※まどかとほむらの前日談、今回でラストです。
※割りと書くのが大変でした(笑)
翌日、私は公園の噴水の前でジッと立っていた。
時刻は9時50分、昨日の夜にまどかと話し合って決めた今日の待ち合わせ場所だ。
集合時間は10時だったけども、念のために一時間前から今か今かと待っている。
早く来てくれないか、とソワソワしていると遠くの方からピンク色の髪をした少女が歩いてくる姿が見えた。その少女は私の姿が見えたのか、急に走り出してこちらへと向かってくる。
「ほむらちゃーん!」
「おはよう、まどか」
「おはよう、ほむらちゃん! 待ったかな?」
「いいえ、私もついさっき来たばかりよ。あなたも早いのね」
「うん、ほむらちゃんと一緒にお出かけするのが楽しみだったからね!」
予定よりも早く来てくれたことといい…健気で可愛い。
服も可愛らしいし、リボンもいつも以上にしっかりと結んでいるような気がする。本当に楽しみにしていてくれたようね。
「確かに格好を見ても、かなり張り切っているわね」
「そ、そうかな? ママにも同じこと言われたんだよ
そしたらママったら、誰かとデートにでも行くのかってからかってきてね……」
「デート……」
「あっ、ごめんね。変なこと言っちゃって」
「気にしないで、それよりもちょっと申し訳なく思って……」
「へ? どうして?」
「折角張り切ってくれたのに、私の格好があまりにもアレだから……」
「そんなことないよ、ほむらちゃんの服とっても可愛いよ!」
「あ、ありがとう……」
面と向かって誉められたことに恥ずかしく感じて顔が赤くなる。
その表情を見られたのかどうかは分からなかったが、まどかは嬉しそうに笑いながら私の袖を引っ張った。
「こうやって話すのもいいけど、そろそろ行こっか。
ほむらちゃんにはこの街の色んな場所を見てもらいたいからね」
「そうね。案内は任せるわ」
「はーい」
こうして私はまどかに連れられて見滝原の街を回り廻った。
紹介された場所は、どれも見慣れているところばかりであまり新鮮味を感じなかったけども、何処かいつもの景色と違って見えた。
☆
それから数時間後、私達はショッピングモールの中にあるCDショップに足を運んでいた。
「ここがCD屋さんだよ。学校の帰りとかたまに寄ったりするんだ」
「まどかはどんな曲が好きなの?」
「ええっ! それは…わたしあんまりそういうのに詳しくないんだ。ここは友達の付き添いで来ることが多いんだ」
その友達は十中八九、美樹さやかのことで間違いない。
それ以外にも私はまどかがどんな曲をよく聞いているのかも知っている。全部何度も時間を繰り返したことにより得た賜物だけども、残念ながらその知識を誰かに披露することはないだろう。
「どんな友達なのかしら?」
「さやかちゃんって子なんだけど、すっごく明るくて元気なわたしの親友なんだ!」
「音楽好きな子なんだ」
「ううん。実はそのさやかちゃん好きな男の子がいて、その人のためにここに来てるんだよ」
……こういう情報も既に知ってはいるけども、ここまでカミングアウトしちゃって大丈夫なのかしら?
まあ別に美樹さやかが弄られようとも特に私に問題があるわけでもないから、正直知ったことじゃないけども。
「よっぽどその男の子が好きなのね」
「そうだよ。たまにわたしがその話題を出すとさやかちゃんったら顔真っ赤になっちゃうんだよ。
ほむらちゃんは誰か好きな子とかっているの?」
「……いるわ」
「どんな人?」
「内緒、このことは誰にも言わないって決めているの」
私の好きな人…それは言わずもがな……
まどかの言う「好き」とは方向が少し違うけども、好きということには変わりはない。
「ちょっと気になるけど、あんまり詮索するのは良くないもんね」
「そういうまどかはどうなの? 気になる人とかは居たりする?」
「わたしは…まだそういうのはよく分からないから……でも、いつか本気で好きって想えるような人と出会えたらいいなー、って思っているよ」
「あなたのことだから、きっと素敵な人を見つけられると思うわ」
「えへへ…ありがとう」
「次はどこに行こっか? ほむらちゃん行きたいトコとかってある?」
「うーん……」
「えへっ、じゃあ歩きながら探そっか」
「そうね」
ショッピングモールの中をまどかと一緒に歩く。
こうやって普通の女の子として誰かと話すのは、いつぶりかしら?
