思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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争いは、(色んな意味で)似た者同士だから起きる

「おや、貴様もこの砦に用があるのか?」

 

目の前の悪魔は俺にそう言った。石造りの砦の上で、腕を組んで立っていた。黒い髪を風になびかせ、朱い瞳で俺を見据えている。口元は裂けるように歪んでいた。

 

「いやはや、こうも攻め込まれると防衛する私も疲れてくる。ここを私一人で守れとは、上の酷な命令をするものだよ。しかし、私はどれほどの数を焼いたんだろうな?」

 

その悪魔の立っている砦の周りには、肉の焦げた臭いが蔓延し、未だ煙を燻らせている黒い塊たちが散乱していた。どれもが背に、辛うじて判る翼らしきものを生やしているのだが、一体どれが天使で、どれが堕天使なのか判らない。

 

「貴様、一体何者だ?」

 

俺は目の前の悪魔に問う。この惨状を見るに、目の前の悪魔が行ったのだろう。

 

「まずは貴様から名乗るのが礼儀ではないのか?」

 

「生憎と俺はそう言うのに疎くてな。俺の名はコカビエル。そして貴様がここを死守している悪魔と見ていいのか」

 

「ああ、その通りだ。私がここを守っている。それが命令だからな。おっとすまない、私の名はファレグ、ファレグ・フラウロスだ」

 

俺とファレグと名乗った悪魔は目を合わせる。すると、俺は目の前のファレグに対して思い至った。こいつは俺と同類だと。いわゆる戦闘狂なのだと。

 

「なるほど、貴様も俺と同じか」

 

「ああそうだな、貴様は私とある一点においては同じだろう。まさか私と同じ、どうしようもない奴に出会えるとはな」

 

ファレグは口元を開けて笑い、俺もつられて笑う。そして俺とファレグの笑い声だけが、戦場に木霊した。

 

「つまらん任務だと思ってみれば、まさか貴様のような奴に出会えるとはな!」

 

「ああ、私も貴様のような御同類に会えるとは思わなかったよ。先ほどまではつまらん弱い者虐めをしていたが、お前のような者に出会えるから闘いは面白い。貴様なら、私に見せてくれるかもしれんな」

 

俺は全身に力をめぐらせ、ファレグはその四肢から炎を噴出させる。

 

「簡単に死んでくれるなよ?俺を楽しませろ、ファレグ・フラウロス!」

 

「貴様も、私にその命を見せてくれ。私は失望させるなよ、コカビエル!」

 

そして俺は、ファレグと互いに殺し合った。

腕を焼かれ、翼を捥ぎ、殴られ、槍を突き刺し、周りを省みずに殺し合った。落としてこいと言われた、死守しろと言われた砦を吹き飛ばしたことも些細なことと片づけ、互いに血まみれになりながら、響くように笑いながら、俺たちは殺し合った。だが結果は二天龍の乱入によって、三勢力の戦い自体が停戦に終わった。俺とファレグの決着が尽かないまま。

 

 

 

 

 

 

「そうだ!あの時に二天龍の横槍が無ければ、俺とお前の戦いは決着が尽いてた!」

 

俺はあの時の悔しさを思い出し、身体が震える。握った拳すらも震え、皮膚に食い込んだ爪によって、拳から血が流れる。

 

「俺は誓った!もう一度戦争を起こすと!二天龍さえいなければ、あの戦いは俺たち堕天使の勝利だった!死んでいった同胞のためにも、俺たちは勝たねばならんのだ!そしてあの時の決着を尽け、俺は貴様を踏み越えていく!」

 

俺は声高に叫ぶ。そして目下のファレグは、俺の言葉を聞くやいなや、大声で笑い出した。

 

「そうか、そうなのか!貴様は私との決着を尽けるために、こんな大掛かりなお膳立てをしてくれたのか!これは一本取られたよ。まさかこうまでして、私との戦いを望んでいたとは!全く持って予想外だよコカビエル!」

 

「ファレグ・・・さん?」

 

ファレグの後ろにいた白髪の小娘が、主の姿に戸惑いを隠せていない。そしてファレグは、自身の左手に刺さっている光の槍を握り砕いた。光の槍によって焼けた彼女の左手から、肉の焼ける匂いと煙が上る。

 

「良いだろう」

 

俺を見据えるファレグの目が、あの時とは違う鋭さで俺を見据える。そして結界内の温度が一気に上がる。まるで砂漠に放り込まれたような暑さだ。

 

「ならばこれは必然だ。私がここに来たのは紛れもない運命。だが戦う前にコカビエル、私は貴様に一つ問う。塔城小猫は、いや『私の家族であるヴァイス・カツェ』は最後まで貴様を見据えていたか?最後まで足掻いていたか?」

 

突然名前を呼ばれたことに、後ろの小娘はびくりとする。

 

「ああ。貴様の後ろにいる小娘は、最後まで俺を見据えていたよ。どうやら貴様に似たようだ」

 

「そうか」

 

俺の言葉を聞くと、ファレグの顔が笑みに染まる。まるで自分の子が褒められたことを喜ぶ親のように。

 

「そうか、そうかぁ。私のヴァイスは私の最後まで足掻いたか!いい!いいぞ!全く持って最高じゃぁないか!可愛いなぁ、可愛いなぁ!私のヴァイスは全くもって可愛いなぁ!」

 

「えっと、その、あまり褒めないでください。恥ずかしいです!」

 

「何をいう。家族の頑張りを褒めて何が悪い?それとも頭を撫でてほしいか?遠慮はするな」

 

恥ずかしげに顔を赤らめる小娘を無視して、ヴァイスは小娘の頭を撫でる。

小娘の方も、言葉とは逆に気持ちよさそうに顔を綻ばせる。

 

「では、今からは私たちの時間だ」

 

一しきり撫でた後、ファレグは小娘を下がらせた。無様に転がっているリアス・グレモリー等を見ながら溜息を吐くと、彼らを結界で覆う。

 

「これで心置きなく戦える」

 

その言葉を合図に、ファレグ(目の前の戦闘狂)の四肢から炎が噴出する。そしてその顔には、あの時よりも更に獰猛な笑顔に形作られていた。

 

「私の部下が全力を尽くした。ならば主である私が全力を尽くさないわけにはいかないな。悪いがコカビエル、今の私は負ける気がせんよ。貴様はこの場で無様に負けろ」

 

「なら始めようかファレグ・フラウロス!あの時の決着をつけるために!」

 

そして俺は、歓喜に打ち震える身体を、昂り続ける気持ちを、衝動のままに任せた。


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