思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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安心できない町の続きになります


レアな理不尽の遭遇率

日曜日の午後、私は自室の椅子に座り、机とにらめっこして悩んでいた。

机の上には、教科書とノート類が置かれ、先日の数学で習っていたページが開いていた。

 

授業の時は、先生の解説を聞きながらやっていたのでなんとか解けていたものの、

いざ復習として、また出された課題を解くために開いてみると、途中でつまづいたのだ。

 

「これ、何の公式、使うんだっけ・・・」

 

いかんせん、文学脳?の私にとって、数学はまさに聳え立つ数字の壁だ。

途中までは登れるものの、あと一歩が足りない。

教科書に書かれている公式を見ながら解こうとするも、

やはり数字を当てはめようとして躓いてしまう。

 

悩んで数分が経っただろうか、私は椅子から立ち上がり、

服を脱いで学校指定ではない、私用のジャージに着替える。

どう考えても分からない。ここはいったん、頭を切り替えてみよう!

 

悩んだ時は、身体を動かして頭をスッキリさせる。

これが私のリフレッシュ方法だ。

 

「お母さん、少し、走ってくるね」

 

「はいはい、夕飯までには帰ってきなさいね」

 

お母さんに返事をし、私は外へと駆けていった。

私のランニングコースは、駒王町を一周し、公園を横切って家に帰るというもの。

時間にして約1時間。全力疾走で30分程度の距離だ。

一度クラスの子に話しみたら、思いのほか吃驚してた。

私にとっては普通の、寧ろ軽いといえるものなんだけどなぁ。

 

取りあえず、何も考えずにら走ろうと考え、私は全速力で駆け出した。

 

そうして駅、学園などを通り過ぎ、時間も遅くなってきた頃、

私はいつも通りに公園を横切ろうとする。

ここを抜ければ、後は自分の家まで一直線。帰ればお母さんの夕食が待っている。

さて、今日の夕食はなにかなぁ・・・。

そんなことを考えていたら、私はあるものを見かけた。

 

兵藤一誠と、美人の女の人である。二人は噴水の前で何やら話していた。

確か前に、一誠が恋人が出来たと言っていたけど、あれが彼女さんなのかもしれない。

黒くて長い髪をしていて、少しきつめの顔だけど、美人な印象だ。

確かに、兵藤が自慢するのも解る気がする。

 

でもなんだろう、私は恐い気がした。

なんというか、リアス先輩やソーナ会長たちから感じたものと同じだ。

何かよく解らないけど、何かが私に警戒させている。

 

取りあえず二人の邪魔をしないようにと、大回りをしようとしたら、何やら音がした。

音の方を見れば、女の人が兵藤を何かで突き刺し、

兵藤がお腹から紅い液体を溢れさせながら倒れる瞬間だった。

 

「兵藤、一誠、君?」

 

私は無我夢中で兵藤一誠に駆け寄り、彼の状態を見て口を押えた。

彼のお腹は何かに貫かれた様にぽっかりと空洞が出来ており、その穴から地面が見えた。

 

「きゅ、救急車、呼ばなきゃ」

 

半ば混乱しながらも、私は携帯電話を取り出して119番を押す。だがなぜか繋がらない。

 

 

「無理よ。ここは結界を貼ったから、携帯なんて通じないわ」

 

私は、一誠を突き刺した、恋人のはずの女の人を見た。

女性は、背中から黒い翼を生やしていた。

御爺ちゃんのお友達という人と一緒にいた人と同じだが、彼女の場合は白かったと思う。

 

「は、はやくしないと、一誠くんが、死んじゃうよ!」

 

「私からすれば、寧ろ死んでくれた方が良いんだけど?」

 

「え?」

 

翼を生やした女性の言葉に、私は言葉を失った。

 

「なんで?どうして?死んじゃうんだよ?兵藤君が死んじゃうんだよ!?」

 

黒い翼の女性は、嘲笑うように酷薄な笑みを浮かべる

 

「私たちにとって、危険な神器を持っていたから当然よ。

 まぁ、身を護るためってこと?それに下等な人間を殺したところで、何が悪いの?

 私たちのような至高の存在に殺されることに、寧ろ感謝されるべきよ

 ああ、アザゼル様!私はあなた様のために、また一つ災いを排除しました!」

 

恍惚とする女性を見ながら、私は信じられない者を見ている気がした。

なんでこの人、殺したことを誇れるの?

私の中で黒い何かが溢れだす。

 

確かに兵藤一誠は、変態で、女性の敵で、お爺ちゃんみたいな人間で、

骨おじいちゃんの所でシバかれるだろう人間だけど、だからと言って殺すなんておかしいよ。

なんで殺したの?なんで殺したんだ?なんで笑ってるんだよ?

てめぇ勝手の都合で、俺の大切な日常を壊してんじゃねぇよ。

許せない!許さない!ああ!許せるわけがねぇよなぁ!!

