思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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1瞬の安らぎ、瞬間の絶望

身体を動かすのが好きな私は、ちょくちょく休みは出かけている。

時間があれば、ちょくちょくと何処かへ足を運ぶ。

 

お母さんのお手伝いが必要なかったり、友人の桐生ちゃん等と遊びに誘われたりしなければ、

基本は一人で興味があるものを見に行くことが多いかな。

最近だと、博物館で『黄金伝説-古代から輝く宝物-』を見に行ったり、

『神話を描く』といった絵画展を見るために遠出をしたり、

『ベルベットルーム-表裏の自分』なんてちょっと気になる映画を見に行ったこともあった。

 

『黄金伝説』は名前の通り、金の装飾品がガラスケース内で飾られていたし、

『神話を描く』は、数多くの神話にちなんだ絵が展覧されていた。

『ベルベットルーム』は、アニメ映画なのにジャズの音楽がたくさん使われていて、

その曲もCDが出たら買おうかな?と思っているほどに好きなものばかりだ。

因みに、『ハートフル・スマイル』という曲がお気に入り。

 

私のお気に入り映画をもう一つ上げるなら、『ムーンセル・エクストラ』を挙げるかな。

これも名前に惹かれて、一目で大好きになった作品だ。

私のお気に入りのシーンは、ボロボロの主人公がただ前へと足を進めるだけのシーン。

地味と言われてしまえばそうだけど、私は大好き。

 

そんなこんなで、いつものように外へ出かけた私だけど、今日は頭を悩ませている。

どうしよう、どこに行こうか決まらないのだ。

博物館は先週行ったから、催し物は変わらないのでパス。

最新映画は、公開されてまだ日が浅いので、大勢のお客さんがいるよね。

いい席で見れなさそうだからで止めとこう。かといって、他の映画はいまいちピンとこない。

博物館も映画館もダメ、かといって美術館まで遠出をする気が起きない。

 

ということで今日は、

 

「おいしいもの、探そう!」

 

私はデザートを求めて歩き始めた。

 

「喫茶店生資堂の、チョコパフェは、チョコの苦みとアイスの甘みが、抜群。

 盛られたフルーツも、新鮮だし、果物の酸味も、相性ばっちし」

 

偶然見つけたチェーン喫茶である、生資堂のチョコパフェに満足し、私は店を出た。

生資堂は、長い歴史を持つ喫茶店で、老舗の青果店でもある。

ゆえに、新鮮なフルーツが評判だ。

そのため、お客の足は途切れることはないのだが、偶然空いていたのだ。

念願の生資堂限定のチョコパフェに舌鼓を打った私は、まさに至福の時を過ごしていた。

 

私の方は気付いたけど、店内では搭城小猫ちゃんが、ケーキを食べていた。

なお、彼女のテーブルの上には、多くのケーキが置かれていたのだが。

塔城ちゃん、絶対に血液が砂糖ジュースに変わりそうな量だったけど大丈夫かな・・・。

あまりに美味しそうに食べていたので、声をかけることはしなかったけど、

私は塔城ちゃんの健康を酷く心配してしまった。

でも、

 

「塔城ちゃんも、甘い物、好きなんだ」

 

無表情であまり喋らないと言われている塔城ちゃんは、

学園ではミステリアスロリ系少女として、その容姿も含めてマスコットな愛され方をしている。

でも私から見れば、良く解らない謎の後輩という感じだった。

塔城ちゃんを含めて、オカルト研究部の変な感じを含めて、むしろ恐い印象だ。

もちろん、交流自体が無いのだから、実際はどうなのか解るはずもないけどね。

しかし、偶然にも塔城ちゃんの珍しい姿を目撃したことで、

私は少し、塔城ちゃんのことを好きになれたと思った。

塔城ちゃんも、あんな風な顔をするんだぁと身近に感じられたから。

やっぱりお出かけは、偶然という出会いに満ちているとえた。

 

「さて、次は・・・」

 

今度は和菓子の涼口屋にでも行こうかな?

