※まどかの「ほむらちゃん」と呼んでいる回数を数えてみると第15話時点で250回を越えていた(笑)
カウントは、台詞だけではなくまどか視点からの「ほむらちゃ」も含めるので台詞だけだと少しは減るかも……?
第16話 Fを乗り越えろ ~ 思惑外れ
次の日の昼休み、私は昨日の答えを聞くためにさやかの所へ行こうとした。
彼女は仁美と何か話していて手が離せなさそうな様子だったが、用件だけは伝えとこうと近づく。
「さやか、ちょっといいかしら? 昨日の件なのだけど……」
「ごめん、ほむら。今、仁美の調子があんまり良くないみたいで、これから保健室に連れていかなくちゃいけないんだ」
保険委員であるまどかは昼休みに入るや、先生に呼び出されてしまっていてここにはいない。
本当は話をしたいところだったけど、今は仁美の方が大事ね。
「それならまた後で。仁美、無理はし過ぎないでね」
「はい……心配かけてすみません……」
「謝ることはないわ、それより早くさやかに連れてってもらいなさい。何なら私も手伝いましょうか?」
「ノープログレム! 仁美のことはさやかちゃんに任せておきなさいて、あんたはそこで愛しのまどかを待っててやんなさい」
「はいはい。それじゃ仁美、お大事に」
「では……失礼しますわ」
見たところかなり疲れているようね。彼女も彼女で大変そう……誰にだって辛いときはあるのよね、例え魔法少女じゃないとしても…………
☆
放課後、私はさやかと共に屋上へと向かった。関係のない人にこの話を聞かれるのは最もで、何よりも今からする話は魔法少女である者にも迂闊には話せないこと、場所は選ばなくてはならない。
「それで……答えは決まったのかしら?」
「うん。あれから考えたけど、あたしは魔法少女になるよ。これ以上まどかやほむら、そしてマミさんばっかりに負担はかけたくないからね」
「止める権利はないけれど、自分だけ私達と違って何も出来ないと引け目を感じているのなら成るべきではないと思ってるわ。それにあなたは魔法少女になることの本当の恐ろしさを知らない」
「本当の恐ろしさ……?」
「えぇ、あなたにも教えてあげる。キュゥベえと契約して背負う代償というものを……」
私は話した。キュゥベえとの契約の裏を……そしてそれによって魔法少女となった者に何をもたらされるのかを……
「そ、その石っころが魔法少女の本体でそれが砕かれたら死ぬ……?!!」
「加えて肉体とソウルジェムの距離が100メートルより離れてしまうと、意識のリンクが切れて生命活動を完全に停止してしまう」
予想通りさやかは大きく取り乱していた。魔法少女でなくてもこれほどのショックを受けるのだ、仮に巴さんがこれを聞いたとしたらその衝撃は計り知れないに違いない。
昨日のまどかと同じようにさやかは私に掴みかかって、身体を震わせながら訴えた。
「何で……何でもっと早く言わなかったんだよ!!」
「…………」
「答えろよ!! ほむらもキュゥベえもどうしてそんな大事なこと隠していたんだよ!!」
「どうしてですって……?」
気持ちは痛いほど理解できる。けれどもその思いとは別に沸き上がっている思いがあった。
私は目の前の少女の胸ぐらを引っ張り、彼女の身体を壁と一緒にその思いをぶつけた。
「あなたには分かる? この身体がどれだけの重症を負おうとも死ぬことはなく生き続けていることの恐ろしさを……
自分がこんな気持ちの悪い存在であることが周りの人間に知られて、拒絶されてしまうかもしれないと怯えながら生きていたこの思いを……」
幾つもの時間軸でさやかは、バケモノ同然となってしまった身体に絶望して魔女となった。だけども同じ思いをしているのは彼女だけではない。私にもその気持ちはあった。
巴さんや杏子みたいに既に魔法少女である人にこのことを明かすのは、特に問題ではない。しかしこれがまどかであったら……もしこれまでの時間軸とは違い、私を拒絶して離れていってしまったら……
