(旧)マギカクロニクル   作:サキナデッタ

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※久し振りの投稿です。
 文字数を少なくしていこうという方針でしたが、多分もう無理ですわ。寧ろ増えていく可能性が大…… (^^;

追記~サブタイ変えました。なんかミスマッチだった気がしたんで……すみません。


第15話 Fを乗り越えろ ~ 一抹の不安

 

 第15話 F(fear)を乗り越えろ ~ 一抹の不安

 

 

 

「いっけぇ!!」バシュッ

 

『魔女の動きが止まった。チャンスよ、まどか!!』

 

「分かった! 今度こそ逃がさないんだからッ!!」

 

 俊敏な動きで二人を翻弄していた魔女だったが、まどかの攻撃を受けて怯む。その隙を逃さず、弓を目一杯引いて狙いを定める。

 

 

 

「これで決めるよ!」

 

「『フィニトラ・フレティア!!!』」

 

 

 

『アアアァァァァァ!!!』

 

 放たれた矢に貫かれて、魔女は断末魔をあげながら消滅していった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『大丈夫?』

 

「ううん……ちょっとキツい……かな?」

 

 ほむらの指輪を外して変身を解く。それからまどかはへたりと地面に座り込んだ。

 そこへ遠くでほむらの身体を守っていたさやかがやってくる。

 

「まどか!」

 

「さやかちゃん」

 

「ようやくあの魔女を仕留められたね。お疲れ様」

 

「えへへ、疲れたよぉ……」

 

 にへらと笑みを見せながら、近くで意識を失っているほむらの身体に指輪を返す。

 

「ん…………」

 

「ほむらちゃん、やったね」

 

「えぇ……かなり手強い魔女だったわ」

 

「二人がここまで苦戦するなんて、今まで無かったもんね」

 

 さやかの言葉にほむらは力強く頷く。

 

 この魔女とは過去に何度も戦ってきたが、経験上そこまで強いわけではなく、寧ろ弱い部類に入る魔女だった。それが今回のループのみ急激に力をつけた。ほむらはそのことに疑問を抱く。

 

(それにあの魔女……他の奴等とは行動も全然違った。まるで明確な意思を持っているように……)

 

 これまでとは全く違う現象に不安を覚えるほむら。原因を思索していたが、さやかの発言がそれを遮らせた。

 

 

 

「マミさんがいてくれれば……」

 

 

 

「さやかちゃん、それは……」

 

 まどかが暗い表情をして首を横に振る。なぜこの場にマミが居ないのか、時は数日前を遡る…………

 

 

 

 

 

 

「マミさん、お願いします!」

 

「オッケー、鹿目さん達は後ろに回り込んで魔女を攻撃して!!」

 

「はい!!」

 

 まどかとほむら、そしてマミの三人は魔女と交戦をしていた。

 まどか達は場所を転々と移動して魔女本体に攻撃して、マミは彼女達のサポートに回り、使い魔を相手をする。

 

『ティロ・ボレー!!』

 

 マスケット銃を複数召喚して、使い魔へ向けて撃つ。マミの射撃は全ての使い魔に命中して一匹たりとも逃さなかった。そこへ更にまどか達が魔女に攻撃を仕掛ける。

 

 戦局は圧倒的にまどか達に有利だった。だが突如、魔女は何の予兆も見せずに高速で動きだして使い魔を倒しきって油断しているマミへと迫った。

 

「しまっ…………」

 

 咄嗟に対応しようとするも、もう遅く攻撃をくらったマミの身体は吹き飛ばされて壁へ打ち付けられた。身動きをとれない状況になっているマミに魔女が追い討ちを加えようとする。

 

『マズイ、魔女をこちらへ引き付けて!!』

 

「うん!!」

 

 注意をマミから離すために攻撃をして、気を引かせようとするが魔女は矢が当たったにも関わらず標的をマミに絞っていた。

 

『オオオオオオ!!』

 

「あぐっ……! うっ……」ガクッ

 

 魔女の追い討ちはマミに更なるダメージを負わせて気絶させてしまう。

 

「そんな……マミさん!!」

 

 慌てて彼女の元へと駆けつけようとするが、いきなり辺りの景色が歪み始める。そして気がつけばまどか達は現実世界にいて結界の外へ出されていた。

 

