※一部文がおかしな点があると思いますが、それは後程修正していくのでお願いします。
『…………』
キュゥベえは全てを見ていた。杏子と沙々の戦い、さやかの裏切り、織莉子達の来襲。
そしてもう一つの異変を。
今日の夕方、急患として搬送された鹿目まどか。彼女もまた極限の状態に置かれていたのだ。
「……親族の方には連絡は済ませたか?」
「は、はい。すぐにこちらに向かうと」
「そうか」
「あの……」
「何だ?」
「この子、本当に大丈夫なんでしょうか?
ずっと意識も失ったままだし、それに何だか凄く弱っている気が……」
「……ここに搬送されたとき、全身を隈なく検査したが命に関わる傷は負っていなかった。
それだけじゃない、呼吸・脈拍・血圧、その他のバイタルデータにも異常は何一つない。しかし……」
「しかし、何ですか?」
「この子に表れている症状は長い間ずっと休むことなく、限界まで体力を使い果たした人間と同じ状態にあるのだ。
それも普通の人間じゃ到底考えられないレベルの…簡潔に言うなら……死にかけている」
「何で…何でそんなことがこの子に…?」
「分からない。だが今は私達に出来る限りのことを尽くすしか方法はないんだ」
「……はい」
キュゥベえは病室の隅でその様子をずっと観察していた。
『……ようやく君の謎が解けてきたよ。鹿目まどか。
まだ確証は持てないけども君と暁美ほむらの間には恐らく……』
そう語っている間にも事態は進み、まどかを別の病室に移す作業が行われていた。
『もしもこの予想が本当に正しかったら非常にマズいことになる。
下手をしたら鹿目まどかは…今夜ここで命を落としかねない』
まどかの身体が担架に乗せられる。
そしてそのまま病室から運び出されていった。
『どうやら全ての運命は君の生死で決まるようだね。暁美ほむら』
☆
別世界からやってきたほむら。悪魔ほむらは遠く離れた場所で事の成り行きを傍観していた。
『遂に始まったようね』
かつての仲間に拳を振るい、剣を抜き、守るはずであった友を斬ろうとする様はあまりにも悲しい光景だった。
『それがあなたの選んだ道なのよね。
全てを知り、悩み、苦しんだ末の決断……
はあ、本当にあなたはどうなったって私という存在の前に立ちはだかるのね。この世界でもあの世界でも……』
困惑した状態で必死に逃げるこの世界の自分。
そして決して届くことない言葉を伝えながら。
『こうして自分がやられていく様を見るのはあまり良い気分ではないけど…仕方がないのよ。
そうでもしないと…またあの子に同じ苦しみを味わせてしまう。だから…早く全てを終わらせて……』
まるで自分に言い聞かせるように独り言を呟く悪魔。その最後の言葉は…哀願のようにも聞こえた。
☆
私の眼前には三つの人影があった。
美国織莉子、呉キリカ、そして…私達の仲間であるはずのさやか。
「キミもようやく覚悟を決めたみたいだね」
「…………」
「最初は織莉子の計画の邪魔にしかならないと思っていたけども、一体どういう心境の変化がキミに起こったんだい?」
「…………」
「だんまり…か。まあ何にせよキミのお蔭で事が運びやすくなったことは確かだ。そうだろう織莉子?」
「ええ、そうね」
「……別にアンタ達に感謝してもらいたくて、やったことじゃないわよ」
「確かにその通りだわ」
素っ気ない態度を取りながらも織莉子達と会話をするさやかの姿に私は信じられない気持ちでいっぱいだった。
聞きたいことは色々ある。だけども私の口から出たのはたった一言。
「どうして…なの……?」
声に反応した織莉子は険しい表情をしながら、こちらに顔を向ける。
「私達と彼女の目的が一致しているから、ただそれだけのことよ」
「そんな…だってあなた達の目的は……!」
「当然あなたの抹殺。依然として変わりないわ」
「嘘よ、さやかが…そんなこと……」
「信じられないというのかしら? 実際に彼女に襲われ、殺されかけたというのに」
『アンタ、死にたいんだってね』
『あたしはあの人とは違う…望みを叶えてやるよ』
『全部…お前のせいだ。この…悪魔がァァァ!!!!!』
さやかから発せられた言葉が次々と蘇る。
そしてその後に奮われた幾つもの刃。あれは本気の殺意から来る攻撃だった。
だとしたら彼女は本当に……
「残念だけども今の美樹さやかと私達は協力関係にある。それだけが真実」
美国織莉子の言葉がトドメとなって私はガクリと項垂れた。そんな私を見下ろしながら呉キリカは鉤爪を私に爪先を向ける。
「織莉子…もういいだろう。そろそろ終わらせよう」
「これで私達の悲願は達成される。最期に何か言い残すことはある?」
「……ッ!!」
どうにかして抵抗したかったが、体力の限界と先程の一件でソウルジェムを大きく濁らせたことによってもうほとんど力は残っていない。
このまま殺されるしか道はないというの…?
