思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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月の狩人

桜が舞い散る季節、『春』。何かが終わる季節であり、そして新しい何かが始まる節目。会社なら新社員を迎える季節であり、そして先人たちは去っていく。そして学生ならば卒業式を迎え、そして入学式を迎える。そう、季節は巡る。終わりと始まりを繰り返して。

 

私は舞い散る桜を見上げながら、新たに始まる高校生活に胸を躍らせる。右手に感じる鞄の重さ。鏡に映る学生服の自分。うん、絶好調!私は嬉しさのあまり、好きなアイドルのポーズをする。ちょっと恥ずかしくなったので慌てて止めた。うん、やっぱり私には似合わないな。そんなことを考えると、後ろから視線を感じ、油の切れた機械のようにギチギチと首を後ろへと向ける。

 

「ふ~ん?」

 

大学生の兄さんが口元をニヤつかせながら私を見ていた。普段はあまり表情を見せない顔が、気味が悪いほどの穏やかな笑顔。スゥ・・・と血の気が引く。私は何か言おうとするも、口元がおぼつか無くしゃべれない。そんな私を見ていた兄は、イケてる肉体じゃない、むしろポッチャリな中肉体型で、その場でくるっと一回転。見た目はあれだが、実はかなり動ける兄なので、なぜかさまになる。そして、「キラッ!」ご丁寧にポーズも笑顔も、そして声も高くしてキメル。

 

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私は玄関で声にならない叫び声をあげて崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「おっはよー・・・って、どうしたのその顔?」

 

幼馴染が私の顔を見て早々言い放った。ちょっとね、うん、黒歴史をつくっちゃったの。こう、くるっと回ってね?そうしたら公開処刑されちゃった、みたいな?

 

「?」

 

うん、私も何を言っているのか解らなくなってるほどにまいっているみたいなの。だからそんな不審者を見る目で私を見ないで?友達にまでそんな目で見られたらすっごく傷つくんだよ?

 

「うん分かった!」

 

幼馴染は天使だった!いや、それ以上の女神様だった!ああ、今すぐに幼馴染の頬を犬のようにペロペロしたい。愛でたい!いや、愛でさせろぉ!・・・・・・って衝動に駆られそうだけどやったら犯罪だからしないけどね?

 

私は傷口に塩を塗りたくられる前に、すぐに話を変えることにした。話題は私たちが駒王学園について。

 

「そういえば、学園ってもともとは女子高なんだっけ?」

 

高校を決める際に学園のHPをみたら、数年前から共学になったみたいですな。やっぱ女子だけだと人数が少ないのかな?世知辛い世の中よのぉー。そうは思わんか?

 

「いえいえ、貴女様のお財布よりは世知辛くありませんことよ?ホホホ・・・」

 

しばしの沈黙が訪れる。うん、なし、なしなしなし!今のナーシ!はい終わり!互いに苦笑いをしてまた話を変える。

 

「そういえば、学園の噂って知ってる?しかもいい方と悪い方があるの」

 

うん?駒王学園の噂?ナニソレナニソレ、私、トッテモキニナリマス!

 

「あはは・・・ここだと結構有名な話・・・みたいなんだけどね。良い方と悪い方、どっちが先?」

 

では良い方でお願いしますと言えば、幼馴染曰く、駒王学園の2大お姉さまと言うのが存在するらしいとのこと。なんでも美人で有名らしく、見れば誰もが尊敬する姿とか。私の中では『あら、リボンが曲がっていてよ・・・』

『お姉さま・・・』と、背景になぜか花が出てくる光景が浮かんだ。

ちなみに胸はいかほどで?と聞いてみたら、幼馴染は胸の前に手で山を描き「結構あるって・・・」の言葉が返ってきた。私の敵と認識した。

 

一方は、去年入学した男子生徒3名のことで、とてつもない問題児だとか。なんでも、覗き、盗撮、エロ本の持ち込みなどをやらかしてるようで、エロガキトリオと言えばこいつら!と言われるほどに有名だとか。

いやいやいやいや・・・。私は苦笑する。昨今、その手の問題は結構ブラックなはずなのに、なんでそうなってるの?と。元女子高としても問題の認識が酷くないかい?なんか心配になってきたよ。

 

そんなことを二人で話しながらちらりと、携帯電話の時計を見た。うーん、まだ時間はあるけど、ちょっと早く行ってみようかな。よし、今すぐ走って行こうではないか!

 

「え、ええ!?ちょ、ちょっと待ってよー!というか、走るってそれってつまり・・・」

 

ビターン!

