(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※皆様、超絶お久しぶりです!!
※一ヶ月以上も待たせてしまって、本当に申し訳ありませんでした!!
※新生活に慣れるのにかなりの時間を要しました……

※さて…前置きはこのくらいにして、マギクロ最新話をどうぞッ!!


第29話 Rなんてしたくない ~ 逡巡する想い

 

 

 衝撃の事実を知ってから一夜が明け、一つの志を胸に今日こうして学校へやってきた。

 それはこれ以上、ほむらを戦わせないようにすること。

 本当ならすぐにでも説得出来ればいいんだけど……

 

「はぁ……」

 

 あたしは教室の窓から外の景色を眺めながら深いため息をついた。

 なんでだろう…昨日からほむらの姿どころか声すらもまともに聞くことが出来なくなっている。

 いつもの待ち合わせ場所で待っていられなくなって、こうして人がほとんどいない教室でただ茫然としているだけ。

 今頃、まどか達は不思議に思ってるだろうな……

 

「さやかさん?」

 

「うぇっ?!」

 

 なんてことを考えていると不意に後ろから声をかけられた。

 意識がそっちのけだったから思わず、ヘンテコな叫び声をあげてしまう。

 あたしに話しかけてきたのは仁美だった。

 

「こんな朝早くに珍しいですわね」

 

「えっ…そ、そうかな? 仁美こそどうして学校に?」

 

「委員会の用事があって早めに登校しなくてはいけなくて…確か連絡はしていたはずでしたけど……?」

 

 いつもは欠かさず朝のメールのチェックをしていたけども、毎朝の習慣を忘れてしまうくらい今のあたしには心の余裕がなかったみたいだ。

 

「あはは…ごめんごめん。携帯見るの忘れてたわ。急いでたから~」

 

「そうなんですか、もう用事は済みましたの?」

 

「も、勿論! だから特にすることがないからここで黄昏ていたわけ」

 

「さやかさん。黄昏るの使い方、間違ってますよ」

 

「こ、細かいことはいいんだよ!」

 

「よかった。いつも通りのさやかさんで安心しましたわ」

 

「安心したってどうして?」

 

 ホッとしているその様子に疑問を抱く。それに仁美は不安気な顔であたしのことを見つめて答えた。

 

「だって…さっきのさやかさん、とっても怖い顔をしていらしたから。

 何かあったんじゃないかって心配だったんです」

 

「!!」

 

 その言葉が胸に深く突き刺さる。

 自分の内に留めておくつもりだったのに、それどころか全く関係のない仁美を心配させてしまうなんて…今度から気をつけないと……

 

「あっ、上條君……」

 

「えっ?!」

 

 仁美の言葉に反射的に振り返ってみると、松葉杖を使って廊下を頑張って歩いている恭介の姿があった。

 よかった…もう退院出来たんだ。

 心の中でホッと安心していると、ふと恭介がこちらに気付いて目があってしまう。

 

「さやかさん。上條君のところへ行ってあげたらどうでしょうか?」

 

「う、うん……」

 

 仁美に促されて、教室を出ていく。

 それに気づいた恭介はふらふらと危なげな動きをしながら、あたしの所へ向かった。

 

「やあ、さやか…久しぶりだね……」

 

 数日ぶりの再会になんて言葉をかけようかと悩んでいたら、向こうの方から話しかけてきてくれた。

 

「そ、そうだね。退院おめでとう。調子はどうなの?」

 

「あれからかなり良くなったよ。前は立つことすら難しかったのに、こうしてまた学校に来られるなんて夢みたいだ」

 

「よかった…うん、本当によかった!」

 

 以前、病院で会った時とは違って、明るく楽しそうに振る舞う恭介を見ると、こっちも嬉しく感じる。

 この時あたしは初めて魔法少女になって良かったと思った。

 これまでずっと迷惑ばかりかけていたから…誰の役にも立てなかったから……

 

「さやか…僕、ずっと君に謝りたかったんだ」

 

「えっ?」

 

「ずっとお見舞いに来てくれていたのに、あんな酷いことを言ったから」

 

「い、いいんだよ別に。あれくらいこと全然気にしてないし……」

 

「でもずっと心残りだったんだ。いつか謝ろうと思ってはいたんだけど、中々言い出せなくて…それに君も病院に来なくなって……」

 