「待って」
「何かしら、美樹さやか?」
「まさかここに来て裏切るつもりなんじゃないだろうね。もしそうなら……」
「勘違いしないでくれる?
これはあたしが最初に始めたこと。だから決着はあたし自身でつけさせてもらう」
「へぇ……」
予想外のことに呉キリカは感嘆する。だがそれとは正反対に織莉子は複雑そうな表情でいた。
「本気なの」
「何さ文句でもあるわけ?」
「別に…ないわ……」
「ならもう邪魔しないでよ。
あたしはどうせもう____」
美国織莉子に何かを囁いたさやかだったが、あまりにも小さく聞き取ることは出来なかった。
いや…今の私にはそんなことを気にしている余裕なんてない。
右手に剣をギュッと握りしめて、こちらを睨むさやか。その目には迷いは存在せずにただ純粋な殺意が宿っていた。
そしてゆっくりと腕が振り上げられていく……
「さやか……」
「もう…何も言わないで」
剣先が頂点に達する。そして柄を両手で握り……
斬ッ!!! と剣は振り下ろされた。
第32話 希望へのS ~ 散華
「ハアッ…ハアッ…ハアッ!!」
降りしきる雨の中、杏子は息を切らせながら走っていた。優木沙々との戦いで満身創痍であるにも関わらずひたすらと……
チクショウ…何なんだよ。この胸騒ぎは…!!
あんときと全く同じだ。あのまどかって奴がやられた時のように。
何故こんなにも必死になっているのか、それは杏子自身も理解できなかった。
本来なら自分以外の魔法少女達がどんな目に遭おうが関係などないはずなのに。
頭ではそう考えていても、足は止まらない。
「クッ…どんどん魔力が小さくなってる奴がいる!
何やってんだよ
目指す場所まで距離はまだまだある。
杏子は跳躍して屋根伝いに移動をする。
そして更にスピードを上げ、反応のする方へと向かう。ただ一つの願いをその胸に込めながら。
頼むから…今度こそ間に合えッ!!
☆
寸でのところで魔法少女に変身し、盾で攻撃を防ぐ。剣による衝撃が加わり、そのまま地面に膝をついてしまう。
「グッ……」
「……ッ!!」
ギリッと歯噛みする音が聞こえる。恐らくさやかのものだろう。
ようやく私は遅蒔きながら現実を理解した。
さやかは…美国織莉子達と同じく本気で私を殺そうとしている。
理由は分からない。かといってそのまま交戦するわけにもいかない。ならば私が取る行動は一つ。
「ヴァァァッ!!」
「!」
再び剣が振るわれる。
さっきは咄嗟で盾で攻撃を受けてしまったけども今度は違う。
「ごめんなさい。さやか!」
「なっ…?!」
足払いをして彼女のバランスを崩す。
その隙に立ち上がり盾から逃走のための武器を探る。
閃光手榴弾。これがあれば……!!