「何何何?! 一体何が起きたの?!!」

 

「わたし達、助かったの?」

 

 ほむらの身体を抱えたままのさやかは不思議そうに周囲を見渡す。

 まどかも不可思議な現象に戸惑ってはいたが、とりあえず脅威が過ぎ去ったことに安堵し、変身を解く。

 

「どうやら魔女は逃げたようね」

 

「でもあっちの方が全然有利だったのになんで逃げたんだろ?」

 

「それは私にも分からないわ。一先ず巴さんを起こしましょうか」

 

「そだね」

 

 意識を失って横になっているマミをなるべく刺激を与えないようにそっと身体を揺する。

 

「マミさん、起きてください」

 

「ぅん…………あれ? 私は確か……」

 

「魔女は逃げたわ。もう大丈夫なはずよ」

 

 目を覚ますマミ。ほむらの言葉にホッと息を吐くが、すぐに表情が暗くなる。

 

「暁美さん、ごめんなさい。私……怖くて身動き出来なかった……」

 

「あんなことがあった後だもの仕方がないわ」

 

「でも私のせいで二人を危険な目に遭わせてしまったし……」

 

「わたしは気にしてませんよ! あれくらいのダメージ、どうってことないです!」

 

 あまりマミに気負わせないようにまどかは明るく振る舞う。けれどもその努力は意味を成さなかった。

 マミは黙って立ち上がり、まどか達に背を向けて何処かへと歩き出そうとした。そんな彼女の手をほむらが掴む。

 

「待ちなさい。何処へいくつもりなの」

 

「ごめんなさい……今の私は足手まといでしかならないわ。一緒にいてはもっと迷惑をかけてしまう……だからしばらく一人にしてくれないかしら?」

 

「些細なミスじゃない、それくらいのことで私もまどかもあなたを責めたりなんかしないわ」

 

「そうですよ。だからそんなに自分を卑下しないでください!」

 

「魔女との戦いはその些細なミスで命を落とすことになる。この前の私がいい例じゃない」

 

「「「!!!」」」

 

 三人は先日あったお菓子の魔女との戦いを思い出す。あの戦いでマミは一度、魔女に殺されている。

 まどかとさやかはその殺された光景を思い出して、ほむらは魔法少女として契約させないためにわざとその状況を作り出したことへの罪悪感から口を閉ざしたままでいてしまう。

 

「皆……本当にごめんなさい」

 

 泣きそうな表情でそう謝って、マミは逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

「マミさん、あれから学校にも来てないんだもんね……」

 

「「…………」」

 

 巴さんがあんな風になってしまったのは、全て私のせいだ。その気になれば、魔女に殺される前に救うことだって出来たはずだ。なのに私がした行動は、ソウルジェムと肉体のリンク圏内から外れないように一定の距離を保ちながら巴さんが魔女に殺される瞬間を見ていただけ……

 

 過去の行動に激しく後悔しているとまどかがそっと私の背中を撫でてくれた。

 

「ほむらちゃんは悪くないよ。あの状況だったらあれが一番だったとわたしは思ってるから」

 

「ありがとうね、慰めてくれて……」

 

「だって本当のことだもん」

 

 まどかは私とインキュベーターとの会話を聞いていたんだっけ。本来だったら責められてもおかしくないのに、この子は本当に優しいわね。

 

「それよりもこれからのことを考えようよ」

 

「これからのこと?」

 

 さやかが首を傾げる。彼女は実際に戦っていないからよく分かっていないけれど、あれだけの強力な魔女が出てきたのだ。今度もあれと同じくらいの強敵達と戦うのならある程度の方針を決めておかなければならないだろう。

 

「今回の魔女はこれまでとは強さのレベルが違っていた。巴さんが戦えない今、この町を守れるのは私とまどかしかいないからね」

 

「そっか……二人も戦えなくなっちゃったら魔女のやりたい放題になっちゃうんだもんね__そうだ!!」

 

 深刻な顔つきで話していると、さやかが何かを思い付いたのか大声をあげる。その様子を見て、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「どうしたのさやかちゃん?」

 

「あたしが魔法少女としてキュゥベえと契約をすれば、二人の負担を減らせるよ!!」

 