「恭介……」

 

 確かに契約をしてからずっと色々なことがあり過ぎて、お見舞いに行く余裕もなかったね。

 ちょっとだけ申し訳ないと思いながらも、あたしは恭介に笑顔を見せる。

 

「もういいじゃん、過ぎたことなんだしさ。あたしは恭介が元気になってくれるのが一番なの! だから、そんな顔しないで」

 

「ありがとう、ふふっ……」

 

「どうしたの?」

 

「前に奇跡も魔法もあるって言ってくれたよね。その通りだなって。

 僕これからまたバイオリンを頑張ろうと思う。僕の身に起こった奇跡、それを精一杯いかして、お世話になった人達みんなに恩返ししてあげたいんだ。

 勿論、さやかにも…だからまたステージで演奏をするとき、是非見に来てくれないかな?」

 

「うん! ちゃんとした演奏聞かせてよね、期待してるよ」

 

「ははっ、参ったな…これからもっと頑張らなくちゃいけないね」

 

 そうだ。恭介だけじゃなくて、あたしも頑張らないと…恭介の未来、大切な人達の未来を守る為に……

 誰も悲しい思いをしないような結末に…あたしが変えるんだ!!

 

 

 

第29話 R(regret)なんてしたくない ~ 逡巡する思い

 

 

 

 それからしばらくして昼休み。さやかは屋上へ行き、テレパシーでマミを呼び出した。

 マミは連絡をしてからすぐにやって来た。

 

「美樹さん。話したいことって何かしら?」

 

「一つ聞いていいですか…ほむらについてですけど……」

 

「暁美さん? そういえばさっき会ったときに聞いたけど、彼女と何かあったの?

 何だか今朝からずっと避けられ続けているって言っていたけど……」

 

「いえ…大したことじゃないから大丈夫です」

 

 さやか自身そんなつもりではなかったが、無意識に行っていたみたいだ。

 笑って誤魔化し、もうこれ以上に言及されないように急いで要件を彼女に伝える。

 

「最近のほむら、マミさんから見てどう思いますか?」

 

「どういうこと?」

 

「恐ろしい怪物に姿が変わったり、魔法少女に急に変身できなくなったり…普通じゃないと思うんです」

 

「まあ…確かにそんなこと今まで一度もなかったわね」

 

「あたし、そのことでずっと考えていたんです。これ以上、ほむらを戦わせちゃダメだって」

 

「…………」

 

 マミは黙って話を聞く姿勢を続ける。

 

「あんな状態のまま戦い続けていたら、いつか取り返しのつかないことが起こりそうな気がするんです。

 もしそうしたら、マミさんにかかる負担も大きくなりますけど…でも、あたしも頑張りますから!!」

 

「美樹さん。あなたが暁美さんのことを心配する気持ちは分かるけど、それは私達がどうこう決める問題ではないわ」

 

「なっ……」

 

 意外な発言に思わず絶句する。さやかには自分の提案をマミなら聞き入れてくれるという確信があった。

 しかし、ほむらから魔法少女として戦う覚悟を聞かされた今の彼女は頷くことは出来なかった。

 

「私はね…暁美さん自身がどうするかが大事だと思ってるの」

 

「マミさん。どうして……」

 

「詳しくは本人から聞いた方が早いと思うわ。それと美樹さん、一つだけいいかしら?」

 

「は、はい。何ですか?」

 

「あまり無理をし過ぎないようにね。何だかずっと一人で思い詰めているみたいだから……」

 

「そ、そうですか?!」

 

 今朝の仁美のときと似たようなことを言われて、動揺を露わにしてしまう。

 だが、マミはそんな挙動を気にしないまま優しい表情をさやかに向ける。

 

「困っていることがあるのなら何でも相談に乗って頂戴。

 情けない姿を何回か見せちゃっているけど、一応は先輩なんだから」

 

「ありがとうございます。マミさん……」

 

「じゃあまた後でね」

 

 マミはそう言って屋上を後にする。

 彼女なりの気遣いをしたつもりではいたが、その思いはさやかには届いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 さやかの様子がおかしい。

 私がそれに気づいたのは朝、教室で会ったときから。

 何故か私にだけそっぽを向けて、話しかけてもどこかそっけない。

 まどか達に何かあったのかと聞かれてけども心当たりは全くなかった。

 

