思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

43 / 43
スロースタートの弊害

俺は仲間の木場や小猫ちゃんと共に、急いで教会へと走っていた。

絶対にアーシアを助ける!気持ちが、俺を急がせる。

待ってろよアーシア!絶対に俺が助け出すから!

そして、アーシアが囚われている教会が見えてきた。

木場が手から魔剣を精製し、小猫ちゃんが手にグローブを嵌める。

確か、聖堂と宿舎があって、聖堂の方が怪しかったんだっけ?

そんなことを思いながら、俺たちは走る。

 

でも、なんだか様子がおかしい気がする。

なんかよく解らないけど、尋常じゃない気配を感じた。

それこそ、首筋に寒気を感じるくらい。

木場も小猫ちゃんも同じで、二人も顔を引き締めていた。

教会の門が見えてきた!

俺は腕に龍の籠手を出現させ、そのまま聖堂へと突入しようとし・・・俺たちは目を疑った。

 

「なんだよ、これ・・・」

 

人がいなくなって久しい教会とはいえ、あまりにも変わっていたからだ。

まるで怪獣か何かが通ったような、そんな惨状。

 

硬く閉じていただろう聖堂の両開きの扉は吹き飛び、

雨風を凌いだ壁の所々には、人が通れるくらいの大穴が開いていた。

一体全体どうなってるんだよ。

 

「一誠君、これは一体・・・?」

 

木場が俺に尋ねてくるけど、俺だってどうしてこうなったのか判らな・・・!

 

「まさか・・・!」

 

俺は公園であった黒い影を思い出した。

恐怖を体現したような存在。あのレイナーレが突然怯えだしたあの黒い影。

どういう理由か分からないけど、彼奴はレイナーレ達を追っていたような感じだった。

アーシアを連れ去っていったレイナーレ達を見ていたし。

まさかあいつがこれを!?

俺に様子に二人は何かを察したみたいで、小猫ちゃんが俺に訊いてきた。

 

「一誠先輩、何か知っているんですか?」

 

小猫ちゃんの言葉に、俺は首を縦に振る。俺は公園であった化け物のこと二人に話した。

 

「なるほど。この惨状もその怪物のせいだとしたら、急いがないとね」

 

 

木場の言葉に急かされ、俺たちは教会に入ると更に目を疑った。

レイナーレの仲間だろう神父たちが、そこらじゅうに散らばっていたんだから。

床に、壁に、そして開いた穴から外へ飛び出している奴もいる。

そしてその聖堂の中央には、レイナーレの仲間らしい堕天使たちがいた。

だがその有様に、俺は無意識に「ひでぇ・・・」と呟いていた。

 

確か、ドーナシークだったか?

俺が悪魔になってしまったのを知らなかった時に、はぐれ悪魔として殺そうとした堕天使がいた。

こいつもレイナーレの仲間だったのか。

他にも、なんか赤紫の服を着た女の堕天使や、

公園でアーシアとレイナーレを連れて行ったツインテールのゴスロリ堕天使もいた。

 

そしてその堕天使たち全員、

四肢はあらぬ方向へと螺子曲がり、堕天使の特有の黒い翼の片方が引き千切られていた。

口からは吐いただろう血がついていて、微かに動いている辺り、まだ生きているみたいだ。

いや、ギリギリ生かされていると言った方が良いかもしれない。

 

「惨いね」

 

木場の言葉に、俺は心の中で同意した。

 

って、早くアーシアを助けないと!俺は我に返って周囲を見渡す。

確か儀式をやるとか言ってたけど、そんなものはここには見当たらない。

ふと聖堂の奥を見れば、祭壇がずれて階段が見えた。

そうか地下か!

 

クソ、何が何だか分からねぇけど、早くしないとアーシアが危ない!

俺は木場と小猫ちゃんに顔を向けると、二人は何も言わずに頷く。

よし、行くぞ!