確か、あそこはどら焼きが早く完売するほどの人気商品だ。

今の時間だと、まだ買えるかな?

そんなことを考えていると、目の前を通り過ぎた存在に私は目を奪われた。

 

「え、あれって・・・」

 

一人は、もはや言うまでもないエロトリオ筆頭の兵藤一誠である。

そしてもう一人は、真っ白な服を着た金髪の女の子だ。

二人は楽しそうに歩いていた。私は目の前の光景が信じられなかった。

「げへへへぇ、女の子のおっぱいは最高だぜぇぇぇl!」の一誠(あくまで和花の妄想)が、

基本的に女の子に好かれる筈がない。

それこそ、あんな風に女の子から笑顔が向けられるはずがない。

ということは、あの子は一誠を知らないことになる。

 

「まさか一誠は・・・」

 

まさか一誠は、自分を知らない女の子に優しくして、そして悪辣なことをする気では?

私の頭の中では、変態一誠が金髪の少女にあんなことやこんなことをしている絵が浮かんだ。

 

なお、この知識は酔っぱらった私のお爺さんが、小さかった私に教えてくれたことだ。

男は狼だから気をつけるのじゃよ?捕まったらにゃんにゃんな目にあわされるぞ?と。

そう、お爺さんが笑いながら語ってくれた。

あの時は全く分からなかったが、保健を勉強していた際に思いだし、

火が出そうな位に顔を真っ赤にいたことを覚えている。

 

「と、止めないと!」

 

私は変態一誠の蛮行(妄想)を阻止するべく、一目散に二人を追いかけた。

電柱やら郵便ポストなどに身を隠して、二人から見えないように追跡をした。

まぁ、二人はゲームセンターに入り浸り、クレーンゲームなどをやっていた。

 

「あれ?」

 

変態一誠の犯罪を阻止するべく、もしもいかがわしいところに連れ込んだら、

直ぐに取り押さえようと待っていたのだが、どう見てもそんな場所へは行かない。

それこそ健全なデートにしか見えない。

始めは、騙されるものか!きっと途中で本性を出すに決まっている!と疑心をしていた。

しかし、いつまでたっても二人とも仲良く遊んでいるばかり。

その姿を見ている内に、私はこう思うようになってきた。

 

「もしかして、私の勘違い?」

 

私はそれこそ、今までの二人の行動を見て、そう結論付ける。

なぁんだ、私の勘違いかぁ・・・あははははは・・・。

 

「私って心が汚れているのかなぁ・・・」

 

結局、一誠と少女は仲良く遊んでいるだけだった。

最後まで見ていた私は一体何をしていたんだろうか・・・。

私は、公園に入った二人を見て、自分が汚れてしまった気がして、酷く落ち込んだ。

 

よし、問題はなかったんだから気を取り直そう!

と言うわけで、次はどうしようか。

といっても、空は赤から黒へと移り変わっているので、もう家に帰るしかないのだが。

まあでも、途中で何かお土産でも買ってこう。

そうだ、大熊猫屋の小豆ういろうでも買っていこうかな。

 

「お母さん、喜んでくれるといいなぁ」

 

気を取り直した私は、大熊猫屋に足を向けようと方向を変えた。

 

突如、公園から叫び声が聞こえた。

私は振り返り、一目散に公園へと駆けこむ。

まさか、まさか私が気を許した隙にあの変態が・・・!

取りあえず、一誠をフルボッコにするつもりで公園に入ると、変態と少女がいた。

だがその光景は、私が思っていた悲劇のシーンとは違っていた。

 

あれ?変態が少女を背にしてる。まるで何かから守るように。

その光景に私は疑問を覚え、二人が見ている方向へ顔を動かす。

そこには第3者がいた。

黒い髪と白髪が混ざった長髪を靡かせ、片方がボロボロの黒い翼を生やした女がいた。

その顔、その姿、その言動を見た時、私の心が切り替わった。

 

 

 

 

「アーシア!その下級悪魔を助けたかったら、私たちと一緒に来なさい!

