※今回は、アニメの第10話でのエピソードがかなり含まれています。
※どうでもいいですけど、あと3日でマミさんの5年忌ですねw
あちこちから火の手が上がり、炎に包まれている見滝原の街。わたしはその街を一望できる高台に立っていた。
記憶が正しければ、今いる所は綺麗なたくさんの種類の花が咲いている密かなお気に入りの場所のはずだったけれども、そこに一面に広がっているのは彼岸花だけだった。
「ここは、本当に見滝原なの……?」
つい口に出した言葉だったけど、当然答える人なんかいない。
そうしていると何処かから誰かのうめき声が聞こえてきた。その声はわたしがよく知っている……
「ほむらちゃん……?」
音は聞こえど姿は見えず、彼女の苦しそうな声を聞いていると段々居ても立っても居られなくなってくる。
そしてわたしは、ほむらちゃんを探しに行こうと動き出そうとした。すると、そこへ……
『そんなに慌てて何処へ行くつもりなのかしら、まどか?』
「えっ……?」
真っ黒なドレスを身に纏ったほむらちゃんがわたしの前に現れた。
「ほむら…ちゃん、なの……?」
わたしが知っている彼女の像から大きくかけ離れているその姿に動揺を隠せないでいた。
だけど、それと一緒に以前戦った偽物のほむらちゃんのことを思い出して、油断しないように気を張り詰める。
すると、ほむらちゃんはクスクス笑い出した。
『確かに私は暁美ほむらよ。でも、あなたが知っている『暁美ほむら』とは全くの別人』
「どういう…ことなの……?」
『今のあなたには知る必要がないことよ』
「そんな言い方しなくてもいいでしょ」
突き放すような喋り方にムッとした声で言い返す。
そんなわたしの返しに驚いたのか、ほむらちゃんは意外そうに言う。
『あら、この世界のあなたは随分と気が強いのね。契約もしていないのにここまでなるなんて珍しい』
「それよりもわたしは行かなくちゃいけない場所があるから、そこを通して欲しいんだけど……」
『勿論、あなたの邪魔をするつもりはないわ。けどその前にこんな話を聞いていく気はないかしら?』
「なに?」
今いるほむらちゃんには悪いけど、なるべく急いで話してくれないかな? と思っていたら次の瞬間、わたしは衝撃的な言葉を耳にする。
『「暁美ほむら」が歩んできた人生……の話よ』
第23話
もう一人のほむらちゃんが言ったことにわたしは慌てて彼女に詰め寄る。
「それって…わたしが知っているほむらちゃんについてなの?!」
『えぇ、これは私自身のことでもあって『暁美ほむら』のことでもある。両者共に共通しているものよ』
「でもどうしてそんなことをわたしに……?」
反射的に食いついてしまったけど、罠であるかもしれないことを思い出して探るように彼女に質問する。
それに対してほむらちゃんは、ふッと視線を燃えさかる見滝原の街に向けて静かに言った。
『そちらの暁美ほむらにも言ったことだけど、あなた達は私が一度も辿り着くことがなかった別の可能性を持っている。
だからこそ見届けたいのよ、守る守られる関係ではなくて互いに支え合う関係になった暁美ほむらと鹿目まどかがどんな結末を迎えるのか……』
悲しげな目をしながら語るその姿は、わたしが知っているほむらちゃんの面影が残っていて、少しだけ胸が痛くなる。
わたしやさやかちゃん達と楽し気に話しているときにも、時折見せるその目。それを見る度に何も力になれないことを苦しく思っていた。
陥れるための罠である可能性は十分にある。だけどもそうかもしれなくても、胸の奥底から押し寄せてくる気持ちを抑えることは出来なかった。
「聞かせて……」
『?』
「ほむらちゃんのこと、知りたいの……いや、知らなくちゃいけない気がするの。だからお願い、聞かせて」
その言葉に、もう一人のほむらちゃんはニヤリと笑う。そしてわたしの頭にそっと手を乗せた。
『どの世界でもやっぱりあなたはあなたのままね。いいわ、見せてあげる私の全てを!!』
「うっ?!」
頭の中に自分のものではない記憶が一気に流れ込んでくる。
そこには、ほむらちゃんの……『暁美ほむら』という少女の軌跡があった。
☆
場所は見滝原中学校。
担任の先生の早乙女先生の話が終わって、私は転校生としてクラスに入っていった。
『はーい。それじゃあ自己紹介いってみよー』
『あ、あの……あ、暁美…ほ、ほむらです。その……えっと…ど、どうか、よろしく、お願いします……』
『暁美さんは心臓の病気でずっと入院していたの。久しぶりの学校だから、色々と戸惑うことが多いでしょう。だからみんな助けてあげてね』
自己紹介が終わった後、私はクラスのみんなに質問攻めに遭った。入院生活が長かったせいであまり人とも喋ったことがなかった私はどう話したらいいのか分からないでいた。
そんなときだった彼女がやって来たのは……
『暁美さん。保健室行かなくちゃいけないんでしょ? 場所分かる?』
『い、いいえ……』
『じゃあ案内してあげる。わたし保健係なんだ。
みんな、ごめんね。暁美さんって休み時間には保健室でお薬飲まないといけないの』