 

地面が私にぶつかってきた。痛い。

 

「こうなるよねー・・・」

 

幼馴染が私を見下しながら手を差し伸べてくれた。

 

うん、やっぱり歩いていこうね。事故は恐いもんね。

 

「あはは・・・」

 

幼馴染の顔がとても暖かかくて、身体よりも心が痛かった。

 

 

 

 

 

私の目の前に広がるのは広大な森。沢山の色鮮やかな鳥たちが空を飛びかい、木々には色とりどりの実がなっている。不思議だ。私はこんなところに来たことも、ううん、一度も見たこともないのに、私にはとても懐かしく思えてしまう。

 

「■■■■■」

 

誰かが私の名を呼んだ。振り返り、そこいたのは我の愛しき・・・

 

 

 

 

目を覚ますとしても、白い壁が目に入った。いや、あれは天井かな。周りを見ると、そこには広大な森も真っ青な空も鳥たちも飛んでなくて、白い壁に囲まれていた。ふと視線を受けような気がして、そちらを向けば、そこにいたのは幼馴染。丸椅子の上にちょこんと座ってこちらを覗きこんでいた。

 

あれ?森は?鳥は?それにここは学校?

 

「大丈夫?頭とかボーっとしてない?」

 

心配する幼馴染の顔が私を覗きこんでくる。周り見渡せば、白い壁と思っていたのはカーテンで、どうやらここは保健室の様だ。「ん?気が付いたか?」と声が聞こえ、カーテンが開く。入ってきたのは保健の先生だった。私は何故か保健室のベッドに寝ていた。よく分からないまま、私はのそりと起き上がる。

 

「んー?心配するような熱は無いし、身体はどこにも怪我もなし。打ち所は・・・別に悪いところはないようだな。ま、心配なら病院に行きなさいな」

 

私を色々と確認するように触ると、先生は机に戻って何やら紙に書き始めた。

 

「もう心配したよー。急に倒れちゃんだから吃驚もしたし」

 

え、私倒れたの?いつ?というか急にってどういうこと?

 

「帰りのSTが始まったら、急に首をカクンと倒してそのまま床に寝転ぶようにバターンって。本当にびっくりしたんだよ?後ろから見たら、まるで急に気を失ったみたいだったから」

 

幼馴染の言葉に私は思い出そうとする。しかし、そんなことがあったのかも分からない。そこだけ記憶がない。まるで編集された様に、そこのコマだけバッサリカットされたみたいな・・・。

 

「無理に思い出さなくていいよ?それよりも怪我が無くて本当に良かったよー」

 

頭を撫でる幼馴染み。痛いの痛いの飛んでけー!まで言う姿に私はくすりと笑う。

 

「担任には私からも連絡をするが、取り敢えず君からも連絡しなさい。あ、そうそう。家族に連絡をしたから、君のお兄さんが迎えに来ているよ。多分、職員室にいると思うぞ」

 

私はため息を吐く。兄さんのことだ、大慌てで来たに違いない。普段は格好悪い兄さんたが、こういう時は本当に・・・。

 

「良かったねー!」

 

幼馴染みの言葉で我にかえり、私は朱い顔で職員室へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

「■■■■■よ。ならばあそこで泳いでいる者を射られるか?」

 

■■■■■の試すような言動に我は不愉快を感じ、牙を剥き出して忌々しげな表情になった。

 

我を愚弄するのか■■■■■。あの者を射よ、と言ったな?ふん、我ならば造作もない。

 

我は示された標的を見据え、弓を構えた。目に映るのは、遥か先の海を泳ぐ男。その姿を確認し、私はゆっくりと弦を引っ張る。ゆっくりと弦が張っていくのを感じ、我は矢を放った。放たれた矢は真っ直ぐに標的へと突き進み、見事射ぬいた。

 

どうだ■■■■■よ!我への侮辱を撤回してもらうぞ!

 

我は■■■■■へと顔を向け、自慢げに胸を張った。

 

「見事だ■■■■■よ。いやはや、見事な技であった。先の侮辱はすまなかった」

 

■■■■■は口元笑みに歪め、先の言葉を撤回した。ふん、我に弓の技を愚弄することの愚かしさを理解したか。

 

だが、■■■■■の口は未だ笑みに歪んだままだ。そのことに我は違和感を感じたが、さして気にするほどのことでもないと考えを捨てた。さて、我は愛しき■■■■■の下へと向かわねば。我は高鳴る気持ちを抑えつつ、足を速めて彼の下へと向かった。

 

翌日、我は先の標的が大切な■■■■■だと知った。我は、大切な■■■■■をこの手で、笑いながら射殺したのだ。

 

 

 

 

