(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※久しぶりに10000字近く書いた気がする。今回は戦闘シーンにそれなりに力を入れてみました。出来は…気にしないでください……



第27話 Kは誰の手に ~ 錯綜する信念

 

第27話 K(Key)は誰の手に ~ 錯綜する信念

 

 

 

「何しにこの街に来たのかしら、佐倉さん?」

 

「ふっ……」

 

 警戒しながら目的を探るマミさん。それに対して杏子という奴はただ不敵な笑みを浮かべていた。

 あたしはそいつの態度がどうにも気にくわなく感じて声を荒げる。

 

「お前、マミさんが質問してるんだ。笑ってばっかいないで何か言えよ!」

 

「うっせーな部外者は黙ってろ」

 

 何か反応が来るかと思っていたけど、帰ってきたのはやる気のない適当な返事だった。

 苛立ちを感じていると、マミさんが挑発するような物言いで話しかける。

 

「まあ、あなたのことだからどうせ私達の縄張りを奪いにでも来たんでしょうね」

 

「縄張りねぇ…んなもん今のアタシにはどうでもいい」

 

「じゃあ一体何を……」

 

 

キェエエエエ!!!!

 

 

「「「!!」」」

 

「逃がすかッ!」

 

 二人が話しているとさっきあたしが仕留め損ねた使い魔が奇声をあげて、何処かへ逃げようとしていた。

 それに気づいて急いで追いかけようとする。だけど…そこに……

 

「だからお前は何してんのさ」

 

 杏子に槍を喉元に突き立てられて、またしても邪魔されてしまう。

 

「何すんだよ!!」

 

「あれ使い魔だよ? 倒してもグリーフシードは落とさないぜ?」

 

「だってほっといたら誰かがアイツに殺されちゃうんだよ?!」

 

「はっ?」

 

 意味が分からないとでも言いたげな顔であたしを見つめる。

 それからそいつはあたしとマミさんのことを交互に見て、一人で納得した様子を見せる。

 

「あー、お前もマミの奴と同じクチの魔法少女ってことか。人助けやら正義の為に戦っている」

 

「そ、それの何が悪いのさ! 大体アンタには関係のないことでしょ!」

 

「迷惑なんだよね、そんなモンの為にむやみに使い魔狩られるのは。

 アンタがしていることって卵産む前の鶏を絞め殺しているのと同じことだぞ?

 テキトーな奴、食わせてグリーフシード産ませた方が絶対得だと思うけどねぇ」

 

「見殺しにしろっての…魔女に襲われる人達のことを…?!」

 

「はぁー、さすが巴マミの弟子って感じだな。

 この世界のルールを全然理解しちゃいない」

 

「損得よりももっと大事なことがある…最もこんなことあなたに言っても無意味でしょうけどね」

 

 好き勝手言われるのが耐えられなくなったのか、マミさんが話に割って喋る。その声には少しばかり怒気が混じっていた。

 

「大事なことねぇ…それって魔女の餌しか価値のない奴等を救って愉悦感に浸ることか?

 見返りもないのによくそんなことが出来るよな、感激するよ『偽善者さん』」

 

「ッ?!」

 

 それを聞いた瞬間、あたしの中で何かがキレた。

 腰にかけてある鞘から剣を一気に引き抜いて、杏子へと振り下ろす。

 けど、寸前のところで槍で防がれてしまい、その隙に蹴りを入れられて押し負けてしまう。

 

「あっ…!!」

 

「美樹さん!」

 

「おぅおぅ、こりゃ本格的な指導が必要かもしれないね」

 

「黙れ! アンタみたいな自分勝手な奴がいるから…魔女に襲われて苦しむ人がいなくならないんだ!!」

 

 再び剣を構えて、突撃しようとする。

 けど、杏子は難なく避けてあたしの後ろにいるマミさんに向かって襲い掛かろうとしていた。

 

「!!」

 

「マミさんッ!」

 

「この際だ、師弟共々ぶっ倒してやるよ! ゆま!」

 