今回の世界でもそうだった。どんな存在になろうともまどかを守る、その信念を捨てるわけではないけれどもそれでも怖いものは怖い。
このことは決してまどかには言ってはいけない。でないとまた彼女を傷つけてしまうから……
「ごめん……あたし自分のことばかり考えていた。あんたの気持ちなんて全然だったよ……」
「…………」
「後悔なんてあるわけないって大それたこと自分の中で思っていたけど……さっきみたいに魔法少女になるって簡単に言えないや。
ズルいよね、あたし……ほむらの話を聞いて自分の決心が凄く揺らいでる……」
「何も悪いことじゃないわ、魂を犠牲にするなんて誰にでも出来るわけじゃない」
「やっぱりもう少しだけ考えさせてもらっていいかな? 色々と頭ん中グチャグチャで正直、訳分かんないんだ」
「今度こそよく考えて行動してね」
もう彼女が軽々しい覚悟で魔法少女になることは無くなった。これで更に契約せずに普通の人生を歩んでもらえるのならベストだけど……もうそこまで高望みはしないわ。
「分かった…………ところでさ、この話ってマミさんは知ってるの?」
「いいえ。彼女には何も伝えていない」
「そうだよね……マミさんには内緒でいた方がいいもんね」
「ところで彼女は今日学校に来ているのかしら?」
「昼休み確認しにいったけど、来ていなかったよ」
「そう、ならくれぐれも彼女と話す際にはバレないように気を付けてね」
「肝に命じておk__ガタッ」
「「?!!」」
突然、物音が聞こえて私達は咄嗟に大きく後ろに下がって、音のした方に視線を向ける。
うっすらとだけど、ドアの隙間から誰かがこちらを見ているのは分かった。その隙間は風に吹かれてゆっくりと開いていき、会話を盗み聞きしていた人物が徐々に明らかになっていく。そこにいたのは……
「「巴さん(マミさん)!!」」
今日学校には来ていないはずの巴さんがいた。
昼休みまで学校に来ていなかった彼女が何故ここに?! その疑問が頭の中を巡回してパニックになりそうになるが、心を落ち着かせていつも通りの声音で問いかける。
「いつから聞いていたのかしら?」
「『マミさんには内緒でいた方がいい』って辺りからよ……」
「そう……」
良かった、とりあえずソウルジェムの秘密は彼女には知られていないようだ。けど、まだ全然安心できないボロを出さないように慎重に言葉を選んでいると今度は彼女の方から私達に問いかけた。
「それで……私に内緒で何を話していたのかしら?」
「…………」
「えぇっとですね、マミさんこれは……」
「美樹さんは黙ってて!!」
いきなりの大声に思わず飛び上がってしまう。今の巴さんはまさに一触即発、細心の注意を払わなければならない。でないと…………
『ソウルジェムが魔女を生むのなら、皆死ぬしかないじゃない!!』
『あなたも……私も!!』
「さやかが魔法少女になると言ったから、そのことについて話していたのよ」
「へぇ……なら何故それを私に秘密にする必要があるのかしら?」
「それは…………」
相手を言いくるめられる程の上手い言い訳が思い付かない……こうしている内にも巴さんの私達に対する不信感は増大していく。
そう悩んでいると隣にいたさやかが一歩前に出て、訳を説明した。
「あたしが魔法少女になりたいと思ったのは、少しでもほむら達やマミさんの負担を減らしたかったからです。
でもマミさんがこのことを知ったら、自分が戦えなくなったせいであたしが契約してしまう。自分のせいであたしを危険な戦いに巻き込ませてしまったと負い目を感じて欲しくなかったからです」
「美樹さん……」
彼女に伝えている内容は全て事実だ。けど、その裏に潜む別の理由を悟られないように上手く言葉を選んでいる。
インキュベーターと同じ手口で巴さんを騙すのは何だか癪だけど、さやかながらナイスな答えだった。
