(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※タイトル変更しました。
※今回で物語が大きく動きます。つまりここからが、第3章の本番ってことになりますね。
※そして遂に「あのお方」がアップを始めます。

※最後に長らくお待たせして誠に申し訳ございませんでした。それでは…本編をどうぞッ!



第30話 Rなんてしたくない ~ 叶わぬ願い

 

 

 

 先程、見滝原の病院に一人の少女が搬送された。

 外傷は特に目立ったものはないが、それよりも意識が全く戻らないことが問題だった。今の彼女は植物状態といっても差し支えない。

 少女の名前は鹿目まどか。何故彼女がこのようなことになってしまったのかは、彼女の友人以外は明確には分かっていない。

 ただ一つ分かることと言えば、鹿目まどかは生死をさまよっている極めて危険な状態にいることだけである。

 

 そんな彼女の元に詢子が駆け寄る。

 

「まどか…おい、返事してくれよ…まどか!!」

 

 悲愴な顔で何度も身体を揺するも反応はない。

 詢子は唇を深く噛みしめてまどかの手を強く握った。その手は少しだけ冷えていた。

 

「くぅぅぅ……」

 

「鹿目さん……」

 

「よせ、今は何も話しかけるな」

 

 詢子は手を握ったまま、嗚咽を漏らす。その後ろ姿をマミと杏子は見つめていた。そしてその隣には……

 

「…………」

 

 茫然と立ち尽くしているほむらがいた。

 

 

 

第30話 Rなんてしたくない ~ 叶わぬ願い

 

 

 

 マミ達が魔女の部屋に辿り着いて見たものは惨憺たる光景だった。

 満身創痍のさやか。

 意識を失ったまま倒れ込むほむら。

 そして二人の状態を合わせたよりも危険な状態に陥っているまどか……

 

 杏子は顔を真っ青にさせながら、まだ意識のあるさやかに駆け寄る。

 

「おい、一体何があったんだ?!」

 

「…………」

 

「テメェ、聞いてんのか?!!」

 

「止めて佐倉さん!!」

 

 何も応えないこと苛立ちを感じて、乱暴しようとするのをマミが慌てて制する。

 それから魔女の方を見て、十分な距離を保てていることを確認して二人に指示を出す。

 

「とにかく今はここから脱出しましょう。

 佐倉さんは暁美さんを、ゆまちゃんは美樹さんの支えになって、美樹さん…立てる?」

 

 マミに問いにさやかはゆっくりと頷いて立ち上がり、おぼつかない足取りで歩き始める。

 その姿を見て、大丈夫そうだと判断したマミはなるべく衝撃を与えないように優しくまどかを抱え上げた。

 

 急ぎながらかつ慎重に結界内を進むマミ達、するといきなり周りの空間が歪みだして出口を目指すまでもなく脱出することが出来た。

 それから三人はそれぞれ怪我を負った者の治療に移った。しかし……

 

「どうしようキョーコ…マドカ全然目を覚まさないよ!!」

 

「クソッ、ほむらの奴も同じだ…大して怪我なんかしてないってのによ!」

 

「ど、どうしよう……」

 

 三人の外傷は、ゆまとマミの魔法で治すことが出来た。だが、治療が完了してもまどかとほむらは意識を取り戻すことはなかった。対処できない問題に追われて、二人の焦りがマミにも移っていく。

 するとさやかが低くしわがれた声で呟いた。

 

「まどかの…指輪……」

 

「そうよ! ゆまちゃん、鹿目さんの手にはめられている指輪をこっちに渡して頂戴!!」

 

 さやかの助言でマミは指輪のことを思い出す。

 そして、ゆまからまどかの右手にはめられていた指輪を受け取り、ほむらにつけた。

 

「う…ううん……」

 

「暁美さん?!」

 

「巴さん…? 私は一体…?」

 

「良かった、気が付いたのね……」

 

 意識を取り戻したばかりでまだ朦朧とするほむら。

 だが、彼女の無事な姿を見ることが出来てマミは安堵のため息を吐く。

 

