※第4話は、二人の特訓編。
※今回も、ほのぼのとやっていきます。
「着いたわ、ここよ」
特訓の場としてやってきたのは、鉄橋の下にある小さな空き地だった。
あんまり人が寄り付かないここは特訓にはもってこいの場所。
そして私が魔法少女になったばかりの時に、まどか達に戦い方を教えてもらった場所。
「さあ、始めるわよ」
「うん……」
「まずは__」
あの姿に変身することが第一ね。
まどかが契約をせずに戦う方法はこれしかないから。とは言っても、その変身をどうすればいいのかが分からない……
「魔女と戦った時の姿になること。
その為にあなたに聞きたいことがあるの」
「何?」
「姿が変わる前に何か特別なことをしなかったかしら?
実を言うとあのときの私、意識を半分失っていたからよく覚えていなくて……」
何かヒントを得るためにまどかに変身したときのことを尋ねる。
「特別なことと言っても、わたしも色々なことがあって混乱していたから……
あるとしたら…ほむらちゃんの手を握っていたことくらいしか__」
私の手…ね。握られていた感覚は覚えてはいるけども、それだけじゃ……
そこまで考えが至った瞬間、ふとあることを思いつく。
「そういうことね」
信じられないけども、多分私が考えていることに間違いはないだろう。
ソウルジェムを取り出して、不思議そうにしているまどかに見せる。
「まどか。ちょっとこれに触れてもらってもいいかしら?」
「えっ、どうしたの急に?」
「いいから」
まどかの手の平の上にジェムを乗せる。するとジェムが輝き出して、それと一緒に私とまどかの体も発光し始めた。
「やっぱりね」
「ど、どうなってるの?」
「詳しいことは分からないけども、あなたが私のソウルジェムに触れていたらあなたも魔法少女として変身できるみたい」
状況がよく分からずに混乱しているまどかに説明する。
「そうなの? でも、これじゃただ光っているだけだよ?」
「自分が魔法少女になる姿を想像してみなさい。変身するという意志さえあれば成れるはずよ」
「わ、分かったよ……」
言われるままに目をジッと閉じるまどか。
その姿を見ていたら、急に私の目の前が真っ暗になる。
これは前に一度だけ経験したことがある。ソウルジェムが私の体から離れすぎたときに起きたのと同じもの。
だけどその時とは違って、意識はハッキリとしている。そして変身が完了したら、私の意識はきっと……
「へっ…変身!!」
掛け声と共に視界が急速に晴れていく。
いつもより少しだけ低い目線、自分よりも少しだけ小さな手、地面に倒れている私の体。
どうやら私の予想は的中したみたいね。
まどかが私のソウルジェムに触れることにより、どういった理屈かは分からないけど私の意識がまどかの体に移って融合。それによってまどかは契約せずとも魔法少女になることが出来る。
「で、出来たのかな?」
『えぇ、成功よ。おめでとう』
「ほっ、ほむらちゃん?!」
なるほど変身中は口に出したいと思った言葉をまどかに語り掛けることが出来るみたいね。テレパシーと同じと考えれば良さそう。
色々と経験している私はすぐに理解できるけども、そうでないまどかは依然、あたふたしていて倒れている私の体を必死に揺さ振っていた。
「ねぇ、大丈夫?! 返事してよ、ほむらちゃん!」
『落ち着きなさい。私はここよ』
「えっ?」
『今はあなたの体の中に入り込んでいて、そこから脳内に直接語り掛けているの』
「脳内に直接?」
『超能力とかでテレパシーというものがあるでしょう? あれと同じような物よ』
「そうなんだ」
今の例えで分かったのかしら? 何にせよ理解が早くて助かる。
『じゃあ早速始めていきましょうか。教えたいことはたくさんあるから、しっかりと聞き逃さないで』
「分かったよ」
それからしばらくの間、魔力の使い方や私なりの戦い方、拳銃や爆弾などの火器の扱い方を説明していった。