でもその答えに対する巴さんの反応は私が考えていたものとは全く違った。
「大切な後輩に迷惑をかけるだけじゃ足りず、魔女との危険な戦いに身を投じさせるようなことをさせて…………私、バカみたい……」ポロポロ
「いや……別にあたしは……」
「ごめんなさい、美樹さん……ごめんなさいッ!!」
「マミさん!!」
巴さんは最後まで話を聞かずにそのまま階段を勢いよく降りていってしまった。さやかは慌てて後を追いかけようとしたが、彼女の手を掴んでそれを止める。
「彼女のことは私に任せて、私も彼女と同じくらい魔法少女を続けているからきっとその方が相談に乗ってくれやすいとおもうから……」
「でも……」
「あなたは今のあなたに出来ることをしなさい。それとさっきも言ったけど、魔法少女になるのなら真剣に考えて。例え、魂を賭けてまで戦う覚悟が無かったとしても私もまどかも決して咎めたりしない」
「マミさんを……頼んだよ……」
「必ず連れ戻してみせる」
さやかに強く頷いて、急いで走り去る巴さんを追いかけた。
★
さやかとほむらが魔法少女のシステムについて屋上で話している間、まどかは昼休みから休んでいる仁美の容態を見に保健室へと向かっていた。
「さやかちゃん、大丈夫かなぁ……」
確かに仁美のことは心配していたが、さやかがソウルジェムの秘密を知ったとき自分と同じようにショックを受けてしまうことの方が大きかった。
それに彼女はあまり隠し事が苦手なタイプであることも知っている。果たして彼女がマミにこのことをずっと隠し続けられるのか、それも不安だった。
そうして歩いている内に目的の場所、保健室に到着する。
ドアを開けて部屋の中へ入ろうとしたとき、ドアが反対側から開けられて目の前に人が現れた。
「ふぇっ?!」
「…………?」
いきなり過ぎて、真っ白になってその場から身動きが取れなくなっているまどか。一方で保健室から出ていこうとした人__少女は全く動こうとしないまどかを不思議そうに見ていた。
(み、見かけない人だなぁ……もしかして三年生かな?)
「おい」
「ひゃあっ?!!」
少女のことをじーっと眺めていると、彼女から声をかけられてまどかは思わずヘンテコな声を出してしまう。その反応を見て少女は困ったように頬をかいた。
「いや……そんなに怯えることはないじゃないか……」
「ご、ごめんなさい!!」
「あ~、謝んなくてもいいからさ……ちょっと通してくれない?」
「すみません……」
横にずれたとき、まどかは少女とバッチリと目が合う。その瞬間、二人の目が同時に見開かれる。
(何だろう……この人、凄く嫌な感じがする……)
「その顔……まさか…………」
通り道を作ったのに今度は少女の方が動きを止めてしまう。まどかはその目を見て、獰猛な獣と真正面で対面したような気分を味わっていた。
しばらくの間、少女はまどかを見つめていたが視線を彼女から外したと思いきや、足早とその場を立ち去っていった。
「今の人……何だったんだろう……」
一人呟くまどかの手は汗でびっしょりと濡れていた。
☆
謎の少女との邂逅の後、保健室に入って仁美の様子を確認しようとしたが、既に学校を早退したようだった。
やることが無くなって手持ちぶさたになったまどかは、屋上へ行ってほむら達と会うために保健室から出て、階段を上ろうとする。
だが、上の階から走って降りてくる人とぶつかってまどかは転んでしまう。
「痛たた……」
「ごめんなさい! 私、急いでて……」
「大丈夫です……軽く腰を打っただけなので…………って、マミさん?!!」
ぶつけた箇所を擦りながら起き上がろうとすると、ぶつかった人物__マミと顔を会わせた。
「鹿目さん……」
「良かった。マミさん学校に来れるようになったんですね」
精神的にしっかりと回復したものと思い、安心するがすぐにマミの様子がおかしいことに気づく。