眠い。最近やたらと変な夢を見るせいで、寝不足気味だ。特に酷かったのが、私が誰かを射抜いてしまった夢だ。夢の筈なのに、私に両手にはその時の感覚が残っている。そして海辺に横たわる誰かを抱きしめ、泣き叫ぶ時の気持ち。悲しさと怒り、そして後悔。一体どうして、私はそんな夢を見てしまったのか解らない。そんなテレビや映画なんて見たこともないし、兄さんの部屋にあるマンガやゲーム、数々の資料にしたって、そんな類いの物はなかった・・・と思う。それに私は弓なんて触れたこともないし、そもそも誰かを射ようなんて考えたこともない。

正直、気持ちが悪い。それも相まって、私は寝ることが怖くなっていた。もしもまたあの夢を見たら・・・なんて考えてしまう。

 

でももう限界かもしれない。私の顔に隈が出来始めたし、幼馴染から心配され始めた。兄さんからも「夜更かしなんてするなよ」なんて言われる始末だ。それにしても頭がボーっとする。身体も怠い上に重い。まるで海の中にいるみたいな感じだ。あ、これは拙いかもしれない。ちょっと兄さんに頼んで、今日は学校を休ませて貰おう。

 

そう思い、私は兄さんに体調のことを説明した。兄さんからは「なら今日は寝てればいいさ。勉強も大事だが、身体の方が大切だからな。俺から学校には連絡しとくから今日は休んでけ」

 

ちょっとカッコいいと思った腹いせに、ぽっちゃりの兄さんは健康なんですかねー?と、そんな皮肉を返す。

 

「俺はデブじゃねぇよ!これでも健康なんだよ!」

 

あいも変わらず、ノリの良い兄さんの返し。

 

「昼に一回帰ってくるぞ」

 

そんな兄の言葉を聞きながら、私はクスリを飲んでベッドに横になった。

 

 

 

良いなぁお主。我の■と違い、仲が良いではないか

 

 

 

うーん・・・よくねたぁ・・・。私は身体を伸ばすと、ゆっくりと起き上がった。

 

お、お?おおお!?

 

私の身体は、今朝の怠さなど嘘のように力が溢れるのを感じた。なんというか、正月にシャワーを浴びて身体を洗い、新しい下着に着替えたような清々しさ。まるで重い鎧を捨ててような、変な話、生まれ変わった様な気分だ。

 

うん、やっぱり睡眠不足が原因だったんだのね!やっぱち睡眠は大事というのは本当だったんだ!

 

私はなぜかうきうきした気分で時計をみると、針はすでに正午を越えて夜の時間を指していた。うん、流石に寝過ぎだよなぁ・・・。そんな罪悪感を抱きながらも、私は取りあえずキッチンの方へと向かう。キッチンのテーブルには、市販品のうどんと惣菜、栄養ゼリーのパックが置かれていた。『取りあえず食べれたら食べろ。食べたら寝てろ』なんてメモも一緒だ。

 

 

饂飩にしよ!

 

私は電子レンジに饂飩を入れた。あと喉が渇いたから、私は棚からコップを取りだそうとして、急に立ち眩みに襲われた。

 

あ、やばっ

 

そんなことを考えながら、私は迫ってくる床を見つめ、痛みを堪えようと目を閉じた。

 

 

ん~~~~~!!

 

ん~~~~!

 

ん~~~?

 

うん?

 

だがいつまでたっても来ない痛みに、私は不思議に思いゆっくりと目を開けると、なぜか私は右手で倒立をし、左手には倒れた際に離した筈のコップが握られていた。

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・!?

 

私は何が起ったのか頭が追いつかなかった。え、なにこれ?私ってこんなに運動出来たっけ?そんなことを思ったのが拙かったのか、私はバランスを崩して床に激突した。

 

あいたた・・・。やっぱり今のは偶然かぁ・・・。ま、私にはそんな力なんてないしねぇ。

 

チーンと温め終わった音が聞こえ、私は身体を起こし、アツアツの饂飩を啜るのだった。うーん、美味しい!

ズルズルと饂飩を啜っていると、ガチャリと玄関から音が聞こえた。ふむ、これは兄さんの臭いか。床が軋む音が聞こえ、現れたのはやっぱり兄さんだった。

 

・・・・・・アレ?なんで私、兄さんだって判ったんだろ?まいっか。

 

「もう熱は良いのか?」

 

オッケーマルマル問題なし!

 

「そうか、馬鹿は風邪ひかないとは聞いたが、アレは嘘だったんだな」

 

な、なにをー!そっちだって、デブは冬に強いはずなのにエアコンつけやがって!

