思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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原作の悪魔って、本当に数がないよなぁ・・・。
まあ、72柱もキャラを考えるのは大変だとは思うけど。


フラウロス
ファレグ・フラウロス


人の本質を見極める、そのための方法は一体なんであろうか?

その問いに私、ファレグ・フラウロスは事もなげに言った。

 

「追い込めばいい」

 

その対象の正体を知るための最も簡単な方法は、危機的状況に放り込むことだ。

『危機的な状況』というものであれば何でもいい。

戦場に、借金地獄に、男女の修羅場等々、それこそ枚挙に及ぶ。

 

だが一番手っ取り早いのは、命の危機に晒してやることだと私は考えている。

何故ならば、命は大切だからだ。それこそ地球の未来とでも謳われるほどだ。

人は自分の命を助けるためならばなんだってするだろう。

それこそ共存を謳っていた者も、自身の手を真っ赤に染める事すら厭わなくなる。

(自分の命を)奪われたくないから(相手の命を)奪う。

大切なものを失いたくないから、危険な存在を排除する。

それがエゴであろうと、ナルシズムであろうと、一方的な敵視であろうと、どうでもいいのだ。

それこそ、『お前が気に入らないから』でさえも理由足りえるものだ。

結局のところ、生物は自分勝手なものでしかない。

 

そんなことを考えながら、私は与えられた仕事を糞真面目に実行していた。

仕事の内容は以下の通り、『敵が潜伏している町の占拠、または殲滅』

そして今の現状に、ただただ口を歪めていた。

 

「つまらん」

 

轟々と燃える炎を見下しながら、私はただただ溜息を吐く。

眼下に見えるのは赤一色。まるで津波の如く、うねった赤い炎に呑まれていく町。

何もかもを焼き尽くす赤い炎、そこから溢れ出る黒煙、肉が焼け焦げる匂い、叫び声等々。

その光景を見下しつつも、何度目かの溜息を吐いた。

 

ああ、つまらない、本当につまらない、クソつまらない。

 

今日も今日とて、私の願いは叶わなかった。むしろ、今の私はその願いを穢している。

ゆえに、私の気分は最悪に近い。

晴れた日に散歩へ出かけたら、突然の土砂降りでずぶぬれになったように気分が悪い。

そんな時は鬱憤晴らしをするのだが、現状、そんなことも出来ない。

落胆と空虚と侮蔑と苦痛と徒労に心を預けようとしたが、ここは未だ戦場。

作戦が完了していないのに慢心するのは、ただの馬鹿のすることだ。

そのことで自分を叱責し、戦果を見る為に町へと降りることにした。

 

「ふむ、思ったよりも残っているな」

 

地へと足を下した私は、黒焦げの建物や家屋、そして炭となった物を見ながら戦果の確認をする。

 

「思いのほか大惨事になってしまったが、どうやら被害は少なかったようだ。

 いやはや、炙ってやるだけのつもりだったのだがな」

 

そう、私は単純にこの町を炙るつもりで『燃やした』だけだ。

だというのに、この町、そしてこの町に住んでいた奴等の体たらくはなんだ?

襲い掛かった炎に逃げ惑い、守るべきものを踏みつけ、罵詈雑言を放ちながら逃げた。

蛮勇をはき違えた馬鹿どもが、私に剣を突き付けたいたというのに。

私の姿を見て、大した相手でもないと調子に乗っていたというのに。

その全てが灰すら残らずに燃え散った。無様な醜態を私に見せつけてだ。

私は足元に転がっている頭蓋骨を踏み砕いた。

 

ああ、気分が悪い。

 

これが先ほどまで、自分に剣を向けた者達の姿か。

これが先ほどまで、自分を舐め腐っていた姿を見せた者達の末路か。

 

「不愉快だ」

 

私は再び湧き上がる失望感に顔を歪めた。

私を見下し、剣を向けた者達が、私の一端を除いた瞬間、蜘蛛の子を散らす様に逃げた。

それこそ、我先にと逃げ出す姿は、あまりにも醜態極まった。

 

私を殺すつもりで来れば良かった。私を排除する気で向かって来れば良かった。

そうすれば、私はその姿を目に焼き付け、礼としてその魂ごと灰にしてやったというのに。

その姿に恋い焦がれ、そしてその姿を賞して殺してやったと言うのに。

だというのに、こいつらは剣を向けておいて逃げたのだ。

もはや戦士ですらなく、ただのナマモノだったのだ。

だから私は、逃げ惑うただの動物を一方的に殺しただけの畜生になった、なってしまった。

 

「胸糞が悪い」

 

そんなことをした自分に腹が立つし、こんな命令を下した上にも腹が立った。

上からの命令ゆえに従わざるを得ないのだが、

何度も焼却作業をやらされれば、色々と思うところがあるというものだ。

だが、今は我慢しておいてやる。

いずれはお前等をローストビーフにしてやるつもりだ。

 

そんなことを思いながら、私は燃え盛る道を歩む。

すると何かが崩れる音と共に、何かが私に向かってきた。

そして、その何かが私にぶつかり、身体に何かがねじ込まれる感覚がした。

その何かに目を向ければ、それは年端もいかない子供だった。

体中が火傷に塗れ、煤汚れた顔を悪鬼の形相に歪め、私を睨みつけていた。

 

「この化け物め!町の皆の仇だ!」

 

その手には大きなナイフが握られており、その刃先が私の身体に食い込んでいる。

どうやら町の生き残りらしく、仇である私を討ちに来たのだろう。

その小さな身に溢れんばかりの憎悪を溜めこみ、私を殺す為に息を潜めていたのだろう。

その姿に、私は一抹の賞賛を送る。

目の前の子どもは、他のゴミとは違い、私に立ち向かった戦士だ。

恐怖を憎しみで圧し潰し、私を殺そうとした。殺す意思を持って私に挑んだ。

 