彼女に近づこうと一歩前に進むが、それと同時に相手も一歩後退する。
「どうしたんですか」
「前にあなたは誰かの為に頑張って戦っている私のことを憧れているって言ってくれたわよね?」
「えっ? はい……」
「じゃあ今の私はどう?」
「??」
唐突な質問にまどかは困惑する。しかしマミはまどかの反応を無視して話し続けた。
「鹿目さんと暁美さんの連携の邪魔ばかりして、戦いの集中の妨げになるようなことをやって……正直に言ってあなた達は私を必要としていないんでしょう?」
「そんな……そんなことないです! マミさんは強くて、格好よくて、勇ましくい憧れの先輩ですよ!」
「その私は今どこにいるのかしら」
冷たく言い放つ言葉にまどかは地雷を踏んでしまったと激しく後悔する。
「だ、大丈夫ですよ。それにわたし達もマミさんに迷惑をかけちゃったりしたこともありましたし、お互い様ですって……」
「…………」
彼女にばかり非があるわけではないことを必死に説明するけれど、返された答えは想像もしていないものだった。
「もし今の私が本当にそういう理由で戦いをしないでいるのなら良かったのに……」
「それってどういう……」
これまで一定の距離を保って会話をしていだが、急に彼女の方からまどかに近づいて、ぎゅっと自分の手を握らせた。その手は震えていた。
「本当はね……あの魔女との戦いからずっと怖かったの……迷惑だからとか、足を引っ張るなんて言っていたのはこのことを隠すための嘘」
「どうしてそんなこと……」
「だって幻滅するでしょ? 鹿目さん達は命がけで魔女と戦っているのに、私はただ戦うことを止めて部屋の隅で怯えているんたもの……」
「…………」
「情けないっていうのは分かってる。でも、もうどうすればいいのか分からないの!!
戦いに加わっても足がすくんでまともに戦えないし、かといって怯えて戦いから逃げても皆への罪悪感が胸に刺さる……」
「マミさん……」
「だからもうこの問題をハッキリさせたくて、鹿目さん達に話をしに来たの」
目尻に溜まっている涙をグッと拭って、キッパリと言った。
「もう私は魔法少女として戦えない。だから鹿目さん、この街のことは頼むわ……」
「さよなら……」
言い終えた後、マミは身体を翻して走り去ってしまった。
☆
遠退いていくマミさんの背中をただ見ていることしか出来なかった。そんなとき横からわたしに声をかけてきた者がいた。
「マミを追わなくていいのかい?」
「キュゥベえ……」
昨日、ほむらちゃんが話した件もあって彼が現れたことを快く思わなかった。わたしの態度を見てかキュゥベえはため息混じりの声で話しかけてきた。
「やれやれ……あれほど彼女に説得するのは止めておいた方がいいって言ったのに僕の忠告を聞いてくれなかったんだね」
「マミさんを騙し続けているあなたの言葉なんてもう信用できないからね」
「騙すとは人聞きの悪い、僕は彼女に魔法少女について聞かれたことは全て答えていた。ソウルジェムについては話さなかったのはただ単にマミがそれについて質問しなかったからさ」
「何それ……まるでマミさんが悪いみたいな言い方で……」
自分には決して非がないと主張し続けるキュゥベえに段々と苛立ちを覚えはじめる。マミさんは家族同然のようにあなたと接していたのに……
「事実じゃないか、そもそも一を聞いて十が返ってくるというその考え事態が僕には不思議でならないよ。君達だって物事を説明するとき全てを話すわけじゃないないよね、それと一緒だよ」
「でもあなたは重要な部分を説明はしなかった。魂をソウルジェムに変えられるなんて……そんなの普通なら耐えられないよ!」
「そうかな。僕が契約してきた少女の中には特に気にしないでいた子もいたけどね。それに暁美ほむらだってこの肉体はどれだけ傷ついても死ぬことはないから便利だって言っていたじゃないか」
