『た、助けなさい!ほら、私たちは仲間でしょ!』
『おい待てよ!こんなことをすればただで済むと・・・!』
『ひぃ!?な、なんでこんなところにお前が・・・!』
私の振り下ろした鉈によって、悪魔の頭が弾けた。
主の言葉を刻んだ銀剣で、目の前の悪魔を斬り刻んだ。
潰れる音、突き刺す音、鳴き声、叫び声、そんな音が、私の周りで木霊した。
そして気が付けば、私の周りは、トマト祭りでも行われたような、真っ赤な光景しかない。
「主よ、私は今日も、憐れな悪魔たちを浄化しました。
私は今日も、主のために善行をしました。
ああ、今日はなんて素晴らしい日なんでしょう!」
私は大声で、心の底から主に感謝する。
この罪深き私に、主は悪魔を滅ぼす善行を与えてくださった。
天使様は、私に悪魔を浄化する術を与えてくださった。
だからこそ私は、善行をなすのだ。
それが私なりの、主への感謝だ。
祈りを捧げるだけでは駄目。信奉するだけでも駄目。
そう!主は、自らで行動する人を祝福するんです。
だから私は、今日も今日とて、善行をなす。
ああ、主よ!私は今日も元気です!
私が感極まって、主へ感謝の言葉を、祈りを捧げていると、後ろから音が聞こえた。
振り向けば、怯えた目をした悪魔が。
その姿は、凶暴で、残忍で、狡猾で、人を騙すような姿ではなかった・・・、
と、普通の人は思うだろう。
でも私には解る。解ってしまう。
この悪魔も、いずれは物の見事に立派な悪魔になる。
人を騙し、傷つけ、殺し、犯し、奪い、
多くの人間を不幸に、絶望に、憎悪の渦へと引き摺りこむ。
だったら、その禍根を断たないといけないよね?
私はにっこりと笑う。
そして悪魔の、全ての希望が断たれた、真っ黒に染まった目を、顔を見て、更に口元が歪む。
まるで、人を突き殺せるかのような三日月のように、口元を引き攣らせて笑う。
どうやら、私が見つけられない場所に隠れていたようで、
私が去ったら逃げようとしていたのだろう。
でも残念、世の中はそんなに甘くはないの。
常に世界は理不尽だらけ!終わりに向かって一直線!
世界は残酷、時代は惨く、悪魔の皆さん、皆地獄!
嘆くなら、自分の生まれと、種族と、時代と、祖先と、その他諸々を嘆いてくださいね?
私を恨んでも困ります。だって私には、一切関係ないからね!
だから、貴方がここでどうなるのかも、早くも遅くも、私には関係ないよね?
うん、関係ないの!
「たす・・・」
「サッカーキックゥゥゥゥ!!」
想いっきり、それを蹴り飛ばした。
壁に新たな赤ペンキが付け足されたが、私にとっては些細な出来事。
あーあ、脚が汚れちゃったぁ・・・。
帰ってシャワー浴びたいなぁ・・・。
うん、さっさと帰ろ。
そう思いながら、直ぐにその場から離れようとする。
「やあやあ!これはこれは!相変わらず惨たらしい場面でございますなぁ!
うわぁ・・・流石の俺っちもこれはドン引きレベルですわ、これ。
なんというか、もう18歳未満のお子様見ちゃダメ絶対!って感じ」
「・・・」
突如聞こえてきた声に、私は足を止めた。
人の神経を逆撫でる様な、下卑たる声とその口調。
振り返らずとも、私にはそいつの名前が理解出来た。
「おっそーい!フリードさんてば、遅いですよー?」
振り返れば、白髪で神父の恰好をした子供が、目の前の光景にはしゃいでいた。
フリード、フリード・セルゼン。
エクソシストの癖に、教会から追い出されたはぐれ者。
私と同じ、はぐれエクソシスト。
悪魔を殺すどころか、悪魔に関わる存在は、一般人だろうと容赦ない、
悪魔を滅ぼすためなら、ある意味で、一番理想的なエクソシスト。
何でも、悪魔を殺すのが楽しくなってしまった結果だとか。
まぁ、私にはどうでもいいですけど。
「いや~、すみません。道中でクソ悪魔さんたちと出会っちゃいまして!
ぜーんぶ、ちょちょいのぱっぱで終わらせてたら、遅れちゃいましたぁ!」
「もう、フリードさんは遊び過ぎでーす!