 モヤモヤした気持ちを抱えながら下校の準備をする。さやかに呼びされたのはそんな時だった。

 教室には私とさやか、そしてまどか以外には誰もいない。

 

「さやか。話って何かしら?」

 

「あのさ…それよりも今日は何かごめん。あたし感じ悪かったよね……」

 

「別に気にしてはいないわ。それよりもあなたの方が気がかりだったわ」

 

「あはは…ここでデレてもらってもどう反応すればいいか困っちゃうな……」

 

「さやかちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

「へーきへーき。それよりもさ、ほむらアンタにどうしても話しておきたいことがあるんだけど」

 

「私に…?」

 

 話しておきたいことって一体何かしら?

 よく分からないけども、折角だからこの機会にさやかにも話しましょうか。私の秘密、時間遡行についてを。

 

「ほむらさ、最近自分の体がおかしいって感じない?」

 

「……どういうこと?」

 

「前にあたしが佐倉杏子に気絶させられていた時、魔法少女の変身がいきなり解かれたそうじゃん」

 

「そうだけど……」

 

 まどかか巴さんに聞いたのかしら?

 チラリと後ろを向くと、まどかが無言で頷いていた。どうやら話したのは彼女みたいね。

 あの現象は何だったのかはまだ分かっていないけども、今の私にとっては些細な問題だったに過ぎない。でもさやかは違っていた。

 

「ほむら、アンタはもう戦うべきじゃないって思うんだ」

 

「えっ?」

 

「さやかちゃん、それってどういう……」

 

「いつ変身が解かれるか分かんない不安定なままで戦うのは危険だからさ」

 

「…………」

 

「それに美国織莉子との戦いの傷もまだ完全には治っていないんでしょ?」

 

「そうだけど……」

 

「魔女やグリーフシードのことはあたしとマミさんで何とかするからさ」

 

「でも、さやかちゃん……」

 

「大丈夫。このことはマミさんにもあらかじめ話してあるから、だから……」

 

 確かにここしばらくは安息の時は全くと言っていいほどなかった。

 今の私の体には凄まじいほどのダメージと傷跡が残っている。おまけに悪魔化のせいでいつまた暴走するか分からない時限爆弾に近い存在だ。

 さやかの言う通り、もう私は戦うべきではないのかもしれない。けど……

 

 

 

 あの子の幸せの為なら、こんな呪いどうってことない。一生解かれることがなくても構いはしない。

 

 

 

 別の世界の自分に対して言ったあの誓いを嘘にはしたくはない。

 それにこの世界は自分に起こっている現象を除けば、これまでの時間軸では最高と言っても過言じゃないくらい上手く事が進んでいる。

 巴さん、さやか、杏子、千歳ゆま…そしてまどか。みんな苦しみながらも必死に戦っていた…なのに私だけ逃げることは許されるのだろうか、いやそんなはずはない。

 

「心配しないでさやか、そこまで気を遣ってくれなくてもいいのよ」

 

「でも……」

 

「この程度の苦しみ、これまでの時間軸で味わってきたものに比べたらどうってことない」

 

「時間…軸…? それって、どういう?」

 

「あなたにも全てを話すわ。私がこれまで辿ってきた軌跡を……」

 

 それから私は巴さんや杏子の時と同じように全てを明かした。

 さやかの反応は二人の時と同じだったけど、どこかショックを受けているようにも見えた。

 

「そんな…噓だよね?」

 

「本当よ。だから私は普通なら知らないような魔法少女の秘密も知っていた」

 

「だ、だったら尚更じゃん! アンタは十分これまで頑張って来たんだからこれ以上、無理しなくたっていいでしょ?!」

 

「そういうわけにはいかないわ。これは私自身との決着でもあるの。

 今回の時間軸は今まで前例がないくらい上手くいっている。このチャンス…何としても逃すわけにはいかない」

 

「それでもアンタが倒れちゃったら本末転倒だよ!」

 

 さやかの言うことは正しいのかもしれない。でも、私はまだ残されている希望に全てをかけたい。

 みんなが幸せになれる結末を掴むためにも。

 

「私はもう倒れたりしない、この残酷な運命に打ち勝つまでは…絶対に」

 

「で、でも……」

 

 その時、間にまどかが入ってとある質問した。

 