盾から取り出してそれを投げつけようとする。だが次の瞬間、頭部に凄まじい衝撃が与えられて私の身体は飛ばされ、鉄橋の柵に叩きつけられた。
「あ”っ…ぐぐ……」
「そう簡単に逃げられると思ったのかい?」
「残念だけど、あなたの行動は予知済みよ」
そうだった…美国織莉子の能力は予知。そして呉キリカは速度低下…全快の状態でも彼女達から逃げ切るのは容易ではない。一体どうすれば……
そう考えていると突然視界が赤色に切り替わる。
慌てて目元に手を当てるとその手は血で真っ赤に染まっていた。今の攻撃でつけられたようね……
「うっ……」
立ち上がろうとするも失血による立ち眩みでその場にうずくまってしまう。
「もうその状態では逃げることもままならないでしょう。それでは後は頼みましたよ、美樹さやか」
二人はその場から数歩下がり、私が逃げ出さないように監視に戻る。
そうしてさっきの足払いから復帰したさやかが再びこちらに近づいてくる。
「…………」
「ねえ……」
「…………」
「どうして…美国織莉子達と手を組んだの…? 何か理由があるのなら……」
「ほむら……」
私の問いかけにさやかがやっと口を開いてくれた。
その表情は今までの怒りに満ちたものではなく憂いを秘めたものだった。
「あたしね…もう全部知ってるんだ」
「えっ?」
「アンタの身体がどうなっているのか。このまま放っておいたら一体何が起こるのか」
「それって……」
「自分でも気づいてるんでしょ?」
「…………」
さやかが言っているのはあの呪いのことに間違いない。おおよそのことは美国織莉子から説明されたのでしょうね。
「それであなたは…彼女達の方に付いたってわけ」
「うん……」
「…………」
「…………」
静寂の時がしばらくの間流れ、激しい雨音だけが辺りに聞こえていた。
やがて、さやかはゆっくりとこちらに近づいてきて私の胸倉を掴みあげる。
「なんで…あたし達に黙ってたんだよ!! どうして……」
「落ち着いて…きっとまだ方法はある……私達に出来ることが必ず__」
「方法なんてもうない!!」
「!!」
「そうやって迷っていたせいで…まどかはどうなった!!」
「それは……」
「あたしはもう…必要のない犠牲者は増やしたくない。だから…だからァ……」
さやかは泣いていた。
剣を握った手は頻りに震え、涙がポロポロと瞳から溢れていた。
「もうアンタを殺すしか…方法はないんだよ!!!」
「…………」
愚かだ。私はどれだけ愚かだったのだろう。
こんなにもこの子は私の為に必死に悩み、苦しんでいたというのに…私はそれに真剣と向き合おうとしなかった。
その結果まどかが…彼女の周りにいる人達をどれほど悲しませたか……
「うっ…ぐぅあああ……」
急に全身に激痛が走り、再びあの感覚が私に襲いかかる。心が闇によって蝕まれてゆく感覚が……!
しかもこれまで何かとは比にもならない…物凄い勢いで私を侵食していってる。
視界が更にぼやけ、意識が朦朧とする……
今見えるのは…禍々しく光るソウルジェムと涙でぐちゃぐちゃになっている私の仲間……
「ほむら……」
『ギッ…アグッ…ううううううゥゥゥ!!』
「もう限界のようね…キリカ」
「ああ準備はもう出来てる」
戦闘態勢に入る美国織莉子と呉キリカ。
自分がどうなっているのか全く分からない。でも…もしこの呪いに屈したら、私は二度と元の自分には戻れない!!