 

そう思って走り出そうとした途端、隠し階段から砂埃と轟音が聞こえた。

そして、何かが階段を上ってくる音がする。

カツン、カツンと、一歩ずつ響いてくる音。

俺たちは昇ってくる存在に警戒を強める。龍の籠手を纏った左手を強く握る。

 

そして俺たちは、身体が固まってしまった。

入り口から黒いあいつが出てきたからだ。

 

「一誠君」

 

木場の声に、俺は我に返った。彼奴を見た瞬間、俺はあいつに呑まれていたらしい。

木場の方を見れば、木場は魔剣を握りしめている。

その顔は、俺の嫌いなイケメンのすまし顔だが、その顔には汗が見えた。

小猫ちゃんの方も、強張った顔で、グローブをはめた両手を力いっぱいに握りしめている。

はぐれ悪魔を簡単に蹴散らした二人なのに、目の前の存在に汗を流している。

つまり、こいつはあの時の奴よりも上だってこと。

 

くそ!アーシアを助けに来たってのに!俺は萎えかける心を叱咤する。

そうだ、俺はアーシアを守ると誓ったんだ!だったら、こんなところで止まってる場合じゃねぇ!

俺は目の前の黒い影を睨みつける。

さっきから黒い影は、動かない。俺たちの動向を見ているのか?

そう思っていると、黒い影が俺たちに向かって何かを投げた。

べちゃりと音を立て、俺たちの目の前に落ちた物を見て、俺たちは目を見張った。

 

それは、先ほどの堕天使とは比べ物にならないほどに、

まるで、癇癪を起した子供が八つ当たりをしたかのように、

壊れたおもちゃのような姿のレイナーレだった。

四肢は螺子曲がり、羽根は両翼とも引き千切られ、顔はもはや別人と言っていいほどだ。

辛うじて、それが着ている服装から、レイナーレと判るくらいだ。

そして不思議なことに、そんな状態になっても、

後ろにいる堕天使と同じように、辛うじて生きてる。

 

これを、彼奴がやったっていうのか・・・?

 

その瞬間、俺の身体が石のように固まった。

今さっき、アーシアを助けると奮起したというのに、俺の心が恐怖に染まっていく。

黒い影が動く。俺の身体はびくりと震え、目を閉じてしまった。

俺は死ぬのか?そう思い、死を覚悟したというのに、一向に何も起きない。

不思議に思い、ゆっくりと目を開けると、黒い影は、隠し階段の入り口を指さしていた。

どうやら、奥に行け、と言ってるみたいだった。

もしかしたら、アーシアがいるかもしれない。

黒い影を見ると、俺の考えが分かったのか、顔を縦に振った気がした。

 

「木場、小猫ちゃん、俺、行ってくる」

 

俺は震える声で二人に言う。

何かしらないけど、彼奴は俺たちに危害を加える気はないみたいらしい。

二人ともそれを何となく解ったのか、顔を縦に振った。

 

「気をつけてね、一誠君。この場は僕たちが何とかするから」

 

「早く帰ってきてください」

 

「わかった!」

 

俺は階段へと走る。途中、黒い影とすれ違うが、影は俺をちらりと見ただけだった。

待ってろよアーシア!

 

 

 

 

 

一誠君が階段を下りて行くのを見届けると、僕たちは再び黒い影を見据える。

一誠君が言っていた、危険な存在っていうのが、多分、目の前の影で間違いないだろう。

参ったな、これでも部長のために戦ってきたのに、一向に身体の震えが止まらない。

 

「確かに、一誠君の言う通りだね」

 

恐い。今まであったのとは比べ物にならないくらいに、目の前の影に恐怖している。

塔城さんも同じみたいで、いつも通りの無表情なのに、顔からは汗が見える。

教会と堕天使や神父たちの惨状からして、目の前の黒い影は強いとみて間違いない。

それこそ教会の壁を穴だらけにし、堕天使たちを無残な姿に変えたんだ。

一瞬でも気を抜いたら、自分も同じ姿になってしまうだろう。

だから僕は、黒い影の一挙手まで神経を集中させる。

 

すると、一誠を見送った黒い影が動き出した。

ゆっくりと、教会の入り口の方へと歩く。どうやら帰るらしい。

僕は塔城さんと顔を見合わせ、互いに頷くと、影の前へと移動する。

 

「悪いけど、このまま君を帰らせるわけにはいかないんだ」

 

もし、このまま君を行かせて大暴れでもされたら、駒王町が危険だ。

 

「取りあえず、部長さんが来るまでここにいてください」

 

塔城さんも、進路を塞ぐように黒い影の前へ立つ。

すると、黒い影の雰囲気が変わった、

先ほどまで凪いでいた気配が、一気に膨れ上がった。

まるで暴風雨の中にいるかのように、僕たちはその気配に晒される。

そして一瞬、その気配が消え、虚を突かれた瞬間、

 