「それって……もしかして!」

 

「やっぱり……」

 

 予感が見事に的中してしまい、頭が痛くなる。さやかは正義感の強い少女だ、だからいくら言葉で警告をしても自分の心を欺けずに契約をしてしまう。その事態を避けるために巴さんには犠牲になってもらったのに……これじゃただ彼女のトラウマを作ってしまっただけじゃない。

 

 どうにかして契約をさせないと説得しようとするが、そこへタイミング悪くインキュベーターがやって来る。

 

「確かにこのまま二人に魔女と戦わせるのは得策とは言えないね」

 

「キュゥベえ!」

 

「何しに来たの?」

 

「そんな睨むことないじゃないか。僕はただ君に有益になることを伝えに来ただけさ」

 

「有益ね……」

 

 半目で奴を見つめる。コイツのことだ、そんなことを言っておいて結局はまどかとさやかに契約を迫るに違いない。さやかがいなかったら即刻、殺してやれるのに。

 

「まどかとほむら、二人で共に変身する魔法少女は確かに強力だ。けれど二人とも気づいているんじゃないかな、魔女との戦いで負ったダメージや疲れ、それらは全てまどかが受け持っているってことを」

 

「「?!!」」

 

 思いもよらない奴の推測に私達は驚きを見せる。さやかはよく分かっていないようだけど、まどかには心当たりがあるみたいだ。

 

「キュゥベえ、じゃあ変身を解除した後にほむらちゃんの傷が治ったりしたのも全部それのお蔭なの?」

 

「そうだね。お菓子の魔女を倒したとき君は背中の痛みを訴えただろう、あれはきっとほむらが魔女の攻撃を受けて壁に打ち付けられたときに負ったものだろうね」

 

「変身したら自動的に私の怪我や疲れがまどかへ移ってしまうってこと?! 何故もっと早く伝えなかったの!」

 

「おや、てっきり察しの良い君なら気づいていると思ったけどこれは予想外だ。それに伝えようにも確証が得られなかったからね、今日のまどかの様子を見てようやく確信に入ったんだ」

 

 一々、人の神経を逆撫でしてくる発言をするわね……感情云々にしても私には明確な敵意を持っている。まどかとの契約が絶望的になったからかしら?

 

 物陰で悔しそうに地団駄を踏むインキュベーターの姿を想像して愉快な気分になる。絶対にあり得ない光景だけどもそれでもこれまでいいように翻弄されていたからその分だけ爽快感が凄いわね。ざまあみろ。

 

「ほむら……あんた今、とんでもないくらい邪悪な顔してるよ」

 

「えっ? あっ……」

 

「深くは聞かないけど、絶対にまどかには見せるなよ。それ」

 

「ほむらちゃんがどうかしたの?」

 

「な、なんでもないわ。まどか」

 

 どんな顔をしていたのか気になるけどさやかのヒき方をみるとかなりやばかったみたい……気を付けなくちゃ。

 

「話を戻すけど、このまま戦い続けていたら魔女との戦いの負担は全てまどかが請け負ってしまう。それも考えるのだとしたら、さやかにも戦ってもらった方が君たちにとっても有利になると思うよ」

 

「そっか……それならあたし__「待ってさやか!!」」

 

 その場の流れで契約してしまうのを防ごうと間に割って止める。

 

「一度契約してしまったらあなたはこれからずっといつ死ぬにか分からない過酷な運命を背負ってしまうのよ。安易に魔法少女になるなんて言わないで」

 

「ほむら……」

 

「さやかを気遣うのはいいけれども、それじゃ君は大切な相棒(パートナー)であるまどかを犠牲にするつもりかい?」

 

「誰がそんなこと言ったかしら、私一人だって変身して魔女と戦いことは可能よ。まどかが身体を休めている間に私が代わりに一人で戦えば、何の問題もないわ」

 

「そんなの駄目だよ!!」

 

 私の出した提案にまどかが強く否定する。

 

「わたし達は相棒(パートナー)だよ? ほむらちゃん一人でそんな重荷を背負わせたくよ」

 

「でもそうじゃなければ、逆にそれを背負うのはあなたのよ。それでもいいの?!」

 