「うん!」

 

 その掛け声で今まで黙っていたゆまという女の子は、ハンマーを取り出してあたしに向かってくる。

 攻撃に備えていると後ろの方から轟音が聞こえてくる。もうマミさんは戦い始めたみたい。

 

 にしてもあたしの相手がこんなちびっ子だなんてね…向かってくる少女を見ていると、無性に腹が立ってきた。

 

「舐めるんじゃないわよ!!」

 

「キョーコの…邪魔はさせないっ!!」

 

 あたしは叫び、もう片方の手にも剣を持つ。二刀流の心得なんかはないけども、手数では圧倒的に有利になるはず。

 そう踏んで二本の剣を勢いよく叩き込む。ゆまはハンマーを横に持ってガードする。このまま押し込んでしまえば、いつかはガードが崩れてチャンスがやってくるはず……

 だけども今のあたしの心にはそんな悠長なことをしている余裕はなかった。

 杏子とかいう奴はマミさんと戦っている。アイツとあたしの実力はとてつもない差があるのは、さっきやり取りで十分に理解できた。

 頭の中では分かっているはずなのにあたしはどうしても自分自身の手で倒したいと思っていた。

 

「おりゃあああああ!!」

 

「キャッ!!」

 

 魔力を一気に高めて、力任せにハンマーを叩き落す。それからすかさず、ゆまの足を払って転ばせる。

 心の中でガッツポーズを取って、地面を強く蹴ってゆまの横を駆け抜ける。

 狙いは佐倉杏子。あたしをバカにするのはともかく、街の皆の為に一人でずっと頑張って来たマミさんの頑張りを侮辱するのは絶対に許せない!

 マミさんとの戦いでがら空きになっている背中へ剣を振り下ろす。

 攻撃が当たったことを確信して笑みを浮かべる。だけども……

 

「良い気になってんじゃねーぞ、ひよっこ」

 

「えっ……」

 

 悪感が走る。

 どうしてコイツはこんな表情をしていられるのだろうか? その答えはすぐに分かった。奴はぐるりと後ろを振り向いて手に持っている槍を勢いよく振るう。すると、槍の持ち手部分が幾つも折れ曲がって、不規則な動きであたしへ向かってきた。

 

「やばっ…!!」

 

「美樹さん!!」

 

 避けきれない…そう思う前に肩に凄まじい激痛が走る。肩に槍が刺さった衝撃で手に持っていた剣を床に落としてしまう。

 そして今まで一度も味わったことの無い痛みに耐えきれず声をあげる。

 

「ああああああっ!!」

 

 痛みに苦しんでいるあたしの姿を見て、杏子はニヤリと笑う。それ見て彼女に対する怒りが高まる。

 けど、同時にあることに気づいた。アイツのあの顔…まだ何か仕掛けてくるような……

 嫌な予感がして後ろを振り向く。するとそこには復帰したゆまがハンマーを構えて横に薙ぎ払おうとしていた。

 

「やめてェ!」

 

「ええぃッ!!」

 

 マミさんの悲痛な叫びが響き渡る。そして再び体に凄まじい激痛がやって来た。

 

「がっ……」

 

 さっきよりも重たい強力な一撃。意識が飛びそうになるのを抑えながら、あたしは路地裏の壁に勢いよく叩きつけられる。

 力なく倒れていくあたしを見て、杏子は蔑んだ表情で吐き捨てるように言う。

 

「ふん、トーシローが10年早えーんだよ。アタシに戦いを挑むなんてな」

 

「くっ……」

 

「佐倉さん…あなた!」

 

「先に仕掛けてきたのはアイツだ。そして怪我を負わせたのもアイツだ。

 言ったよな、今のアタシらはここの縄張りなんか興味ないって。あのひよっこが何もしてこなきゃ、そのまま痛い目を見ることもなかったかもしれないのにな」

 

「あくまで自分には非がないって言いたいの…?」

 