お仕事は、楽しみつつも適度な対応が大切なんですよぉ?
遊んでたらお仕事が出来ませんでした、時間に間に合いませんでした。
それは人として間違ってまーす!」
「姐さんだって楽しんでるじゃないですかぁ!?
ま、それにしもお疲れ様ですわ。しかし、何度見てもエグイっすねぇ。
姐さんが道を通ると、みんな真っ赤に染めてますもん。
まぁ、クソ悪魔にはお似合いですけど」
「その通り!悪魔は苦しませないとダぁメ。ダメなんですよ?
自分たちの犯した罪を自覚させてから、
煉獄の焼却場へとシューット!超エキサイティングデース!」
「まぁ、姐さんの考えは俺にはどーでもいいんですけどね。
俺は悪魔を殺せればいいんで!ビバ!悪魔狩り!」
声高に叫ぶフリードと私は、その場でハイタッチ。
やっぱりフリードさんと私は、解りあえる部分もあるが、解りあえない部分もある。
まぁ、そんなの私にはどーでもいいんです。
今の私は、直ぐにでも穢れたこの身を清めたいことだけなんで。
「それじゃ、フリードさぁん?私は早く帰りたいので、このままサヨナラしましょう!」
そう言ってその場を去ろうとした私に、フリードはまた声をかけてきた。
「そういえば姐さん、アーシア・アルジェントって知ってます?
何でも、悪魔を治療しちゃったせいで、教会から追放されちゃった聖女ちゃんだとか」
「いいえ、全く。ぜーんぜん。誰ですかそれ?」
フリードの言葉に、私は関心もなく答えた。
アーシア・アルジェントという名前なんて知らないからだ。
「え、マジ?マジで知らないの姐さん?
姐さんって、情弱じゃないの?めっちゃ盛り上がってる情報ですぜ?」
「知らないって言ったらしりません。で、ナンデスカ、その子。
え、悪魔を治療しちゃったの?聖女なのに?教会の人間なのに?
その上、追放?あはははははは、バッカみたーい!」
私は頻りに笑う。その面白い聖女様を。
それにしてもその聖女様、いえ『元』聖女様は面白い子ね。
敵対している悪魔を治療しちゃうなんて、本当に『面白い』子。
まるで、「悪魔にもいい人はいるんです!」と言っちゃうような、
純粋無垢の温室育ちの花のような、
その行為がどれほど悍ましい事か、まったく解っていない『優しい子』なんでしょうね。
その結果、聖女をはく奪されて魔女になるなんてねぇ。
同情は一切しないけど!
それにしても、どうして教会はその子を追い出しちゃったの?。
それじゃあ悪魔に、『どうぞ貰ってください』と言ってるようなものじゃない?
はっきり言って馬鹿でしょ?というか、バカだわー。きゃはははは!
その子を日の目につかない場所に監禁するか、それか憂いを断てばいいのに。
私ならそうするのになぁ。
めんどくさいことを後回しにすると、余分なツケを払わされちゃうんだから。
そういえば『皆殺しの司教様』の方も、同じように追放して野放しにしたんだっけ。
うん、やっぱ教会は馬鹿だわ。自分で自分の首を締めてる馬鹿だわ。
まぁ、私には関係ない事ですしー?教会がどうなろうと知ったことじゃないですしー?
「質問はそれだけ?なら帰っていい?
私ね、体中べとべとでね?もう我慢の限界なの?
これ以上引き留めたら・・・?」
「すんませんでした!ですから殺すのは勘弁してください!死にたくないんで!」
私の手から見えるナイフを見て慌てるフリードに、私は少し呆れた。
彼の『プライドなんて糞喰らえ!俺は生きるんです!』の姿勢は、私も尊敬してしまう。
最も、それ故に彼を信用なんて出来ないんだけど。
「それじゃあ、さようならフリードさん。さようなら!さようなら!
もう二度とお会いしたくないので、どこかでくたばってくださいねぇ!」
私はそう言いながら、フリードに手を振って歩いて行った。
「私に何か用かしらぁ、汚い羽の・・・カラス?鳩?あ、九官鳥!?
それとも、天使から無様に転落人生の、ダ・テ・ン・シ・ちゃんと呼んだ方が良い?