「……私は確か、魔女と戦っていて…トドメを刺そうとした瞬間に急に意識が……」

 

 意識を失う直前のことを思い出すほむら。そしてすぐに重大なことを思い出す。

 

「そうだわ…!! まどかは…まどかはどうなったの?!!」

 

「鹿目さんならあっちに……」

 

 言い切る前に、駆け出してまどかの元へと寄る。そして彼女の姿を見て、息を呑んだ。

 傷こそは治ったものの、服のあちこちには穴が開いていて、そこから血の痕が付いていた。

 それを見た瞬間、ほむらは膝から崩れ落ちて、彼女の体を何度も揺すった。

 

「まどか…? ねぇ…目を覚ましてよ……まどかァ!!」

 

「_____」

 

「まどか…まどか……」

 

 まどかの体に顔を付けて、泣き続けるほむら。

 他のみんなは、それを黙ってみていることしか出来なかった。

 しかし…一人だけ違った。

 

 これまで大きな反応を見せてなかったさやかが、ゆっくりとほむらに近づいてその肩に手を置いた。

 

「ほむら……」

 

「さやか…?」

 

 ほむらは顔を上げてさやかの方を見る。

 その表情は虚ろで自分と同じようにショックを受けているものだとほむらは思った。

 他の三人もそう思っていた…その表情が急変するまでは……

 

 さやかの表情は一瞬で怒りの色に染まり、涙を流し続けているほむらの顔を思い切り殴りつけた。

 

「「?!!」」

 

 バキッ…と鈍い音が辺りに響き、ほむらは倒れる。他の三人は何が起こっているのか全く理解できない状態だった。

 勿論それはほむらも同じで、頬を抑えながらさやかを見た。

 

「さ、さやか……?」

 

「お前に…まどかに近づく資格なんて……ない!!」

 

 激昂したさやかは、ほむらの胸倉を掴みあげて何度も殴り続けた。

 予想外の出来事に茫然としていたマミ達だったが、ようやく我にかえって慌てて、さやかを抑えつけた。

 

「美樹さん、止めなさい!!」

 

「何考えてんだ!! おい!!」

 

「全部…全部、お前のせいだ…ほむらァァァ!!!」

 

「あぁ、あぁぁぁ……」

 

 ほむらは隣で倒れているまどかの姿を見る。

 そして顔に両手を当てて、再び泣き崩れた。

 

 それを見たさやかは歯をギリッと鳴らして、抑えつけているマミと杏子を引き離して、彼女達に背を向けて歩き始めた。

 立ち去ろうとする彼女に杏子が怒鳴りつける。

 

「おい、どこへ行くつもりだ!!」

 

「…………」

 

 一旦、足を止めたが、振り返ってほむら達を一瞥した後にすぐまた歩を進めた。

 追いかけようとした杏子だが、マミによって止められてしまう。

 

「マミ…これからどうするつもりだ?」

 

「鹿目さんの傷はとりあえず治したけども、このままでいるわけにはいかないし……」

 

「どうするか……」

 

 しばらく考え続ける二人だったが、やがて杏子が口を開いた。

 

「病院に連れて行こう」

 

「なッ…?! 佐倉さん…?!!」

 

「この際どうこう言ってられねぇよ…コイツの安全が第一よ」

 

「でも…この状態をどうやって説明するつもり?」

 

「ここを使うんだよ。ここを」

 

 その問いかけに杏子は、人差し指で自分のこめかみを叩いた。

 そしてマミにあることを話して、それを行うように諭す。

 

「確かに…今はそれしかないわね」

 

 マミはまどかに近づき、彼女に手をかざす。

 すると服の穴や血の痕は、みるみる内に消えていって一見したら、ただ眠っているのとさして変わらない状態になった。

 

「あまりこういうことはしたくなかったけれど……」

 

「全く…相変わらずこういうことに関しては頭固いよなぁ、ホント」

 