「あぁ、アタシはただ魔法少女としての本当のあり方を教えてやったに過ぎない。

 それをそこのバカが過剰に反応したせいでアタシらも戦わざるを得なくなったってわけだ」

 

 戦いに発展させるように言ったのはそっちじゃないか。そう言ってやりたかったけど、口が上手く動かせない…痛みのせいで体の自由が利かなくなっている。

 

「まっ、今日はこの辺にしといてやるよ。ここでアンタも倒しておくのも悪くないけど、何だか本調子じゃなさそうだもんな」

 

「随分と優しいわね。あなたならそれを利用して倒しに来ると思っていたけど」

 

「そんなことしたって何も面白くないだろ。

 それと調子整えとくのと一緒にそこのバカの教育もしてやれよ、噛みつく相手をよーく考えてから戦えってな」

 

「…………」

 

 もう耐えられない。好き放題言って、やるだけやったら帰るって…ふざけんな!!

 湧き上がる怒りを源にゆっくりと立ち上がる。体のあちこちが悲鳴をあげていたけども、それを無理やり鎮めさせる。

 

 あたしが立ち上がるのを見て、三人ともかなり驚いた様子でいる。

 

「おっかしいなー、全治3ヵ月はなるくらいにかましてやったんだけどな。ゆま…お前手加減したか?」

 

「ううん……」

 

「美樹さん、あなたまさか…!!」

 

 マミさんだけがあたしのしたことに気付いていた。

 これは前に美国織莉子と呉キリカとの戦いでやったのと同じこと。キュゥベえに教えられた魔法少女ゆえに出来る戦法、痛覚の遮断。

 

「あはっ……」

 

 さっきまで苦しめていた痛みが消えたことにあたしは歓喜の表情を浮かべる。

 ゾンビだなんだ言っていたけども、ほむらやキュゥベえの言う通り確かに都合がいいかもしれないね…特にあたしみたいな力のない魔法少女には!!

 

「お前……」

 

「美樹さん。お願いもうやめて! 佐倉さんにはもう戦う意志はないわ!!」

 

 必死にあたしを止めようとしているけども、意味ないですよ。もう決めたんだ、アイツを叩きのめすまで倒れる気はないって。

 自分の弱さがみんなの…まどかの、ほむらの、マミさんの枷になっている。だからここで勝利さえすれば、あたしはその弱さを克服できる!! そう確信していた。

 

「お前だけは…許さない!!」

 

「はぁ…お前の意志はよーく分かったよ」

 

 深いため息をついて、奴も同じように武器を構える。それでいい…勝ち逃げなんか絶対にさせない。何があっても必ず倒す!!

 

「口で言ってもダメ、痛めつけてもダメとなると…後はもう__殺すしかないよね__」

 

「…………」

 

 奴の目つきが変わって口元が緩む。それにつられてあたしも笑う。

 

「二人ともお願いだからやめて!!!」

 

 マミさんの声を合図にあたし達は同時に飛び出す。

 奴の槍とあたしの剣が交差して、そして……

 

 

 

「そこまでよ」

 

 

 

 

 

 

 さやかが危ない、と巴さんに言われて急いで来てみれば……

 

 今まで姿を見せていなかった佐倉杏子。そして美国織莉子達と同時に現れたイレギュラー、千歳ゆまがいるなんて……

 それに加えて、満身創痍のさやか。どうしてこうなったのか大体の見当はつくけども想像以上に酷いことになっているわね。

 

「二人ともお願いだからやめて!!!」

 

 二人が本気の殺し合いを始めようとしているのを見て、すぐさま魔法少女姿に変身する。

 それから地面に落ちているさやかの剣を持って、激突する両者の間に割って入った。

 さやかの攻撃を剣で、杏子のは盾で受け止める。激しい衝撃が両腕に加わったけどもどうにかその場に留まる。攻撃を止められて驚く二人に私は静かに言った。

 

「そこまでよ」

 

「なっ…?!」

 

「ほむら?!」

 