 

ふつふつとわき上がる黒い何かに、私の心を染められていく。

目の前の存在を、徹底的に壊したくなってきた。

 

「それにしても変ね、人払いの結界も張っておいたのに、

 なんであんたみたいな人間が来るのよ。

 まあいいわ、ここで殺せばいいだけの話だし。

 まったく、下等な存在の癖に私の手を煩わせるんじゃないわよ」

 

そう言うと翼の女は先ほど兵藤一誠を殺したように、手から光の槍を出現させた。

どうやら私を、兵藤と同じように殺すつもりらしい。

 

「じゃあね」

 

そして翼女は、光る槍を振りかざし、突き刺そうと俺に向けた。

 

こいつは今、自分が上だと思っていやがる。人間を殺すことを何とも思ってもいねぇ。

ああ、気にくわねぇ。その傲慢さ、マジで気にくわねぇわ。

 

「な!?」

 

私は、私を突き殺そうと迫る槍を引っ掴み、翼女の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。

 

 

 

 

翼女、レイナーレは今の出来事に混乱した。

ただの人間を殺すだけだと思っていた。

神器に目覚めていない、間抜けな餓鬼を始末したところを、何故か別の人間に見られた。

確かに人払いの結界を敷いていたというのにだ。

だが問題はない、目撃者を殺せばいいのだから。

そう思ったレイナーレは、先ほどと同じように、今度は蹲ったジャージ女を殺そうとした。

だが結果は、槍がジャージ女の腹を突き破ることはなく、

自分の顔に謎の衝撃が走り、一瞬意識が遠のく。

気が付けば、目の前にいた筈の二人は遠く離れ、自分は木々の中にいた。

 

「な、何が起きたの・・・!?」

 

頭が混乱しながらも、レイナーレは状況を確認しようと頭を働かせる。

なんだ、今何が起った?自分に一体何が起ったというのだ?

分からない判らない解らない・・・。

 

そんな中、レイナーレは目の前の光景を見据える。

なにやらジャージを着た侵入者が、懐から取り出した瓶の中身を、兵藤一誠にかけているようだ。

すると、死に体だった兵藤一誠の身体が光に包まれ、カハッと息を吹き返したのだ。

 

「な、なんで・・・!?」

 

目の前の光景に冷静になろうとした頭が更に混乱する。

レイナーレは、この奇妙なジャージ女を見据えた。

お前は一体なんだと言うように。

 

「ひぃっ!?」

 

振り返ったそのジャージ女を見た途端、レイナーレは思った。

 

『殺される』

 

レイナーレが見たのは、一匹の狼だった。

口からは鋭い犬歯を生やし、目は金色に輝き、射抜く視線を自分に向けてくる。

周りに黒い靄を纏い、黒い髪がまるで蛇のように揺らめいている。

レイナーレは言葉を失う。いや、声を出すことすら出来ない。

それは恐怖だ。今、自分の目の前には人の形をした『恐怖』が立っていたのだった。

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえり、今日は遅かったわね。何かあったの?」

 

「なんでも、ないよ」

 

家に帰った私は、お母さんに挨拶をした後、

直ぐにシャワーを浴びて着替えをし、お母さんと二人で食事をした。

お母さんの夕食を食べた後、私は自室に戻った。

 

「どうしよう・・・」

 

私は先ほどのことを思い出して悶々とする。

明らかにやり過ぎた。

感情的になってしまったとはいえ、私の全力があそこまでとは思いも寄らなった。

公園が滅茶苦茶になってたよぉ・・・。

それにサイレンが聞こえて、あわてて逃げてしまったけど、

あの場所に兵藤一誠を置いてきてしまった。

まぁ、霊薬のおかげで無事みたいだし、なんとかなってるかも・・・と思いたい。

それにしても、まさかお父さんたちが話していた存在と出会うなんて。

人間界は平和じゃなかったの?

 

「これからどうしよう・・・」

 

私は深い溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

「一体どういうことなの・・・?」

 

契約の紙の反応があり、こうして召喚されたリアスは、目の前の光景に困惑した。

そこは公園だった。

近所の子供たちや、人間たちの憩いの場であるはずの公園だが、

そこらじゅうに大きな穴やクレーターが出来ていたのだ。

まるで爆撃でもされたのか、それとも隕石でも落ちたのかと言いたくなるほどに。

それに公園の木々が何本も引き抜かれ、それらが地面に突き刺さってもいる。

 

所々に黒い羽が散っているが、烏でもいたのだろうか。

だが、それよりも気になるのが、この有様だ。

こんなことになっているというに、周りには誰一人としていない。

まるで人為的に人祓いが行われたかのように。

そして公園の惨状からして、リアスの中ではいくつかの存在がチラついた。

 

「まさか、私の気付かない内に、はぐれ悪魔が侵入したというの?」

 

リアスは自分のふがいなさに叱咤したくなるも、それは後回し。

問題は、これほどの力を持った存在が、自分の町に潜んでいるということだ。

これでは町の人々に危険が及んでしまう。

そう考えたリアスは、直ぐに対策を取ろうと、自分の眷属に集まるよう指示を出した。

すると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。誰かが警察に通報したのだろう。

リアスは、倒れている一誠を抱きかかえると、直ぐに転移の魔法でその場から離れた。

 