 それからすぐにマミ達は救急車を呼び、まどかを病院へと連れて行った。

 その間、杏子はずっとマミのことを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「鹿目さん…本当にごめんなさい……」

 

 悲しみを心の奥で抑えている詢子にマミは頭を下げた。

 

「巴さん、アンタが謝る必要なんてどこにもないよ。これは仕方のない事故なんだよな?」

 

「そ、それは……」

 

「あぁ…そうだぜ」

 

 口ごもるマミに代わって杏子がそう答える。

 詢子はその言葉を表情一つ変えずに聞き、静かに頷いた。

 

「そうか。なら、もうそろそろ家に帰りな。

 子どもがこんな遅い時間まで外にいるのは危ないからさ」

 

「……はい。みんな行きましょうか」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

「何でしょうか?」

 

 病室から出ようとするのを呼び止める詢子。

 一同が振り返った後、ほむらの方を見てこう言った。

 

「ほむらちゃん…ちょっと二人っきりで話したいんだけどいいかな?」

 

「!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください…!!」

 

 名指しをされて、これまで全くの挙動を見せていなかったほむらの体がビクンと震える。

 それを見たマミが一歩前に出ようとする。しかしそれを杏子が制した。

 

「よせ」

 

「佐倉さん……」

 

「大丈夫、あたしはそんな姑息な手は使わないよ。ただ本当に話がしたいだけなんだ」

 

「……分かりました」

 

 今にも消えてしまいそうなくらいの微かな声量でほむらは答える。

 マミはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、杏子によって無理やり病室から連れていかれた。

 

 

 

 病院から出た後でも、やっぱりマミはほむらのことが気になって仕方がなかった。

 そして不意にその思いが漏れてしまった。

 

「暁美さん、大丈夫かしら…?」

 

「きっと大丈夫だよ。さっきの人、とっても優しそうだったもん」

 

 マミの言葉にゆまが笑顔で答える。

 だが、杏子は対照的に険しい顔をしていた。

 

「…………」

 

「どうしたのキョーコ?」

 

「なあ、マミ…お前はどう感じた? まどかの母親を見て?」

 

「えっ?」

 

「やっぱ親子って似るもんなんだな、アイツと一緒で強い人だ」

 

「そうね……」

 

「でもな、そんな強さも結局は意味なんかないんだよ。どんなに強い信念を持ったとしても、アタシら魔法少女の生き様は変わりはしない。

 分かっていたさ…魔法少女の運命なんてどうやったって変わりっこないってね」

 

「佐倉さん……」

 

「キョーコ……」

 

 杏子は強く歯噛みして、二人に背を向ける。

 そして静かにこう告げた。

 

「マミ…ゆまのことを頼んだ」

 

「「えっ?!」」

 

「ゆま…お前といた数週間、悪くなかったぜ……」

 

「なに言ってるのキョーコ…全然わかんないよ!!」

 

 ゆまの体がカタカタと震える。口ではこう言っても、彼女には杏子の言ってることの意味をしっかりと理解していた。

 

「ありもしない希望にすがろうとしたアタシがバカだった……」

 

「ねぇ、佐倉さん…お願いだからやめて…ゆまちゃんを一人にしないで」

 

「誰かの為に生きたってどうしようもないんだ。だからアタシは戻らせてもらうぜ」

 

「やだよ、キョーコぉ……」

 

「さよならだ。マミ、ゆま」

 

 杏子はそう言って闇夜の中へとゆっくりと歩き出した。

 二人は後を追いかけようとしたが、何故か足が動かずにその背中を見ることしか出来なかった。

 

「私…みんなの先輩なのに…何もしてあげられない……」

 

 完全に姿が見えなくなった後にマミは静かに泣き続けるゆまの横で悔しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 詢子さんとの話が終わった後、私はそのまま家に帰ろうとはせずに病院の屋上へ向かった。

 屋上に着いた後、ゆっくりとフェンスに向かって歩き出す。

 

「…………」

 