「構わないよ。それで皆を助けられるならどんな痛みだって耐えてみせるもん」

 

「自分を粗末に扱わないでって前も言ったでしょ! どうして分かってくれないの!!」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すよ!!」

 

「あ~、二人とも一旦落ち着けってば。なんであんたらが喧嘩するのさ」

 

「「だってほむらちゃん(まどか)が!!」」

 

「ただの喧嘩ならまだしも、お互いのこと考えて喧嘩ってホント訳わかんないよ……」

 

「それは僕も同意するよ」

 

 どうしてそんな目で見られなくちゃいけないのかしら? 心配して言っただけなのに……不本意極まりない。とりあえずまどかに謝らなくちゃね。

 

「はぁ……ごめんなさい。今のは私が強く言い過ぎたわ」

 

「ううん、わたしの方こそごめんね。でも一人ぼっちでいたら嫌だからね」

 

「今度から気をつけるわ」

 

「わたしもそうするから、もう喧嘩はやめよっか」

 

「そうね」

 

「似た者同士っていうか、変身しているせいで考えることまで一緒になってるんじゃないの?」

 

「だからその目を止めなさい。

 えっと……大分逸れてしまったけど、やっぱり巴さんに復帰してもらうことが一番だと思うのだけど」

 

「わたしもそれに賛成かな。さやかちゃんが契約しても最初の方はまだ戦い慣れていないから危険が一杯だと思うし……キュゥベえ、マミさんの調子はあれからどうなの?」

 

「あまり良いとは言えないね。今の彼女はとても心身ともにかなり弱っている、下手に刺激をしてしまったらかえって逆効果になってしまうから説得はあまりお勧めできないね」

 

「それってさ、キュゥベえでも無理なの? マミさんとはかなり長い付き合いだけど」

 

「それは厳しいよ。僕は君達と同じ人間でないから些細なところまで気を配ることは出来ないし、これは彼女の問題だ。僕には何も出来ない」

 

「そっか……」

 

「さやか、もし魔法少女になるのなら一言私に言ってくれないかしら? 本当はあなたを魔女との戦いに巻き込みたくはないのだけど、本当に覚悟があるのなら止めはしないわ」

 

 最初の内からこうして話し合えれば、これから彼女に起こる事態の相談もしやすくなるから、さやかの魔女化は避けられるかもしれない。契約阻止はやむを得ないけど、まどかがそうする可能性がほぼゼロとなっただけ十分なことだろう。

 

「分かった。じゃあこれから一晩じっくり考えてから伝えるよ」

 

「そんなこと言っておいてすぐに寝るつもりじゃないでしょうね」

 

「さやかちゃんだって真面目にやるときはやる子ですぅ~! あんまりバカにするんじゃないよ~だ」

 

「だからって授業中に寝るのもダメだからね」

 

「まどか、それはいつものことよ」

 

「そっか」

 

「お~ま~え~ら~!!」

 

「マミの方はともかく君達は特に問題はなさそうだね。じゃあさやか、決心がついたらいつでも僕を呼んでくれても構わないからね。それとまどか、君にも念のため伝えとくよ」

 

「ありがとう、キュゥベえ。気持ちだけ貰っておくよ」

 

 どうやら簡単にはアイツは諦めていないよね。それとまどか、アイツに感情はないから気持ちは一欠片も貰えないからね。

 

 インキュベーターはそう言い残して、暗闇の中へと消えていった。

 

「よしっ、今日はこれくらいで解散としましょうか!」

 

「そうね。さやか、しっかりと考えておくのよ」

 

「あたしはアンタのオカンかっつーの。それじゃまた明日ね~」

 

「バイバイ、さやかちゃん」

 

「また明日ね」

 

 手を振ってさやかと別れる。そして私もまどかと一緒に帰る家へと歩き始めた。

 

 

 

「ほむらちゃん、今日も送ってくれてありがとうね」

 

「全然気にしないでこんな時間までまどかを一人にさせておく方が危険だから」

 

「それはそうとほむらちゃん」

 

「何?」

 

「今日もウチでご飯食べていかない? 今日もパパ、張り切って作るって言っちゃって」

 

「迷惑にならないかしら……」

 

「大丈夫だよ。寧ろみんな大歓迎だよ!」

 