 

翌日、公園の惨状がテレビで放映されていた。

ニュースキャスターやコメンテイターが色々と仮説を立て、

噂の掲示板では、様々な考察が立てられていた。

 

「本当に不思議ねぇ。どうやったらこうなるのかしら?」

 

「そ、そうだね。不思議だよね」

 

ごめんなさい、その元凶は私です。

 

 

 

「最近、この町って物騒だよねぇ。何かあるんじゃないの、この町」

 

「どう、だろうね。でも、桐生ちゃんも、気をつけて、ね」

 

放課後、桐生ちゃんとそんな話をしていると、女子の叫び声が上がった。

教室の窓から下を見ると、兵藤、元浜、松田の三人が、

いつものように女子に追いかけられていた。

 

「あー、まーたあの三馬鹿がやらかしてるわねー。

 ほんと、毎度毎度飽きない連中ね。

 というか、いい加減警察へ突き出すべきじゃない?

 ほんと、不思議だわー」

 

「良かった、気付いてない、みたいだね」

 

「なにが?」

 

「な、なんでも、ないよ。」

 

「ふーん?」

 

取りあえず、訝しがる桐生ちゃんを誤魔化しておく。

流石に、昨日の出来事を話す訳にはいかないから。

 

「ちょっと行って、くるね」

 

不審な目で向けてくる桐生ちゃんから、私は逃げるように教室を走って出て行く。

 

「手加減しときなさいよー」

 

走って行く私に、桐生ちゃんは面白そうなニタニタ顔で手を振っていた。

 

 

 

 

 

「ひ・・・ヒィ!・・・来るな!来るな来るな来るなぁぁぁぁぁ!

 ヒィ・・・ヒヒひ・・・ヒィ!?」

 

とある場所のとある部屋。

レイナーレは、部屋の隅で薄汚れた毛布を頭からかぶって震えていた。

そこは薄汚れてはいるものの、しっかりとした建物であり、

どこか厳かな雰囲気を醸しだしていた。

だがそんな雰囲気もレイナーレには解らない。

なぜなら彼女は今、恐怖に震えているからだ。

 

一発の拳で、地面にクレーターを作った

 

両手で引っこ抜いた木を、私に向かって投げてきた

 

飛んでいる私の目の前に跳んできて、私を地面に叩き付けた

 

毟られる自分の羽

 

「知らないシラナイしらない知らナイ!あんな奴がいたなんてシラナイ!

 私の計画は完璧だった!なのに何で!?あんな化け物、私はシラない!」

 

突如として現れた存在。

自分の結界に入ってきた挙句、私をこんな目に合わせた存在。

綺麗だった黒髪は所々白く染まり、艶やかだった肌は傷だらけ、

そして何より、至高の翼の羽根を引き抜かれた。

しかも汚らわしい、土に汚れた人間の手で。

 

それは彼女にとって、なぶり殺してやりたいほどの屈辱だ。

 

だがそいつを思い出そうとすると、途端に体が震えだす。

至高の存在であるはず自分が、小娘の如く恐怖に震えるのだ。

 

部屋の扉が開く。

その音に、レイナーレは「ヒィ・・・!?」と情けない声を上げた。

 

「ちぃーす!ズタボロ雑巾の堕天使さーん!

 あれぇ!?そんな部屋の隅で震えてるなんて、アンタ本当に一昨日のアンタ?

 これまた毛布なんて被って、随分な雑巾っぷりございますデスねー。

 一昨日はあんなに威張ってたのに、これまたどういう天変地異?

 大丈夫ですかボロ駄天使summer!」

 

入ってきたのは神父だ。その姿は少年と言ってもいい。

ただ、その姿から醸し出されるのは、神父とは全く逆の下劣さ。

中身と役職がかみ合っていないのだ。綺麗なおべべを纏っても、その下品さは隠せないようだ。

そんな神父の声に、レイナーレは光の槍を向ける。

 

その姿に少年神父は、

「タンマ!ちょっとマンタ!言い過ぎたから許してクダチャイ!」と媚を売る。

 

「ふん、あなたは私の言うことを聞けばいいのよ。

 私の邪魔をしなければ好きにしても構わない、そういう契約のはずよ」

 

「アイアーイキャプテン!今思い出しました!

 だったら、俺は好きに糞どもを煉獄に叩き落す善行を行ってきマァース!

 ついでに、迷子も捕まえてゲッチュしてクラァー!」

 

部屋から出て行った神父を冷めた目で見つめ、

レイナーレは震える身体を抱きしめる。

 

「神器さえ、聖母の微笑さえ手に入れたら、あいつを殺す!絶対に殺してやる!」

 

レイナーレは部屋の片隅で、

自分をこんな姿にした存在への真っ黒な殺意を、その両目に宿していたのだった。


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