思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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原作英雄派ファンの皆さん、ごめんなさい。


強欲な龍(のお供)3

「さぁ、着いて来てくれ!俺たち『英雄』が集う秘密基地だ」

 

目の前で意気揚々に、

声すらも嬉しさで高くなっている男の後ろを、私は半ば死んだような目で着いて行く。

頭の中では、どうしてこうなったのだ?という思考が駆け巡り、現実逃避を繰り返していた。

 

『曹操』を自称する変人(目の前の男)に付きまとわれ、

彼を遠ざける為に練った策が失敗した。

まさか『契約するなよ?絶対にするなよ!?したら死ぬぞ!?』と丸判りな物に、

疑問も抱かず、素直に署名するとは思いもよらなかった。

私の未来予想図では、『こいつやばい、関わらない方がいい』となり、

晴れて私はストーカーから解放されるというハッピーエンドだったはずだ。

だが現実は非情である。

策に溺れるとはこの事か、そのせいで自分は逃げ場を失いつつある。

 

『だから言ったであろうに』

 

まるでこの展開を知っていたかのように語るファーちゃん。

いや、まさかこんなことになるとは思いもよらなかったのですよ?

 

『宿主(我が所有物)よ、彼奴は頭は良いが、頭が切れておらん。

 ある意味、彼奴は宿主の天敵であろうよ』

 

何やら苦笑が入り混じっているファーちゃんのお言葉。

いや、駄目でしょ。ここで諦めたら私のハッピーエブリデイが崩壊デス。

それにこう言っちゃあなんだけど、ファーちゃんのせいでもあるんじゃないだろうか? 

 

『なんだと?』

 

だってファーちゃん、不幸というか破滅をもたらす呪いがあるではないか。

これもその呪いのせいなのでは?

 

『そう言われると、うぬ・・・反論できん』

 

そうです、これもファーちゃんの呪いのせいなのです。

そう言う訳で、私と一緒に悩んで、苦しんでもらおうではないか。

というか、私とファーちゃんは魂レベルで融合しているのだから、一蓮托生のはず。

 

『我は宿主を間違えたではないだろうか・・・。

 いや、これは咄嗟だったのだから仕方がない訳だが、むむむ・・・』

 

考え事を始めてしまったファーちゃんを余所に、私は曹操に連れられて大きな場所へと出た。

と言いますか、私の家だったのだが、突然屋内なのに霧が出てきて、

気付いたら通路を歩いていたのですよ。そして気付けば大広間へと出たわけで。

おかしいな、私の家はこんなに広くなかったはずだ。

まぁ、改築しようなら改築できるんだけどさ。

 

「やぁ、待っていたよ」

 

首を傾げていた私に、誰かが声をかけてきた。

 

「私の名前はゲオルク、ゲオルク・ファウストの子孫さ」

 

声の方を見れば、漢服を来た自称『曹操』と同じように、変なローブを着た青年が御登場。

しかも自分を『ゲオルク・ファウストの子孫』と言うではないか。

ゲーテ著の方だと、恋人のグレートヒェンは亡くなるし、

ファウスト本人は天国に行った気がするんだけど。

まぁ、子孫なんだろうね。

 

そんなことを考えている私に、ゲオルクは歩み寄り、私の手を握った。

 

「うん、君はまともそうだから本当に安心したよ。うん、『本当』に安心したよ」

 

彼の握る力が強くなる。

 

「取りあえず、所構わず吐血したり、教会を焼き討ちしに行こうとしたり、

 子供は大切なのは解るけどこっちの了承もなしに保護してきたり、

 英雄だからって戦わなくてもいい怪物に喧嘩を売ろうとしたりと、

 無茶なことはしないでくれよ?『本当』に、『本当』にお願いだからね?」

 

最後辺りの言葉からは、私は『ああ、彼は苦労人なんだな』という印象を受けた。

よく見れば、彼の眼の下には隈が出来ている。

取りあえず彼には、実家に積んである、栄養ドリンク12本入りを上げようと思う。

懸賞で当たったものの、どうしようかと悩んでいたところだ。

 

「おお、ゲオルク。君はいつもそう疲れた様子だな。もう少し身体を労わるべきだぞ」

 