答えは聴いてないし、聞く気もないけどぉ」
「下等な人間が、私を侮辱するな!」
その後、あてもなく流され、多くの悪魔を処理してきました。
時には、堕天使の方に喧嘩を売られて、十倍+利子をつけてお返したり、
私よりも薄い、ぺらっぺらのオブラートみたいな信仰心のエクソシストを、
私の説法で改心させて、煉獄に叩き込んだりと、愉しい旅ではあったのですが。
気付けばカラスに取り囲まれている、わ・た・し。
私、貴女方に喧嘩を売る気はないんですけどね?
なんでそんなに睨んでくるのー?
え、ガンでもつけてるの?か・わ・い・い・ぞー?きゃはははは!
しょうがないからぁ、取りあえず、落ち着かせましょうか。
「まぁ恐い恐い。
まるで怯えた子供が『自分は凄いんだぞー!』と、
精一杯の見栄を張っているような、そんな怖さを感じちゃう!
可愛くなーい!」
「キサマァ!」
あれ?おかしいですね。心を開いて話したのに、勝手に怒られてしまったわ。
私の考えだと、私の言葉に感動し、その場で五体投地をすると思ったのに。
やっぱり、もう少し柔らかく、子供でも解りやすく言えば良いのかしら?
「そんなに怖い顔をしないでください。
余計に可哀想に見えちゃいますよ、カワイイ、だ・て・ん・し・ちゃん?」
「もういいわ、教会の人間だろうと関係ない!
エクソシストだろうと、私を侮辱する奴は死ねばいい!」
何やら相手の方は、たいそうご立腹の様子。
あらあら、なにやら光の槍まで出しちゃいましたよ。
もう、何で勝手に怒るんですか!正直、意味が解んなぁい!
ところで、あなた、レイナーレ?って言うんですか?
まぁ、どうせ刹那で忘れちゃう名前ですからいいですけどー?
あ、他にもお連れさんがいっぱーい!わぁー、わたしピンチですー。
まぁしかし、いたいけな私を殺そうとするなんて、どう見ても貴女が悪いですよね?
うん、悪いのは貴女で、私は被害者。はい、決定!
と、いうわけで!
「これで正当防衛成立ですねぇ?」
私は朱いコートから、銀製の剣を取り出すと、その切っ先をレイナーレ+その他に向ける。
主よ、今日も、私は元気です。元気に善行を成しています。
ですので、パパとママ、妹と妹の恋人には、
天国でスイートルームの好待遇をお願いします。
あ、私はNO THANK YOUなので。
「取りあえず滅ぼしちゃいますか」
死人に口なし。私は金無し。そして世界に神はなし。
愉しく遊びましょ?
「あら?貴女、悪魔ですか?しかもその朱い髪、私のフードと一緒ですね!
まさか、生き別れの家族?パパ!ママ!リーシャ!それにクリス!私、家族を見つけたわぁ!
どう考えても人違いだけどねー!きゃははははは!」
私はそういって、一しきり笑う。
そんな私の姿に、朱い髪の美少女や、金色の髪の少年、白髪の少女、黒髪の女の子に、
茶髪の男の子が、呆然とする。なんか白い修道女もいるけど。
あれ?なに?白けるわー。ノリが悪いわ、この子たち。
「この人、何を言ってるの・・・?」
「部長、気をつけてください。滅茶苦茶ですけど、この人、ただ者じゃないですわ」
「この頭の痛くなる喋りは、イカレ神父を思いしちまうぜ・・・」
「ひっどーい!私、敬虔たる神の徒ですよー?
イカレテルなんて言わないでください!怒りますよ!?
真面目過ぎて追い出されちゃった程なんですから!」
そう、真面目に悪魔を殺してきた、敬虔なる私をもって他に、
一体誰が敬虔と言えるのでしょう?言えないですよね!はい、決定!
「それにしても、あなた達、悪魔?悪魔ね?悪魔でしょ!?
じゃあ、正義と微笑女の私が、お仕置きしてあげるね!」
そう言って、私は、背負っていた鞄から、チェーンソーを取り出し、エンジンをふかせる。
その姿に、悪魔たちは驚くが、そんなの別にどうでもいい。
シスターっぽい子も驚いてるけど、それこそ別にどうでもいい。
朱いフードが風に煽られて外れ、くすんだ灰色の髪が揺れる。
悪魔に傷つけられた、私の醜い顔の傷が見られるけれど、別段どうでもいい。
「さあ、狼さん!一緒に遊びましょ!」
そして満月を背に、私は笑った。