「ねえ、さやかちゃん。どうしてそこまで必死になってほむらちゃんを戦わせたくないの?」

 

 彼女としては何の意図もない素朴な疑問だったのだろう。

 けど、それを聞いた瞬間、さやかは目の色を変えてまどかに掴みかかった。

 

「どうしてだって?! アンタは心配じゃないの…自分の相棒(パートナー)がとんでもないことになっているかもしれないのに?!!」

 

「く、苦しいよ…さやかちゃん……」

 

「さやか、止めなさい!!」

 

 咄嗟の出来事だったせいで、私はまどかに掴みかかるさやかを思いっきり突き飛ばしてしまう。

 その後すぐに我に返って自分が今、何をしたのかに気付く。

 

「ごめんなさい。私、つい……」

 

「い、いいんだよ。あたしもどうかしてた…まどか、大丈夫?」

 

「うん……」

 

 それぞれ謝りはしたけども、辺りには重苦しい空気が漂っていた。

 沈黙が少しの間だけ続いていたが、それをまどかが破って再びさやかに尋ねた。

 

「さやかちゃん。何で今日はそんなに怖い顔をしているの?」

 

「な、何でってそれは……」

 

「もし、わたしとほむらちゃんでよかったら相談に乗るよ?」

 

「それは……」

 

 戸惑うさやか、私達は彼女が事情を話してくれるのをじっと待った。

 だけどそれは唐突な乱入者によって中断せざるを得なくなってしまう。

 

「この反応は…!!」

 

「どうしたの、ほむら?」

 

「魔女…だよね?」

 

 確かめるように聞くまどかにコクリと頷く。

 さやかはまだ慣れていないのか、上手く発見することが出来ていないみたいだ。

 

「魔女だって? 一体どこに?!」

 

「こっちよ。二人ともついてきて」

 

 荷物を持って、教室を飛び出す。まどかとさやかもその後に続く。

 

 

 

 この時、私は大きな過ちを犯した。

 目の前にある希望を追いすがっていたせいで、魔法少女の世界の厳しさを軽んじていた。

 さやかの必死の警告、それをしっかりと聞いてさえいれば『それ』は避けられたかもしれないのに……

 

 

 

 

 

 

 三人は結界を見つけ、中を進んでいく。

 結界内は不思議なことに色が存在せずに白と黒だけがそこにあった。

 やがて魔女の部屋へと辿り着いて、その扉を開ける。

 そこにはまるで神に祈りを捧げるように膝をつく魔女がいた。

 

 影の魔女。その性質は独善。

 

 ほむらはこの魔女には覚えがあった。

 かつての時間軸では、自暴自棄に陥ったさやかによって倒されていたが、その力は強大で普通の魔女よりも高い戦闘力を誇っている。

 

「この魔女はかなり強力よ。まどか、油断しないで」

 

「うん!!」

 

 指輪をまどかに手渡そうと腕を伸ばす。

 しかしそれをさやかは制した。

 

「待って…言ったでしょ? ほむら、アンタはこれ以上戦っちゃいけないって」

 

「さやか! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!」

 

「そうだよ! ここはみんなで協力しないと!」

 

「大丈夫。あたし一人でも十分に戦える」

 

 二人の言うことにさやかはただ笑ってみせる。

 無謀としか思えない行動にほむらは引き留めようとするが、それよりも早くさやかは飛び出してしまった。

 

 自らの危機を察知した影の魔女は、背中から枝状の触手を生やしてさやかへ襲い掛かる。

 

「でやあぁぁぁ!!!」

 

 向かってくる無数の触手を剣で切り裂き、徐々に距離を詰めていく。

 それと共に攻撃も激しくなり、さやかは二本目の剣を召喚して更に近づく。

 しかしそんな真正面からのゴリ押しなど通用するはずもなく、触手に足を取られてさやかの動きがストップしてしまう。

 

「なっ…?!」

 

「さやかちゃん!!」

 

「早く脱出を…!!」

 

 二人の叫びがこだまするが、もう遅い。

 さやかを完全に捉えた触手は、彼女を押し殺そうと一ヶ所へと集結していく。

 

「ぐっ…あああああ……!!」

 

 必死に抵抗するも触手の力はどんどん強まっていくばかりで、為す術がなかった。

 だが、さやかも力を振り絞って負けじと剣を触手に突きつける。

 

