思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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復讐はいけない

復讐はいけない

 

それが、彼らが私に向けて言った言葉だ。

 

復讐なんて駄目だ!

復讐は復讐を生み続けるだけだ!それって悲しいことだろ!?

 

茶髪の少年が私に言い放った。

少年の顔はとても悲しい顔をしていた。

まるで、私の悲しみを理解しているというかのように、

その顔には悲しみと憐れみが見て取れた。

俺はお前のことを思っているんだという、正義感に染まっている顔だ。

 

そうだよ、復讐はいけないんだ。

金髪の少年も、茶髪の少年に続いた。

復讐に囚われるのは、とても悲しいことなんだ。

君が復讐に囚われることを、君の大切な人たちは決して望んでなんかいないんだ。

君の気持ちは痛いほどに解るんだ。

でも、復讐なんかしても、大切な人たちは帰って来ないんだ。

だから君は、大切な人たちのためにも、復讐をやめて生きるべきなんだ。

その顔は、私に向けて同情や憐れみを見せてくれた。

まるで、自分の言葉で私を説得できると思っているかのように。

 

そうです、復讐はいけないんです!

金髪の少女が私に説法した。

復讐は、決して貴女の救いにはなりません!ただ、悲しみを生み続けるだけです!

誰も救われないんです!そんなの哀しいじゃないですか!

少女の目からは、溢れんばかりの涙が流れている。

少女は声をからして、私に復讐はいけないと訴え続ける。

自分の言葉が、私を救えると信じきっている顔だ。

 

そうだ、復讐はいけないんだ。

髪の一部が青い少女が私に言う。

殺し続けていれば、いずれお前も、復讐した相手の家族に復讐されて死ぬだけだ。

それはお前のためにならないし、それにアーシアも言っているだろ?

そんなのは哀しすぎるだろうと。

だから、復讐は止めるんだ。

その顔は真剣で、私のことを思っての言葉と信じきっている。

 

黒髪をちょんまげのような髪型にした少女が、

白髪の少女2人が、

髪を二つに止めた金髪の少女が、

銀髪の長身の女性が、

各々の言葉で私に告げる。

 

『復讐はいけない』と。

 

だから私はこう答えた。

 

『そうですね、復讐はいけませんね』

 

そして私は、復讐はいけないことを彼らに教えることにした。

 

 

まず始めに、私は彼らの住んでいる家族を、文字通りの意味で殺した。

どうやら茶髪少年の両親だったらしく、私にとっては好都合だった。

私は彼らに『復讐はいけない』ことを教えようと必死に頑張った。

死者を冒涜することは許されないので、じっくりとゆっくりと、丁寧に弄った。

それこそ、徹底的に弄り尽くした。頑張った私を、私は褒めてあげたいくらいだ。

弄りつくした後、私は二人の傍に『復讐はいけません』という事付けを置いた。

きっと彼らなら解ってくれるでしょう。

 

次に、彼らの友人らしい少年二人と一人の少女も、同じように殺した。

そして同じように、徹底的に弄くった上で、文字通りの意味で殺した。

今度はちゃんと、彼らに分かりやすいように、矢印もつけておいた。

これなら、迷子にならずに彼らを見つけてくれる。

私は、心遣いも出来る私を褒めてあげたいくらいだ。

彼らの傍の地面に、同じように『復讐はいけません』という文字を、

赤い文字ではっきりと大きく書いておいた。

きっと彼らなら解ってくれるでしょう。

 

次に、彼らの通っている学び舎に赴いた。

もちろん、同じことをするためだ。

その際、生徒会と名乗る少年少女たちが現れた。

お話をすると、なんと彼らの知り合いというではありませんか。

なので、同じように彼らも徹底的に弄って、文字通りの意味で殺した。

ただ、これだけでは物足りなかったので、学び舎にいた人々も含めて同じことをした。

学び舎の白い壁に、赤い文字で『復讐はいけません』と書いておいた。

きっと彼らなら解ってくれるでしょう。

 

こうして私は、所々で『復讐はいけません』という文字を書き残していく。

大丈夫、きっと彼らなら解ってくれるでしょう。

私に『復讐はいけない』と言ってくれた彼らなのですから、

彼らの心には『復讐はいけない』という気持ちでいっぱいに違いありません。

 