「GHAAAAAaaaあああaaaaaあAAあああああAHhああああああ!!!!」

 

黒い影の叫びと共に、まるで津波の如く押し寄せた殺意に、僕は意識を呑みこまれた。

 

 

俺が気を失っているアーシアを背負って階段を上がると、

俺は木場と小猫ちゃんが倒れているのを見た。

あの黒い影が何かしたのかと思い、俺は急いで二人に掛けった。

二人はただ気を失っていると分かると、俺は安心の溜息を吐いた。

その後、部長と朱乃さんがやって来た。

どうやら、レイナーレたちの活動について、上と連絡をしていたらしい。

なんとか話がついて、急いで駆け付けたということだ。

 

その後、目を覚ました木場と小猫ちゃんの話を聞いて、

部長はその黒い影を危険な存在として、対応することを決めた。

ズタボロになっているレイナーレ達については、堕天使側に引き渡すみたいだ。

ズタボロの姿で連れられていくレイナーレの姿は、

俺の中に何も言えない感情を残し、気付けば涙が流れていた。

 

翌日、俺は眠そうな目を擦りながら、オカルト研究部の扉を叩いた。

昨日のことについて、部長と話をしなきゃいけないと思ったから。

そして俺は、レイナーレ達が堕天使側に処分を受けたことや、

アーシアのことについてなど、色々と教えられた。

俺たちが遭遇した危険な黒い影についても、俺たちで捕まえることになった。

俺は複雑な思いを抱きながらも、俺は部長のために頑張ることを決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「和花、なーに見てるの?」

 

「ひゃい!?」 

 

突然話しかけられた声に、私は素っ頓狂な声を上げた。

振り返れば、桐生ちゃんがニヤニヤ顔で私を見ていた。

 

「酷いよ桐生ちゃん!急に声をかけられたせいで、変な声を出しちゃったじゃない!」

 

「ごめんごめん。和花がぼーっしてるのが珍しくてさ。

 それで和花、さっきから何見てたのよ?」

 

桐生ちゃんが、教室の窓から外を見る。

その視線の先には、学校の有名人がいた。

 

「ははーん?やっぱり和花も気になるんだ。

 変態の一誠が、どうしてリアス先輩等と登校するのがさ」

 

「まあ・・・ね」

 

私の言葉に、桐生ちゃんはうんうんと肯く。

 

「ほんと不思議よね。それこそ、なにか催眠術でも使ったんじゃないの?って言われてるわよ」

 

「そうなんだ」

 

「あ、そうだ!そう言えば噂に新しいのが追加されたんだけど、知ってる?」

 

そう言うと、桐生ちゃんは私にそれを見せてくれた。

曰く、黒い人影が、大きな獣と戦っているのを見たとか。

詳細は判っていないけど、

急に寒気を感じてふと外を見ると、なにやら獣らしき影が戦っていたとか。

それで、恐怖に苛まれて、その場から逃げ出したんだって。

 

「でも、それはただの噂なんだよね?」

 

「まあね、でもこの駒王町って、なにやら色々あるじゃない?

 もしかしたら、本当かもしれないわよ」

 

意味ありげな顔をする桐生ちゃんに、私は「そんなことないよ」と言っておく。

 

「そう言えば和花、その包帯どうしたの?昨日はそんなのしてなかったじゃん」

 

「ちょっと、猫を撫でようとしたら、引っ掻かれちゃって」

 

「ちゃんと病院に行った?気をつけなよ。野良ネコに引っかかれると大変だから」

 

「うん、大した怪我じゃかったから」

 

心配してくれる桐生ちゃんに、安心させようと、私は何でもないと言う。

 

「なら良いけどね。っと、もうすぐ授業の時間ね、それじゃまたね」

 

私は桐生ちゃんに手を振った。そして包帯を撫でつつ、リアス先輩たちを見る。

私は私なりにこの町を守っているのに、私を危険な存在と言い、私を捕まえようとした。

包帯の傷は、その時に出来た物だ。それは酷く、俺をムカつかせた。

 

次に会った時は、本気でやってもいいのかな?と、

私(俺)は金色の瞳で彼らを見据え、犬歯を覗かせるほどに、口元を歪めるのだった。




たらればだけど、アーシアの救出って遅い気がするんだよね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。