絡するからさ」

 

 手で追い払うような仕草をしてさやかをこの場から離れさせようとする。

 さやかはそのまま背を向けて、無言で結界から出ていった。

 

 

 

☆ 

 

 

 

 時刻は再び夕方。

 仕事を一通り終えた詢子は椅子に座りながら大きく伸びをする。

 

「うーん…今日のお仕事は終了っと。

 じゃあ帰るとしますかな」

 

 デスクの上にあるものを片付けて帰る支度をし始める。それをしてると詢子はふとあることを思い出し、その手を止めた。

 

「あの後どうしたんだろうな…『さやかちゃん』」

 

 

 

数時間前……

 

 

『あれ、アンタは……』

 

『あっ…どーも詢子さん』

 

『さやかちゃんじゃん、久しぶり。学校はどうしたのさ』

 

『えっと…色々と事情があって抜けてきました』 

 

『おいおいサボりかー? 和子に言いつけちゃうぞー』

 

『あはは…勘弁してくださいよー』

 

『にしてもさっきといい今日は見舞いに来てくれる子が多くていいねぇ』

 

『誰か他に来てたんですか?』

 

『あぁ、まどかの友達で…杏子ちゃんって子がね』

 

『杏子ッ?!』

 

『ん? 知り合いだったのかい』

 

『ま、まあそんなとこですね……』

 

『ほーん……ってヤバッ! もう戻らないと!!

 ごめんさやかちゃん! 悪いんだけど私もう戻らないと!!』

 

『あっ、分かりました! お仕事頑張ってくださいね!』

 

『ありがと。それじゃッ!』

 

 

 

「何にせよさやかちゃんは元気そうで良かった」

 

 いつものように明るく振る舞うさやかを思い出して笑みがもれる。

 支度を終えて、帰ろうとすると詢子の携帯に着信が入った。

 電話はまどかの入院してる病院からだった。

 

「!!」

 

 慌てて携帯を手に取り、通話ボタンを押す。

 連絡の内容は…とんでもないものだった。

 

「まどかが…いなくなった?!」

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって見滝原の某所。

 さやかは携帯で何者かと連絡を取り合っていた。

 

「オッケーそっちの方は引き続き任せた。

 アタシはまだやんなくちゃいけないことがあるから…それじゃーねー」

 

 通話を切ってふっと傍らを見つめる。

 視線の先にいるのは…穏やかな寝息を立てて眠る鹿目まどか。

 

「う、ううん……」

 

「おっ、ようやくお目覚めか」

 

 意識を取り戻したまどかはキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「ここは…何でわたしこんな所に……」

 

「まーそれは後々説明するよ」

 

 さやかはそう言いながらまどかに指輪をはめる。

 

「これって……」

 

「病院にあったのを取って来たのさ」

 

「さやかちゃん。教えて一体何が起きてるの?」

 

「それも説明するから大丈夫だって」

 

 そう言いながらそっとまどかの頭を撫でる。

 そして手のひらに拳を打ちつけて不敵に笑った。

 

「さてと…そろそろ動きますか!」

 

 

 

 

 

 

 

NEXT → 美国織莉子との最終決戦が遂に始まる!!

 






☆次回予告★



夢の中でまどかが見たものは!

『よろしくね。暁美さん!』

『私に……近づかないで』


決戦に赴く少女達の思いは!

「織莉子…もし私がいなくなったら……」

「もう戦うしか道はないのよ!!」

「こんなこと絶対に間違ってる!!」


そして始まる最終決戦!

「これだけの魔女と戦えるかな? ベテランさん♪」

「こんな所でなァ…倒れるわけにはいかねぇんだよ!!」


第34話 正義の在処


See you!! Next story……

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