 両者とも後ろに飛びのいて私から離れる。

 突然の乱入者に杏子は不満そうな顔で私のことを尋ねてきた。

 

「何なんだアンタは…アイツの味方か?」

 

「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをする馬鹿の敵。あなたはどちらかしら、佐倉杏子?」

 

「アンタ…どこかであったか……?」

 

「さあね」

 

 味方ではあるが、下手に刺激しないようにさしあたりのない言い方にする。

 杏子は自分の名前を知っていることに不思議がっているけど、いつものように適当に誤魔化す。

 

「はぁ…はぁ…さやかちゃん!」

 

「まどか(鹿目さん)!!」

 

 そうしていると私達の元に遅れて、まどかがこの場にやって来る。万が一、美国織莉子達の襲撃だった場合に備えて同行してもらったのだ。

 さやか達が彼女の名前を呼んだのに杏子は反応し、私とまどかの交互を見る。

 

「鹿目…まどか、そしてほむら…か。そうかお前らのことか、キュゥベえが言っていた契約せずとも魔法少女になれるイレギュラーは」

 

「ほむら。一体どういうつもりだよ!!」

 

 正確にはそれはまどかのことなんだけどね。

 野暮だから口では言わずに心の中でツッコむ。そんなことを考えているとさやかが声を荒げながら私に近づいてきた。

 

「それはこっちの台詞よ。自分より各上の相手に殺し合いの勝負を挑むなんて」

 

「あ、アンタには関係ないだろ!!」

 

 ダメね、完全に頭に血が上っている。

 さやかの説得を諦めて、ここは杏子に引いてもらおうと彼女の方を振り向く。

 すると何故か、杏子は槍を構えて戦闘態勢に入っていた。

 

「雑魚に絡まれて厄日かと思っていたけど、まさかこんなラッキーがあるなんてな。アンタとは一度、戦ってみたいって思っていたんだよ」

 

「待ちなさい。私は別にあなたと戦いに来たわけじゃなくて……」

 

「問答無用!!」

 

 私の意志とは関係なく次々と槍を振るう。

 

 まともに戦っても弱体化した今では勝てる見込みは少ない。それに彼女には私達の仲間になってもらう必要がある。

 これらがあり、私は下手に反撃することが出来ない。なので回避だけに専念する。

 

 そうしていると、後ろの方でさやかが力なく倒れる。そんな彼女にまどか達が駆け寄る。

 

「さやかちゃん、大丈夫?!」

 

「酷い怪我…待っててすぐに治療するから…!」

 

「マミさん…あたし何も出来ませんでした……」

 

 さやかは泣いていた。恐らく全力を尽くしても杏子に勝つことが出来なかった自分が悔しくて仕方がないのだろう。そんな彼女に巴さんは優しく慰めた。

 

「心配しないで、美樹さん。

 私のことをバカにされたからあなたはあんなに怒ってくれたのでしょう?

 ありがとう。あなたの優しさはしっかり伝わったから、もう休みなさい」

 

「グスッ…マミさん……」

 

 さやかは意識を失う。

 それでも巴さんは気絶するさやかを治療しながら優しく頭を撫で続けていた。

 

「さやかちゃん……」

 

「…………」

 

 私とまどかは黙って二人のことを見守る。

 お互いに思うことはあったけども、それは胸に秘めておきたい。今のさやかにとって巴さんの言葉が一番通ると思うから。

 

「よそ見してんじゃねーぞ!!」

 

 感傷に浸っていると、杏子が再びこちらに槍を突き立ててきた。反撃されずにただ避け続けられていることに相当のストレスを感じているみたいだ。

 しばらくの間、その状況が続いていく。そして杏子の体力に限界が訪れる。

 

「はぁ…はぁ…お前、何で反撃しねぇ……」

 

「言ったはずよ。私にはあなたと戦う意志はないって」

 

 肩で息をする杏子にそう言い聞かせる。

 けど、彼女の方も躍起になっているみたいだ。全く…似たもの同士、もう少し仲良くすればいいのに……

 内心呆れていると杏子が大振りの攻撃を仕掛けてきた。

 