それから私はまどかに連れられて、保健室までの道を案内してもらった。
『わたし、鹿目まどか。まどかって呼んで』
『えっ…そんな……』
『いいって。だからわたしもほむらちゃんって呼んでいいかな?』
『私、その……あんまり名前で呼ばれたことって無くて……。すごく変な名前だし……』
『え~? そんなことないよ。何かさ燃えあがれ~って感じでカッコいいと思うな~』
『名前負け、してます』
『そんなのもったいないよ、せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ!』
これが私とまどかの初めての出会いだった。
まどかに励まされたのは良いものの、それから数学の授業では問題に答られず、体育でも準備体操の段階で貧血になってしまい、授業を見学することになってしまった。
そんな中でもまどかは何も出来ずにいた私を元気づけようと精一杯励ましてくれた。だけども彼女の優しさよりも自己嫌悪の気持ちの方があのときの私を覆っていた。
帰り道、まどかに言われた言葉を思い出しながらトボトボ歩いていると私は魔女の結界の中へ入り込んでしまっていた。
魔女に襲われて殺されそうになった矢先、私の前に二人の魔法少女が現れた。その内の一人がまどかだった。
『あ、あなた達は……』
『彼女達は魔法少女。魔女を狩る者達さ』
『いきなり秘密がバレちゃったね。クラスのみんなには内緒だよッ!!』
それから私は街のみんなの為に戦い続けているまどか達と一緒に楽しい日常を送っていた。そんなある日、悲劇は起こった。
最大最強の魔女、ワルプルギスの夜が見滝原を襲ってその戦いによってまどかは命を落としてしまう。
『どうして? 死んじゃうって分かってたのに、私なんか助けるよりもあなたに…生きてて欲しかったのにッ……!!』
彼女の死体の前で悲しみに暮れる私。そこに現れたのはインキュベーターだった。
『その言葉は本当かい、暁美ほむら? 君のその祈りの為に魂を賭けられるかい?
戦いの運命を受け入れてまで叶えたい望みがあるなら、僕が力になってあげるよ』
『あなたと契約すれば、どんな願いも叶えられるの?』
『そうとも、君にはその資格があるそうだ。教えてごらん。
君はどんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?』
奴の言葉を聞いてこの時の私は迷わずに答えた。それが地獄の始まりであることを知らずに……
『私は……私は鹿目さんとの出会いをやり直したい!!
彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!!!』
契約が完了し、私は新しく得た力を使って、一か月前の世界へと飛んだ。
それから美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子が死んで私とまどかは二人でワルプルギスの夜に挑んだ。
結果は大敗北……二人とも魔力を使い切ってソウルジェムも濁り切る寸前だった。
私は諦めてまどかと一緒に心中を図ろうと彼女に提案した。しかしまどかは私にこんなお願いをしてきた。
『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね? こんな終わり方にならないように歴史を変えられるって言ってたよね』
『うん……』
『キュゥベえに騙される前のバカな私を……助けてあげてくれないかな?』
『約束するわ! 絶対にあなたを救って見せる! 何度繰り返すことになっても、必ずあなたを救って見せる!!!』
こうして私の終わりなき戦いは始まった。未来を変えるために、たった一人の大切な友達を救うための戦いが……
(誰も未来を信じない。誰も未来を受け止められない。だったら私は……)
(もう誰にも頼らない。誰にも分かってもらう必要もない)
(繰り返す。私は何度でも繰り返す)
(まどか……たった一人の私の友達……
あなたの…あなたの為なら、私は永遠の迷路に閉じ込められても構わない……)
『鹿目まどか。あなたは自分の人生が貴いと思う? 家族や友達を大切にしている?』
『あなたはあなたのままでいればいい。さもなければ、全てを失うことになる』
「あっ…あああ……」
『いい加減にしてよ! あなたを失えば、それを悲しむ人がいるってどうしてそれに気づかないの?!』
「ああああああああ……」
『私ね……未来から来たんだよ?』
「うわあああああぁ!!!」
☆
『これが『暁美ほむら』の全てよ……』
「そん…な……ほむらちゃんは、わたしの為に……?」
散りばめられたパズルが凄まじい勢いで組み立てられていく。
やっと分かった、これまでほむらちゃんがわたしに対して行ってきた行動の全てが……
「ほむらちゃんが…悲しんでいたのは……わたしの、せい……?」
信じがたい、だけど受け入れるしかない真実に自分の感情の制御が出来ずにいた。
涙が溢れ出すのを止めることが出来ない。すると、もう一人のほむらちゃんがそっと手を差し出してきた。
『さて…鹿目まどか、あなたはどうするつもり?
