俺は仲間の木場や小猫ちゃんと共に、急いで教会へと走っていた。
絶対にアーシアを助ける!気持ちが、俺を急がせる。
待ってろよアーシア!絶対に俺が助け出すから!
そして、アーシアが囚われている教会が見えてきた。
木場が手から魔剣を精製し、小猫ちゃんが手にグローブを嵌める。
確か、聖堂と宿舎があって、聖堂の方が怪しかったんだっけ?
そんなことを思いながら、俺たちは走る。
でも、なんだか様子がおかしい気がする。
なんかよく解らないけど、尋常じゃない気配を感じた。
それこそ、首筋に寒気を感じるくらい。
木場も小猫ちゃんも同じで、二人も顔を引き締めていた。
教会の門が見えてきた!
俺は腕に龍の籠手を出現させ、そのまま聖堂へと突入しようとし・・・俺たちは目を疑った。
「なんだよ、これ・・・」
人がいなくなって久しい教会とはいえ、あまりにも変わっていたからだ。
まるで怪獣か何かが通ったような、そんな惨状。
硬く閉じていただろう聖堂の両開きの扉は吹き飛び、
雨風を凌いだ壁の所々には、人が通れるくらいの大穴が開いていた。
一体全体どうなってるんだよ。
「一誠君、これは一体・・・?」
木場が俺に尋ねてくるけど、俺だってどうしてこうなったのか判らな・・・!
「まさか・・・!」
俺は公園であった黒い影を思い出した。
恐怖を体現したような存在。あのレイナーレが突然怯えだしたあの黒い影。
どういう理由か分からないけど、彼奴はレイナーレ達を追っていたような感じだった。
アーシアを連れ去っていったレイナーレ達を見ていたし。
まさかあいつがこれを!?
俺に様子に二人は何かを察したみたいで、小猫ちゃんが俺に訊いてきた。
「一誠先輩、何か知っているんですか?」
小猫ちゃんの言葉に、俺は首を縦に振る。俺は公園であった化け物のこと二人に話した。
「なるほど。この惨状もその怪物のせいだとしたら、急いがないとね」
木場の言葉に急かされ、俺たちは教会に入ると更に目を疑った。
レイナーレの仲間だろう神父たちが、そこらじゅうに散らばっていたんだから。
床に、壁に、そして開いた穴から外へ飛び出している奴もいる。
そしてその聖堂の中央には、レイナーレの仲間らしい堕天使たちがいた。
だがその有様に、俺は無意識に「ひでぇ・・・」と呟いていた。
確か、ドーナシークだったか?
俺が悪魔になってしまったのを知らなかった時に、はぐれ悪魔として殺そうとした堕天使がいた。
こいつもレイナーレの仲間だったのか。
他にも、なんか赤紫の服を着た女の堕天使や、
公園でアーシアとレイナーレを連れて行ったツインテールのゴスロリ堕天使もいた。
そしてその堕天使たち全員、
四肢はあらぬ方向へと螺子曲がり、堕天使の特有の黒い翼の片方が引き千切られていた。
口からは吐いただろう血がついていて、微かに動いている辺り、まだ生きているみたいだ。
いや、ギリギリ生かされていると言った方が良いかもしれない。
「惨いね」
木場の言葉に、俺は心の中で同意した。
って、早くアーシアを助けないと!俺は我に返って周囲を見渡す。
確か儀式をやるとか言ってたけど、そんなものはここには見当たらない。
ふと聖堂の奥を見れば、祭壇がずれて階段が見えた。
そうか地下か!
クソ、何が何だか分からねぇけど、早くしないとアーシアが危ない!
俺は木場と小猫ちゃんに顔を向けると、二人は何も言わずに頷く。
よし、行くぞ!
