(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※お待たせしました! レポートなどに追われて、執筆する時間をなかなか確保できませんでした……

※とりあえず10日以上、投降間隔を空けることがなくて良かった……


第22話 Dとの密約 ~ 奈落で見たもの

 

第22話 Dとの密約 ~ 奈落で見たもの

 

 

 

 自らのソウルジェムを砕き、変貌を遂げてしまったほむら。

 禍々しいオーラに包まれたその姿は人間とも魔女とも大きくかけ離れてしまっていた。

 

「嘘だろ……これが……」

 

(ほとばしるこの魔力……間違いない、これが私の予知で見た『最悪の未来』を引き起こす存在!!)

 

 織莉子がその予知を見たのは、今から約二週間前。崩壊した街の中央で静かに佇む姿を目にした瞬間、その者の危険性を瞬時に気付いた。その存在が世界を破滅へと導いてしまうことを……

 そうなる事態を避けるために彼女は策を講じた。力、情報、協力者……集められるものは限りを尽くした。

 しかしその努力は実を結ぶことはなかった。最も恐れていた展開が今、美国織莉子の前に広がっていたのだ。

 

(だけど、このまま尻込みするわけにはいかない。私が今するべきことは……)

 

「キリカ!!」

 

「!!」

 

 織莉子は茫然としてしまっているキリカを鋭い声で呼んだ。

 反応したキリカは一瞬、戸惑った表情を見せたが、織莉子を見て覚悟を決めた。

 

「ごめんなさい。私の考えが至らなかったせいでこんなことになってしまって……」

 

「キミが謝ることなんて何もないさ、誰よりもこうならないように必死に頑張っていた。そのことは私が絶対に保証する」

 

「ありがとう、キリカ」

 

「……行こう。私達の手でアイツを倒すんだ!!」

 

 両者共に武器を構える。そして、目の前に君臨する圧倒的な力を持つ『敵』へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 だが彼女らの進撃は、ほむらが展開させた真っ黒な翼によって一瞬で止められた。

 翼は目にも止まらぬスピードで襲い掛かり、まとめて壁の方へと飛ばれてしまう。

 

「がッ?!!」

 

「うっ?!!」

 

「なん、だよ……今のパワーとスピードは……まるで、時間でも止められているようだっ…た……」

 

「勝てない……今の私達じゃ、彼女には……」

 

 織莉子達は、真っ赤な瞳を持っている『怪物』の姿を力なく見上げた。

 

 

 

 

 自分達を極限まで追い込んでいた魔法少女が、たったの一撃でやられる様を見てしまったさやかはその光景に圧倒されていた。

 本来ならば、助かったと安堵して喜ぶはずなのだが、全くそんな気持ちにはならない。寧ろ、更に状況が悪くなったと考えていた。

 戦闘の経験が浅いさやかでさえも分かってしまったのだ。姿を変えてしまったほむらの放つ凄まじいほどの邪気を……

 

 さやかは、ほむらが織莉子達の方に気を取られている隙にまどかとマミの元へと急ぎ、二人の拘束を解く。

 

「美樹さん……一体どうなっているの?」

 

「詳しいことはあたしにも分かりませんよ。でも今は一刻も早くここから離れましょう」

 

「さやかちゃん……ほむらちゃんはどうするの?!」

 

 不安でたまらないといった表情で聞いてくるまどかを見て、一瞬だけ答えるのが躊躇われたが、それでもキッパリと言った。

 

「あたし達が助かることだけを考えて、ほむらは……今のアイツはどう考えても普通じゃない……」

 

「でも……」

 

「鹿目さん。気持ちは分けるけど、このままだと私達まで巻き込まれてしまう。ここは一時、撤退しましょう」

 

「はい……」

 

 あの状態のほむらを放ってはおけない。まどかはそう思っていたが、そこにマミも加わって折れざるを得なかった。

 

 

 三人は工場から出て、近くの物陰へと移動して建物の様子を伺う。工場からはまだ、轟音が鳴り響いていた。

 

「それにしても、ほむらのあの姿は何だったんだ? まどか、あんた何か知ってる?」

 

「ううん……あんなの一度も見たことがないよ」

 

