昔、誰かが言った。
一度目なら、今度こそはと私も思う。
避けられなかった惨劇に。
二度目なら、またもかと私は呆れる。
避けられなかった惨劇に。
三度目なら、呆れを越えて苦痛となる。
七度目を数えるとそろそろ喜劇になる。
絶望の未来を変えようと運命に抗い続けている私の姿は端から見たら、確かに喜劇だ。
何度繰り返しても結末は変わらない……無駄だと分かっているのにも関わらず、また惨劇の渦中に身を投じる。確かに笑いは生まれるだろう嘲笑、あるいは苦笑が。
あの言葉を思い出したとき私の中である疑問が生まれた。
では、十度目ならどうなのか?
二十、三十、四十……百まで数えたら果たしてそれは何になるのか?
今となっては、数えるのを止めてしまったので何度目なのかすらも分からない。
でも確かに言えることがある。繰り返せば繰り返すほど私の中で積み重なるものと失うものがある。
積み重なるもの……それは『罪』
数々の時間軸で救えなかった命、見捨ててきた命、そして自ら手掛けた命…………それら全てが枷となり永遠に私から離れることはないだろう。
失うもの……それは『心』
初めは後悔があった。挫折があった。罪悪感があった。けど、繰り返す内に私の心は磨り減っていき、他の皆とは同じ感情を抱くことが出来なくなってしまっていた。
けれども私は歩み続ける。
どれだけの『罪』を重ねようとも、どれだけの『心』を失おうとも。
例え、人間とは呼べない別の存在になろうとしてもその歩みは決して止めない。この命が尽きるまで……
それが私が誓った使命。
忘れない……どれだけ時が経とうとも、世界が変わろうとも、彼女と『交わした約束を忘れない』
決意を新たにまた私はやり直す。希望を掴むために『夜』を乗り越えて『暁』を目にするまで。
そして今…………
★
何度この光景を見てきたことか……
私にとっての最大の脅威である。最強の魔女、ワルプルギスの夜は不気味な笑い声をあげながらそこにいた。コイツを今 度こそ倒すために今まで以上の準備を、対策を練ってきた。でもそれも全て無意味だった……
深いため息をつきながら、左腕に付けられている盾をじっと見つめる。砂時計の砂の量も残り僅か……
これは私にとって の唯一の魔法である時間停止の出来る時間がもうほとんど残されていないということ。
このままではまたまどかが契約をして魔法少女になってしまう……それだけは何としてでも避けなければ……
「はぁ……はぁ……ほむらちゃん」
けど、運命は残酷だった。私の思いとは裏腹に荒廃した街の中を一人の少女が私の元へ駆け寄ってくる。
唇を強く噛み締める。口の中にほんのりと鉄の味がするのを感じるがそんなことはどうでもいい。
お願い……来ないで。私なんか構わないで逃げて……
そう強く念じていると後方の方から風を切る音を耳にする。振り返ってみると膨大な魔力の塊がまどか目掛けて飛んでい くのが見えた。
私は駆け出し、魔力の塊から彼女を庇った。
☆
「ほ……ちゃん、ほむらちゃん‼」
目を覚ますとそこには涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる彼女の姿があった。よかった……私あなたを守ることが 出来たのね……
「だ、いじょうぶよ……まどか。このくらい……なんと、もな……い」
ふっ……と彼女を安心させるために笑みを浮かべるが、左腕に何か違和感があるのに気づく。とりつけられていた盾が全壊に近い状態になっていて修復が不可能な状態になっていたのだ。
幸か不幸かダメージはソウルジェムにまでは行き届いてはいなかった。けれど、これでもう制限時間に関係なく、時を止めることも過去へ行くことも出来なくなっていた。でもそれも悪くないのかもしれない。
幾度となくさまよってきた時間軸の繰り返し、最悪の運命に抗う私の旅、私は負けたのだ。
結局、運命に打ち勝つことは出来なかった。
ならば、最期は愛しい『あの子』に看取られて逝くのも悪くない。 だけども次の瞬間、そんな私の考えはまとめて吹き飛んだ。
「ほむらちゃん、私魔法少女になるよ」
「えっ……?」
身体の奥底が急速に冷えていく。私は血相を変えて声を荒げる。
「まどか……ダメっ‼ そんなことをしたらあなたは……‼」
「大丈夫だよ、ほむらちゃん。私を信じて……」
天使のように微笑むその笑顔を見つめることは出来なかった。駄々子のようにいやいやと懸命に首を振る。
「そんなこと言って! またあなたは魔女になって、また私の前から消えていってしまう!! そんなのもう嫌!!」
「ほむらちゃん……もう絶望する必要はないんだよ」
ダメよ…………
「さあ、鹿目まどか。君はその魂を代価にして、君は何を願う?」
お願いだから…………
「私の__」
まどか…………
「願いは__」
あああああああああ……………………!!!
「ダメぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
※プロローグをしっかり作っておこうと思って、新規の文章を加えてみました。
ちなみに冒頭のは、Frederica Bernkastelの言葉です。