※お待たせしましたァ……
※まどかとほむほむの関係を調節するのが、結構大変っす……油断するとすぐに親密度A+になってしまう。
『あな……自…を責め………いるわ。鹿目まどか。
あなたを……できる者な…て誰も…ない、居たら……許さ…い』
夕暮れの中、わたしは顔に"もや"がかかっている女の子と一緒に歩いていた。
『でも、あな………命は変え……た。……が救われた…けでも…は嬉しい』
しっかりと表情が見えるわけじゃないけども、女の子はわたしに微笑んでいるような気がした。
だけど、どうしてだろう。なんだかこの夢、見ているととても胸が苦しい。
まるで心の中にあった大切なものがポッカリと抜けてしまったような…そんな気分になる。
『…法少女の最期……て、そう…うも…よ』
最期って…誰が死んじゃったの?
必死に問いかけようとするも口が全く動かない。今回もただわたしは見ているだけ……
『誰にも気付か……くても、忘……られても………仕方のない…とだわ』
今度は悲しそうな声で女の子が話す。
それを聞くだけでまた悲しい気持ちになっちゃう。
「わたしは覚えてる」
そう思っているとこれまで梃子でも動かなかった口が勝手に動き出した。
自分の意志とは無関係にわたしはそのまま喋り続ける。
「……さんのこと忘れない。絶対に!」
また肝心な部分だけが聞くことが出来ない。本当に何なんだろうね、この夢……
自分の夢の内容なのに変な苛立ちを覚えていると、わたしの口からビックリする言葉が飛び出してきた。
「ほむらちゃんだって、ほむらちゃんのことだってわたしは忘れないもん!!」
その言葉を呟いた瞬間、彼女を覆っていた"もや"が晴れて、その顔がハッキリと見える。
それは見間違えるはずがない、昨日会ったばっかりの女の子。ほむらちゃんだった。
ほむらちゃんは、俯いたままとても辛そうに一言だけ呟く。
『あなたは…優しすぎる……』
そう言い終えた直後、夢が急に終わってしまい、わたしは自分の部屋にいた。
「どういう…こと?」
★
それから放課後、わたしが帰る準備をしているといつものようにさやかちゃんが声をかけてくる。
「まーどか、一緒に帰ろ~。
今日は仁美も習い事休みみたいだからさ、久しぶりに三人でどっか遊びに行こう!」
いつもなら喜んで頷くところなんだけど、今日はほむらちゃんと話さなくちゃいけないことがあるからね。
わたしは申し訳なさそうに、両手を合わせて謝った。
「ご、ごめん! 今日どうしても外せない用事があって、その一緒に帰れないの……」
「あれまー、珍しい」
「ほんとにごめん。急に入ってきちゃって……」
「いいよいいよ。この埋め合わせは今度の日曜にちゃんとしてもらうからさ」
「ありがとう、さやかちゃん」
「さーてと、さやかちゃんは仁美と二人で仲良く帰るとしますか。
それじゃあね、まどか。帰り道には気をつけろよなー」
「うん、バイバーイ!」
教室でさやかちゃんと別れた後、わたしは待ち合わせの場所となっている病院へと急いだ。
☆
検査を終えた後、私は病院のエントランスでまどかのことを待っていた。
この時間だともう学校は終わって下校している最中のはず……
そう思いながら出入り口の扉を眺めていると、外からまどかの姿が見えた。
「まどか」
「あっ、ほむらちゃん。ごめんね、待った?」
「いいえ。私もついさっきここに来たばかりだから」
「良かったぁ」
胸を撫で下ろして安心するまどか。
こういうちょっとしたことでも気を遣ってくれるところ、やっぱりあなたは優しいわね。
「さて、色々と話さなくちゃならないことはあるけども…何処でしようかしら」
「確かにここじゃあ、あんまり話せる内容じゃないよね」
場所に関しては何処であってもあまり変わらない。
ただ一つ危惧するべきことがある。インキュベーターあるいは巴マミに出くわして、私やまどかの存在を知られてしまうことだ。
とっくに気付かれている可能性も十分にあるけども、まだ接触してきてはいない。
いずれ知られてしまうことだが、それまでにまどかを契約させないように上手く誘導すればいい。
そういったことも考慮すると、話し合いに一番適した場所は……
「……私の家で、話す?」
「えっ?!」
凄く驚いた様子で私の方を見る。
まあ、最適というのは嘘ではないけども会って一日しか経っていない人にそんなこと言われたら誰だってそうなるよね……
「ごめんなさい、今のは忘れ_「分かったよ」_えっ?」
「ほむらちゃんが迷惑じゃなかったら、わたしは全然構わないよ」
「……そ、そう」
意外とあっさりとオッケーしてくれた……
よく分からないけど、それはそれでこちらにとっても好都合ね。
「少し歩くけども、しっかり付いてきてね」
「うん」
特にこれといった問題はなく私達は家に着いた。
「ここがほむらちゃんの家かぁー」
「今、鍵を開けるから……入っていいわよ」
「それじゃあ、お邪魔しまーす。わぁ…すっごい落ち着いた部屋だね」
「必要最低限の物しか入ってないからよ、寧ろ殺風景じゃないかしら」
「そんなことないよ! とってもいいお部屋だよ」
「ありがとう。飲み物を取って来るからちょっと待ってて」
冷蔵庫の中にはペットボトルが二本だけ…大したおもてなしは出来ないけど仕方ないわね。
それと、後で買い物に行かなくちゃ。
ジュースの入ったボトルとコップを人数分を持って…ついでにコーヒー用にお湯を沸かしときましょう。
必要な物を持ってまどかのところに戻ると、なんだか落ち着かなさそうにしていた。
「どうしたの?」
「うぇっ?! な、なんでもないよ。ただあまり他のお友達の家にあがったことがないから緊張しちゃって……」
「そこまで張り詰める必要はないわ。自分の家のようにくつろいで頂戴」
「で、でも……」
「そんなに力を入れていたら、これから話すことに付いていけなくなるわよ?