 この前、まどかの家へ遊びに行って以来、どうやら私は鹿目家の人達に大変好意を抱かれたようで、ここしばらく夕飯はすっかりお世話になっている。私としても少しでもまどかと一緒にいることが出来るから嬉しい限りよ。

 

「それに……ほむらちゃんに話したいことがあるから……」

 

「話したいこと?」

 

「ほむらちゃんの都合が良かったでいいんだけど、ダメかな?」

 

「そんなことないわ。お言葉に甘えてお邪魔させてもらうわ」

 

「お邪魔なんてそんなこと言わないでよ~。どうせならずっと居てくれてもいいのに」

 

「流石にそれは厳しいんじゃないかしら……」

 

「ティヒヒ、冗談だよ。半分だけね」

 

「残りの半分は?!」

 

「な・い・しょ♪」

 

 なんて何気ない話で盛り上がりながら歩いている内に、彼女の家に到着する。

 まどかの話したいことって一体何だろう。気になって家にあがる前に聞いてみると彼女は「後でね」と答えた。それから元気よく扉を開けた。

 

「たっだいま~!!」

 

「お邪魔します」

 

「お帰りまどか。それと暁美さんもいらっしゃい」

 

「ねーちゃ、ほむほむきたー」

 

 詢子さんはまだ帰ってきていないのね。それにしても話したいことって、一体何かしら?

 

 

 

 

 夕飯をご馳走になった後、私は詢子さんに車で送ってもらうことになった。詢子さんが準備している間、話があると切り出してきたまどかと共に彼女の部屋へと向かう。

 

「それで聞きたいことって何かしら?」

 

 まどかの顔が曇る。こんな時間にわざわざ直接話したいと言ってきたのだきっと深刻な話に違いない。何を聞かれてもいいように身構えた。

 

「あのね、前にキュゥベえとほむらちゃんの話を聞いてどうしても確認したかったことがあるの」

 

「それって?」

 

「ソウルジェムが魔法少女の本体って本当なの?」

 

「…………」

 

「答えて、ほむらちゃん」

 

「いいわ。あなたに教えてあげる、ソウルジェムの真実を」

 

 お菓子の魔女戦で私のとった行動の真意を知っていたのだ、いつかは聞かれると思っていた。

 自身のソウルジェムを取り出してまどかに見せる。それからゆっくりと口を開ける。

 

「魔法少女としてキュゥベえと契約するとき、奴は私達の魂を抜き取ってソウルジェムへと変える。そしてそれが破壊されてしまうと…………死ぬ」

 

「そんな……どうしてそんなこと……」

 

「奴曰く、そうすることが魔女と戦うときに一番好都合らしいわ。私のようにどれだけ傷を負って血を流しても、巴さんのように首をもがれようともソウルジェムさえ無事なら魔力がある限り何度でも復活できるから」

 

 衝撃の事実にまどかはポロポロと涙を流す。その姿を見て、今この場でソウルジェムの秘密を明かして正解だと思った。

 

「酷い……これじゃ、まるで…………」

 

「ゾンビ。そう言いたいのよね」

 

 口に出すのと同時に胸がキュッと締め付けられる感覚を味わう。もう慣れたつもりではいたけど、やっぱりそう簡単に割り切れることじゃない。

 

「これが私があなたに魔法少女になってはいけないと言った二つ目の理由よ。こんな狂ったシステムのせいでこの一生を人間ではなく、バケモノとして生きていくなんて残酷すぎるもの」

 

 そこまで話すとまどかはいきなり私の腕を掴んだ。その力は想像していたよりも遥かに強く、思わず顔を歪めてしまう。

 そして彼女は泣きじゃくりながらこう言った。

 

「バケモノなんかじゃないよ……こうして触れていると分かるもん。心臓も動いているし、温もりも感じる。

 ほむらちゃんは人間だよ。わたし達と同じ……だからそんな悲しい顔しないで、お願い……」

 

 この時間軸でどれだけ私はあなたの言葉に救われてきたのかしらね、今度ばかりは泣きそうになったわ。

 溢れ出そうとする感情を押さえ込みながら、まどかの震えている手をそっと両手で優しく包み込む。

 