「私達どうすればいいのかしら……」

 

「少なくとも、ほむらをこのままにはしてはおけないよね」

 

「でも、どうしたら……」

 

 

 

「どうして暁美ほむらがああなってしまったのか、大体でいいなら僕が教えてあげるよ」

 

 

 

 途方に暮れるまどか達の前に現れたのはキュゥベえだった。

 彼の登場に三人はそれぞれ違った反応を見せる。そんな中、一番最初に口を開いたのはマミだった。

 

「キュゥベえ、暁美さんに一体何が起こったの?」

 

「彼女は自らのソウルジェムに様々な負のエネルギーを取り込んで、それらを一気に放出させて肉体に大量に取り込んだ。今の暁美ほむらは負のエネルギーの中に完全に取り込まれてしまっていて自我を完全に失った状態にいるんだ」

 

「負のエネルギーって……何?」

 

「いい質問だね、まどか。君達は僕と契約するときに『希望』である正のエネルギーによってソウルジェムを輝かせる。負のエネルギーはそれの全く逆、分かりやすく言うならば『絶望』という言葉で括れるかな?」

 

「希望と絶望……」

 

 そう呟きながらまどかは左手の中指にはめられた指輪をじっと見つめた。

 何か思うことがあるのであろうが、キュゥベえはそれには反応せずに解せない顔つきで続きを話した。

 

「だけど彼女の負のエネルギー源は『絶望』だけではなかった。欲望や執念は理解が出来るとはしても、彼女の言うあの感情だけはどうしても分からなかったよ」

 

「彼女……?」

 

 まるで誰かから聞かされたような口ぶりで話すキュゥベえにまどかは、ふと疑問に思う。

 だが、そのことを聞く前にさやかが先に彼に問いただした。

 

「そんなことはどうだっていいよ。それよりもあたしはどうやったらほむらを元に戻すことが出来るのかを聞きたいんだけど?」

 

「どうしたら……か」

 

「お願い、キュゥベえ何か知っていたら教えて頂戴」

 

 頼み込むマミにキュゥベえは首を捻って考え込む仕草を取る。

 

「今の暁美ほむらは、負のエネルギーに自我を飲み込まれてしまっているせいで暴走に近い状態になっている。彼女の自我を呼び起こすことが出来れば、もしかしたら元の人間に戻れるかもしれない」

 

「自我を呼び起こす……」

 

「そうすれば、ほむらちゃんは元に戻る……」

 

「そんなのどうすれば……そうだ!!」

 

 元に戻す方法について考えていると、さやかが何かを思いついたように手を叩く。

 

「声だよ! ほむらの名前を呼び続けたら、もしかしたらアイツの意識を起こせるかもしれない!」

 

「確かにそうすれば暁美さんもきっと……」

 

「どうかな? 負のエネルギーとはいわゆる感情と同じもの、そう簡単に感情に囚われた人間を元に戻せるとは思えないね」

 

 水を差すような言い方で問いかけるキュゥベえだったが、さやかとマミはそんなことなど気にしていなかった。

 

「残念だけど、それにはうってつけの人物がいるんだよ」

 

「さやかちゃん、一体誰のことなの?」

 

「あなたよ、鹿目さん」

 

「えっ?」

 

「なるほど、確かに暁美ほむらの場合であれば、一理あるかもしれないね」

 

「ええっ?!」

 

 自分以外の全員が何故か納得してしまっている事態にまどかは戸惑っていたが、さやかとマミは早速、ほむらと対峙するための準備に取り掛かっていた。

 

「マミさん、取り敢えず先にこれを使ってください」

 

「グリーフシード……どうして?」

 

「ほむらから聞いたんですけど、ソウルジェムは魔力を使う以外でも濁ってしまうみたいなんです。たとえば、心が大きく揺さ振られたりしたときとか……」

 

「そう、それならありがたく受け取っておくわ」

 

 廃墟での戦いで穢れを取り払ったはずのジェムはいつの間にか濁り切る寸前までいっていた。しかしそんなことは特に気にしないで、マミは自分のソウルジェムを取り出して浄化を済ませる。