そう思って走り出そうとした途端、隠し階段から砂埃と轟音が聞こえた。
そして、何かが階段を上ってくる音がする。
カツン、カツンと、一歩ずつ響いてくる音。
俺たちは昇ってくる存在に警戒を強める。龍の籠手を纏った左手を強く握る。
そして俺たちは、身体が固まってしまった。
入り口から黒いあいつが出てきたからだ。
「一誠君」
木場の声に、俺は我に返った。彼奴を見た瞬間、俺はあいつに呑まれていたらしい。
木場の方を見れば、木場は魔剣を握りしめている。
その顔は、俺の嫌いなイケメンのすまし顔だが、その顔には汗が見えた。
小猫ちゃんの方も、強張った顔で、グローブをはめた両手を力いっぱいに握りしめている。
はぐれ悪魔を簡単に蹴散らした二人なのに、目の前の存在に汗を流している。
つまり、こいつはあの時の奴よりも上だってこと。
くそ!アーシアを助けに来たってのに!俺は萎えかける心を叱咤する。
そうだ、俺はアーシアを守ると誓ったんだ!だったら、こんなところで止まってる場合じゃねぇ!
俺は目の前の黒い影を睨みつける。
さっきから黒い影は、動かない。俺たちの動向を見ているのか?
そう思っていると、黒い影が俺たちに向かって何かを投げた。
べちゃりと音を立て、俺たちの目の前に落ちた物を見て、俺たちは目を見張った。
それは、先ほどの堕天使とは比べ物にならないほどに、
まるで、癇癪を起した子供が八つ当たりをしたかのように、
壊れたおもちゃのような姿のレイナーレだった。
四肢は螺子曲がり、羽根は両翼とも引き千切られ、顔はもはや別人と言っていいほどだ。
辛うじて、それが着ている服装から、レイナーレと判るくらいだ。
そして不思議なことに、そんな状態になっても、
後ろにいる堕天使と同じように、辛うじて生きてる。
これを、彼奴がやったっていうのか・・・?
その瞬間、俺の身体が石のように固まった。
今さっき、アーシアを助けると奮起したというのに、俺の心が恐怖に染まっていく。
黒い影が動く。俺の身体はびくりと震え、目を閉じてしまった。
俺は死ぬのか?そう思い、死を覚悟したというのに、一向に何も起きない。
不思議に思い、ゆっくりと目を開けると、黒い影は、隠し階段の入り口を指さしていた。
どうやら、奥に行け、と言ってるみたいだった。
もしかしたら、アーシアがいるかもしれない。
黒い影を見ると、俺の考えが分かったのか、顔を縦に振った気がした。
「木場、小猫ちゃん、俺、行ってくる」
俺は震える声で二人に言う。
何かしらないけど、彼奴は俺たちに危害を加える気はないみたいらしい。
二人ともそれを何となく解ったのか、顔を縦に振った。
「気をつけてね、一誠君。この場は僕たちが何とかするから」
「早く帰ってきてください」
「わかった!」
俺は階段へと走る。途中、黒い影とすれ違うが、影は俺をちらりと見ただけだった。
待ってろよアーシア!
一誠君が階段を下りて行くのを見届けると、僕たちは再び黒い影を見据える。
一誠君が言っていた、危険な存在っていうのが、多分、目の前の影で間違いないだろう。
参ったな、これでも部長のために戦ってきたのに、一向に身体の震えが止まらない。
「確かに、一誠君の言う通りだね」
恐い。今まであったのとは比べ物にならないくらいに、目の前の影に恐怖している。
塔城さんも同じみたいで、いつも通りの無表情なのに、顔からは汗が見える。
教会と堕天使や神父たちの惨状からして、目の前の黒い影は強いとみて間違いない。
それこそ教会の壁を穴だらけにし、堕天使たちを無残な姿に変えたんだ。
一瞬でも気を抜いたら、自分も同じ姿になってしまうだろう。
だから僕は、黒い影の一挙手まで神経を集中させる。
すると、一誠を見送った黒い影が動き出した。
ゆっくりと、教会の入り口の方へと歩く。どうやら帰るらしい。
僕は塔城さんと顔を見合わせ、互いに頷くと、影の前へと移動する。
「悪いけど、このまま君を帰らせるわけにはいかないんだ」
もし、このまま君を行かせて大暴れでもされたら、駒王町が危険だ。
「取りあえず、部長さんが来るまでここにいてください」