「言葉ではそう言っていても!! わたしには分かる……本当に気にしてなんかいなかったらあの日、出会って魔法少女について話しているときに説明してくれたはずだよ」
「どうしてそう言い切れるんだい? 彼女から実際に話を聞いたわけではなさそうだけど」
「昨日の話でわたしは魂の抜かれた魔法少女のことをゾンビと一緒だって言いかけた。その時のほむらちゃんの顔、とっても辛そうだった。
きっと怖かったんだと思う、あんな身体にされてそれを知ったわたしやさやかちゃんがまた離れていっちゃうんじゃないかって……」
「あくまで君の推測だろう? 第一、君達がどうしてそんなに魂の有り所に拘るのかすらも分からない」
ただ呆れた様子を見せるキュゥベえを見て、ようやくわたしはほむらちゃんが彼のことをそこまで毛嫌いする理由が分かった。
彼はわたし達、人間とは全く違った感性を持って生きている。故に人間が抱いている恐れや葛藤を理解することがないのだ。
だからわたしは冷ややかな目付きで彼を睨み付けて小さく囁いた。
「あなたには一生理解できないよ」
「確かに感情のない僕達とはいつまで経っても分かり合うことは出来ないだろう。それにしてもまどか、君にそんな表情を見せるなんて正直言って驚いたよ」
「感情は無くても驚くことは出来るんだね」
今しがた言った台詞の揚げ足を取ってやる。それと同時にわたしは今まで彼に相当下に見られていたことに気づいて更なる怒りを感じる。
「そうその反応だよ。初めて君を見たときには考えられないくらい精神的に成長している」
「初めて見たときのわたしはどんな感じだったの?」
「気弱でおどおどして自分にあまり自信の持つことが出来ない平凡な少女さ」
何一つ間違いのない答えに思わず笑みが溢れる。キュゥベえはわたしのことをじっと見つめながら話を続けた。
「それが今は僕が魔法少女についての情報を故意に隠していたのにも関わらず、感情をそのまま表に出さずに強気な態度を保っている。一体何が君をこの短期間の間に変化させたんだい?」
「そんなの答えるまでもないでしょ?」
「やはり暁美ほむらか……」
「ほむらちゃんはきっとまだわたしの知らない辛い真実を幾つも知っているはず……だけど全部をわたしに話してくれない。それがどうしてなのかずっと考えていた。
それはまだわたしが弱いから、真実を知って傷つくわたしの姿を見たくないから、ほむらちゃんはそのことを隠し続けている。
だからわたしは決めたの。それなら……胸を張ってほむらちゃんの隣に居続けられるような強い人間になるって、今度はわたしが彼女を支えてあげるってことを」
「…………」
あれからほむらちゃんが帰った後、わたしなりに考えた答えを全て話した。キュゥベえは静かに口を挟まずにただ聞いていた。
「まさか君『も』障害になるなんて思ってもいなかったよ、鹿目まどか。ここまで僕の予想を裏切ってくれるなんて……思惑外れもいいところだよ」
「わたし達は絶対にあなたの思い通りなんかに動かない。それだけは覚えておいて
「どうかな、君達人間の決意は想像よりも遥かに脆い。でも君がどうやって抗うのかはほんの少しだけど興味を抱いたよ」
わたしの宣戦布告に対してキュゥベえも強きに応じる。そして彼の目からは、もう容赦はしないといった決意が見られた。
「どう足掻いても魔法少女の末路は絶望さ。それは君と暁美ほむらの場合も変わらない」
そして最後に捨て台詞を残してキュゥベえは立ち去っていった。
それから数秒も経たない内に息を切らした状態で走っていたほむらちゃんと合流した。キュゥベえが歩いていった方と同じ方角からやって来たけど、どうやら入れ違ったみたいだった。
「ま、まどか……巴さんを見なかった、かしら?」
「マミさんならさっき会ったけど、何処かへ行っちゃったよ。どうかしたの?」