「ちっ…オラァ!!」

 

 不本意だけど、一発だけ攻撃して彼女を落ち着かせましょうか。そう思って杏子の攻撃を避けようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが瞬間、私の体の動きが急速に遅くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これまで見切れていた攻撃のスピードが格段に上がる。だけど、突然起こった現象に反応する間もなく、杏子の槍が私の体を切り裂いた。

 

「「?!!」」

 

「きゃあああああ!! ほむらちゃん!!!」

 

 まどかが悲鳴をあげる。私が攻撃を受けたことに巴さん、千歳ゆま、そして杏子も驚いていた。

 

 何…何が起こったの……?!

 

 紅に染まる視界の中、私は自分の手を見る。

 すると、とんでもないことが起こっていることに気が付いた。

 

 おかしい…そんなはずはない。

 私は、さやかと杏子の争いを止めるために…魔法少女になったはず……なのに…!!

 

「どうして…変身が……」

 

 私は魔法少女の姿ではなく、普通の見滝原の制服姿になっていた。

 さっきの攻撃が見切れなかったのは、攻撃の速度が上がったからではない。魔力で強化していた身体能力が低下したからだ。

 

「お前…何でこんなことしやがった…!」

 

 杏子は震えながら私に聞いてきた。あの大振りの攻撃には杏子の当てる意思が感じられなかった。それに仮に当たったとしても、魔法少女の姿ではそこまでのダメージはないと踏んだ上での攻撃だったんだろう。私はその問いかけに短く答える。

 

「分から…ない……」

 

「ほむらちゃん…ほむらちゃん!!」

 

「何で…どうしてなの、暁美さん……」

 

 その返答にまどかと巴さんはただ私の名前を呼んでいた。するとそこに杏子が……

 

「どけっ、お前ら!! ゆま、早く来い!!」 

 

「う、うん!」

 

「コイツの怪我、治せるか?」

 

「やってみる!」

 

 私に縋りつく二人を無理やり引き離して、千歳ゆまを呼びつける。そして、彼女に怪我を治させるように言う。

 

 彼女の治癒能力は、さやかや巴さんよりも上だった。

 そのお蔭か傷はみるみる内に塞がっていって、それと同時に激しい眠気に襲われた。

 

「何がどうなってんだよ……」

 

 薄れゆく意識で、杏子の言葉が鮮明に残った。

 

 

 

 

 

 

 暁美ほむらのことを遠くから監視していた私は携帯を取り出し、織莉子に電話をかける。

 

「もしもし…織莉子」

 

『どうしたのキリカ?』

 

「佐倉杏子が暁美ほむら達と接触した。そして、君の言う通り彼女にも異変が起きていたよ」

 

『!!』

 

 電話越しからでも彼女のショックな様子がハッキリと分かる。

 今、織莉子がどんな顔をしているのか考えるだけで胸が張り裂けそうなくらい痛むけども、それを抑えながら報告を続ける。

 

「後、そいつと一緒に千歳ゆまとかいう魔法少女も一緒にいたんだけど…どうすればいいかな?」

 

『…………』

 

「織莉子? 織莉子?」

 

 その名前が出た瞬間、織莉子が無言になる。

 不思議に思って何回も彼女の名前を呼び続けるとようやく気付いてくれたのか、咳払いをしながら応えてくれた。

 

『何でもないわ。引き続き、暁美ほむらの監視を続けて頂戴』

 

「君の言っていた例の彼女はどうするんだい?」

 

『彼女は優木さんに任せるわ』

 

「あのちんちくりんに?! 不安だなぁ……」

 

 とんでもない名前が出てきたことに思わず大声を出してしまう。

 まあ、現状で私以外に動けるのはアイツしかいないから当然と言えば当然だけども……

 

『暁美ほむらの監視を任せるよりはマシよ』

 

「まっ、確かにすぐにバレそうだもんな」

 

『…………』

 