「やっぱりあなたは優しいわね。でも正直、不安だった。

 仮にこのことを打ち明けたとして私のことを受け入れてもらえるのか、気味悪がられてまた避けられるんじゃないか怖かったの……」

 

「どんなことがあろうとわたしはほむらちゃんのことを拒んだりしないよ、相棒(パートナー)だもん」

 

「ふふっ、その言葉って本当に便利ね。あなたが気に入るのも無理ないかも」

 

「そうでしょ! 今度からほむらちゃんも使ってみてよ」

 

「考えておくね」

 

「うん!!」

 

 元気は取り戻したようね、これで一つ目の秘密は話すことが出来た。魔法少女が魔女になるということは、また近い内に話すとしましょうか。見た目は明るくなったかもしれないけど、心の底ではきっとショックを受けているに違いないから……一度に詰め込むにはあまりにも重すぎるもの。

 

「ほむらちゃん。このことさやかちゃんやマミさんには話しておかなくちゃいけないかな?」

 

 いつ魔女化のことを話そうかと考えていると、半分忘れかかっていたことをまどかに尋ねられた。

 

「さやかはともかくして巴さんは止めておいた方がいいわね。現時点でもかなり追い詰められているのに、そんな事実なんかそう簡単に受け入れられはしないから。

 それともし明日、さやかが魔法少女にならないと言ったらこのことは伏せておいて頂戴」

 

「どうして?」

 

「知らないでおいた方が幸せなことだってあるのよ。まどかは彼女の悲しむ顔は見たくないでしょ? それにこういう秘密は人が多ければ多いほど、他の人にも伝わりやすくなる。だからあなたもくれぐれも他言は禁物だからね」

 

「分かった。約束する」

 

 話がまとまり、一息ついたところでタイミングよく下の階から詢子さんの呼ぶ声が聞こえてくる。準備が整ったようだ。

 

「それじゃまどか、また明日ね」

 

「わたしも一緒に付いていくよ」

 

「あら構わないけど、明日は確か数学の宿題の提出日じゃなかったかしら?」

 

「えっ、嘘?!」

 

「本当よ。ここしばらく忙しかったからもしやと思ったけど、まだ終わっていないようね」

 

「うぅ~、もうちょっとほむらちゃんとお話ししたかったのに……」

 

「また明日会えるんだから、それよりも宿題を優先させなさい」

 

「はーい」

 

 しょんぼりとするまどかに私はそっと耳打ちをした。

 

「明日はいつもの集合場所じゃなくて、あなたの家の前で待っているから。そうしたら長くお喋り出来るでしょ? だから今日は我慢して」

 

「!! わたし頑張って宿題終わらせるね!」

 

 チョロ…………素直な子で良かった。

 説得を無事に成功させて、私は詢子さんが待っている玄関先まで向かっていった。

 

 不安材料はまだまだあるけれど、必ず皆を救ってみせる。だから今度こそ成功させて見せる。私とまどか、相棒(パートナー)の力で。

 

 

 

 

 

 

「マズイことになったね……」

 

「どうした?」

 

「鹿目まどかにソウルジェムの秘密がバレてしまった。これでもう彼女の方から契約することは無くなってしまった」

 

「私も彼女もそっちの方が好都合だけど、そんなものお前の言い回しでいくらでも対処できるだろ」

 

「自惚れている訳ではないけど、そうだね。でも僕としては効率は少しでも良い方がいい。だから君達側についたんじゃないか」

 

「どうだか、そんなこと言いながらどうせ私のエネルギーも狙ってるんだろ」

 

「否定はしないね」

 

「まっ、何だっていいさ。ターゲット以外はどうしても構わないんだっけ?」

 

「出来れば生き残らせて欲しいけど、彼女だけは確実に残しておいてくれよ。彼女の存在は今となっては鹿目まどかの希望そのものなんだから」

 

「手元を狂わせないように善処するさ」

 

「後は君達、三人に任せるよ」

 

「あいよっ」

 

 

☆ to be continued…… ★

 





※今回はちょっと話の構成を二転三転しました。重要なシーンがこれからもっと増えていくので、頑張っていきたいです。


☆次回予告★

第16話 Fを乗り越えろ ~ 思惑外れ これで決まりだ。

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