「さやかとの話を聞かれてしまった……」
「えっ?!!」
心臓がドキンと跳ね上がる。もしかしてその話を聞いてしまったせいでさっきはあんなに取り乱していたのかも……そう焦ったけど、すぐにほむらちゃんは詳しく話してくれた。
「大丈夫、ソウルジェムの秘密はバレていない。ただ彼女にその件を隠すように念押ししていたのを聞かれたの」
「そっか……さやかちゃんは?」
「巴さんのことは引き受けるから契約について慎重になりなさいって警告しておいたわ」
「出来れば契約しないで欲しいね……」
「そうね……」
さやかちゃんは大切な友達だ。彼女は危険を省みずに正義感のまま動いてしまう危なっかしいところがある、だから事情を説明したからといって必ずしも契約しないとは限らない。無理矢理にでも止めさせるべきなのかもしれない……
「でも最終的にはさやか自身の意思で決めるのだから、例え契約してしまったとしても私達はしっかりと彼女を迎えなくてはならないわ」
声には出していないはずなのに、ほむらちゃんはわたしの考えに答えてくれた。ちょっぴり嬉しい気持ちになるけど、今はそんなことを思っている場合じゃないと余計なものを振り払う。
「それよりも早くマミさんを追いかけないと!! さっきわたしに『私はもう戦えない』ってかなり自分を追い込んでいたから……」
「それはマズいわね……急いで彼女を探しましょう。早くしないと大変なことになってしまうかも」
ほむらちゃんが今どんなことを考えているのか、わたしには分からない。だけどもマミさんを助けたいという意思は同じはずだ。わたしはほむらちゃんの手を握って学校の外へと走り出した。
「急ごう、ほむらちゃん!!」
「ええ!!」
★
???「準備の方は全て整った……後は、最高の舞台を完成させなくちゃいけないわね」
??「それで私は舞台係兼、役者ってわけか……めんどくさいなー」
???「何言ってるのよ、準備のほとんどは全部あの子がやってくれたのだからあなたもしっかりと働きなさい」
??「へいへーい、監督サマ。んでさ、舞台はいいけど肝心の観客はどうしたらいい?」
???「そこはあなたに任せるわ。ゲストさえ連れてこられるなら幾らでも構わない」
??「こうして後は勝手に役者が寄ってくるってわけね」
???「そういうことよ」
??「で、そのゲストの名前って何て言ったっけ?」
???「あなたも一度は聞いたことあるはずよ。彼女はこちらの世界ではかなり名が知れているからね」
「見滝原の魔法少女、巴マミの名は……」
★
魂を差し出してでも叶えたい願いってなんだろう? あたしはアイツの言葉を聞いてずっと考えていた。
考えに考えたけど、答えは見つからずにいた。でもそれは案外簡単に見つかってしまった。
難しく考える必要なんか無かったんだ。命を賭けてまで叶える願いなんて。
だからあたしはもう迷わない、後悔なんかしない。大切な人達を護れる為なら、魂なんて安っぽい。
「もう演奏は諦めろってさ、先生から言われたよ。今の医学じゃ無理だって……僕の手はもう二度と治らない。奇跡か魔法でもない限り治らない」
「あるよ」
「えっ?」
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
☆ to be continued…… ★
※ちなみにここまでで262回、「ほむらちゃん」って呼び過ぎだろって流石に思った。多分2章終わる頃には400くらいいくんじゃないだろうか(笑)
☆次回予告★
「あの廃墟に魔女が……」
「ここよりもずっと素晴らしい場所ですわ」
『相棒でいられるなんて本気で考えていたのかしら?』
「みんな一緒逝くのなら、何も怖くないわ……」
「ごめん、まどか……」
「終演だ。暁美ほむら」
第17話 Bをもう一度 ~ 狂宴の幕開け
「絶対に許さない!!!!!」
※これで決まりだ。