「ダメッ……お願、いだ…から……」
「ほむら…アンタはあたしが殺す」
次の瞬間、私の頭にある記憶が蘇る。
それは…かつての失われた時間軸での記憶。
★
『そっか…それがアンタの秘密ってわけね』
『ええ』
『ごめん』
『どうしたのよ急に?』
『何かさ…あたしのせいで転校生に迷惑かけてたみたいだから』
『別にあなたのせいじゃないわ』
『またまた…そんなこと言っちゃって』
『真実を伝える勇気が無かったから、あなたに余計に不信感を与えてしまったのよ』
『じゃあお互い様ってことで』
『そうね……』
『…………』
『…………』
『最期にアンタに会えて良かったよ。あたしのことを本当に分かってくれたのは…転校生アンタだけだったから』
『鹿目まどかや巴マミではないの?』
『あの二人は…あたしなんかとは違うよ。アンタもそう思うでしょ?』
『……そうね。彼女達はどこまでも真っすぐでいつだって憧れだった』
『うん…あたしもおんなじ』
『そう』
『…………』
『…………』
『ねぇ……』
『なに?』
『手握ってもいい』
『構わないわ』
『ありがと』
『不思議なこともあるものね。まさかこの世界での最初の理解者があなたになるなんて』
『うん…あたしもだよ』
『…………』
『あのさ…あたしの一生に一度のお願い聞いてくれる?』
『……内容によるわ』
『このまま魔女になったらさ、アンタの手であたしを倒してほしいんだよね』
『……いいわ』
『ありがとね。それともう一つ』
『一度だけじゃないの…?』
『あはは、おまけってことで…もしこの世界でまどかを救えずに時間を戻すことになっても諦めないで欲しいんだ』
『そんなの言われるまでもないわ』
『言う必要なかったか…お願い一つ損しちゃった』
『損も何も最初から一つだけじゃない』
『そっか…あっ……』
『どうしたの?』
『もうソウルジェムが……』
『そう……』ギュッ
『離れなくていいの? もう魔女になっちゃうんだよ?』
『ひとりぼっちは寂しいでしょ? 最期まで付き合うわ』
『てん…いや、ほむら。みんなを…あたしの親友を守ってあげて……』
『ええ』
『じゃあ…後のことは頼んだよ……』
魔女となった美樹さやかは…私によって倒された。その間、彼女は一切の抵抗をせずに静かにその場を佇んでいた。
私はさやかとの約束を胸に、結界を後にした。
★
「その必要はないわ」
私はさやかの手を強く握りしめてそう言った。
戸惑いを見せている内に彼女から離れ、鉄橋の柵にもたれかかる。
「アンタ一体何を……」
「いいのよ、さやか…あなたがこれ以上傷つくことはない。これは私自身が撒いた種。だからそのケジメはしっかりとつける」
呪いにもがき苦しむ姿から一変した私にさやかだけでなく美国織莉子達も動揺を隠せていなかった。
私はさやかに笑顔を向けながら盾から一丁の拳銃を取り出す。そしてそれを……自分の額に向けた。
「「!!」」
「ほむら…何を?!」
「言ったでしょう。あなたが傷つく必要はないって」
「アンタ……まさか?!!」
照準がブレないようしっかりと両手で銃を押さえる。そうして引き金に指をかけ、ゆっくりと力を込めていく。
私は…『最期』の言葉としてあの時の彼女と同じことを呟いた。
「後のことは頼んだわよ……」
そして……
パァン!!!