ほら、これでも飲んで落ち着いて」
「あ、ありがとう……」
ちびちびとジュースを飲むまどかを眺めながら、説明する内容を思い返す。
ここが重要なポイントね。如何にしてまどかに魔法少女というものに興味を持たせないか……
話すことはいつもインキュベーターや巴マミが教えていることだけ、あまり詰め込み過ぎるとかえって逆効果になる。
「じゃあ話していくわね。
昨日私が成っていた姿は魔法少女というものよ」
「魔法少女?」
「これを見て」
ソウルジェムを取り出して、まどかに見せる。
「綺麗だね」
「これはソウルジェム、契約を結ぶことによって生み出される宝石で魔法少女としての証のようなもの。」
「契約って?」
「この世界には素質のある少女を魔法少女に変えるキュゥベえという生き物がいる。
ソイツが行う契約の内容は、どんな願いも一つだけ叶えること」
「どんな願いも……」
案の定、食いついてきたわね。
話すべきか迷ったけど、この情報を隠したところでまどかが魔法少女になるかは左右されない。
彼女が魔法少女になる理由は、あくまで誰かの役に立てるような人間になることだから。
「ただし、その願いと引き換えに魔法少女になったものは魔女と戦う宿命を背負わされる」
「魔女? 魔法少女とはどう違うの?」
「魔法少女は契約の際にする願いから産まれてくるもの。
反対に魔女は不安や恐怖、怒りや悲しみといった負の感情から産まれる怪物のことよ」
「じゃ、じゃあ昨日わたしが見たのは……」
「あれは使い魔といって魔女の分身のようなもの。
そしてあなたが使い魔と出くわしたとき、いつの間にか奇妙な空間にいたでしょう?
あれは魔女の結界で、普通の人間が入ってしまうと命の保証はない」
「命って…魔女って人を襲ったりするの?!」
「その通りよ。たまにニュースとかで目撃したりする理由のない自殺や殺人事件は大体は魔女が引き起こす呪いによって起きたものなの。
それに加えて、あいつらは魔法少女と素質のある者以外には姿を見ることすら出来ない質の悪い存在」
「さっき、ほむらちゃんは魔法少女は魔女と戦わなくちゃいけないって言ってたよね。
そんな怖い怪物と戦うなんて…怖くないの?」
「…………」
そんな感情、もうとっくに感じなくなったわ。
そう言おうとするのを抑えて、話を進める。
「怖い、怖くないの問題じゃないわ。
戦わなくてはいけない、そういう運命なのよ」
「もし…魔女と戦って負けちゃった場合、その魔法少女はどうなるの……?」
「……死ぬわ」
「!!」
まどかの目が大きく開かれる。
そう、それでいい。脅すような感じではなくて、ただ教えるべきことをただ教えるだけ。
「それに魔法少女だけに限らずに魔女の結界の中で殺されてしまえば、その人は誰にも知られることなく死ぬことになる」
「み、みんなの為に魔女を倒しているのに…そんなのって……」
「動機は人によってそれぞれ、だけども辿る道は同じ。
永遠に行方不明のまま、孤独に死んでいく……」
「酷い…酷いよ、あんまりだよ!」
「魔法少女の現実なんてそんなものよ。一度契約をしてしまったら、後戻りは出来ない。
死ぬまで戦うことを余儀なくされる」
声を荒げながら嘆くまどか。
この調子よ。もうひと押しあれば、例えどんなに言い寄ったとしても契約せざるを得ない状況にならない限り、自主的に魔法少女になる可能性はゼロになる。
「ほむらちゃん、そのキュゥベえって子は何処にいるの?」
「?!」
そう思っていた。だけどまどかは私の予想から大きくかけ離れた反応をした。
「ど、どうして…そんなことを聞くの……?」
「あのとき魔女の姿を見ることが出来たってことは、わたしにも魔法少女としての素質があるってことでしょう?
