思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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ホウレンソウは大事って、それよく言われるから

「はい、そうです」

 

塔城小猫は一人、何かに話しかけていた。ここは彼女が住んでいるマンションであり、彼女の寝室だ。小猫は現在、リアス・グレモリーの眷属となっているが、周りにはその主はいない。当たり前と言えば当たり前だが、彼女はリアス・グレモリーと住んではいないからだ。リアス・グレモリーからは、眷属なのだから一緒に住めばいいのに、と誘われたが、ならばなぜ他を誘わないのだろうか?そう言いたくなったが、持ち前の自制心でそれを口にすることはなかった。そして今、小猫は目の前に置かれた紙に向かいあっていた。紙には何やら豹の横顔がらしき絵が描かれている。

 

「解りました。ではそうします」

 

小猫はぶつぶつと何かを呟いている。仮にこの光景を第三者が見れば、直ぐに駆け寄って彼女の精神を心配するだろう。

そして要件が済んだのか、絵が描かれた紙は一瞬で燃え上がり、灰すらも残さずに燃え散った。

 

「では行きますか」

 

それを確認すると、塔城小猫は立ち上がり、今から赴くであろう場所へと意識を移した。何故か、自分の口元が歪んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

駒王学園校庭で、一人の男が退屈な声を上げた。男の顔は堀が深く、イケメンというよりは渋顔と言ったところだろう。ウェーブのかかった黒髪と相まって、その容貌はただならぬ印象を抱かせる。ただし、男の異質さを語るならば、その男の背にある物あろう。それは12枚の翼だ。男は背から黒い12枚の翼を生やし、空に浮いていたのだ。これを異常と思わないものはいないだろう。

もっとも、男は人間ではない。己が戦いたいという欲望に呑まれた堕天使なのだから。男の名はコカビエル。そう、堕天使なのだから空に浮いても問題はない。

 

「なんだこれは。これがサーゼクスの妹なのか?」

 

その言葉には、退屈を含み、失望の念が宿っていた。例えるなら、おいしそうな料理と思ったら期待よりもまずかった、楽しいと思った遊戯が実際にはつまらなかった。そのようなものだろう。

目の前に転がるのは、学生服を着ている少年少女たち。一人を除いて、彼らの姿はボロ屑というか泥まみれというか、満身創痍だった。体中が擦り傷だらけで、傷跡から血が滲んでもいる。息すらも絶え絶えで、まるで呼吸すらも水の中で息を吸うかの如く苦しみの表情だ。

 

男の目的は、自身の戦いたいという欲を満たしたいだけ。始めは天使に喧嘩を吹っ掛けるため、教会を襲い、彼らが保管している聖剣を強奪した。だが天使たちが行ったのは、話にもならない雑魚を送ってきただけ。次に魔王たちの妹たちが治めるこの場所でことを起こした。だが肝心の魔王たちは来ず、あろうことか彼らを呼びよせる為の餌が、自分を倒すと言ってきたのだ。結果、前菜にもならなず、彼らは男に敗北した。

これにはコカビエルも失望というものだ。大口を叩いた結果がこれなのだから。

 

 

教会から派遣されたエクソシストは、コカビエルによる神の死を伝えられ戦意を喪失。嘘だ嘘だとうわごとを繰り返し、まるで壊れたラジオのように痛ましい。同じように、修道服を着た悪魔もまた、その事実に気を失った。

聖と魔を重ねた聖魔剣の使い手は、その力を完全には使いこなせず力尽きた。聖魔剣を杖代わりしにして、それによりかかかっている。同僚の娘である女は、勝手に自分を縛り付け、堕天使の力を使わずに負けた。この町の領主であり、魔王の妹である女も、その破滅の力でコカビエルを倒すにはあまりに力不足だった。そして、彼らの切り札だっただろう、今代赤龍帝の宿主も、無様に立ち上がろうとしている。

 

そんな中、たった一人、白い髪の小柄な少女だけは、その両足を地面に踏みしめていた。傷塗れの身体だというのに、所々が血で染まっているというのに、額の流血で顔が真っ赤だと言うのに、少女はしっかりと立っていた。

その顔は諦めの色は無く、むしろ嬉々とした表情を抱いている。まるで楽しいおもちゃを見つけた子供のように、その顔は笑っている。その異常な姿に、周りは戸惑いを抱いていた。

彼女の今の主であるリアス・グレモリーは、白い髪の少女、塔城小猫の姿に冷や汗を流した。

 

塔城小猫は、自分の兄である魔王様が、彼の友人からサポートとして紹介された子だ。小柄で背が小さく、そのせいで可愛らしいという印象を抱いたものだ。彼女と初めて会った際、新しい名をつけてほしいと言われた。

小猫曰く、「この名は私の主から貰った名前です。なので、その名で呼んでいいのは本来の主だけです」とのこと。故に、塔城小猫という名を与えたのだ。その後は自分の家族として共に過ごした。無表情ではあったが、決して無感情ではなかった。お菓子に興味があり、身体を動かすことも好きだった。

そして小猫が自身の治める領地の学校へと入学した後、それは起こった。リアス・グレモリーの婚約破談のために、彼女の婚約者ライザー・フェニックスとの決闘が行われた。結果はリアス・グレモリーの敗北だった。彼女の眷属である赤龍帝の宿主、兵藤一誠の姿を見ての投了だった。その際、ほぼ無傷だった小猫の姿に、リアスは少し怖くなった。確か、相手の女王に体育館ごと爆破されたはずなのに。

そして今、満身創痍であるにもかかわらず、嬉々とした小猫の姿。はっきり言って異常だ。一体どうしてその表情でいられるのだろう?リアスだけでなく、他の者達も同じ思いだった。