 また織莉子が無言になる。以前からずっと気になっていたけども、他の人の名前が出ると彼女は必ず一人で何か考え事をし始める。

 何度も相談に乗ろうとしたが、大したことじゃないと言っていつも誤魔化される。信頼されてないとは、思っていないけども、ずっと一人で悩んでいる姿を見ていると私の方も不安になってしまう。

 

「そろそろ切るね。何かあったらまた連絡する」

 

『ごめんね、キリカ』

 

「何がだい?」

 

『まだ暁美ほむらから受けた傷が回復していないのに無茶させちゃって』

 

 そのことを指摘されたせいか、ズキンと胸の辺りが疼いた。軽い処置は済ませたものの正直言ってかなりキツイ。

 けど、そのことは決して織莉子には明かさない。言ってしまえばまた彼女に負担をかけてしまうから。

 

「気にすることはないさ、織莉子のことを想えばこれくらいどうってことない。寧ろ私としては君の方が心配で仕方がないよ」

 

『ありがとう』

 

「礼には及ばないよ。それじゃあね、織莉子」

 

『えぇ』

 

 通話が終わり、携帯をしまう。

 下では暁美ほむらの傷の手当てが終わったみたいだ。今ここで襲撃してしまおうかと思うが、織莉子の指示がまだ来ていないのでグッと堪える。

 それでもやっぱりアイツの姿を見ると、心の底から怒りが湧き出て本能を刺激させる。

 だけどもその激情をどうにかして抑える。その代わりに奴に向かって最大級の恨みを込めた言葉を放った。

 

「暁美ほむら。お前だけは絶対に許さない…必ず私と織莉子の手で殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 杏子との戦闘で大怪我を負いはしたが、千歳ゆまの治療のお蔭で普通に学校に行くことも出来た。

 さやかの方も色々とあったけども、何ともない様子で普通に生活していた。

 

「まどか。ちょっといいかしら」

 

「うん、なあに?」

 

 昼休みになって人通りの少ない所にまどかを呼ぶ。

 要件は杏子についてだ。さやかや巴さんを連れてこない辺りで察してくれたのか、真剣な表情で私のことを見ていた。

 

「昨日会った佐倉杏子って子についてなんだけど……」

 

「一緒にわたし達と戦ってもらえるように協力しに行くんでしょ」

 

「そう。だから今日の放課後、一緒に来てくれないかしら?」

 

「いいけども、わたしでいいの?」

 

「さやかを連れていくとまた面倒なことになるし、巴さんも前に彼女と一騒動会ったからあまり連れていきたくないの。そもそも魔法少女としての考え方が根本から違うから争い事に発展しかねないし……」

 

「そっか、分かったよ」

 

「じゃあ戻りましょうか」

 

「そうだね」

 

 こうして過去のことを気兼ねなく話せるのは、本当に気が楽で助かる。

 まどかに心の中で感謝しながら私達はさやか達のいる教室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 それから放課後になって私達はゲームセンターに向かって、杏子のことを探した。

 これまでの経験もあって彼女の現れる場所は大体わかっていたからすぐに見つけられた。

 

「お前らは……」

 

「昨日ぶりね。佐倉杏子、千歳ゆま」

 

「おねーちゃん、もう怪我はだいじょーぶ?」

 

 私の無事な姿を見て、杏子も千歳ゆまも安心している様子だった。怪我の具合を案じる千歳ゆまにまどかがお礼を言う。

 

「ありがとうね、あなたのお蔭でほむらちゃんすっかり元気になったから」

 

「えへへっ」

 

「その…何だ、この前は悪かったな……」

 

「気にしなくていいわ、あれは私の方に原因があったから」

 

「そうか。それで要件はなんだ?」

 

「単刀直入に言うわ、私達に協力してほしい。10日後に現れる最悪の魔女を倒すために……」

 

「……………………」

 

 私の頼みを聞いて、杏子は眉をひそめる。

 

 ここで協力してくれるか否かで今後の動きが大きく変わる。もう時間はあまり残されていない。協力してくれることを祈りながら私は彼女の返事を待った。

 