銃声が鳴ると共に…私の意識は遥か遠くの彼方へと消えていった。
☆
銃で自分の頭を撃ち抜いたほむらは…グラリと後ろに倒れてゆき、そのまま柵を越えて下の川へと落ちていった。
「ッ!!」
さやかは慌てて走り出し、落ちたほむらの行方を視線で追う。
しかし雨のせいで流れが増しているせいで川は荒れ、とても橋からでは見つけ出すことが出来るはずもない。
「そんな……」
「…………」
「……これで、終わったんだね。織莉子?」
「…………」
崩れ落ちるさやかを複雑そうな表情で見つめる織莉子。キリカは彼女からの返事が返ってこないことに不安を感じていた。
重苦しい空気が流れる空間。そこに新たに足を踏み入れる者が一人現れる。
「おい…一体どういうことなんだよ……」
「!!!」
「キミは……」
「佐倉杏子…!!」
肩で息をしながら口にしたその問いかけに答える者はいなかった。
何も喋らない三人を睨み付けたまま、杏子は再び口を開く。
「銃声が聞こえて…それから誰かが橋から落ちてった。まさか……」
「…………」
「…………」
「…………」
「黙ってないで何か言いやがれ!!」
「行きましょう。二人とも」
激昂する杏子に背を向けて歩き出す織莉子。
その後ろ姿を二人は黙って見ていたが、直ぐ様追いかけ始めた。
当然、杏子はそのまま見過ごすはずもなく……
「待て! こっちはまだ何も聞いてないぞ!!」
「ハァッ!!!」
「ぐわッ…!!」
織莉子の放った光弾は杏子の腹部に命中。
それにより杏子は数歩後退させられ、地面に膝をついてしまう。
死闘を繰り広げて、その後も休まずに走り続けていた彼女の体力はもう限界だった。
「チクショウ…まだ話は……」
「そんなに真実が知りたいのなら教えてやるよ」
諦めの悪さに苛立ったのかキリカが杏子の目の前にやって来る。
そして見下ろしたまま短くこう言った。
「暁美ほむらは私達の手で始末した。キミが見たのは彼女の遺体だ」
「なんだとオッ…!! ぐぐぐ……」
「キリカ!!」
立ち上がろうとする杏子の背中に蹴りを入れるキリカ。織莉子は叫んで制止させようとするがその必要はなかった。
一蹴り入れて気が治まったのかキリカは早足で歩き出してそのまま織莉子を追い越していった。
「もう行こう…ここにいる必要は、もうない」
「え、ええ……」
「…………」
遠ざかる三人。身動きが取れない杏子はただそれを見ていることしか出来なかった。
☆
ほむらを倒し、杏子を打ちのめした織莉子達。
目的を達成して帰路につく彼女達の足取りはどれも重たい。
「織莉子」
キリカは先程からずっと沈んだ表情をしている織莉子に声をかける。
一体何がこれ以上彼女を苦しめているのかそれがずっと不思議でたまらなかった。
「織莉子…これで全部__」
「まだ終わってないわ」
「えっ?」
「?!!」
その発言を聞いてさやかはビクンと身体を揺らす。だが二人はそれには気付かないまま話を続ける。
「何故…もうアイツは倒したはずじゃ……」
「まだ暁美ほむらのソウルジェムが残っている」
「……そうだった。ということは」
「私達には彼女の肉体を見つけ、そのソウルジェムを砕かなければならない」
「じゃあ今すぐ……」
「この雨で増水した川の中から見つけるのは困難よ。夜が明けて天候が回復してからにしましょう」
「待ってよ……」
そのまま歩き出そうとする二人を後ろから呼び止めるさやか。
織莉子はその揺らいでいる彼女に労いの言葉をかけた。
「美樹さやか。あなたはよくやったわ。
後のことは私達で終わらせるからあなたは何もしなくて構わないわ」
「…………」
「何も心配する必要はない。彼女がやって来る前と同じ元の暮らしに戻ればいいのだから……」
「そんなこと…簡単に_「無理でしょうね」_?!!」
「あなたはそれも覚悟の上で協力をしたのでしょう?」
「……でも」
「初めは辛いかもしれない…でも後悔の念に囚われ続けていては前には進めない。
たとえどんなに苦しくても罪を背負っていくしかないのよ…私達は……」
「…………ッ!!!」
話を聞くことに堪えられなくなったさやかはその場から走り去ってしまう。
