恥ずかしそうにはにかむヴェルサンディに
「とても良く似合ってるよ、ヴェル…」
そう大樹に言ってもらいこのまま時が止まれば良いのに…
陳腐な発想だけどヴェルサンディの正直な気持ちだった
ヴェルサンディの手を取り一角獣に乗せると
「飛ばすからしっかり掴まるんだよ、いいね?ヴェル…」
そう声を掛ける大樹に返事の代わりに腰に回す手に力を入れて頷くと一角獣の速度を上げる大樹に応えてくれる一角獣だった
公邸に着いたのは日が沈む寸前で玄関前ではスクルドが不機嫌さを隠すことなく待ち構えていた
「ヴェル様、お手を…」
そう言ってヴェルサンディの手を取り降りるのを手伝う大樹を見て
(ヴェルがお父様以外の男の人にヴェルって呼ばせたっ!?)
その衝撃の事実に震えているスクルドの存在に気づいた二人は
「ただいま、スクルド…」
「ただいま戻りました、お嬢様…」
そう大樹に声を掛けられて
「イヤっ!ヴェルばかりズルい、私もスクルドって呼んでっ!!」
そう言われて戸惑う大樹は
「宜しいのでしょうか?」
そう聞き返すと
「そう呼んでほしいからお願いしたの、スクルドって呼んでっ!」
悲鳴の様に叫ぶスクルドに
「ただいま戻りました、スクルド様…」
やっとそう言って貰えたスクルドも
「お帰りなさいヴェル(あくまでついで)、大樹様…」
そう返事するスクルドだけど当然の事ながらその心中は穏やかじゃない
「俺は侯爵様に帰還の報告をしに行きますからこれで失礼します」
そう言って頭を下げると
「それには及ばないがこれから何か用でも有るのかね?」
そう侯爵に問われた大樹は
「用と言う程の事でも有りませんが黒炎竜に呼ばれてますから食事の時間まで素振りをしようと思います」
その聞きなれない黒炎竜と言う言葉に
「黒炎竜に…騎士の君が素振り?」
そう戸惑う侯爵に
「黒炎竜は真琴様が光の精霊の巫女になられた際に賜りし魔剣ですが、残念ながら俺は未だ正当な主と認められてませんから認めさせる為の修行をしてる所です」
そう答えると鬼百合も
「魔剣は未だその真の姿を大樹に見せちゃいねぇからな
まずは基本の素振りで練った氣を魔剣にぶっつける事から始めてる」
そう指導者の顔で説明する鬼百合にそう言うものなのかと納得するしかない侯爵にとっては魔剣はこれまで縁の無い物だったのだから
大樹達の会話が途切れたのを見て
「私はこれで失礼します、大樹様…お食事の時に」
そう声を掛けると大樹も
「はい、後程お会いしましょう…ヴェル様…」
その大樹の口からは聞きたくない一言に顔を青ざめるスクルドとこの展開に驚く小姓達