月の明かりに照らされて   作:春の雪舞い散る

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翔の好物と侯爵領の隠れた名物

 

 そう小姓の一人に声を掛けるとそれを聞いた鬼百合が

 

 「アタイもツマミにすると酒が進む好物だからアタイの分も頼むぜっ♪」

 

 そう頼まれたので

 

 「承知しました」

 

 そう答えてもらい待つことにしたのだけど余り食事を摂りたがらない翔を心配した侯爵が

 

 「鬼百合殿、先に翔ちゃんに食べさせなさい」

 

 そう言って妻に渡すと頷いて受け取り翔に食べさせ始め翔も美味しそうに食べるのを見て小鉢を持って戻ってきたサイが驚いたけど侯爵と鬼百合に渡して又侯爵の背後に控える事に

 

 食事を終え本格的に飲み始めた鬼百合と侯爵で爆酒を飲みながツマミは辛炎ハムを軽く炙ったものを出させ

 

 鬼百合と侯爵夫妻が向かい合って座り夫人の膝の上に座り込んだ翔はイナゴの佃煮を喜んで食べていたと聞いた料理長が用意してくれた蜂の子を空炒りをお菓子感覚で摘まんでいる

 

 大樹を巡るヴェルサンディとスクルドの恋の鞘当てが本格的に始まり益々困惑するばかりの大樹とそれを見て呆れる巫女達

 

 ウルズや小姓達は映見の書いた絵を見せてもらう話になり完成品数点と原画のスケッチブックを持ってきて見せていた

 

 当然ながら謡華が未だ命と出会う前の絵も有るので謡華も初めて見る絵も多数あり皆喜んでいた

 

 

 「鬼百合殿ならご存知でしょうが歌の国の王太子は他国の王家ないしはそれに準ずる家柄の娘を迎えねばならず

 

 王太子の十四夜殿の年齢に釣り合う娘は近隣諸国には居らぬ現状」

 

 改まってそう話始める侯爵に、鬼百合が黙って頷くと

 

 「それ故我が家の長女のウルズに白羽の矢が当たったのも又自然の流れではあります…」

 

 「まぁ多少の年の差はあるが特に珍しい訳じゃねぇし本人達や周りが苦にするほど離れてるわけでもねえからな、続けてくれ」

 

 今度は侯爵が頷き

 

 「だが私達は迷った…親族一同の反対を押しきり妻と結婚した私達は…」

 

 そう言って言葉煮詰まる侯爵に代わって

 

 「政略結婚と言われるのを恐れたってところ…か、そしてウルズも長女の自分が先に嫁いじまったら妹達は…だな?」

 

 そう言われて力なく頷くと

 

 「はい、そんなことを口にする娘ではありませんが妹思いの優しい娘ですから…」

 

 そう侯爵が言うのを聞いて

 

 「成る程、そんなアンタ等にとっちゃ大樹はまさに救世主の出現って訳だな?」

 

 そう言われて今度は力強く頷き

 

 「私達は彼に好感を持ち私に仕えてくれる者達の評価も高いが何より娘達が彼に好意を寄せている」

 

 夫人も頷くと

 

 「どちらか一人は泣いてもらうしかないがそれでも惚れた相手…

 

 しかも、皆が祝福するなら二人を応援しないわけにはいかないが…みこは既に応援してるんだぜ?この恋愛模様をよ」

 

 「?」

 

 鬼百合にそう言われて事の意味がわからす顔を見合わせる二人に

 

 「媛に聞いたが二人の為に忍に使いをさせたんだとよ、だからそれを聞かされちまったからあれ以上は責められなくなっちまったんだ」

 

 そう説明された侯爵が感慨深げに頷くと

 

 「わかった四人の若い男女の幸せの為にアタイも一肌脱ごう」

 

 鬼百合が笑ってそう言うと

 

 「四人の男女?」

 

 侯爵が呟いて妻と顔を見合わせると

 

 「歌の国の第二王子がプロポーズした場に立ち会ったのだがその時王太子に言ったんだ

 

 お前も早く嫁さん貰って王妃を安心させてやったらどうだ?

 

 そうアタイが言ったら

 

 気に掛けていた娘から見合いを断られた私はまだそんな気に離れない…貴女の目には女々しいと映るのでしょうが…

 

 そう言って寂しそうに笑ってたんだ」

 

 その話を聞いた侯爵は勢い込んで

 

 「で、では未だウルズも可能性が!?」

 

 そう声を殺して聞かれた鬼百合は

 

 「あぁ、その可能性か有ると踏んだから四人の男女と言ったんだぜ?」

 

 拳を力強く握り

 

 「二人を煽って是が非でも大樹殿の心を掴んでもらわねばな…だが、大樹殿実家はそうしても良いのだろうか…」

 

 そう心配する侯爵に笑って

 

 「それなら問題ねぇ、次男坊のアイツの実家は既に年の離れた兄貴が継いでるから養子に行ったってなんの問題もねぇんだからな…

 

 逆に闇の者との戦いが始まったばかりなのにもう正騎士なんだぜ?大樹を始め巫女達の元に集いし若き英雄達はよ…

 

 このまま放っておいたらどこまで出世するんだろうな大樹の奴」

 

 その鬼百合の指摘に青くなって

 

 「余り出世してからでは引き抜きが難しから我々も気合いを入れねばな…」

 

 そう言って妻と頷き合う侯爵だった

 

 

 

 

 


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