そんな彼女をみる織莉子の目はやはりどこか悲し気なものだった。
「織莉子」
「さあ帰りましょう…キリカ」
「本当はそれだけじゃないんだろう? キミが苦しんでいるのは……」
「…………」
キリカは彼女の葛藤を理解していた。
だがそれを分かっていたとしても出来ることは何もないことも知っていた。
「ごめんなさい」
「えっ?」
「私の心がもっと強ければ…あなたを苦しませないで済むのに」
「キミがこんなにも辛い思いをしているのに私は何もしてあげられない。
でも…これだけは伝えておきたい。私は何が起きようともキミの世界を守り続ける。
たとえそれが虚構の世界であっても……」
「……ありがとう」
「それじゃあ今度こそ_「いたいた。やっと見つけたー!」_はぁ……」
話の最中であったが、遠くからの呼びかけで遮られてしまう。
キリカは小さく舌打ちをしてから声のする方に目を向けた。
「アンタら傘もささずにこんなトコで何やってんのさー」
「優木さん…あなた今までどこにいたの? テレパシーにも反応しなかったみたいだったけど」
現れたのは沙々だった。
鉄橋に向かう途中、織莉子は彼女にも声をかけていたみたいだ。
「戦ってたんだよ。あの赤い奴と」
「佐倉杏子のこと?」
「うん。この前の借りを返すつもりでいたのにアイツときたら…何だよあの馬鹿力、バケモンクラスだよあんなの」
「そう、そういうことだったのね」
「ふーん。図らずもコイツはキミにとって都合の良いことをしていたみたいだね」
「なになに何の話さー?」
「お前は知らなくていい」
「なんだとー!!」
「はいはい…もう遅いんだからやめなさい二人とも」
また喧嘩になりかけようとするが、織莉子はそれを何とか止める。
そして場が落ち着いた後、彼女は沙々にこんな問いかけをした。
「ねぇ、優木さん」
「なに?」
「何故あなたは私達に協力しているのか…その理由を覚えている?」
「アンタに雇われたからでしょ? グリーフシードと快適な住居を提供させてもらう代わりとして」
「そう…それならいいの……」
不安そうだった織莉子の顔に少しだけ明るさが戻る。この質問に何の意味があるのか…それはまだ彼女とキリカしか知らない。
「お世辞にも快適とは言い難いけどー」
「お前……」
「まー、私は寛容ですから別に文句は言わないですけど~」
「やっぱりここで刻んでしまった方がいいんじゃないかなぁ…織莉子?」
「いいのよ…私にはこれで……」
それから三人は明日なる戦いに備えて織莉子の家に帰っていった。優木沙々が持ってきた傘をさし、共に歩きながら……
そして夜が明け、新しい朝がやってくる。
激しく降り続けていた雨は止み、川の増水も収まっていた。
そんな光に照らされる街の河原に倒れている人影が一つ…暁美ほむらだった。
落水した彼女だったが運良くその身体は河原に流れ着き、川の底に沈まずに済んだみたいだ。
「……………………」
かろうじてまた息はあるも、目覚める様子は見られない。
意識を失ったままのほむら。そしてそこに近づく新たな影が……
「いた……」
その影の主は美樹さやか。
彼女は一言だけそう呟いてほむらへと歩み寄る。
そして彼女は魔法少女の姿に変身し…ゆっくりとほむらに手を伸ばしていった。
☆ to be continued…… ★
※次話に進む前にこれまでのお話の文章やセリフを少しだけ変更、場面(キャラの活躍シーン)の追加を行いたいと思います。
※今までの話の流れに支障をきたしたり改編することはありませんのでご安心ください。なお変更が多かった場合は再投稿をして変更点を前書きに書かせてもらいます。
※今後も不定期更新が続きますがよろしくお願いいたします_(..)_
☆次回予告★
近づく織莉子達との決戦の時!
「さあ全てを終わらせましょう」
「キミは最早不要だ。ここで死ね」
苦悩する杏子!
「アタシには似合わないんだよ…そういうのはさ」
「難しく考えすぎなんだよ、もっとバカになんな」
物語の鍵を握るのは……?!
「どうしたってほむらを殺した罪は消えない!」
「さてと…そろそろ動きますか!」
第33話 Oは排除せよ
See you!! Next story……