銃のくだりで、まどかから色々とツッコミを受けたけどそれは全部スルーの方向で。
そして大体一時間くらいが経った後……
『これでもう教えることはないわ。特訓はお仕舞い』
「よ、よかったー」
『じゃあ変身を解きましょうか』
「どうすればいいの?」
『あなたの手にピンクと紫の宝石があるでしょう? それを外して、倒れている私の体に置いてみて』
「うん」
これは再びソウルジェムと肉体のリンクを繋げるときの方法と同じもの。
恐らくこれで変身は解除されて、私の意識も元の体に戻るだろう。
ソウルジェムが私の体に触れた瞬間、変身前と同じ感覚がやってくる。
目を開くと、心配そうにこちらを覗き込んでくるまどかの姿があった。
「無事に戻れたようね」
「よかったぁ。このままほむらちゃんが目を覚まさなかったらどうしようって思ったよ」
「心配かけてごめんなさい。でもこれでようやく戦えるようにはなったわね」
「そうだね!」
「だけどこれだけは忘れないで、今回のはただの練習に過ぎない。実際に魔女や使い魔と戦うときは命懸けの戦いになる。
くれぐれも油断しないで、気を引き締めなければならないわ」
「う、うん」
戦うの際に最も重要なことを伝えた後、私はふっと笑みを浮かべる。
「これで特訓は終わりよ、初めてにしては中々良かったわよ」
「ふへぇー。つ、疲れたよー」
「お疲れ様」
私の言葉で力が抜けたまどかはヘナヘナと地面にへたり込む。
そこへ労いの意味を込めて、彼女の頭を優しく撫でる。
「えへへ、ありがとう。ほむらちゃん」
「今日はもう帰って休んだ方が良さそうね。ほら立てる?」
「ちょっと厳しい…かも」
照れくさそうに笑って私の方に手を差し延ばす。その手をしっかりと掴んで、まどかを立たせる。
「とっとっと…」
「大丈夫?」
「全然平気だよ!」
「それなら問題ないけど、何なら家まで送っていく?」
「ううん、そこまで気を遣ってもらってもほむらちゃんに悪いし……
それに結構ほむらちゃんの家からウチまで距離あるから」
「じゃあ帰り道に気を付けてね」
「ちょっと待って!」
声を掛けられて何事かと思っていると、まどかはポケットから携帯電話を取り出した。
「ほむらちゃんと連絡先を交換したいんだけど…いいかな?」
「別に構わないけど、どうして?」
「だって、これから一緒に戦っていくからお互いにいつでも連絡し合えればいいかなーって__」
なるほど確かにまどかの方に魔女が現れたとき、すぐに駆け付けることが出来るからね。それに思いつくなんて流石ね。
感心する私だったけども、まどかにはまだ理由があるようだ。
「__それに…ほむらちゃんと家でもお話ししたいな。って思ったから」
「…………」
もう一つの理由を恥ずかしがりながら話すまどかを見て、私はフリーズした。
「め、迷惑だった…かな?」
「ぜ、ぜ、ぜ、全然よッ?! 寧ろそれは私も嬉しいと言うか…その……」
「本当?! わたしこうやって連絡先を交換したりすることってあまり無かったから、ちょっと不安だったんだ」
「私も入院生活が長かったから、こういうのは初めてよ」
「そうなんだ!」
昨日からずっと思っていたけども今回の時間軸、まどかの私に対する好感度の上がり具合がとてつもない気がする。
これまでもこうして連絡先を交換したりすることはあったけども、開始2日目でここまでの関係って…過去最高ね。まあ、これまでとは全く違ったことばかり起きていたから別に不思議に感じたりはあまりしないけど。
嬉しい誤算というか、何て言うか……
「私の方から送るから後で電話なりメールなりで返して頂戴」
「うん! あっ、そうだ。ほむらちゃん明日って何か用事あったりする?」
「えっ、明日って土曜のこと? 特にないけれど」
「ほむらちゃんって、あんまりこの見滝原のこと知らないよね?
都合が良かったらだけども、明日二人でこの街を見て回らない? わたしで良かったら案内するよ」
……私は夢でも見ているのかしら?