それだったら、わたしは__「駄目よ!!」__」
突然叫んだことに驚いて、まどかはビクンと飛びあがった。
体の震えを必死に抑えながら、彼女に詰め寄る。
「あなたは…今まで、何を聞いていたの……?! 魔法少女になってしまったら、二度と元の生活に戻れないのよ!」
「で、でも!」
「でもじゃない!! もし魔女との戦いであなたの身に何かあったらどうするの?!
残されたあなたのことを大切に思っている人達はどうなるの?!」
「ほ、ほむら…ちゃん……?」
「……!!」
しまった…ムキになり過ぎた。
荒ぶる気持ちを落ち着かせようと深呼吸をして、再度問いかける。
「ごめんなさい、今のは忘れて頂戴。
……それよりもどうして急にそう思ったの?」
「えっと…わ、わたし、ほむらちゃんの力になりたくて……」
「いらないわ」
「嘘だよ!!」
「?!」
「だって、昨日のほむらちゃん…わたしが来なかったら絶対に死んじゃってた!
友達が…それに街の人達がそんな危険な目に遭っているのに、ほっとけないよ!!」
「そ、それは……」
まどかの言う通り、あの場にまどかが駆けつけてくれなければ間違いなく私は死んでいた。
だからといって、このまま魔法少女にしてしまうわけにはいかない。
失念していた。私のあんな姿を見てしまったまどかなら、必ず自分を犠牲にしてでも力になろうとする。
いや、私に限った話ではない。誰に対してでも同じことを言うに違いない。
「お願い、教えてほむらちゃん」
「…………」
「お願い」
「…………」
「ほむらちゃん!」
この目つきは…魔法少女として戦うのを決意したときと同じもの……
何か…彼女を契約させないようにする方法は……
瞬間、脳裏にこの場を切り抜けるための手段がよぎる。イチかバチか…試すしかない。
「その必要はないわ」
「えっ?」
「あなたが契約をしなくても魔女と戦う方法があるってことよ」
「それって……」
「あなたも体験したはず、私達が使い魔に襲われたときに起こった現象を」
「そ、そうだ! それも聞かなくちゃって思ってたんだ!
ほむらちゃん、あれって一体何? あれも魔法少女の力なの?」
「分からない」
「分からな…って、ええっ?!」
「私にあれが何なのかは見当がつかない。
でもあの変身をすれば、あなたは魔法少女として契約する必要はなくなる。
それに魔女と戦いたくなくなったら、いつでも抜けることが出来る」
いつもならこういったイレギュラーにはあまり触れないようにしていたけど、今回は別だ。
多少無理を言ってでも、この方法を押し付けるしかない。
「でも……」
「不安に感じるのは仕方のないこと。でもあのとき変身をして分かったの、あなたには他の人にはない強大な素質を持っている。
ああして一緒に戦ってくれれば、私も魔女との戦いで生き残ることが出来る。そしてより多くの魔女を倒せる。
そうすれば、この街の人達を救うことだって可能になる」
「…………」
「どうせ契約するならキュゥベえではなく、私としてくれないかしら?
お願い、あなたの力が必要なの」
そう言ってまどかに手を差し伸ばす。
やっていることが完全に奴と一緒ね。
胡散臭いというか、騙しているというか……正直、自分自身に嫌悪感を覚えるけども文句を言ってる暇はない。
「それで、ほむらちゃんやみんなの役に立てるなら…協力するよ!」
「ありがとう…まどか」
良心が…良心が痛い……
こんな素直で優しい子を利用するなんて……
「なら早速だけど、魔法少女としての特訓を始めるわよ」
「えっ…特訓?」
「そうよ。さっきも言ったけども魔女との戦いは命がけ。
気持ちだけあっても実力が無ければ、あっさりと負けてしまうわ」
「そ、そうだね……」
「だから特訓よ。強くならなければ、あなたの大切なものも守れない」
「……分かったよ、ほむらちゃん」
「そうと決まれば、場所を変えましょうか。
ここだとちょっと狭すぎるからね」
「うん!」
こうして私達は特訓場所へと向かっていった……
※後半のやり取りがやや雑なのは仕様です。
※こんな風に違和感のあるやり取りをしなかったら、第7話でまどかがほむらのことを疑う理由が生まれませんからね。
※ちなみにこのエピソードは2話くらいで終了します。もうそろそろ2月中場になるけど、第3章までもう少し待っててください。