あなたの為に全てを投げ出して『絶望』の渦中へと自ら飲み込まれていった少女を……どうしたいかしら?』
決まっている。わたしがどうするのかなんてもう決まり切っている。
わたしは、ほむらちゃんの手を力強く握りしめた。
「連れて行って……ほむらちゃんを、わたしの大切な友達…いや、
『分かったわ。ならしっかりと掴まっていなさい』
そう言って、ほむらちゃんは背中から黒い翼を広げてある場所へとわたしを連れて飛び立った。
『相棒…それが私と彼女の違い、なのかしらね……?』
★
見滝原の街の上空を飛んでいると少し離れたところに巨大なクレーターと、そこへ大量の黒い液体が流れ込んでいるのが見えた。
それについて不思議に思っていると、もう一人のほむらちゃんが説明してくれる。
『あの穴の中に暁美ほむらはいるわ。だけど……』
「だけど……?」
わたしの返しに『ほむらちゃん』は何も答えずにスピードを上げる。そして穴の真下へと到着した。
落ちないように気を付けながら見下ろしてみると、穴の中央に真っ黒な湖の中に沈んでいこうとする相棒の姿を捉えた。
「ほむらちゃん!!」
『__ッ?! ダメよ!!』
手を離して、落ちようとするのを『ほむらちゃん』に止められる。
「離して!!」
『私の話を聞きなさい! 下に流れ込んでいる黒い液体は、暁美ほむら自身の感情そのもの。
幾つものの地獄を潜り抜けてきた彼女でさえ『絶望』に飲み込まれてしまったのに、そんなものをあなたがまともに受けてしまったら!!』
「じゃあどうすればいいの?! もう時間はほとんど残ってなんかいない、何か方法があるっていうの?!!」
『そ、それは……』
勢いに任せて強く当たっちゃったけど『ほむらちゃん』のわたしを気遣ってくれる心遣いはとても嬉しかった。
色々と違う所はあるけれども、やっぱり同じほむらちゃんに変わりはないと思った。
「ありがとう。もう一人のほむらちゃん」
わたしは掴まれている手を無理やり引き離して、黒い湖の中へと飛び込んだ。
☆
『まどか……』
湖へと落ちていく少女の姿をほむらは、黙って見ていた。
しかしすぐに首を振って、普段の表情に戻る。
『いいえ、たとえ彼女であっても私は決して干渉はしない。私はただ見守るだけ……』
まるで自分に言い聞かせるように何回も繰り返す。
そしてニヤリと笑いながら、まどかへと語りかけた。
『見せてみなさい。あなた達の…絶望を切り開くための、力を……』
☆
最初見たときはただの水だと思っていた黒い液体は、かなり粘性があって身動きをすることが難しかった。
更に物凄い勢いで、ほむらちゃんの感情が流れ込んでくる。それはさっきの記憶とは全く違い、入り込んで来ると共にまるで頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されるような強烈な不快感が襲ってきていた。
「こ、れが…ほむらちゃんの……」
力を抜いてしまえば一瞬で狂ってしまいそうだった。けれど、わたしはこれくらいで絶望に屈したりはしない。
ほむらちゃんはこの苦しみを何度も何度もたった一人で耐え続けてきていたんだから!
「ほ、むらちゃ…ん……今度は、わたしが…あなたを……」
懸命に手足を動かして、沈みつつあるほむらちゃんの元へと急ぐ。その身体はもう目から上と左腕だけしか地上に残っていなかった。
「たす、け…る、ば……ん……」
身体の力が抜けていく。けど諦めたりなんかしない…絶対にこの手で……
「あっ……」
だけどもわたしが辿り着く前にほむらちゃんの身体は完全に沈んでしまった。こうなってしまっては、もう……
「ま、だ……だよッ!」
最後の力を振り絞って、黒い液体の中へ潜り込む。そして左手を限界まで伸ばして__
ほむらちゃんの左手をしっかりと掴み取った。
「ごめんね……ほむらちゃん……」
水の中と似たような状態なので上手く声を出すことは出来ない。でも伝えたいことはしっかりと口で伝えたかった。
わたしは、ほむらちゃんのことを抱きしめて…その上に覆いかぶさって……
そうしてわたしとほむらちゃんは____
☆ to be continued…… ★
※この話のためにもう一度、第10話見返してきましたけど、やっぱいいですね。ほむほむサイコー!!
☆次回予告★
第24話 Pを取り戻せ ~ 集束する二人の世界
※第2章も遂にクライマックス!!