ゲオルクの姿に、曹操が労いの言葉をかけた。ああ、いつものことなんだ。

 

「ああ、本当はそうしたいんだけどね。残念だけど、そうも言ってられないんだ。

 どいつもこいつも私の胃を痛めてくるからね」

 

「それは酷い話だ。後で俺からも注意をしておこう」

 

変な話だが、私は彼とは良い関係を築けるんじゃないかな?と思えた。

ゲオルクは「自室に帰って仮眠をとるよ」と言い残すと、ふらつきながらも広間を後にした。

願わくば、彼に安らぎのあらんことを。

 

 

「ああ・・・君が、新しい仲間、なのかな・・・?」

 

そんなことを思っていると、またもや声をかけられる。

ただ、なにやらこう、か細いというか今にも倒れそうな声だった。

同じように振り返れば、口から血を流しながら立っている青年がいた。

 

『宿主よ、気をつけろ。こいつは何か知らんが、我の生存本能が警告しておる』

 

ファーちゃんの声が、私の頭に響く。

 

「おお、ジークよ。あいも変わらず大変だな。その、なんだ、未だにグラムを御せないのか?」

 

同じように、曹操は気遣いの言葉を投げる。

いや、これはどう見ても駄目だろ。輸血しなきゃヤバいのではないだろうか?

というか、グラムとジークという名前・・・・・・!?

私は自分の考えから、あ、これはファーちゃんの天敵だわ、という結論に至る。

そう、その二つの名前から導き出されるのは・・・!

 

「うん、僕はジークフリート。多分、そうなんだと・・・思う・・・ゴフッ」

 

そう、ファーちゃんことファーブニルを殺し、その財を奪い、

そして黄金の呪いで破滅した英雄ジークフリートと、その愛剣グラム。

ファーちゃんにとって、まさに会いたくない存在だった。

 

『ぐわぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

ああ!?ファーちゃんが声を上げて倒れた!

心の中で、どうにかしなきゃと思考していると、ジークフリートが言葉を続ける。

 

「ところでさ、君、もしかして龍の加護を持っていないかい?それか、龍の力を宿しているとか?

 うん、実は僕の愛剣が、君を斬りたくて仕方がない、って訴えてくるんだ・・・グフッ。

 そう、魔剣グラムのことなんだけど、他にも色々とあるんだけどね。

 取りあえず、必死に抑え込んではいるんだけど、僕の傍にいる時は気をつけてね?

 僕は龍の籠手を持ってるんだけど、

 そのせいで『愛しているから斬らせて!』って、訴えてくるんだ・・・ハハハハハ・・・」

 

そう話す彼の声は、まるで何もかもを諦めてしまったような印象を受けた。

それに、彼の目は半ば光がない。

笑っている彼は、そのまま地面に倒れ、駆け付けた医療班に連れられて行った。

曹操も彼を心配してか、私に謝罪をして、そのまま着いて行った。

うん、重傷だな。

『ヤンデレな魔剣に愛されて、夜も眠れない』需要が一切ない。

 

 

 

「貴女、どこの教えに従っていますか?

 取りあえず宗教はどこですか?どこの神を祀っていますか?」

 

自分としても阿呆なことを考えていると、今度は女性らしき人から声をかけられた。

その女性の、いや、少女の出で立ちは、言うならば修道女。

教会の修道女が来ている僧衣(カソック)を纏っている。

頭はヴェールを被っておらず、金色の長い髪を一つに束ね、彼女の腰辺りにまで伸びていた。

 

質問の内容に困っている私を察したのか、少女は顔を赤らめ、あたふたしながら話す。 

 

「あ、ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。

 私の名前は、ジャンヌ、ジャンヌ・ダルクです。

 あ、私の本名は違うのですが、どうも私にはジャンヌ・ダルクの魂が宿っているらしくて、

 そう名乗らせて貰っています」

 

ほう、今度はフランスの英雄ジャンヌ・ダルクですか。

ここまで来ると、もはや何も言えなくなりつつある。

 

「ところで、先ほどの質問なんですが、答えていただけないでしょうか?

 どこの神を祀っていますか?どこの教えに従っていますか?