 フェンスの前に立った後、私はついこの間までの出来事を思い返した。

 まどかと本当の絆を結べて、杏子の協力も得られてやっと五人揃ったというのに……

 

「どうして…どうしてなのよッ!!」

 

 力任せにフェンスに拳を打ち続ける。

 衝撃は伝わってきているはずなのに、痛みは全く感じはしなかった。

 気が付けば打ち続けていた拳は痛々しいくらいに真っ赤に腫れあがって、少しだが血が滲んでいた。

 

「私は…どこで間違ったというの……」

 

『全部…全部、お前のせいだ…ほむらァァァ!!!』

 

 唇を強く噛みしめて、自問する。

 その瞬間、何処からか声が聞こえてきた…いやこれはフラッシュバックに近いものね……

 

 甦ってきたのはさやかの激昂だった。

 確かに以前に一度だけ、魔法少女の変身が強制的に解除させられたことがあった。

 でも、それは…私だけの問題のはずなのにどうして……?

 

 

 

『それはあなた達がその力のことを真に理解していないからよ』

 

 

 

 今度は幻聴なんかじゃない。

 後ろを振り返ると、禍々しい衣装を纏った自分がそこにいた。そう別の世界から来た「悪魔になった」自分だ。

 

「力のことを…?」

 

『そうよ、疑問に思ったことはない?

 何故、融合したあなた達の力があれほどの強さを持っているのか』

 

「それは…まどかの持っている魔法少女としての素質が……」

 

『どんな力を彼女が秘めていたとしても、それはインキュベーターがいなければ解放することは出来ない。つまり契約をしなければ、彼女はただの人間と同等なのよ』

 

「なら、私の力だっていうの? 時間停止も使えなくなって、弱くなってしまった私の…?」

 

 悪魔ほむらは艶やかな笑みを浮かべる。

 それからゆっくりとほむらの元に近づいて、指を突きつけた。

 

『その通りよ。でもあなたの力はそれだけじゃないでしょう? あの悪魔の力…いえ、この言い方は正確じゃないわね____』

 

「…………」

 

『____まどかの、『円環の理』の力。

 今まで言わなかったけども、あなたも引き裂いたのよね? あの子とその願いの全てを』

 

「あああぁぁぁ……」

 

 心の奥底に閉じ込めていた忌まわしき記憶が蘇る。

 ほむらは両耳に手を当てて、悪魔の言葉を必死に聞かないようにしていた。

 

『あなたはそれを代償にして円環の力を得た。

 しかも私のように一部ではなく全てを…素質の低いあなたには、そんなもの到底受け止められるはずないわよね』

 

「やめて!!」

 

『そのせいで様々な異変があなたの身に降りかかった。もしかしたら変身の強制解除もそれが原因なのかもしれなわねぇ』

 

「じゃあ、まどかがああなったのは…私の、せい……?」

 

『あの変身はまどかがあなたの中に眠る円環の力を引き出しているもの。

 その力の供給源である者があんな不安定な状態のまま戦えば、今回のような結果になるのは必然。

 美樹さやかの言っていたことも、あながち間違いじゃないってことになるわね』

 

 ほむらが膝から崩れ落ちていく様を悪魔は黙ってみていた。やがて、彼女に向かって懇願した。

 

「私を、殺して……」

 

『耐えてみせるんじゃなかったの? その呪いから?』

 

「もう私は、戦えない…戦う意味を失った……」

 

『そう。あなたがそう言うのなら、私は躊躇いなくやるわよ。

 だってそれが私がこの世界に来た理由の一つなのだから』

 

 蒼白な顔色なまま、ほむらは驚いた顔をする。

 

「でも…あなたは見届けるって……」

 

『基本的にはね。私もあまり他の世界で面倒ごとを起こしたくないし。

 あなたを殺すのは緊急の時って決めていた』

 

「緊急?」

 

『恐らくだけど彼女らはもう紛れているわね。この世界にとっくに』

 

「どういうこと…?」

 