 じゃないと、今すぐこの悪魔を殺すわよ!」

 

目の前のレイナーレが、俺に光の槍を向けながらアーシアに言う。

クソ!さっき一撃をくらったせいで、身体がまともに動かねぇ。

だからと言って、アーシアをあんな奴の所に行かせるわけにはいかない!

 

「行っちゃ駄目だアーシア!俺は大丈夫だから!」

 

クソ!動けよ俺の身体!ここで頑張らないとアーシアが!

 

「ごめんなさい、一誠さん。私・・・」

 

だがアーシアは俺のことを解っているかのように、レイナーレの方へと行く。

 

「良い子ねアーシア。あなたが私に素直に従ってくれるなら、こいつは助かるの。

 あなたがおとなしくすれば、この悪魔を助けられるの。だから解るでしょ?」

 

「・・・・はい」

 

「アーシアぁぁぁ!!」

 

必死に叫ぶ俺の思いも空しく、アーシアはレイナーレの方へと向かう。

そしてアーシアがレイナーレへとたどり着くその瞬間、激しい音と衝撃、砂煙が舞った。

 

「な、何なんだよ!?」

 

突然のことでよく見えなかったが、空から何かが落ちてきたように見えた。

突如舞い上がった砂煙に咽ながら、俺はアーシアを見る。

アーシアも、何が起きているのか解っていないようで、突然のことでおろおろしているみたいだ。

よし、今のうちにアーシアを!俺は無理やり体を動かしながら、アーシアの方へと動く。

 

そんな中、舞っていた砂煙が晴れ、それは姿を現した。

それは人の形をしているが、周りを黒い靄で覆われていて、辛うじて人だと解るくらいだった。

頭らしいところから細長い何かが、まるで蛇のようにうねっている。

そしてそこから見えるのは、金色に輝く目のようなもの。

 

 

それを見た俺は、全身を何かに掴まれた感覚に陥った。

 

『恐い』

 

そう、恐いんだ。まるで絶対的な何か、自分では到底太刀打ちできない何かが目の前にいた。

 

前に部長が、俺に駒の能力とオカルト研究部のみんなの力を見せてくれるために、

俺を連れてはぐれ悪魔を討伐したことを思い出した。

あの時は初めての実戦で自分は少し怖かったが、共に戦うみんながいてくれたから平気だった。

だが、目の前にいる存在は、そんなはぐれ悪魔とは違う。

 

『恐い』『逃げたい』『壊される』

 

一瞬で俺の心を恐怖に染め上げた。

 

あれは『恐怖』だ。『恐怖』が形を成したものだ。

ちらりとアーシアを見たが、彼女は意識を失って地面に倒れていた。

 

 

「あ、あAああAぁああぁぁ、AあああああああぁAAぁあ!?」

 

誰かが声を張り上げた。

 

俺は突然のことに混乱しつつも、声の方をを見て驚いた。

レイナーレが叫んでいたんだから。

さっきまで俺を見下していたレイナーレの顔は恐怖に歪んでいて、

その目は信じられないものを見たかのように見開いている。

 

「なんで・・・!?ナン、で、こんな時・・・ニ!?

 いや、嫌だ!私は・・・壊される?ヒィ!?く、来るなぁぁぁぁ!!」

 

レイナーレが、まるで少女のように取り乱していた。

一体なんであいつが現れたのかは良くわかんねぇけど、

あいつは今、アーシアから目を逸らしている。

今がチャンス!

 

俺は震える身体を必死に動かして、気絶したアーシアへと駆け寄る。

 

「アーシア、しっかりしろ!」

 

俺はアーシアに手を伸ばす。だが、あと少しで手が届く寸前、アーシアの姿が消えた。

 

「な、なんなんすかアレ!!

 レイナーレ様が遅いから来てみたら、あ、あいつなんなんっすよぉ!?」

 

上を見ると、気絶したアーシアをツインテールの少女が抱えていた。

その背中には、レイナーレと同じ黒い翼が生えている。あいつも堕天使か!