ああ、お前だ。私はお前のような存在を探していたんだ。

 

私の口元は、三日月のように歓喜で裂けた。

お前のような戦士に出会えたことに、私は自分の運に感謝した。

目の前の子共の懸命な姿に感謝を表すため、私もそれに応えよう。

 

私はナイフを握っている手を右手で包み込むように、そして万力の如く掴む。

 

「よくぞ私の元に来た。その姿に敬意を表し、お前のことを焼き付けよう」

 

そして左手でそっと触れる様に、その子供の頭に手を置き、

 

『燃え散れ』

 

素晴らしい物を見つけた子供のような笑顔で、私はその戦士を灰にした。

 

 

 

 

「随分と気分が良いようですけど、どうしたんですか?」

 

「ほう、解るか?」

 

自身の配下の言葉に、私は聞き返した。

作戦終了後、私は歓喜を身に宿しながら、自分の屋敷へと帰っていた。

久々の戦士との出会いに、私はとても気分が良かったのだ。

それまでは、いかに上司に皮肉交じりに報告をしてやろうかと思っていたというのに、

あまりにも気分が良すぎて、鼻歌を交じえながら上司へ報告しに行ったほどだ。

 

「フラウロス卿、一体・・・どうしたというのですか?

 貴女のようなお人が、まさか鼻歌を歌いながらここへやってくるのは珍しいのですが」

 

「ああ、自身の幸運に大変気分が良いのです。まさに宝石を見つけた気分だ」

 

「あ、ああそうですか。

 いえ、いつも私を冷めた目で見つめてくるので、随分と気分がいいと思いましたが。

 そうですか、何か良いことでもあったみたいですね」

 

なぜか上司は、怯えの混じった姿を見せるのだが、私は気にしないほどに気分が良かった。 

 

「それで、報告書の方はどうですかな?私からすれば不備が無いと思うのだが?」

 

「あ、ああ、何も問題はないですよ。作戦完了、ご苦労でした」

 

「それは良かった。では私は帰らせて貰うとしよう。ああ、実に気分がいい!」

 

そんなやり取りをしたのだが、なぜか周りは顔面蒼白だったのが不思議だ。

 

 

 

「それで何か収穫はあったのですか?」

 

「お前の求める物は無かったよ、ヴァイス・カツェ。

 いやはや、お前の探し人は随分と鬼ごっこが得意の様だ。いや、隠れ鬼か?

 ダンタリオン卿からの情報では、

 あちこちに出没しているようだが、その度に追手を退けて逃げているようだ」

 

「そうですか。なら問題はありません」

 

私の言葉に、ヴァイスの口元は歪んだ。

 

「ええ、問題はありません。アレは私の手で捕まえないと意味がないんです。

 他の誰にも譲りませんし、譲るつもりもありません。

 それに・・・」

 

ヴァイスの黄金に輝く目が細まる。

 

「いずれ、アレは私の前に来てくれると思います」

 

「それは貴様の勘か?」

 

「いいえ、絆です。辛うじて繋がっている程度ですが」

 

ヴァイスの言葉に、私は彼女と同じように口を歪める。

 

「それにしてもヴァイス、貴様は随分と変わったな?あの頃とはまるで別人だぞ」

 

「色々と貴女に手ほどきを受けましたから。

 『得た権利を投げ出して死ぬか、権利の為に生きるか選べ』でしたか」

 

「クハハハハハハハハ!

 そうだ、あの時の貴様は、その身に得た権利を捨てて、死を受け入れようとしていた。

 それが私には我慢できなくてな。

 磨けば光る逸材を、そのまま失うのはどうにも看過できなかった。

 そして私はお前を鍛え上げた。まだまだ至らないところはあるがな」

 

私は更に笑みを深める。

 

「そしてお前の探し人に会ってみたくもなった。

 私が育てたお前を彼女の見せ、そして言いたいのだ。『貴様のおかげだ、ありがとう』とな」

 

「それは貴女なりの趣味ですか?」

 

「少なからず趣味はあるが、そこまで傾倒もしておらんよ。

 女の尻を追っかけて堕ちた元天使でもあるまいに」

 

私は、あのクソ堕天使を思い出しながら、揶揄をした。

存在自体が黒歴史の塊である堕天使。

組織の長であろうに、自身の趣味に傾倒した結果、

管理下の目を逃れた者達が、時折喧嘩を吹っ掛けに来るのだ。

そしてそれに対応するのも、私らの仕事だ。

もちろん、そんな奴等は燃やしてやったがな。

 

「ではどうしてですか?」

 

「純粋に感謝したいのだ。貴様と出会えたことに、私は彼女に少なからず感謝している。

 きっかけは彼女の仕出かしたことだからな。故に、礼を言いたいのだよ」

 

「最低ですね。でも私も楽しみです。

 あの人がどんな顔をしてくれるのか、本当に楽しみで仕方がありません」

 

その言葉をきりに、私はヴァイスと共に笑い出した。

 

アレは今、窮地に追い込まれている。

それはアレ自身の行いによる自業自得でもあり、私という存在の影響であり、世界の意志だ。

ゆえに私は彼女と出会えることを愉しみにしている。

 

自身の身を捨てて守ろうとした存在に憎まれ、その存在から命を脅かされた時、

彼女はどんな姿を見せてくれるのだろうか?

悲しいかな、それは自己満足でしかなかったわけだが。

 

そう思うと、私の心は歓喜に打ち震えた。

 

「ああ、愉しみだ」




ファレグ「ああ、姉妹の絆は素晴らしいなぁ!」


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