 

「それにしても貴様、どうやら他とは違うな」

 

「本来の主に鍛え上げられましたから」

 

コカビエルの言葉に小猫は答える。

 

「貴様の本来の主とやらは相当な者なのだろうな。満身創痍だというのに、力の差を理解しているというのに、それでも貴様の目は死んでいない。今でも俺を殺そうと狙っている目だ」

 

「戦いにおいて、先に心が折れた者が死ぬ。あの人の言葉です、ですから、たとえ四肢を捥がれようと、私は心だけは折れるつもりはありません。時間稼ぎをさせて貰います。もちろん、死ぬまで徹底的に足掻きますが」

 

「ははははははは!面白い、死ぬまで足掻き続けるか!だが残念だ、貴様等はここで死ぬ。俺はこの場で貴様らを殺し、止まっていた戦争の針を動かす!」

 

コカビエルは、その右手天に掲げる。すると、彼の上空に巨大な光の槍が現れた。その威力に関しては、先ほど体育館を吹っ飛ばした光景を見せられいたせいで、嫌でも恐ろしいと理解した。

 

「ではな」

 

そしてその槍を、地面に蹲る小猫たちに向けて放つ。

 

目の前に迫る巨大な槍を前にしても、塔城小猫の心は至って冷静だった。仮にこれが戦いの経験がない新米であったなら、死にたくないと泣き喚いるだろう。近くに転がっている学校内で有名な変態は、くそくそと自己嫌悪に陥っているし、『今の主』であるリアス・グレモリーも、何やら呆けている表情だった。もっとも、先ほどから糸の切れた人形のように蹲り、ぶつぶつと「嘘だ嘘だ」と言っているエクソシストを見れば、彼らの方がまだ良い方なのかもしれない。

 

そして光の槍が彼らを呑みこみ、巨大な火柱が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火柱だと?」

 

その光景にコカビエルは違和感を感じた。自分の放った光の槍は確かに強力だ。だが、天にまで昇る火柱が上がるほどであっただろうか?いや待て、そもそもあの白髪の小娘は、どうして最後まで笑っていた?

それにあの小娘は何か言っていなかったか?そうだ確か・・・

コカビエルが違和感に思い至ろうとした瞬間、目の前の火柱から自身を呑みこまんとする巨大な火の玉が放出された。それは先ほど、リアス・グレモリーの放った滅びの魔弾とは比べようもないものだった。

咄嗟の出来事ではあったが、コカビエルはそれを止めるようと結界を展開。その結界に向かって火の玉は迫り、結界の目前で砕けた。

 

「なんだと!?」

 

まるで散弾銃のように砕けた炎の欠片が結界に触れる。その瞬間、触れた部分の結界が瞬時に焼け尽いた。まるでそこだけ虫に食われるかのように、炙られたように。また、辛うじて避けきれなかった炎の欠片がコカビエルの1枚の翼に触れる。そう、触れただけだ。それこそ火傷にすらならない程度の熱さ。だがその瞬間、まるで油をまいたかのように、その翼が一気に燃える。

 

「なんだと!?」

 

コカビエルは燃え盛る翼の火を消そうとするも、いっこうに火は消えない。むしろ、更に勢いを増している。その上、その日は翼を伝い、コカビエルにまで及ぼうと動く。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおぉおおぉぉぉお!!」

 

自身を焼き尽くさんと迫る炎を目に、コカビエルが取った行動は単純。そう燃えている翼の切除だ。ブチリと音を立て、彼の翼の一枚が天に舞い、そのまま灰となった。

 

「まさか、この炎は・・・!!」

 

コカビエルは呻く。彼は知っているのだ、この触れた物を焼き尽くさんとする炎を。そしてその炎を纏った存在を。あの大戦時に、一部の戦場を灼熱地獄へと変えた悪魔を。その戦場で、朱い目を輝かせ、子供のように歌を口遊んでいたあいつを。

コカビエルは目の前の火柱に目を移す。火柱は相もかららず天へと昇るかの如く燃え上がっている。

 

「おやおや、昔の貴様だったなら避けれたはずだぞ?」

 

その声を聞いた途端、コカビエルに走ったのは歓喜。そう、あの時あの戦場にいた悪魔。二天龍によって、最後まで決着が尽かなかった好敵手の一人。

 

「そうか、貴様か!小娘の言っていた主とは貴様のことだったのか!」

 

その言葉に呼応するかのように、火柱は一瞬にして霧散した。そしてその場にいたのは、黒い髪を熱風に揺らしながら、軍服を纏った女。彼女の左手は、コカビエルが放った槍を貫通させながらも受け止めていた。堕天使とは言え、元は天使の力。故にその槍は悪魔にとっては猛毒に等しい。だが女の顔は笑っている。口を裂けるかのように歪め、炎に照らされた瞳をより朱く輝かせて。

 

「ファレグ・フラウロス・・・!」

 

「なあコカビエル、貴様は今、私の物に何をする気だった?」

 




小猫「・・・熱いです」

変態「ぎゃー!?燃えるー!?死ぬー!?」
紅髪「熱い暑い熱い暑い・・・」
巫女「焼かれるなんて体験、初めてなのに・・・!(ビクンビクン)」
剣士「これは、ちょっとまずいんじゃないかな・・・?」
青髪「神は死んだ神は死んだ神は死んだ・・・」
回復「気絶中」
神父「あの、これはちょっと洒落にならないと思っちゃうんだけどさ」

眼鏡「結界が燃えそうなんですけど、リアスたちは何をしてるの?」

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