まどかとお喋りを楽しみながら、そんな風に思っていると突然私のソウルジェムが発光し始めた。
「!!」
「ほむらちゃん…どうしたの……?」
顔つきが急に変わったことに気付いたまどかは不安そうな表情で聞いてくる。
魔女が現れたことを伝えようか一瞬だけ迷ったけども、しっかりとまどかに説明する。
「魔女の反応よ…かなり近くにいる」
「えっ?! こんな場所で?!」
「前も話したけど、魔女は人の負の感情から生まれてくる怪物。
ソイツらは病院やこういう人が多く集まる場所に現れて結界を作るの」
「でも…ここで結界なんか張られたら……」
「最悪、大勢の人達が巻き込まれる恐れがある……」
「早く魔女を見つけなくちゃ!」
そう答えるやいなや、まどかはいきなり走り出した。
「待って、まどか!!」
慌てて私は彼女の後を追おうとする。だけどその瞬間、まどかの姿が突然消えた。
それと同時に周りの景色も目まぐるしく変化していく。魔女の結界に取り込まれてしまったようね。
「結界の中に入ったわ、用心してまど__ッ?!!」
前にいるまどかに呼びかけよう顔を上げると、そこに彼女の姿は無かった。
「まどか?! どこにいるの、まどか!!」
血相を変えて彼女の名を呼ぶ。だけど聞こえてくるのは使い魔達の不気味な笑い声だけだった。
徐々に心の中に焦りが募ってくる…どうしよう、私がしっかりしていなかったせいで……
「キャアァァァァァ!!!」
自分の失態を激しく責めていると、何処からかまどかの悲鳴がした。
まさか、魔女に襲われて……
そう考えるや私は夢中になって声のした方向へと足を急がせた。
☆
まどかは突如目の前に現れた魔女に腰を抜かしていた。
現れたのは、髭の生えた綿のような怪物と、その中央で薔薇に囲まれながら静かに居座る魔女。
薔薇園の魔女。その性質は不信。
怯えながらゆっくりと後ずさりをするまどか。
『!!!』
「あっ……」
しかし魔女が彼女に気付いて、思わず目を合わせてしまった。
『ウオオオォォォ!!!』
「キャッ!!」
魔女が咆哮すると、それまで大人しかった使い魔たちが一斉にまどかの元へと行進し始める。
「そんな…いや……来ないでッ!!」
パァン!!
涙目になりながら叫んでいると、使い魔の内の一体が突然弾けた。
急な出来事にキョトンとするまどか。そんな彼女の目の前に魔法少女の姿になったほむらが舞い降りる。
「ほむらちゃん!!」
「話は後よ……」
今の実力ではこの魔女には勝てないと踏んだほむらは、変身を解いてソウルジェムをまどかに渡す。
まどかはそれを受け取って両手で優しく包み込む。そして若干声を震わせながらも大きな声で唱えた。
「へ、変身っ!!!」
その言葉と共にほむらが倒れ、まどかの姿が変化する。
昨日の特訓でその変化に慣れた二人はすぐさま魔女の方に視線を向ける。
『まどか、気をつけてね。今の私にはこうしてあなたに指示を出すことしか出来ないから』
「う、うん……」
『大丈夫よ、昨日の特訓をちゃんと思い出してやれば勝てるわ』
「分かった!」
緊張と恐怖と不安に苛まれている気持ちを和らげようとほむらが優しく囁く。
それによって励まされたまどかはキッと表情を変えて、魔女へと飛んだ。
その後、魔女とその使い魔との戦闘が繰り広げられたが、少し危ないところもありはしたものの、ほむらのアドバイスによって使い魔たちを一掃することが出来た。
残されたのは薔薇園の魔女のみ、まどかは盾の中から対戦車ロケット弾発射器__バズーカを取り出して魔女へと撃ち込んだ。
ドガーン!!
『ギャアァァァァァ!!!』
『まだよ、攻撃の手を緩めないで!!』
魔女が悲痛な声をあげる。しかしほむらはそのまま撃ち続けることをまどかに指示した。
一発、二発、三発…砲撃は止むことなく撃ち込まれていく。だが薔薇園の魔女は攻撃を受けながらも立ち上がって大きく飛び上がった。
それと同時に周囲の景色が歪んで、強制的に魔女の結界は解かれた。
「えっ?」
『逃げたわね……。
まどか、もう大丈夫よ』
ほむらが悔しそうにしながら、そしてまどかに変身を解除するように言う。
離れたところで倒れているほむらの体の上にソウルジェムを置き、ほむらが意識を取り戻す。
「ねぇ、さっきの魔女は__」
「まどか」
逃げた魔女について聞こうとすると、ほむらは起き上がってツカツカとまどかに近づいていった。
その表情は険しく、まどかはきっと一人で勝手に突っ走ったことについて怒られると覚悟する。
しかし、ほむらはそうとはせず彼女のことを力強く引き寄せて抱きしめた。
「ーーーーー?!!」
声にならない声を出しながら、まどかは目を白黒させる。
「バカッ、バカバカバカッ! なんであんなことしたの?! 私が間に合ったから良かったけど…そうじゃなかったら……!!」
「ご、ごめん……」
「どうしてあなたは愚かなのッ?! 魔女の結界に非力な一般人が迷い込んだらどうなるのか、散々説明したじゃない!!
確かにあなたは魔女と戦える力を持っている! でもそれは一人だけだったどうにもならないのよ!!」
「うん……」
「もしあなたに何かあったら残された家族や友人はどうなるのか、もっとよく考えて行動して!!