『今のあなたには関係ないことよ」

 

「そう……そんなことよりも良かったわね。厄介事が起こる前に私を殺すことが出来て』

 

『……まだダメよ』

 

「えっ…?」

 

『あなたは別世界とはいえ、まどかを傷つけた。そんなあなたの願いをどうして私が叶えなければならないの?』

 

「そんな……」

 

『精々苦しみなさい、暁美ほむら。己の罪のに絶望しながらね……』

 

 悪魔はそう言って、何処かへ消えてしまった。残されたほむらは……

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 喉が張り裂けんばかりの声量で叫んだ。

 目からはとめどなく涙が流れ続け、拳もあまりにも強く握り過ぎていたせいで血が流れていた。

 その絶望の咆哮は、見滝原全体に響き渡った。

 

 そして…………

 

 

 

 ほむらはその場に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 ほむら達の元を去った後、さやかは美国織莉子の家に向かった。

 玄関のドアを乱暴に開けて靴を脱がずにズカズカと織莉子の元に近づく。

 織莉子はその様子に動じることなく、静かに紅茶を飲んでいた。

 その平然たる態度は、さやかの精神を更に刺激する。そしてさやかは両手をテーブルにバンッと叩きつけた。

 

「どういうことだ!!」

 

「いきなり何? 何をそんなに怒っているの?」

 

「とぼけるな!! 全部知っていたんだろ!! あのままほむらが戦い続けていれば、まどかにも被害が来るってことを!!」

 

「鹿目まどかが?」

 

「そうだ! そのせいで…まどかは……まどかは!!!」

 

「待って…どういうことか一から説明して頂戴」

 

 目に涙を溜めながらさやかは話し続けた。

 その話の詳細を織莉子は無言で聞く。詳細を語られていくにつれて彼女の顔色がどんどん悪くなっていく。しかしそのことをさやかが気付くことはなかった。

 

「なんてこと……」

 

「アンタがそのことを話してさえいれば…ほむらを説得出来ていたかもしれなかったんだ!!」

 

「美樹さやか、それは……」

 

「うるさい! お前のせいでまどかはあんなことになったんだ!!」

 

「……私の能力は未来の出来事を全て見通せるわけじゃない。

 これまで見てきた予知の中で鹿目まどかがそんな重傷を負うなんてものは無かった」

 

「なんだと…この……!!」

 

「その辺にしておけよ」

 

 身を乗り出して織莉子に掴みかかろうとするのをキリカが阻止する。

 そしてキリカはさやかの服を掴んで、壁に向かって放り投げた。

 一瞬の出来事に対応できなかったさやかは壁に打ち付けられて、苦しそうに声をあげた。

 

「うぐっ……」

 

「さっきから黙って聞いていれば…お前のやっていることはただの八つ当たりだ。いや責任転嫁って言った方が正しいね」

 

「何…?!」

 

「その鹿目って奴が怪我したのは織莉子が原因だって言ってたけど違うじゃん。

 原因は、暁美ほむらの説得を失敗してわざわざ戦わざるを得ない状況を作ったお前だろ。こんなのその辺の子どもでも分かることだろ」

 

「ちがっ…!!」

 

「織莉子、こんな奴のこと気にすることはない。君は十分に頑張っている私が保証する」

 

「ありがとうキリカ。私の言いずらいことを代わりに言ってくれて」

 

「あれだけ大見栄張っていた奴がこんな姑息なことをするなんて…笑えないね」

 

 キリカの言うことは正論で、さやかは何も言い返せなかった。

 そしてさやかは無言で立ち上がって、そのまま何処かへ走り去っていった。

 

「ふん、ひよっこの癖に偉そうにするからそうなるんだ」

 

「…………」

 

 その様をキリカは鼻で笑う。

 だが織莉子は何も喋らずにただ俯いていた。

 

「織莉子…やっぱり最近の君はどこか様子が変だ。いい加減、話してくれないか?」

 

「……いいえ、何でもないわ」

 