この行動を繰り返すこと十数回、彼らが再び私の前に現れてくれました。

私は彼らに笑顔で挨拶をしたのですが、彼らは何も答えてくれません。

それに不思議なことに、その表情は依然と全く別なのです。

彼らの顔には、私を殺してやるという気持ちでいっぱいな程に、醜く歪んでいるんです。

あの、復讐は哀しいことだと言った茶髪の少年なんか特に顕著です。

まるで鬼のような顔なんですから。

彼らの変容に、私は首を傾げざるを得ませんでした。

 

私はただ、彼らに『復讐はいけない』という事を身を持って学ばせてあげたというのに。

全ての悪魔、天使、堕天使を皆殺しにしたいだけの私に、

『復讐はいけない』と言ったのは彼らなのに。

私に対して、復讐は悪い、復讐はいけない、復讐は断ち切るべきだ、と言ってきたと言うのに。

 

それに、私と同じ立場になっただけじゃないですか。

家族を、友人を、知り合いを、何もかも失った私の体験を味わっただけなのに、

どうして彼らは怒っているのでしょう?

 

両親のおかげで生き延び、隠れていた私の目の前で、

悪魔に犯され、凌辱され、精神が壊れるまで犯し尽くされた挙句、

玩具のようにバラバラになったお母様。

最後には嬌声あげて凌辱された姿は、私の頭にこびり付いています。

その姿を見せつけられながら、手足を切り落とされて、何もできずに死んだお父様。

絶望と怒りと悲しみと無力さと憎悪に歪んだ顔は、今でも私の目に焼き付いています。

 

私の大切な友人たちも同じようにバラバラに解体されて、

積木細工のように置かれた姿を見た時、私は吐瀉物を地面にぶちまけた。

そう言えば、友達の顔ってどんなでしたっけ?あれ?おかしいですね。

ずっと一緒に遊んでいたはずなのですが、どうのも思い出せません。

目が空っぽだったことは覚えているのですが、そこからの記憶がありません。

そういえば、どうして目が真っ暗でしたっけ?疑問は尽きませんね。

 

あとは、供物のように串刺しで掲げられた町の人々を見た時、

私は大声で笑った、喉が枯れるまで笑い転げました。

だっておかしかったんですもの。

まるでモズの早贄のような光景を見れば、おかしくて笑ってしまいますでしょ?

私は、真っ赤な水溜りに転がりながら、ずっと笑い続けました。

 

僧衣を着た人々がやって来たのは、お日様とお月様が二回昇った頃だったでしょうか。

急いでやって来た彼らに、私は笑い転げてガラガラになった喉で、

蚊の泣くような声で、力のない手で縋りついて訴えた。

 

みんなを助けて。お父様やお母様を助けてと。

 

帰ってきた彼らの言葉は、今も耳に残っています。

 

『そんなことよりも悪魔の方が先だ』

 

そう言って、その人は私の手を払いのけた。

誰も彼もが、泥だらけの私を、雨ざらしのみんなを無視して去っていった。

彼らが帰ってくることは無かったので、私は一人で皆を埋めましたね。

泥だらけで、爪が剥がれた血まみれの手で、私は穴を掘って埋めました。

墓石もない、名前もない、ただのお墓を建てました。

 

私は彼らの自分の記憶を語りました。

でも彼らの目は、顔は変わらず、ただ私を殺すことしか考えていないのでしょう。

 

ああ、なんて理不尽なのでしょうか。

私には復讐は止めろと言ってきたと言うのに、

いざ私と同じ気持ちになったら、私を殺すことしか考えない。

 

ああ、なんて傲慢なのでしょう。

私の気持ちを理解していると、説得できると自惚れた結果だというのに。

本当の意味で理解してもらえるように、

私の経験をその身で体験してもらっただけなのに、彼らは私を殺そうとする。

ここは『君の気持ちは解った。でも、復讐はいけないから我慢するよ』でしょうに。

 

ここはひとつ、私も彼らに倣って説得しようと思います。

大丈夫、彼らなら解ってくれるでしょう。

私に復讐はいけないと言ってくれたのですから。

 

私は復讐に憑りつかれた哀れな彼らを、彼らにに倣って説得しましょう。

誠心誠意、心を込めて、同情を、憐れみを含めて、涙を流しながら。

 

「復讐はいけません!そんなの哀しいじゃないですか!

 あなた方の大切な人たちも、きっと復讐を望んでなんかいません!

 そんなことで人生を台無しにするなんて、それこそ亡くなった人たちが可哀想です!

 大切な人たちをことを思うなら、復讐なんかやめて、未来に生きてください!」

 

私は彼らに説いた。

 

『復讐はいけません』と


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