 まどかも自分の役目を受け入れてほむらの場所へと行く手筈は全て整った。

 が、そこにキュゥベえが思い出すような口調でこんなことをまどか達に言ってきた。

 

「そういえば、そろそろじゃないかな? 美国織莉子達が暁美ほむらに殺されてしまうのは……」

 

「「「ッ?!!」」」

 

 突然の発言に一同はバッと工場の方を振り向く。気が付けば、先程まで聞こえていた轟音も今ではすっかりと聞こえなくなっていた。

 それに加えて、更に予想外の出来事が起こってしまう。

 

「そんな……そんなの駄目だよ!」

 

「「まどか(鹿目さん)!!!」」

 

 なんといきなりまどかが、作戦を無視して工場の中へと走り出してしまった。

 さやかは急いで魔法少女の姿へと変身してまどかの後を追ったが、マミは足を止めてキュゥベえのことをじっと見つめた。

 

「どうしたんだい、マミ? 早くまどかの後を追わなくていいのかい?」

 

「…………」

 

「マミさん、何してるんですか?! 早く、来てください!!」

 

「……分かったわ」

 

 何の反応を示さないことに疑問に思うキュゥベえだったが、さやかからの呼びかけが来ると一緒にマミは黙って走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 中に入ってまどかが見たものは、ほむらの攻撃を受けて魔法少女としての姿を強制的に解除させられてしまった織莉子達だった。

 二人は必死に立ち上がって戦うことを止めずにいたが、それももう限界であることが、目に見えて分かった。

 

「こんなことがあるっていうの……」

 

「織莉子……ううっ……」

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 トドメを刺そうと翼を展開させて織莉子とキリカに向け振り下ろそうとする瞬間、まどかは夢中になってほむらの元へと走り出す。そして張り裂けんくらいの声量で彼女の名を呼んだ。

 

「ほむらちゃん、ダメェェェ!!」

 

『!!』

 

 突然の大声に驚いたのか、あるいはまどかの叫びが効いたのか定かではないが、攻撃は織莉子達からほんの少しだけ離れた場所に落とされる。

 しかし攻撃は外れたもののその威力は凄まじく、とてつもない風が建物内に吹き荒れて織莉子、キリカは当然としてまどかも共に突風によって身体を舞い上げられてしまう。

 

「きゃああああぁ!!」

 

 空中に放り出され、まどかは為す術なく地面へと真っ逆さまに落ちていく。

 だが、地面に激突する前にリボンで作られたクッションが彼女を受け止めた。

 

「鹿目さん、怪我はない?!」

 

「マミさん……ありがとうございます」

 

「……ったく一人で勝手に突っ込むなっつーの、ビックリするでしょ」

 

「ごめん、さやかちゃん。でも、わたしどうしても……」

 

 しょんぼりと顔を俯かせるまどかにさやかは優しく肩に手を置く。

 

「分かってるよ。どうせアンタのことだから、ほむらだけじゃなくてあの二人も助けたいって思ってたんだろ?」

 

「うん、でもあの人たちは……」

 

「何処に飛ばされたのかは分かんないけど、アイツらだって魔法少女なんだ多少の怪我しててもどうにかなるでしょ。

 ていうかある程度、痛い目見てもらった方が都合良いっちゃいいんだけどね」

 

「美樹さん」

 

 冗談交じりに言った台詞だったが、マミに咎められてしまう。

 それに対して、さやかは少しだけふてった表情で言う。

 

「マミさんだってアイツらに酷い目に遭わされたじゃないですか」

 

「だからといって見捨てていい理由にはならないはずよ?」

 

「うっ、分かってますってば……」

 

「そんなことよりも暁美さんよ、早く彼女を元に戻してあげましょう」

 

「そうですね。まどか、しっかり作戦通り行くよ!!」

 

「うん……」

 

 三人が頷き合って慎重に距離を詰めながら、ほむらに近づいていく。

 

 作戦の手筈としては、まずまどかがひたすら意識が目覚めるまでほむらの名前を呼び続ける。

 その際にも恐らくほむらは無差別に攻撃をしている為、その攻撃をさやかとマミの二人で捌いて、これをただ延々と繰り返すといったものである。

 

 