ここまで積極的なまどかはマジで一度も見たことがない。いや、一番最初の世界のまどかもこんな感じだったような気がするけども、あれは魔法少女になって自分に自信を持っていたからであって……
「ど、どうかな?」
「お願いするわ」
即答。正直何回もループしているからこの街のことは知り尽くしていると言っても過言じゃないけども、そんなことは関係ない。
こうなったら、とことんまどかと仲良くなってみせるわ。そして今回こそは必ず彼女を救ってみせる。
「良かった。時間や場所は夜に話し合って決めようね」
「そうね」
「それじゃ、またね。ほむらちゃん」
「また後でね。まどか」
走りながら手を振って、空き地を後にするまどか。そんな彼女の後ろ姿を見えなくなるまで、私は見つめていた。
完全に姿が見えなくなった後、特訓の後始末をするために空き地に落ちている薬莢を拾い始める。
あまり人が来る場所ではないけど、見つかってしまったら厄介なことになるからね、しっかりと拾わないと。
全ての薬莢を拾い集めて、家に帰ろうと空き地から出て行こうと私は歩き出した。
「忘れものがあるよ」
背後から声を掛けられて、慌てて振り返る。
するとそこにはいつから居たのか分からないが、忌々しい白い悪魔、インキュベーターがいた。
奴は口に薬莢を一つくわえていて、ゆっくりと私の元に近づき、ポトリと地面に落とした。
「魔力の反応があったから来てみたけども、君はこんなところで一体何をしていたんだい?」
「それよりもあなたいつから私を見ていたの?」
「質問には答えてくれないのかい? まあ、構わないけども僕が来たのはついさっきさ。
君がせっせと弾を拾っているときだったよ」
「本当?」
「僕は嘘はつかないからね。それはそうと僕の質問にも答えてくれると嬉しいのだけど……」
こいつのことは全面的に信用はしていないけども、嘘は絶対につかないことだけは知っている。
奴の答えを聞いて、心の中で悟られないようにホッと安心する。
良かった、まどかの姿は運よく見られていないようね。
「何って特訓よ。魔女を倒すためにね」
「そんなことに何の意味があるんだい? ただの魔力の無駄遣いじゃないか」
「そうよ。魔女との戦いで無駄に魔力を使わないようにするために特訓をしていたの」
懐から拳銃を取り出して、奴に見せてみる。
インキュベーターは腑に落ちない様子だったけど、私の言うことに頷いた。
「まあ魔女とどう戦うかは、君の自由だ。
それよりももう一つ聞きたいことがあるのだけど、いいかな?」
「何よ」
「君は魔法少女のようだけど、僕は君と契約した覚えはないんだ。
これはどういうことだい?」
「あら、契約した相手を忘れるなんてあなたもうっかり屋さんなのね」
「…………」
「それじゃあ私はもう帰らせてもらうわ」
「待ってくれ、話はまだ__」
インキュベーターが引き留めようとすると、私の携帯から着信音が鳴った。
携帯を開いてみると、まどかからのメールだった。
『From:まどか
ちゃんと届いているかな?
届いていたら、返信してくれると嬉しいな♪
今日は本当にありがとう! ほむらちゃんも帰り道、気を付けてね!
夜にまた連絡するからよろしくね(><)』
メールの内容を見て、私はニッコリ笑いながら即急に返信した。
『To:まどか
ちゃんと届いているわよ。
私こそ、色々と付き合ってくれてありがとう。
あなたからの連絡楽しみに待ってるわ』
「誰からだい?」
「ふふっ、私の友達からよ。
それじゃあね、キュゥベえ。また何処かで会いましょう」
「えっ、あっ…ちょっ……」
奴に笑いかけるなんて、普通なら絶対にあり得ないことだけども嬉しさのあまりについやってしまう。
けどそんなことなんか全く気にせず、私は上機嫌になりながら家へと向かっていった。
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「お帰り、キュゥベえ。どうかしたの?」
「マミ。実はこの街に新しく魔法少女がやって来たんだ」
「誰なの、その子は?」
「それが…かなりのイレギュラーでね。
その魔法少女と僕は契約した覚えがないんだ」
「それってあなたがただ忘れているだけじゃなくて?」
「いや、過去に何百万人と契約してきたけども一人たりとも忘れたことはないよ。
何なら今から全員言っていくかい?」
「べ、別にしなくていいわよ……。
それでその魔法少女はどんな子なのかしら?」
「何個か質問はしたけども、見事にはぐらかされたよ。終いには…はぁ……」
「終いには?」
「僕の話なんかよりも友人からのメールを優先して、そのまま帰ってしまう始末さ。
全く…色々な意味で、あんな魔法少女は初めてだよ」
「…………」
「マミ? どうしたんだい?」
「いえ…何でも……ないわ……」
※次回でラストです。ちなみに日程はこんな感じ。
ループ開始(第3~4話、Extra1~2話)が木曜日。
2日目(Extra3~4話)が金曜日。
次回の3日目が土曜日。
ほむら転校初日が5日目の月曜日です。
※それ以外の物語の日程は、希望があれば紹介していきます。では、次回もお楽しみに!!