 

 

 

 あたしは学校で仁美と別れて、帰宅路を一人で歩いていた。

 まどかとほむらは放課後になるやすぐに居なくなっちゃうし、マミさんも用事があると言って帰ってしまった。

 

「なんか…寂しいな……」

 

 ポツリと独り言を呟く。

 昨日気絶した後のことを聞くと、あたしの代わりにほむらがあの佐倉杏子と戦って大怪我を負ったらしい。傷はすぐに治されていたけども、何だか気まずかった。

 

 また自分の力不足のせいで、ほむらが傷ついた……

 

 もっと強ければ、足手まといにさえなっていなかったら違った結果になっていたかもしれないのに。

 あたしが魔法少女になるためにした願い事は、恭介の腕を治すこと。だけどもそれとは別に魔女と戦い続けているまどか達の力になりたかったからというのもある。

 守られるんじゃなくて、誰かを守るためにこの力を手にした。だが現実はどうだ…肩を並べて戦えるかと思えば、またみんなの足を引っ張っている。

 

 ほむらは魔法少女としての素質や戦闘能力はあたしよりも低いけども、持ち前の知識と経験を生かして格上の相手ともそれなりにやり合える。

 マミさんもベテランだけあって、あたし達のことを常に後ろから支えてくれている。

 そして一番の親友のまどかは…歴代の魔法少女の中でもトップクラスの素質を持ち、経験不足のデメリットをほむらと協力して補っている。

 

 こうして考えてみると全然良いトコないよなぁ。こんなのでこれから先、戦っていけるんだか。

 何だかもう既に置いて行かれてしまっている感じがする。まどか達はもしかしたらあたしのことを見限って三人で仲良く魔女退治をしているんじゃないだろうか。そんな気がしてならない。

 

「……って何考えてんだよ! まどか達がそんなことするはずないじゃない!!」

 

 邪な考えを振り払って、少しでも前向きでいられるように別のことを頭に思い浮かべようとする。

 するとあたしの目の前に一人の少女が現れた。

 

 

 

「よぉ、アンタが美樹さやかかい?」

 

 

 

 見覚えのない子だ。同じ学校の生徒でもないみたいだし…取り敢えず何者なのか尋ねてみる。

 

「誰なの…アンタは…?」

 

「優木沙々。アンタの知り合いの仲間さ」

 

 沙々と名乗る少女は不気味な笑いを浮かべながら、こちらを見つめてくる。

 

「ふーん、知り合いねぇ…こんな回りくどいことしないで直接会いに来ればいいのに」

 

「それが出来たら苦労しないんだよね。なんてったってあまり表を歩けない身分でいるからねぇ」

 

「そんなにヤバイ奴なの? 誰なのさ」

 

 あたしの問いかけに沙々はニヤリと笑う。

 その表情を見た瞬間、背筋がゾッとする。

 何でだろう、聞いてはいけない質問をした。そんな予感がしてならない。

 急いで取り消そうとする。だけど沙々は、それよりも早くその名前を口にしてしまった。

 

 

 

 

 

「美国織莉子」

 

 

 

 

 

「ッ?!!」

 

 予感が確信に変わる。さっきコイツは美国織莉子の仲間と名乗っていた。ということは、まさか……!!

 あたしの結論が出る前に沙々は静かにこちらに歩み寄って手を差し出す。

 

「一緒に来てもらうよ。彼女の所へ…あっ、もちろん拒否権があると思うなよ」

 

 最後の脅しを聞いて思わず恐怖を抱いてしまう。逃げれたかもしれないけども、その感情のせいであたしは黙って彼女の後を付いて行くことしか出来なかった。

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★





※色んなキャラに視点が変わるから、もしかしたら読みずらいと感じるかもしれません。もしそのようなことがありましたら今後、話の構成にも工夫をしますので何なりと言ってください。


☆次回予告★

第28話 Kは誰の手に ~ 美国織莉子の影

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