『この世全ての悪』を背負いし少年も異世界から来るそうですよ? 作:クロック
世界が変わった。
問題児達と黒ウサギ、暗流は驚愕した。
前者二つは初めての経験、未知に。
暗流は戦慄していた。
暗流は似たような現象を知っている。
それはいつかの征服王が、正義の味方が使っていたもの。
現代では世界を塗り替える禁忌の術。
時計塔などにバレればホルマリン漬けで標本にされること間違いなしの代物。
『固有結界』
これは自分の心象を現実に表すもので、殆どが攻撃性が高いものが多く、人間でも英霊と互角にやりあえるほど強力なものだ。
だが発動には詠唱が必要でありそれも戦闘中には致命的なタイムロスになる。
だが白夜叉には詠唱がなかった。
ただ質問しただけ。
それだけで広大な白い世界を出した。
こんなことかでできる英霊はグランドキャスター位しかいない。
いや、グランドキャスターでもできないかもしれない。
これが神仏。神の領域に足を踏み入れた者。
勝てるはずがない、と暗流は思った。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟————太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは試練への〝挑戦〟か?それとも〝決闘〟か?」
目の前にいる元魔王は圧倒的な威圧感を出しながら再度問い掛ける。
目の前の新たな異世界からの挑戦者達へ。
「水平に廻る太陽と・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、お前自身を表現しているのか」
十六夜はどうやら謎に至ったようだ。
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。これが私が持つゲーム盤の一つだ」
「これがゲーム盤の一つか。こんなのが何個もあるなんて・・・やる気が失せるな」
「なにか嫌なことでもあるの?」
「春日部・・・あまり聞くものじゃないぞ」
「・・・なんかごめん」
暗流はこのゲーム盤を『固有結界』と似たようなものだと思っている。
だから、かの正義の味方が使った『固有結界』を思い出してしまう。
「参った、やられたよ。降参だ、白夜叉」
十六夜が両手を上げて白夜叉に答える。
「ふむ、それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」
「ああ、これだけのゲーム盤を出したからな。いいぜ、今回は黙って試されてやるよ、魔王様」
それは十六夜の最大限の強がりだった。
「くくく・・・して、ほかの童達も同じか?」
十六夜の強がりを笑って返す白夜叉。
「ええ。私も試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
「そうか。して、そこのお主はどうする」
白夜叉は唯一答えていない暗流に問う。
暗流は白夜叉のほうを見ずに彼方を見ている。
「俺も同じだ」
「分かった。ならそろそろ始めるかの」
白夜叉がパン!と手を叩くと一枚の羊皮紙が現れた。
羊皮紙には
『ギフトゲーム名〝鷲獅子の手綱〟
・プレイヤー一覧
逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
こ■世峰■■暗の■流
・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。
・クリア方法 力、知恵、勇気の何れかでグリフォンに認められる。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
〝サウザンドアイズ印〟』
書かれていた羊皮紙の暗流の名前部分は何かが混じった様に名前が組み合わさり、時折■で潰されていた。
何と何が合わさったかは暗流はすぐに思いついたが。
「お主、これは何じゃ?」
「いろいろ、複雑な事情があるんだよ」
「そうか」
それから白夜叉や他の人達は暗流に何も言わなかった。
「それはそうと、あ奴が来たようじゃな」
キエエエエエ、と甲高い鳴き声が空からした。
声のした方を見てみると一匹の動物がいた。
その動物は鷲の頭に獅子の体を持つ幻獣。
鷲獅子、グリフォンだった。
「さて、それじゃあ誰がやるのかのう」
「私がやる」
真っ先に耀が名乗り出た。
聞くところによると前からの夢だったようだ。
「別にいいぜ」
「いいわよ私は」
「好きにしろ」
暗流達は全員耀に譲った。
だが暗流は周りを見渡してキョロキョロしてる。
耀はグリフォンに近づいていく。
そして目の前まで行き話しかける。
「私と誇りをかけて勝負しませんか?」
グリフォンが鳴く。
耀以外には分からない返答だ。
「命を賭けます」
そして今度話した事はあまりに突飛な返答だった。
「駄目です!」
「春日部さん!?本気なの!」
「本気も本気」
「しかし————!」
「やめろ黒ウサギ」
「暗流さん!」
「やりたいならやらせておけ。それが一番あいつの為になる」
「しかし!」
言い争っている2人を見かねたのか、白夜叉が前に出る。
「双方下がらんか。これはあの娘から出した試練だぞ」
「ああ、無粋なことはやめとけ」
「そんな問題ではございません!同士にこんなゲームをさせるわけには——」
「大丈夫だよ」
耀は振り向いて答える。
そしてグリフォンに跨り一言話して飛び去っていく。
「さて、そろそろ始めようか」
「ん?どうした?」
不意に暗流が漏らした言葉に十六夜が反応した。
だが暗流は十六夜を無視する。
「白夜叉、お前も薄々気づいてるんだろ」
「確信したのはさっきじゃがな」
「お二人とも、どうしたのですか?」
「白夜叉、場所は分かるか?」
「いや、全くじゃ」
「だから、どうしたんだよ」
「アレだな」
暗流はグリフォンが飛んでいった反対方向を見る。
それにつられて十六夜達も同じ方向を見ると、そこには『影』がいた。その影は人の形をとっており、周りから黒いオーラのようなものが出ていた。
手には弓を持ち、マントのようなものを被っている『影』
「なんでございますの、あれは?」
「なんか、不気味ね」
黒ウサギと飛鳥は一歩下がる。
「おもしろそうじゃねえかよ、おい」
逆に十六夜は一歩前に出る。
「とりあえず俺の相手になれよ!」
十六夜は飛び出して『影』に殴りかかる。
『影』はすぐに後ろに下がり弓を構え矢を射る。
「んなもん効くか!」
十六夜は矢を無視してそのまま進もうとするが右足に矢が刺さった。
「なっ!」
十六夜にとっては予想外だった。
十六夜の体は銃弾でさえ貫通することがない体。
なのにそれを矢で貫いたのだから。
「くっ!動けねえ・・・」
やには即効性の毒が塗ってあったらしく十六夜は体がしびれて動けなくなった。
「十六夜さん!」
黒ウサギが飛び出そうとするが『影』は即座に黒ウサギに向けて矢を射った。黒ウサギには当たらなかったが、速さはかなりのものだったので動けずにいた。
『影』は今度は暗流達の後ろに弓を構える。
その先にいるのは、グリフォンと耀。
白夜叉も止めようとするが間に合わず、高速の矢が放たれた。
それは1キロほど離れたグリフォンの翼に刺さり、即座に毒を回らせ麻痺させた。
さらに弓を構える『影』。
そしてもう一度放たれる毒矢。
白夜叉はグリフォンの方に走り出している。
黒ウサギと飛鳥は耀の名前を叫ぶ。
十六夜はうずくまる。
だが矢は誰にも当たることは無かった。
途中で矢が斬られた。
バラバラに。
「なぜお前がこの場にいる。いや、どうせしゃべれないだろ。答える必要は無い。お前を俺の中に戻してやる」
斬った本人、暗流は仇を見るような目で『影』を見る。
そして両手に持った奇妙な形の短剣、『右歯噛咬』と『左歯噛咬』をしまう。
「さぁ来い、《ノーフェイス・キング》。俺が相手をしてやるよ」
暗流の顔に不気味な刺青が現れた。