 笑って誤魔化すのを見て、キリカは悲しそうな顔をする。

 

「そんなに頼りないのかな…私……」

 

「キリカ……」

 

 さっきまでさやかに対しての物言いとは、違ってその声はとても弱弱しかった。

 そんな姿を見ていられなくなった織莉子は素直に胸の内を明かした。

 

「私は美樹さやかにあなたと同じことを言えなかった…いえ、言う資格がなかった……」

 

「何故? 君が一体何をした?」

 

「それは……」

 

「私達が殺してきた魔法少女のことかい? あれはどうしようもないことだ、現に見逃した奴等はほぼ例外なく私達に報復してきたじゃないか。

 これから起こる危機になんか目もくれないで、ただ自分の欲のままに戦う連中だ」

 

「違う…私はそのことをとっくに受け入れている。問題なのはそこじゃないのよ」

 

「じゃあ何だっていうんだい?」

 

「罪を背負うって決めたにも関わらず、そこから逃げたのよ。美樹さやかや暁美ほむらと同じで……」

 

「…………」

 

 織莉子の言葉にキリカは黙って聞いていたが、やがて表情を険しくした。

 それから冷淡な口調でこう提案する。

 

「君があのことを気にしているっていうのなら、私が今すぐにでも君の悩みを取り払っても構わないよ。君ばかりが重荷を背負っていくのはもう見たくないんだ」

 

「ありがとう…でも大丈夫よ。

 もしここであなたに頼んでしまえば、私はただの卑怯者になってしまうわ」

 

「織莉子……」

 

「そんなことよりも、美樹さやかの言うことが確かなものだとしたら…かなりマズイわ。

 急いで何か手を討たないと…取り返しのつかないことになる……」

 

 

 

 

 

 

 呉キリカの言葉が胸に刺さり、耐えきれなくなったあたしはとにかく走り続けた。

 だけどもそれはいつまでも続くことはなく、足に限界を迎えて近くのベンチに力なく座った。

 

「ハアッ…ハアッ……」

 

 自分でもよく分かっていた。

 あそこで美国織莉子を責めるのはお門違いだってことを……

 でも…そうでもしなかったら、まどかをあんな目に遭わせたのは……

 

「何をそんなに落ち込んでいるんだい? 美樹さやか?」

 

「?!!」

 

 何処からともなく声をかけられて、慌てて辺りを見渡す。

 声の主は分かっているけども姿が全く見当たらない。そんなことを考えているとそいつ(・・・)は姿を現した。

 

「キュゥベえ…今はアンタに構っている暇なんてないの、どっかへ行ってくれないかしら?」

 

「君達の最近の僕の扱いには遺憾を感じるよ。

 それはさておき、美樹さやか。君は今何か悩みを抱えているね」

 

「白々しい…どうせどっかで見ていたんでしょう? そしてあたしの情けない姿も」

 

 コイツの喋り方と姿にはどうもイライラさせられる。どうせ無駄だけども、一体くらい殺ってもいいんじゃないかって思うくらい。

 

「まあね、でも情けないっていうのはちょっと違うんじゃないかな?」

 

「えっ?」

 

「君が美国織莉子に対してやっていたのは、間違いなく八つ当たりだ。彼女を責めるのはお門違いだ」

 

「何よ…情けないじゃなくて滑稽だって言うの…?」

 

 キュゥベえに対してストレスを感じていたけども、次のアイツの発言でそれらが全部吹っ飛ぶことになった。

 

「いいや、悪いのは美国織莉子でも君でもない。全部『暁美ほむら』だ」

 

「ほむらが……?」

 

「事実じゃないか、彼女が君の警告を素直に聞き入れてさえいれば、こんな状況にはならなかった」

 

「それは……」

 

「それだけじゃない。いつ変身が解かれるかも分からないリスクを背負っておきながら、それを全て鹿目まどかに押し付けた。

 普通だったら考えられないことだ。そこは無理も承知で単身で戦うべきじゃないかな?」

 

「た、確かに……」

 

「原因のほとんどは、暁美ほむらの慢心じゃないかな? それが結果的にあの状況を招いた。

 そして大変なことに彼女は今、自分自身の失敗で自爆しかけている。そうなってしまえば、この世界は…この宇宙は終わりだ」

 

「この世界が…終わる?」

 

 もしもそんなことが起こってしまったら…みんなが死ぬ?!!