 

 が、この作戦を実行するにおいて、ほむらの放つ攻撃は予想を遥かに越える強さだった。

 

「うわっ!!」

 

「美樹さん、しっかり!!」

 

 マミの武器は銃のため、ほむらが振り下ろしてくる翼を直接受け止めることは出来ない。そのせいで攻撃を受け止める役目は、ほとんどさやかがメインとなってしまう。

 それでも、マミもリボンでさやかの後ろに壁を作って少しでも衝撃を和らげたり、度々飛んでくる魔力の弾を打ち落としたりと彼女なりに出来る最大限のことをしていた。

 

「ほむらちゃん! お願い、わたしの声を聞いて!!」

 

 このような攻防が何度も繰り返されていく。そんな時、遂にほむらに変化が訪れた。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"……マ、ドカァァァ……』

 

「ほむらちゃん?!」

 

「よしっ! このまま名前を呼び続ければ……!!」

 

「あと少しよ! 頑張って!!」

 

 希望の光がようやく見えてきた……とまどか達は思っていた。

 だが次の瞬間、ほむらはこれまでとは全く違う動きを見せた。

 

 突然、翼を羽ばたかせて風を起こし始めたのだ。変化があったことにさやかとマミは図らずも油断していた。

 それによって不意に変わった攻撃パターンに対応することが出来ずにまどかの防衛が疎かになってしまい、まどかは再び、宙に舞い上げられてしまった。

 

「しまった!」

 

「やばっ……まどか!」

 

『マドカァァァァァア!!!』

 

「!!」

 

 ほむらはその隙を逃さなかった。飛ばされたまどかを幾多ものの黒い腕のようなもので捕まえて、なんと彼女をその身の中へと取り込んでしまう。

 その行為が終わったと思いきや、いきなりほむらは天に向かって咆哮した。

 

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!』

 

 そして間髪入れずにさやかとマミに向かって、大量の魔弾を落とした。

 

「うわああああぁ!!」

 

「きゃああああぁ!!」

 

 全ての魔弾を撃ち終えた後、辺りには瓦礫の山しか残っていなかった。

 

 

 

 

 ほむらちゃんに取り込まれてしまっていても、どうしてか意識はハッキリと残っていた。

 取り込まれた後もわたしを掴んでいる無数の手は、ぐッと引っ張り続けてまるで何処かへ連れていかれているような感じがする。

 

 そうしたら急に黒い手たちは、わたしを引っ張るのを止めて身体から離れていき、消えていった。

 自由になったわたしは取り敢えずこの真っ暗な空間を歩くことにした。

 

「ここは、何処なんだろう……?」

 

 不安はありはしたけども、わたしはひたすら前へと進んでいく。

 すると前の方に誰かがうずくまっているのが見えた。顔は見えないけれど、その姿を見た瞬間にすぐに誰なのか確信できた。

 

「ほむらちゃん!!」

 

 走り出してほむらちゃんのいる場所へと目指そうとする。だけど、あと少しで辿り着けそうになった時にわたしの下にあった床がいきなり消えてしまう。

 

「きゃあああああぁ!!」

 

 悲鳴をあげながら下へ下へと落ちていく。

 どれだけ落ち続けたのだろうか、真っ暗闇だった景色が突然明るくなったと思った途端にわたしの身体に衝撃が加わった。

 

「うぐっ!!」

 

 物凄い高さから落ちたにも関わらず、どうしてか傷一つなかった。

 けれど、そんなことは顔を上げたときに目の前に広がる景色を見た瞬間にすぐに消え去ってしまった。

 

「なに、これ……」

 

 わたしの眼前に広がっていたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎に包まれている見滝原の街だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ to be continued…… ★

 





☆次回予告★


__わたしは知らなかった。ほむらちゃんがこれまで、どんなことをしていたのか……

__どうしてそこまでわたしのことを気にかけてくれるのか? その真の理由を分からなかった……

__だけど、わたしは遂に知ってしまった。崩壊してゆく街を背景に……

__彼女から『真実』を聞かされる……


第23話 Pを取り戻せ ~ 『全て』を知ったとき


「ごめんね……ほむらちゃん……」

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