思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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ただの思いつきです。
こんな奴もいていいかなぁ・・・と。


独善

この世界には多くの物語が溢れている。

それこそ、掃いて捨てるほどに溢れかえっている。

それこそ、名作から迷作、佳作から駄作、果てに傑作と枚挙だ。

 

さて、その物語に必要なのは何か?

キャラクター、ストーリー、世界観、少なくともこの3つは必要だ。

この3つがあってこそ、物語が生まれる。

 

さて、仮に、もしもの話ではあるが、

仮にもしも、自分が物語の世界に行けるとしたらどうするだろうか?

物語に触れた者なら、一度は考えてしまうだろう、この妄想。

主人公たちと一緒に旅をしたい!主人公と一緒に馬鹿騒ぎがしたい!

色々と思うのではないだろうか?

そして、こう思うのもいるのではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公に成り代わりたい・・・と。

主人公に成り代わって、特別な力を得て、襲い掛かる敵を討ち倒し、ヒロインたちにモテたいと。

それこそ、物語だ。

どんなことが起こるのか、どんな敵が出てくるか、倒し方は、どうすれば好意を抱かれるか、

それこそ物語を知っていれば容易だろう。

しょせんは物語、登場人物は役割を与えられた人形でしかない。

決められた行動(筋書き)しか出来ない存在だ。

むしろ、物語を知っている自分ならばもっと上手く立ち回れる、と思うかもしれない。

 

仮にそんな存在が物語の主人公になった場合、

第三者に役割を奪われた主人公は、一体どうなるのだろうか?

異物(筋書きにはない存在)によって弾き出された(役割がなくなった)存在は、

異物(筋書きにはいない存在)へと立場を変えるかもしれない。

 

本来ならば決まっていた物語だが、

そこに一節、一文、いや一文字でも付け加わった場合、それは大きな違和感となるかもしれない。

さて、主人公ではなくなった主人公がいる物語(原作)は、そもそもまともになるだろうか?

 

 

 

 

 

 

『そんな訳ないわよねぇぇぇぇ!?』

 

少女が叫ぶ。

少女は真っ白なワンピースを纏い、黄金の輝きを持った髪を揺らして。

その背中には白い大きな翼が生えている。

 

『はぁーい!皆さんこんにちわ!おはよう!あれ?こんばんは!かしら?

 ごめんなさい、私、時間には少々疎くて・・・』

 

何もいない空間に向けて少女は喋り出す。

 

『ねえねえみんな!ちょっと聞いてよ!私ってばすっごい怒ってるの!』

 

そう言うと、少女は足元に埋まっている本を漁り出した。

しばらくすると、少女は本の床から、一冊の本を取り出した。

 

『ほら、これを見てよ!』

 

少女は手に持った本を、何もない空間へと開いた。

その本には多くの物語が書かれていた。

 

・龍の力を持った少年が、大好きな人のために頑張る物語

・ただ自身の力を示すために、ひたすらに剣を極めんとする少年の物語

・何もなかった少年が、巨大な兵器に乗り込み、少女たちのために戦う物語

・国のために、そして愛する人のために、魔王を打ち倒そうとする勇者の物語

 

様々な物語が書かれていた。

 

『えへへ、実はこれ、私の大好きな本なの!

 良いわよね!カッコいい勇者様やヒーローたちの頑張る姿、

 主人公とヒロインたちのドタバタなラブコメディ、

 カッコいい主人公やヒロイン、私、彼らが織りなす物語が大好きなの!』

 

だが、笑っていた少女の顔が曇る。

 

『でもでもぉ、最近、本を読んでも楽しくないのぉ・・・。え?どうしてかって?』

 

少女は持っていた本を、笑顔で引き千切った。

破かれた本の頁たちが、まるで紙ふぶきのように舞う。

 

『だぁってこれ、みーんな奪われちゃったんだもの!』

 

少女は地団駄を踏む。

 

『私の大好きな主人公が!ヒーローが!みーんな別人になっちゃった!

 信じられないわ!私の好きな主人公は、こんなことをするはずがないわ!』

 

しばらく声を荒げていた少女は、空間に向かって口を尖らせる。

 

『あ、それってどういう意味って顔してる!良いわ!私があなたたちに教えてあげる!』

 

どこから出したのか、突然現れた黒板に、少女はチョークで書きだす。

 

・恋人と一生を誓った主人公が、いつの間にかハーレムを築いてた

・女の子が好きなスケベだからって、他人の恋人さえも奪いだす

・物語にあるはずのない能力に目覚め、物語で大暴れをしだす

 

などなど、黒板がいつの間にかホワイトボードへと変わるほどに、少女は書き込んだ。

 

『ね?信じられないでしょ?でもこれが今の現実なの!』

 

がたんと音を立て、黒板が裏返る。

 

『私の好きな物語と主人公たちが、物語に書かれていないこと勝手にやりだしたの!

 さっき書いた黒板の内容なんて、実際に比べれば些末なこと、氷山の一角、まさに泡沫!

 酷いよ!どうして!?なんで私の好きな物語を壊しちゃうのよ!』

 

崩れ落ちる少女は、手で顔を覆う。

 

『私、調べたんだよ?どうして物語がおかしくなっているのかって。

 本当に大変だったんだよ?