「やめて…もうやめて!!」

 

「くっ…まどか。変身するわよ!!」

 

「ダメだッ!! 変身するなッ!!!」

 

 声を張り上げて、二人の変身を止める。

 この魔女にこれ以上やられていたら、ほむらはまた戦うことになってしまう。

 さやかはもうなり構っていられなかった。

 

「まだだ…あたしは……負けない!!」

 

 奥の手の痛覚遮断を使い、さやかを取り巻く触手を斬り払う。

 そしてもう一度、捨て身の特攻を仕掛けて、影の魔女の首へと剣を向ける。

 

「ああああああああ!!!」

 

「さやか!!」

 

「やった!!」

 

「終わりだアァァァ!!!」

 

 完全に仕留めた…そう確信した瞬間だった。

 何とこれまで斬り払ってきた触手が地面に根付き、後方からさやかに襲い掛かってきた。

 特攻を仕掛けているさやかにそんなこと分かるはずもなく動きを止められてしまい、再び捕まってしまう。

 

「ぐっ…こんなのまた……」

 

 力づくで脱出を図るさやかだが、取り巻く触手の量は先程よりも計り知れないほど増えていて、さっきのようにはいかなかった。

 痛覚を遮断してもなお、敵わない敵に焦りを抱くさやか。

 

「ぐぅ…あ、あたしの剣は…まだ……」

 

 力を発揮しようとするもそれが段々と弱まっていくことに気付いた。

 慌ててソウルジェムを見ると、ほとんど濁り切っていて魔女になる一歩手前だった。

 

「そ…んな……ぐあああぁぁぁ!!」

 

 さやかの悲痛な悲鳴が響き渡る。

 その光景にまどかとほむらの我慢は限界に達していた。

 

「もうダメッ! 見てられないよ!!」

 

「行くわよ! まどか!!」

 

「「変身!!!」」

 

 指輪を受け取ったまどかは祈るように手を組み、ほむらとの融合を果たす。

 変身したまどかはすぐさま弓を手に取って、さやかを捉えている触手に向かう。

 そして弓全体に魔力を集中させて、力強く振り下ろした。

 刃のように切れ味を増した弓柄はあっという間に触手を斬り刻んで、さやかは解放させた。

 

「うわっ!!」

 

 落下していくさやかを抱えて、比較的安全なほむらが倒れている場所まで連れていく。

 そしてソウルジェムがかなり濁っていることに気付いたまどかは盾からグリーフシードを取り出してさやかに渡した。

 

「さやかちゃんはそこで休んでてね」

 

『後は私達がアイツを片付けるわ』

 

 そう言って魔女の元へと駆け出していくまどか。

 その後ろ姿をさやかはやりきれない表情で見つめていた。

 

 再びまどかは魔女の前に立ち、今度こそ倒すべく弓を構える。

 影の魔女もそれに迎え撃つ為に大量の触手を生やして、まどかに襲いかかる。

 

『来るわよ!!』

 

「うん!!」

 

 襲い掛かってくる触手を右へ左へと避け、隙を見計らって矢を放つ。

 下手に突っ込もうとはせずに慎重に攻撃を当て続けていく。

 

『アアアアアアアア!!!』

 

 影の魔女は自身が追い込まれていることに気付いたのか、雄たけびをあげて背中だけでなく、地面のあちこちから触手を生やして一斉にまどかに向かわせる。

 

『チャンスよ! あれをまとめて撃ち落として、そうすれば大きな隙が出来る!!』

 

「分かった!!」

 

 ほむらのアドバイスを聞いて、まどかは弓矢に魔力を込める。

 そしてその矢を天高く向け、掛け声とともに放った。

 

「『スプレッドアロー!!!』」

 

 放たれた矢は空中で拡散し、それらは正確に魔女の触手を撃ち抜いていった。

 矢の雨は触手だけでなく、魔女本体にも命中してほむらの言う通り大きな隙が発生する。

 

『これで決める!』

 

「行くよ! ほむらちゃん!!」

 

 まどかは空高く飛び上がり、弦を限界まで引き絞って狙いを魔女に向ける。

 桃色と紫色の光が弓矢に集まって、強力な魔力が矢に宿る。

 

「『フィニトラ・フレティア!!!』」

 