それに私だって…あなたを失ったら私は…私は……!!」
「ごめんね、本当にごめん……」
「忘れないで…あなたは私にとってのかけがいのない人なの……だからお願い、もうあんな真似はしないで……」
抱きしめる力がより強くなる。
まどかは苦しいと思ったが、それを口には出さずにほむらの頭を彼女の震えがおさまるまでずっと撫で続けた。
★
魔女との戦いの後、私達は最後に待ち合わせ場所となっていた公園の中をゆっくりと散歩して回った。
そして日も大分落ちてきて、まどかとの楽しい時間が終わろうとしていた。
「今日は楽しかったわ、どうもありがとう」
「ううん、わたしの方こそとっても楽しかったよ! それと…さっきは……」
「気にしなくていいのよ、私もちょっと言いすぎちゃったし……」
あのときの行動は危険なものだったけども、感情を抑えきれずに暴走したことについてはこちらにも非がある。
いずれにしても今回の件を教訓にして、今後気を付けてくれればそれで構わない。
「ほむらちゃんは優しいね。わたしのことを心配してくれてただけなのに」
「優しくなんかないわ…もうこの話は終わりにしましょう。いつまでも話していてもお互い良い気分にならないし」
「そうだね」
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「あ、あのね…ほむらちゃん……」
名残惜しいけども、暗くなったら危ないからね。
そう思っているとまどかが何かを話したそうに私の方を見てきた。
「何かしら?」
「実は昨日からほむらちゃんに聞きたいことがあったんだけど…いいかな?」
「別にいいけど……」
「わたしとほむらちゃんって…前にどこかで会っていない?」
その言葉に一瞬だけドキッと胸が高鳴る。
幾つか前の世界でも彼女に同じことを聞かれていた。私はその質問にいつも同じ言葉で答えていた。
それは今回の時間軸でも変わらない。
「ないわ。2日前の河原での出会い、それが私とあなたの初対面よ」
「そっか…ごめんね、変なこと聞いちゃって。
どうしてもほむらちゃんのこと初めて会った時から他人のような気がしなくて……」
「ふふっ」
「わ、笑わないでよ!」
「別にバカにしたわけじゃないのよ。私もそう思っていただけ」
「へ?」
まどかがキョトンとした顔になる。意外そうにしているけど、あなたの考えは間違っていないのよ。
覚えていないかもしれないけど、私達は何度も出会っている。
あなたにとって私はただの転校生でしかない、けど私にとってのあなたは……
「さて、そろそろ帰らなくちゃいけないわね」
「え、あっ、うん……」
「じゃあね。今度は学校で会いましょう」
「そ、そうだね! 楽しみに待ってるから!」
「さようなら、まどか」
手を振って別れを告げる。
時間軸によってあなたが私に感じることは違っていた。でも私があなたに対して想うことはたった一つだけ……
あなたは私のたった一人の大切な友達。それだけは変わらない、これからもずっと……
★
「ただいまー」
ほむらちゃんと別れて、わたしは家へと帰って来た。
玄関のドアを開けるとパパとママがわたしを出迎えてくれた。
「おっ、お帰り。どうだったお友達とのお出かけは?」
「うん…楽しかったよ……」
「まどか、どうかしたのかい?」
「な、何でもないよ…わたしちょっと疲れちゃったから部屋で休んでいるね」
「おう、晩御飯になったら呼ぶからちゃんと降りてくるんだぞ」
「分かった」
ぎこちなく答えて足早と階段を駆け上がって自分の部屋へと駆け込んだ。
二人ともわたしの様子に不思議がっていたけども、今はそのことはそこまで重要じゃない。
わたしは荷物を床に置いて、ベッドに勢い良く飛び込んだ。
「…………」
目を閉じて今日会ったことを思い出していく。
さやかちゃんや仁美ちゃんとは違う子とのお出かけ…それはとっても楽しかったけども、一つだけそれとは違う気持ちがあった。
それは魔女との戦いが終わってほむらちゃんが言ってきた言葉のこと。
『あなたは私にとってのかけがいのない人なの……』
わたしは凄く申し訳ない気持ちで一杯だったはずだった。
だけど何度思い返しても、あのときのわたしは…『嬉しい』と感じてしまった。
それからのわたしは色々とおかしかった。
ほむらちゃんと一緒にいるだけで、とっても暖かい気持ちになる。必要以上にほむらちゃんのことを意識しちゃう。
初めてあの子と会ったときから、ずっとわたしはほむらちゃんの何かに惹かれていた。だけど今はそれ以上に……
「ほむらちゃん……」
無意識の内に名前を口にする。
__まどか。
「えっ?!」
ここにはいないはずのほむらちゃんの声が突然聞こえてくる。
部屋の中を見渡すけども、当然ほむらちゃんがいるはずがない。
もしかして今のって…わたしが頭の中でほむらちゃんのことを考えていたから……
そこまで考えが至った瞬間、無性に恥ずかしく感じて、枕に顔を埋める。
そしてしばらくの間、その気持ちを落ち着かせるためにわたしはベットの上でコロコロと転がっていた。
※これ以外にもまだ未公開のエピソードは幾つかあります。今後も本編を投稿しながら、こういうのを少しずつ書いていこうかな、と思っています。
※次回からいよいよ新章突入! 二人の新たな活躍を期待して待っててくださると幸いです。