 

「レイナーレ様!レイナーレ様!!落ち着いてください!

 目的の物は手に入れましたから、早く逃げるっす!」

 

「助けてタスケテ助けてたすけてタスけて・・・」

 

震えるレイナーレを、アーシアを抱えた金髪堕天使が引っ張り、三人は消えていった。

黒い靄の人影は、3人が飛んで行った方へと顔を向ける。

そして、3人が飛んで行った方へと身体を向けた。どうやら追いかけるみたいだ。

 

「ま、待て!」

 

俺は黒い靄を呼び止めた。

震える足を必死にこらえ、それでもなんとか睨みつける。

黒い靄は、俺を一瞥すると、首?を横に振った。

そして俺が声をかける間もなく、一瞬で姿を消した。

上を見れば、黒い影がビルの向こうへと消えて行った。

今の出来事に、俺は頭が追いつかなかった。一体なんだってんだ!

 

だがこれだけははっきりしている。

俺は守ると言っておいて、アーシアを守れなかった。

 

「クソ、何が守ってやるだよ!俺は、アーシアを助けられなかったじゃねぇか」

 

あの黒い人影が、俺に向かって首を振ったのも『お前じゃ無理だ』と言っているように思えた。

 

確かにあいつが来なくても、俺はアーシアが連れて行かれるのを見ていただけかもしれない。

あいつはこう言いたかったのかもしれない、『お前は弱い』って。

ああそうだ、俺は弱い。レイナーレにやられた俺が、アーシアを守るなんて馬鹿かもしれない。

 

「でも、俺はアーシアの友達だ。アーシアを守るって約束したんだ!

 だったら俺のやることは一つだ!」

 

俺は自分の非力を嘆くも、だからと言って泣いてるわけにはいかない。

アーシアを助けるってを誓ったんだ。だったら俺のやることは!俺は一目散に学校へと駆けた。

待ってろアーシア!俺が絶対に助けるから!

 

 

 

 

 

月明かりが淡い夜。古ぼけた教会を見張るように、3人の男女がいた。

彼らはレイナーレの甘言を聞き、レイナーレに協力している堕天使たちだ。

私に協力してくれれば、お前たちに地位を約束しようと言われて。

肝心のレイナーレは、儀式の準備で忙しく、3人は見張りを頼まれていた。

 

「本当にやばかったっすよ!もう激ヤバだったっす!」

 

ツインテールのゴスロリ少女が、顔を真っ青にして喋る。

 

「ミッテルト、お前の言いたいことは分かったが、それは真なのか?

 いや、お前を疑うわけではない。

 しかし、もしもそのような者がいるなら、なぜ私たちが気付かないのだ?」

 

黒いコートを着た、シルクハットの男が、ゴスロリ少女に尋ねる。

 

「ドーナシークの言う通りだ。

 そのような存在がいるならば、このカワラーナがそのような者を見逃すわけがない」

 

黒紫色のボディコンスーツを着た女が続く。

 

「あーもう!だから嘘をついてるわけでも、混乱してたわけでもないっす!

 二人は見てないからそう言えるだけで、本当にいたっすよぉ!」

 

何度も説明しても堂々巡りの会話に、ミッテルトはいらいらし始める。

 

「もういいっす!どうしても信用してくれないなら、どうなったって知らないっす!」

 

「カワラーナよ、どうやらミッテルトを怒らせてしまったようだ」

 

「しかしだドーナシーク、実際に二人ともそいつを見ていない。 

 ゆえに、ミッテルトの発言は信用性に欠ける」

 

二人のあまりの物言いに、ミッテルトと呼ばれた堕天使は叫んだ。

 

「だったら二人とも、そいつに会えばいいっすよ!」

 

そう言ってプイっと顔を背けるミッテルト。

だが、少しいい過ぎたと思い、二人に謝ろうと顔を戻すと、

 

金色の瞳と目があった。


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