『この世全ての悪』を背負いし少年も異世界から来るそうですよ? 作:クロック
「終わったぞ」
シャドウサーヴァントと戦い終わった暗流は全くと言っていいほど傷はなかった。せいぜい汚れくらいだ。
「お主、今のはなんじゃったんじゃ」
「そうだぜ。それに『ノーフェイス・キング』ってのは」
「今はまだ話すつもりは無い。まあ、近いうちに話すがな」
暗流は白夜叉と十六夜の質問に答えず服に付いた汚れを払っていた。
「まあいい。全員無事で試練もクリアしたんじゃ。お主らには報酬を与えんとな」
「あっ、白夜叉様。ギフトの鑑定をお願いしたいのですが」
白夜叉はそれ以上追求してくることはなくなりギフトの鑑定を始めた。最初は耀の所有しているペンダントに意識が向いていたが本格的に鑑定を始めることになった。
「ふむふむ、四人とも素養が高いのがわかる。特に言峰とやらはな。しかしこれではなんとも言えん。おんしらは自分のギフトの力をどの程度把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「理解出来ない」
「仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのはわかるがそれじゃあ話が進まんじゃろ」
暗流の場合は本当に理解出来ないのだが。
体内に壊れ呪われていながらも聖杯を保有している暗流はどこまでできるのかがわからない。
「まぁ、何にせよ勝者には報酬を与えねばな」
白夜叉がパンパンと手を打つと暗流達の前にそれぞれ色の違うカードが現れた。
コバルトブルーのカードには 逆廻 十六夜 ギフトネーム〝正体不明〟
ワインブルーのカードには 久遠 飛鳥 ギフトネーム 〝威光〟
パールエメラルドのカードには 春日部 耀 ギフトネーム〝生命の目録〟〝ノーフォーマー〟
暗黒色のブラックなカードには 言峰 暗流 ギフトネーム
〝この世全ての悪〟〝マジカル八極拳〟〝壊れた聖杯〟主催者権限〝固有結界:■■■■■〟
黒ウサギはカードを見ると
「ギフトカード!」
と驚いた声を渡すが暗流達は
「お中元?」
「お年玉?」
「お歳暮?」
「これはどうやら貴重そうだ。目の前で切り刻むこともまた愉悦」
3人はボケで1人は危ない考えをしている。
「ちがいます!ギフトカードです!とっても高価なんですよ!それと暗流さんは剣を取り出すのはやめてください!」
「ちっ」
「舌打ちしないでください!これは顕現しているギフトも収納できる超高価なカードなんですよ!」
「って事はこの水樹ってのも入れられるのか」
「そうでございます」
暗流にとってはもうこれは射出不可能なギルガメッシュの宝具に見えてきた。そう思えば確かに高価だ。
「そのギフトカードは通称〝ラプラスの紙片〟。即ち全知の一旦。鑑定はできずともそれを見れば大抵のギフトは分かる」
白夜叉からカードの説明が入る。暗流が驚いたのは最後と八極拳位だ。今はもう宝具扱いにしてる。
「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ」
ん?と白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込むとそこには〝正体不明〟と書かれていた。
「いや、そんなバカな…」
白夜叉はありえないものを見てるかで言う。
「〝正体不明〟だと?いいやありえん、全知である〝ラプラスの紙片〟がエラーを起こすはずなど」
暗流はこのことを聞いてすぐに複数の仮説を用意し始めた。絞り込むのは今はやらない。
「何にせよ、鑑定はできなかったってことだ。それよりも俺は暗流のギフトカードの方が気になるがな」
「そうか。ほら、好きに見ろ」
他のみんなは内容を晒したが暗流だけ晒していなかったので近くにいた耀に渡してみんなで見始める。
見てすぐにみんなの顔色が変わる。
「ねえ、〝この世全ての悪〟って何?名前からして不吉そうなんだけど・・・」
「お嬢様、それは拝火教における悪神の名前だ。二元論の拝火教で悪を司っていたはずだが、名前は〝アンリ マユラ〟だったはずだ」
「いや、違うな」
「何?」
「違うとはどういうことじゃ?」
「白夜叉。歴史とはどこかで必ずねじ曲げられる。これもその産物。俺の〝この世全ての悪〟は世界中の悪意をたった一人で背負い生贄となった青年のことを表している。悪神とされていただけだよ」
「ならなぜお主にそんなギフトが宿っている」
ほう・・・的確だな、と内心褒めながら説明する。
「十年前にいろいろあってな。その時に取り憑かれた。もちろん記憶も断片的だがあるぞ」
苦しみのな、と付け加えて言葉を切る。
「どういうことじゃ!?!お主、聖杯を所有しているのか!?」
「聖杯って凄いの?」
飛鳥は昭和から呼び出されたので聖杯のことを知らないようだ。
「すごいなんてもんじゃねえよ、お嬢様。かつて騎士王であるアーサー王が円卓の騎士に探させた聖杯伝説、キリストの最後の晩餐に使われた杯。かなり有名だぞ」
「十六夜、それも違うぞ。俺の所有する聖杯は持ち主の願いを全て叶えるためのものだ。そして聖杯戦争の道具だ」
「なぬっ!持ち主の願いを全て叶えるためのものじゃと!?ありえん!そんなものがあってたまるか!」
「だが俺のはそんなにいいもんじゃない。壊れているし呪われている。俺の聖杯はどうやって人類を滅ぼすかの決定権を委ねるだけだ」
「「なっ!?」」
周りが驚いているのを他所に耀が暗流に問う。
「戦争の道具って?」
「いい質問だ。この聖杯を得るにはある儀式をする必要がある」
「その儀式って何かしら?」
「簡単だよ。7人のマスターとその使い魔、サーヴァントによる殺し合いだよ」
「「「なっ!?」」」
「暗流君はそれをしたの!?」
「いや、俺は十年前に聖杯に取り憑かれてな。今では役には立つからいいが。それと俺は聖杯戦争には参加してない。あくまで監督役の補佐だけだ」
「その使い魔ってのは?」
「さっきも見たろ。歴史や神話に出てくる英雄達。それを従えるんだよ」
「バカな!ただの人間が過去の英雄を従えられるはずがない!霊格が大きすぎる!」
「だから聖杯を中間に置くんだよ。それと過去だけじゃない、未来もだ」
最後の言葉に周りを絶句させる。それぞれの暗流を見る目は違った。
「なら最後の書かれてないのは何?」
「いや、それは俺にもわからん。固有結界を保有しているのは初めて知ったからな。おそらく内容は十年前のあの日・・・」
暗流の頭に思い浮かぶのは十年前のあの光景。
暗流の顔が暗くなったのを見ると周りはもう何も言わなくなった。
それから暗流達はホームに戻った。