 あたしの家族も、恭介も、仁美も、マミさんも、そしてまどかも……

 

「それと言い忘れていたけども、鹿目まどかがああなったのは暁美ほむらだけの原因じゃない」

 

「ど、どういうこと?」

 

「君にも原因があるってことさ。君が美国織莉子達の提案をためらってからこそ、この事件が起こったと言っても過言ではない。

 無駄な犠牲を出さずに解決しようとした君の働きは画期的だった。でも全く無意味だったけどね」

 

「あたしの迷いが…まどかを……」

 

「だけども幸いにまだ誰一人として死人は出ていない…そろそろ僕が何を言いたいのか察せれたかな?」

 

 ここまで言わなくても十分に理解できる。つまりコイツはあたしに……

 

「今ならまだ間に合う。これ以上、まどかのような犠牲者を出さない為にも君の力が必要になる」

 

「…………」

 

 裏切れってことよね。ほむらを…あたしの仲間達を……でも、そうしなかったら……

 

『あぁ、あぁぁぁ……』

 

 ほむらの心は多分もう限界だ。

 いつまたあの姿になるか、分からないし……

 

 そう考えていると不意に呉キリカのあの言葉が蘇った。

 

『原因は、暁美ほむらの説得を失敗してわざわざ戦わざるを得ない状況を作ったお前だろ』

 

 ……違うッ!!

 出来る限りのことはした…まどかがああなったのは、暁美ほむら全部アイツのせいだ。

 そしてあたしには、それを止められなかった責任がある。

 なら…それを果たさなければならない……

 

「覚悟は出来たいかい? 美樹さやか?」

 

 キュゥベえの問いかけに…………あたしは、静かにゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やれやれ…上手くいったようだね。

 

 現状で暁美ほむら達は、佐倉杏子と千歳ゆまを仲間に引き入れ、外部からの守りは厳重だ。

 

 それを美国織莉子、呉キリカ、優木沙々の3人だけで崩すのは厳しい。

 

 だが、外が強固になることは逆に内側が疎かになる可能性が非常に高い。

 

 あのメンバーの中だったら、美樹さやかが一番付け入りやすい。

 

 彼女の持つ強い正義感。けど、強すぎる正義感は潔癖症と同じで、心の余裕をすり減らす。

 

 彼女のような思春期を迎えたばかりの未熟な精神では逆にそれが仇になる。

 

 鹿目まどかがあんなことになるのは予想外だった…でも今の意識不明の状態は好都合だ。

 

 だって死んでさえいなければ、契約を結ぶことは可能だからね。

 

 美樹さやか…君には期待しているよ。頑張って暁美ほむらを倒して、最期は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 この宇宙の為に死んでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※しばらく見ない内にUAがなんと7000を超えておりました。そしてお気に入り数も30件を突破!! 圧倒的感謝です!!

※私もスキマ時間を有効に活用して執筆を進めておりますので、皆様気長にお待ちください。何かありましたら作者コメか活動報告で呟きます。(全く関係のないことも言ったりしますがw)

※ではでは…次回の31話でお会いしましょう!!



☆次回予告★


「ひとりぼっちじゃない、ゆまがついてるよ」

「誰か…私を……」

「アンタ、死にたいんだってね……」

「そこをどけ、テメェに構う暇はねぇーんだ」

「どういうつもりだ? 美樹さやか?」


第31話 希望へのS ~ トカゲの涙


「全部…お前のせいだァァァ!!!」
「全部…テメェのせいだァァァ!!!」



※次回もお楽しみに!!

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