 何冊も何冊も見比べても、いつの間にか別の内容に変わっちゃうんだから。

 寝る間も惜しんで頑張ったんだよ?えーっと時間すれば、あれ?一瞬だった』

 

しくしくと泣く少女。

だが、その口角は三日月のように上がっている。

 

『でも、私の努力が実ったの!私は頑張った!ついにその原因を見つけたわ!』

 

まるで少女の頑張りを祝福するかのように、

パーティークラッカーがなり、上からは色とりどりの紙ふぶきが落ちる。

その中心で、えへん!と胸を張る少女。 

 

『そう!それは転生者!転生者が原因だったの!』

 

少女は同じように、何もない空間を見つめ、耳を傾ける。

 

『え?転生者ってなんなのかって?しょうがないなぁ、私が教えてあげるね!』

 

そういうと、今度はどこから出てきたのか、映写機をとりだしてスクリーンに映像を映す。

 

『まず転生っていうのはね、一度死んだのに新たな肉体を得る事なの。

 詳しい説明は省くけど、根幹はこれ』

 

映し出された内容に、少女はレーザーポインターでを当てる。

 

『そして転生者っていうのは、文字通り一度死んだけど新たな肉体を得た者って事ね』

 

今度は、頭に輪っかが付いた人から、別の人へと矢印が描かれている映像が出る。

 

『私は別に、転生自体を否定する気はないの。こう見えても私、信心深いもの』

 

両手を結び、祈る仕草をする少女。

 

『でもさー、最近の転生事情ってのが酷いって話なの。

 なんでも、神様がうっかりミスで大量虐殺してるんだって!

 もう神様ったら、全能じゃないけど万能なのにさ。本当に何してるのよ』

 

プンプン!と声を出す。

 

『それでね、その対応に困った神様たちが殺してしまった人たちにこういうの、

 他の世界に転生する気はないかい?ってね。

 単に自分のミスを隠ぺいするためとか、こいつを転生させたら面白そうだとか、

 果てにはどれくらい生き残れるかって、

 神様同士で娯楽の賭け事にしちゃう程度のものなんだけどねー』

 

DEAD OR ALIVEと書かれた板に、大量のチップを乗せる少女。

 

『転生にしても、現世じゃなくて幻想に放り込んじゃうし。でもそれを望む転生者もいるのよ?

 それでファンタジーやフィクションに転生させちゃうの。

 しかもチョー強い力なんか与えちゃって!』

 

少女は腰に手をて、顔を膨らませる。

 

『でも転生者も転生者なのよねぇ。

 やれ、あんなことやこんなことが出来る力が欲しいとか。

 挙句の果てが、物語の主人公の座を奪いたい!なんてのもあるの!』

 

少女はいつの間に置かれたのか、椅子に座って足をジタバタさせる。

 

『もう信じらんなーい!しかも主人公を奪った挙句、

 ひたすらに「元」主人公を虐めちゃうなんてサイテー!

 しかも、ヒロインなんかみーんなそいつに一目惚れ!終いには一緒になって虐めちゃう。

 そんなことをしたところで、誰も彼もがそいつを好評して高評価。

 そりゃそうだもんね、なんてったって「主人公」だもの!』

 

ジタバタするのをやめ、少女は項垂れる。

 

『でも私は思うの、その作品はお前の物じゃないって。

 その作品はその主人公だからこそ、私は好きになったんだって・・・』

 

少女は椅子にもたれかけながら、小さな声で語る。

 

『私だって転生を否定する気はないわよ。

 新たな世界で頑張るって、それって主人公じゃないけど主人公だもの!

 そういうのだったら、私はなんにも気にしない。むしろ応援しちゃう』

 

少女は『ガンバレー!』と書かれた旗を振る。

 

『逆に自分と言う存在じゃなくて、他人、しかも主人公に成り代わるってなに?

 物語の1キャラクターとして頑張るならまだしもさ。

 すでに筋書きがハッピーエンドで決まっている主人公になるって、それってずるくない?』

 

そう、それはまるで、敷かれたレールの上をただ走るだけの列車だ。

決まった選択肢を選んで進むだけのADVだ。

そんなのを生きていると、少女は思わない。 

 

『だから私は考えました!』

 

少女は椅子から飛び上がった。

 

『そんなことをする人たちにはぁ、私からのプレゼントをあげようって!

 きゃはははは!私ってばチョー天才!

 そんなに主人公になりたければ、私がもっと盛り上げてあげようって!』

 

少女は語る。

 

『みんなもそうでしょ?好きな物語で、赤の他人に好き勝手なんてされたら、

 もっと盛り上げてあげようって思わない? 

 散々愉しんでんだからさぁ、簡単なハッピーエンドが許されるわけないわよねぇ?

 それこそ、もっと波乱万丈にしたいって思わない?』

 

何もない空間に少女は尋ねた。

 

『だよね!皆もそうだよね!やった!私とみんなの心が一つになったわ!』

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねる少女。

 

『じゃあみんな、出ぇておぉいでぇー!』

 

ぱちんと指を鳴らせば、ポーン!な音や煙と共に幾人もの人影が現れる。

色々な姿の人影が見えるが、はっきりとは映らない。

 

『彼らは転生者のために、私が用意したキャラクター。

 その考え方は人それぞれだけど、誰もが転生者によって大切な何かを失った者達。

 え?転生者と戦ったら弱いんじゃないのかって?それは問題ナッシィング!

 だって私が力を貸してあげたんだから!』

 

少女は背中の翼を広げ、彼女の白い羽根が舞う。

 

『それでは皆様ご覧あれ。筋書き通りと侮った者達の姿を。

 きゃはは!筋書きのない現実に慌てふためく、「自称主人公」たちの姿をお楽しみに!』

 

黄金色の髪を持った、白いワンピースの少女は嗤った。


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