塔城さんも、進路を塞ぐように黒い影の前へ立つ。
すると、黒い影の雰囲気が変わった、
先ほどまで凪いでいた気配が、一気に膨れ上がった。
まるで暴風雨の中にいるかのように、僕たちはその気配に晒される。
そして一瞬、その気配が消え、虚を突かれた瞬間、
「GHAAAAAaaaあああaaaaaあAAあああああAHhああああああ!!!!」
黒い影の叫びと共に、まるで津波の如く押し寄せた殺意に、僕は意識を呑みこまれた。
俺が気を失っているアーシアを背負って階段を上がると、
俺は木場と小猫ちゃんが倒れているのを見た。
あの黒い影が何かしたのかと思い、俺は急いで二人に掛けった。
二人はただ気を失っていると分かると、俺は安心の溜息を吐いた。
その後、部長と朱乃さんがやって来た。
どうやら、レイナーレたちの活動について、上と連絡をしていたらしい。
なんとか話がついて、急いで駆け付けたということだ。
その後、目を覚ました木場と小猫ちゃんの話を聞いて、
部長はその黒い影を危険な存在として、対応することを決めた。
ズタボロになっているレイナーレ達については、堕天使側に引き渡すみたいだ。
ズタボロの姿で連れられていくレイナーレの姿は、
俺の中に何も言えない感情を残し、気付けば涙が流れていた。
翌日、俺は眠そうな目を擦りながら、オカルト研究部の扉を叩いた。
昨日のことについて、部長と話をしなきゃいけないと思ったから。
そして俺は、レイナーレ達が堕天使側に処分を受けたことや、
アーシアのことについてなど、色々と教えられた。
俺たちが遭遇した危険な黒い影についても、俺たちで捕まえることになった。
俺は複雑な思いを抱きながらも、俺は部長のために頑張ることを決意するのだった。
「和花、なーに見てるの?」
「ひゃい!?」
突然話しかけられた声に、私は素っ頓狂な声を上げた。
振り返れば、桐生ちゃんがニヤニヤ顔で私を見ていた。
「酷いよ桐生ちゃん!急に声をかけられたせいで、変な声を出しちゃったじゃない!」
「ごめんごめん。和花がぼーっしてるのが珍しくてさ。
それで和花、さっきから何見てたのよ?」
桐生ちゃんが、教室の窓から外を見る。
その視線の先には、学校の有名人がいた。
「ははーん?やっぱり和花も気になるんだ。
変態の一誠が、どうしてリアス先輩等と登校するのがさ」
「まあ・・・ね」
私の言葉に、桐生ちゃんはうんうんと肯く。
「ほんと不思議よね。それこそ、なにか催眠術でも使ったんじゃないの?って言われてるわよ」
「そうなんだ」
「あ、そうだ!そう言えば噂に新しいのが追加されたんだけど、知ってる?」
そう言うと、桐生ちゃんは私にそれを見せてくれた。
曰く、黒い人影が、大きな獣と戦っているのを見たとか。
詳細は判っていないけど、
急に寒気を感じてふと外を見ると、なにやら獣らしき影が戦っていたとか。
それで、恐怖に苛まれて、その場から逃げ出したんだって。
「でも、それはただの噂なんだよね?」
「まあね、でもこの駒王町って、なにやら色々あるじゃない?
もしかしたら、本当かもしれないわよ」
意味ありげな顔をする桐生ちゃんに、私は「そんなことないよ」と言っておく。
「そう言えば和花、その包帯どうしたの?昨日はそんなのしてなかったじゃん」
「ちょっと、猫を撫でようとしたら、引っ掻かれちゃって」
「ちゃんと病院に行った?気をつけなよ。野良ネコに引っかかれると大変だから」
「うん、大した怪我じゃかったから」
心配してくれる桐生ちゃんに、安心させようと、私は何でもないと言う。
「なら良いけどね。っと、もうすぐ授業の時間ね、それじゃまたね」
私は桐生ちゃんに手を振った。そして包帯を撫でつつ、リアス先輩たちを見る。
私は私なりにこの町を守っているのに、私を危険な存在と言い、私を捕まえようとした。
包帯の傷は、その時に出来た物だ。それは酷く、俺をムカつかせた。
次に会った時は、本気でやってもいいのかな?と、
私(俺)は金色の瞳で彼らを見据え、犬歯を覗かせるほどに、口元を歪めるのだった。
たらればだけど、アーシアの救出って遅い気がするんだよね。