 そう叫び、矢を魔女へと放とうと弦から手を放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、矢を放とうとした瞬間、突然まどかの変身が解かれてしまった。

 

「えっ…?」

 

 まどかは何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。

 いきなり身体のバランスが崩れて、ほむらとのリンクも途切れて、そして……

 

「まどか!! 危ない!!!」

 

「!!!」

 

 変身が解除されて無防備になっている自分の目の前に復活した触手が向かってきて……

 

 

 

 

 

ザシュッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ここに居たのね、佐倉さん」

 

「んだよマミ、何しにきた?」

 

「あっ、おねえちゃんだ」

 

 杏子はちょっと不機嫌そうに、ゆまは嬉しそうにと、それぞれ違った反応を見せる。

 

「特に用事はないわ。ただ何となく会いたいって思っただけよ」

 

「へっ…何だそりゃ、随分とらしくないこと言うじゃんか」

 

 鼻で笑う杏子にマミは意味ありげな笑みを向ける。

 

「そうかしら? らしくないと言えば、佐倉さんあなたも今まで何をしていたの?」

 

「別に…気ままにそこら辺をブラついていただけさ」

 

「なら、どうして魔法少女の姿に変身しているの?」

 

「いいだろ。アタシがどんな格好してようが……」

 

「もうキョーコ、いい加減ほんとうのこと言ったら?」

 

「わーったよ! 言えばいいんだろ言えば」

 

 ぶっきらぼうに対応していた杏子だが、素直にマミに白状しようとする。

 

「みなまで言わなくてもいいわ。倒していたんでしょ? この前、自分のせいで逃がした使い魔を?」

 

「…………」

 

 ピタリと言い当てられた杏子は、気恥ずかしく感じたのかマミとゆまに背を向ける。

 

「なんでキョーコ怒ってるの?」

 

「さあ、どうしてかしら?」

 

「お前らなぁ……」

 

 さっきからやたらと自分をからかってくるマミに何か言ってやろうと立ち上がろうとする。

 だがその瞬間、杏子は遠くにある何かの気配を察知した。それはマミも同じだった。

 

「魔女の反応ね……」

 

「あぁ…ちょっと距離があるな。それと誰かそいつと戦ってるな」

 

「鹿目さん達かしら?」

 

「…………」

 

 杏子は意識を結界の方に集中させて、中で何が起こっているのかを確かめようとする。

 

「キョーコ、どうしたの?」

 

「何だか嫌な予感がする……」

 

「「えっ?」」

 

「急ぐぞ。マミ、ゆま!」

 

 勢いよく立ち上がった杏子は壁を蹴って、屋根の上へと移動する。

 

「佐倉さん、それってどういう……」

 

「いいから早くしろ!!」

 

「まってよ、キョーコ!」

 

 焦る杏子の姿にマミとゆまは不思議に思いながら、その後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「あああ……」

 

 嘘だ…あたしはこんなの認めない……

 こんなこと…起きるはずがない、起こっていいはずがない。

 

 必死に首を振って、目の前にある現実をなかったものにしようとする。

 だけど…その光景は消えることはなかった。

 

 あたしの隣には、意識を失ったままの目をほむらがいる。そして目の前には触手に貫かれて、そこから血を滴らせているあたしの親友の姿が……

 

 

 

「まどかァァァ!!!」

 

 

 

 まどかの指から紫色の指輪が離れる。

 その指輪はゆっくりと地面に落ちて、かん高い金属音を辺りに響かせた。

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※前回ほどではないにしろ、今回も長くなってしまいましたね。まあ、もう皆様にとっては普通の長さになっているんじゃないかと思いますが(笑)
※それはさておき、まもなくマギレコが配信されますね。今やってるソシャゲがFEヒーローズだけなので、配信が待ち遠しいです。
※あ、勿論このお話もなるべく以前のような更新ペースで投稿していくつもりでいるので、よろしくお願いします。

※では、また次回にお会いしましょう!!!



☆次回予告★


「まどか…目を開けてよ……まどかァ!!」

「分かっていたさ…魔法少女の運命なんてどうやったって変わりっこないってね」

「みんなの先輩なのに…私は何もしてあげられない……」

「あたしの迷いが…まどかを……」

「覚悟は出来たかい? 美樹さやか?」


第30話 Rなんてしたくない ~ 裏切りの契約


次回もお楽しみに!!


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