『この世全ての悪』を背負いし少年も異世界から来るそうですよ?   作:クロック

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一ヶ月ぶりの投稿だ・・・
遅れてすみませんでした!


過去話

白夜叉の店から夜まで何事も無かった。

 

あったとしてもコミュニティの子供達への紹介と、魔王の凄まじさを見せて貰った位。

暗流達のコミュニティを襲った魔王はたった3年で何百年もたったというほど風化させることが出来るらしい。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)〟を見たことがある暗流には「この程度」という認識しかなかったが。

 

暗流の部屋は一番端にある大きい部屋。

そこには既に前々から自分が使っていたような感じでトレーニングをしている暗流がいた。

 

これは暗流の日課のようなものだ。

執行者としての活動を始めてから自分の体力不足を悟り、ギルガメッシュ達との訓練の合間に体力を上げることにした。

 

魔術回路は酷使すればする程疲労が貯まる。

暗流は聖杯から魔力を引っ張ってきてるため常に流しっぱなしにしている。

 

暗流のステータスは英霊、〝アンリマユ〟よりもかなり高いとはいえ、それは自分の魔力で身体能力を底上げした時の値だ。強化しなかった時のステータスは〝アンリマユ〟と同スペック。

それ故に暗流は聖杯からの強化された魔力を扱うことで身体能力を底上げしている。

 

戦闘中は身体強化を使い続けても問題は無いのだが、暗流は黒鍵や宝具である『右歯噛咬(ザリチェ)』と『左歯噛咬(タルウィ)』を使い回しにしている。

黒鍵は元々投擲用の物なので魔力消費は少ないが、双剣に関しては曲がりなりにも宝具だ。

 

黒鍵よりも使い慣れているとはいえ、黒鍵と同じようにいくらでも作れるというわけではない。

少なくとも両方作るのに黒鍵30本分は魔力を消費する

 

これらの理由から暗流は普通の魔術師では考えられない魔力の使用と、戦闘方法のために、他人よりも体を鍛えなければならない。

 

 

「・・・198・・・199・・・200・・・!」

 

腹筋をやり終えてタオルで汗を拭く。

髪に伝う汗は雫となり床にこぼれ落ちる。

 

「暗流、入っていい?」

 

窓を開けて体を冷やそうと思っていた時、耀が扉をノックした。

 

「少し待ってくれ」

 

分かった、と返事を聞きシャツを着る。流石に暗流も年頃の男子だ。女子に上半身とはいえ裸を見られるのは恥ずかしい。

 

「いいぞ、入ってくれ」

 

お邪魔します、と言いながら入ってくる。三毛猫もついて来ており、耀の足下から入ってくる。

 

「少し汗臭いが我慢してくれ」

 

「いいよ、気にしてないから」

 

「それで、何の用かな?」

 

耀をベッドに座らせて暗流は窓の隣に背中を預ける。

三毛猫は耀の膝の上に飛び上がる。

 

「飛鳥から聞いた。助けてくれたんでしょ?」

 

「いや、礼には及ばぬよ。折角できた友人だ、それにアレに対処できるのは俺か白夜叉だけだったからな」

 

何でもないように返す暗流。

 

「それでもだよ。助けてもらったことには変わらないから。ありがとう」

 

「素直に受け取っておくよ。それで、他にも用件があるんだろ?」

 

「うん。暗流って十年前に何かあったの?」

 

耀がストレートに聞いてくる。

暗流としてはあまり答えたくない事だ。いつかは話すかもしれないが今からとなると躊躇ってしまう。

 

「教えてくれない?」

 

耀が可愛らしく首を傾げる。膝にいる三毛猫は教えろ、と威嚇するように鳴く。

 

「分かった、教えよう。そのかわりここでは少し都合が悪いからな。外でいいか?」

 

耀の確認をとり服を着てホームの外にある十六夜がとってきた水樹の場所まで行く。

ここまで来たのは黒ウサギにこの話を聞かれたくないからだ。黒ウサギは耳がいい。暗流は耀以外には聞かれたくなかった。

 

正直自分でも驚いている。

まだ誰にも話すつもりはなかったのに耀には話そうとしている。暗流は耀の雰囲気がカレンに似ているからだと思った。

 

「さて、まずは俺の『始まり』から話そうか」

 

淵に腰掛け耀が真剣な目で暗流を見る。

 

「昔、とある街に一人の少年がいた。少年は生まれて数年、何もなく平和に過ごしていた。」

 

「だがその少年が7歳のころ、少年の人生に転機が訪れた」

 

「少年が住んでいた街が原因不明の大火災によって焼かれていった」

 

「少年はその時、家族を全員失った。仲良くしていた友人もだ」

 

「街は炎の地獄と化していた」

 

「周りから聞こえる悲鳴と『助けて』という救済を求める声」

 

「少年はその声を耳を閉じ、聞かないようにして心に鍵をかけ、地獄を歩いていった」

 

「だが所詮は7歳の少年だ。動ける距離にも限界はある。少年はすぐに体が疲弊し動けなくなった」

 

「意識が失われる前に少年はある二つのものを見た」

 

「どこまでも暗い負の感情が凝縮された『泥』と地獄の中で輝く『黄金の杯』」

 

「その二つは少年の体に入っていった」

 

「倒れた少年を見つけた男2人はその光景を見ていた」

 

「一人の男の提案で少年を引き取ることになった」

 

「もう一人の男は教会で聖職者をしていて少年の義父になった」

 

「提案した黄金の男は気付いた。少年が『異常』だと」

 

「この時には既に少年は『悪』と『人類をどう滅ぼすかを決める決定権』を所有していた」

 

「少年もそれに気付いた。だからこそ力を手に入れ、戦うことを選んだ」

 

「二人の男は少年が強くなるのを手伝った。剣の使い方を教え、状況判断能力を鍛え、直感を鍛え、体も鍛えた」

 

「そして十年後、二人の男はある儀式で姿を消した」

 

「そして少年が大切に思っていた女性も消えた」

 

ここまで話すと暗流はフゥ、と息を吐く。

大分省略したがこれは紛れもない暗流の人生だった。

暗流は自分のこれまでを恨んではいない。むしろ良かったと思えている。

そう思えている時点で自分も綺礼と同じように『壊れている』のだと感じる。

 

耀の顔を見ると泣いていた。

 

「なぜ泣いている?」

 

「辛くないの?全部なくして、手に入れたものもまた失って」

 

「辛い、と思うこともあったが慣れてしまった。だからこそもう無くしたくないんだ」

 

それは数年前に決めた決意。

強大な『悪』のを持ってしまったからこそ、二度と失わないために決めた決意。

 

「今日はもう戻ろう。今度は耀の事を教えてくれ」

 

軽く笑いながら話しかける。

 

「いいよ。先戻ってるね」

 

耀は走りながらホームに帰っていく。

暗流は微笑しながら耀の背中を見守る。

 

「また、今度か・・・・・・グガッ!」

 

耀の姿が見えなくなったら暗流の心臓に鋭い痛みが走る。

この痛みを暗流は知っている。聖杯戦争時にサーヴァントが脱落していく度に起きる痛みと、『この世全ての悪』に関しているものだ。

 

ここ一年で胸ぎ痛む回数は増えていく。

それは全て『この世全ての悪』を使用してから24時間以内に起こる。

 

しばらくしたら痛みが引いたので暗流は深呼吸する。

 

「さて、どこまで持つか・・・」

 

暗流は爆音を無視しながらホームに戻っていった。

 


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