 あ、仏教?なのですね、ああ良かったです、貴女が教会に所属していなくて」

 

私の答えに、自称ジャンヌ・ダルクは安堵の溜息を吐く。

 

「私、ジャンヌ・ダルクの魂を受け継いでいるじゃないですか

 まあ、私も彼女も教え自体には寛容なんですが、どうも教会を見ると焼きたくなるんです。

 それはもう、真っ赤な炎が上がるほどに、キャンプファイヤーのように。

 私に中に宿る彼女は、あの結末を納得はしてある一方で、

 それを全て容認できるかというと、どうも難しかったようです。

 おかげで、教会を見ると、一目散に発火してやろうと、

 気付けば燃やしちゃっているんですよね」

 

そっかー、さっき教会焼き討ち云々言ってたのって、この人だったのかー。

まぁ、そうなっても仕方がないような経歴だけどさ。

なんというか、負の面まで受け継いでないかな、この聖女様は。

 

「これも私のうっかりが原因なんでしょうね。

 なので、もしも教会に属していたら、大変迷惑をかけると思いまして。

 ああ、主よ、私はあなたに感謝します」

 

多分、うっかりとかそう言う問題じゃないと思う。

というか、教会焼き討ちは止めないのね?迷惑をかける前提なのね?

今更神に祈りを捧げているが、ちょっと歪な進行してらっしゃいますよ?

うん、これ駄目な人だ。私はそう結論した。

 

私が聖女様の言動に目が濁りかかていると、背の高い男が歩んできた。

その姿は、まるで壁のようで、がっしりとした肉体は、

鍛え上げられていることを如実に示している。

 

「女子供が戦いの場にに出てくるな。戦いは男の役目だ。

 お前たちはただ、その生を全うすることだけを考えればいい」 

 

おっとぉ、開口でこの言葉ですかぁ。

うん、戦場に出てたくはないと思っているけど、こう直球で言われるとキツイ。

 

「もう、ヘラクレス!そんなことを言うものではありません!」

 

声を荒げるジャンヌ・ダルクを余所に、ヘラクレスと呼ばれた男は無愛想に答える。

 

「事実であろう。戦いはそれに見合う者が行えばいい。

 か弱い者を戦場で戦わせるなど、それは俺の信念に反するだけだ」

 

そう言うと、ヘラクレスはそのまま広間を出て行く。

 

「すみません、彼、戦いに関してはこう、色々とこだわっていまして。

 いえ、決して酷い人ではないんです。ただ、言葉足らずと言いますか・・・」

 

必死にフォローをしているジャンヌ・ダルクの姿は、凄い違和感があるんですが。

私は彼女に気にしていないことを告げると、彼女はただただ「すみません」と謝るだけだった。

 

「ヘラクレスのお兄ちゃん!今日は何して遊ぶの?」

 

ヘラクレスが出て行った先から、何やら子供の声聞こえる。

 

「彼、子供が好きなんです。ヘラクレスとしても何やら思うところがあるようでして・・・」

 

確かヘラクレスは、ゼウスの鬼嫁ヘラに一方的に憎悪され、

彼女によって、その手で子供を殺してしまったはずだ。

そう思うと、彼の魂を受け継いでいるらしい、彼の言動も、なにやら思うところがある。

 

 

「そうだな、俺が高い高いをしてやろう」

 

聞こえてきたヘラクレスの声は、私に向けて話した時よりも明るかった。

そうか、これが彼の本当の声なのか。そう思っていると、子供の言葉が続く。

 

「わーい!ヘラクレスのお兄ちゃん大好き!」

 

「そうか、ならば俺の子供を産んでくれないか?」

 

「うん!」

 

その言葉を聞いた瞬間、私はジャンヌと共に、ヘラクレスのいるだろう部屋へと走った。

ああ、こいつもヤバい奴だったと、私は先ほどの思いをぶん投げた。

そういえば、ヘラクレスはあのギリシア神話の主神にして、

下半身に頭が付いているんじゃないかと言うほどに、女性と寝るゼウスだった。

多分、ヘラクレスに悪意はないんだろうが、言動が既に酷かった。

いや、他意が無い分、余計に酷いとも言える。

 

『こやつらは本当に英雄なのか?』

 

いつの間にか復活していたファーちゃんの言葉に、私は全力で頷いていた。


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