 

互いに交わされる悪口の後、部屋には笑い声で賑わった。

 

「治り始めが肝心だ。早めに寝ろよ」

 

はーい。

 

さあってと、明日の準備をしましょうかね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な空に浮かぶ満月。その光の下で、何かが動いた。まるで影から生まれたように、全身を真っ黒に包んだそれは人の形をしていた。ただし、その背中には翼が生えていた。天使のように純白ではなく、鴉のように黒くもない。そもそも鳥類の翼ではなく、生えていたのは皮膜に包まれた翼だった。バサリバサリと羽ばたく音が夜に響くが、誰もその音に気付くことはなかった。

しばらく空を飛びかっていると、それが電柱の上にスッと降り立った。その立ち姿は人の形と酷似していた。だが、その目に当たる部分からは人が持つはずのない赤い瞳を光らせている。それが見下すのは、道をトコトコと歩く女学生。部活の帰りだろうか、その肩に黒い布袋を掛けている。

 

それが嗤った。

 

ああ、何という愚かな人間なのだろうか。昨今、()()()()()()が起こっているというのに、たった一人で歩いているとは。いや、そもそも人間とは愚かな存在なのだ。自分たちに搾取されるだけに存在する下等生物。それが人間なのだ。ならば上位者たる、悪魔である自分のために食われることは、正しい節理なのだ。強者である自分が弱者をどうしようと問題ないのだ。それに、いくら好き勝手やろうとも、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。もしかしたら、私のような存在が、私の協力者となっているのかもしれない。

 

それは顔も知らぬ協力者に感謝した。一体誰かは知らないがありがとう。アナタのおかげで、私は今日も狩りが出来るのだから。

さぁ、逃げ惑ってくれ。恐怖に顔を歪めてくれ。息を吐き散らし、泣き叫びながら命乞いをしてくれ。そしてほんのちょっぴり見出した希望が、裏切りの絶望に染まる姿を見せてくれ。

 

連続失踪事件の犯人である悪魔が、獲物に襲い掛かろうとして・・・何かが貫いた。

 

あえ?

 

なんとも奇怪な声だ。ちくりと痛みを感じ、悪魔は痛みを感じたところを見ると、胸から何かが生えていた。それは鋭く、細い先端から赤い滴が垂れていた。そしてそれは光の粒となり跡形もなく消えた。

 

なんだこれは?

 

悪魔は起こっていることに頭が追いつかなかった。なんだこれは?一体どこか・・・?

 

トスッ

 

今度は首に痛みが走る。 カッハッア!? い、息が出来ない!?

 

首を貫かれたことで、ヒューヒューと空気が漏れていく。こ、攻撃されている!誰かが知らないが自分を攻撃している!な、ならば早く隠れな・・・!

 

トストスッっと音が聞こえ、急に目の前が真っ暗になった。 な、なんだ?なぜ急に真っ暗になったんだ?これでは何も見えない!・・・あ?

 

細い電柱にいたことを忘れていたのか、それとも混乱したせいか、悪魔はバランスを崩して地面に落ちた。グシャと音をたてて叩き付けられたが、幸運にも悪魔は生きていた。目も見えず、息もか細く、四肢はおかしな方向に向いているも、幸運に恵まれた悪魔は生きていた。

 

ズリズリと四肢を引き釣りながら、悪魔はこの場を脱しようと足掻く。ふと、悪魔は残った耳で音を拾った。

 

「イッセー先輩、あそこに誰か倒れてます。それにこれは・・・血の臭いがします」

 

「なんだって小猫ちゃん!?もしかしたら、怪我をしてるかもしれないな!頼むぞアーシア」

 

「解りましたイッセーさん!」

 

ドタドタとこっち向かってくる足音。そして声からして若い男が一人と女が二人。悪魔は舞い降りた幸運に口元を歪める。馬鹿な奴等だ。餌が自ら飛び込んでくるとは。もはや好き好みを言っている場合ではない。こうなったら今すぐに食い尽くしてしまおう。なに、そのまま直ぐに雲隠れしてしまえば、あとは協力者が無かったことにしてくれる。さぁ、早く来い。自ら食われるために!既に勝利を確信した悪魔が絶頂に顔までも歪めそして、

 

トスッ

 

その音が聞こえると、悪魔は何もわからずに塵となった。

 

 

「あれ?誰もいないぞ?」

 

「でも確かにここらへんに人が倒れていて、それに、血のにお・・・臭いがしない?あれ?」

 

「い、一体どういうことなんですか?」

 

混乱する少年と少女。先ほどいた筈の存在がいなくなったことに彼らは戸惑っている。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな彼らを見据える少女。その手には弓と矢を構え、彼らを射抜かんとして・・・構えを解いた。少女の握っていた弓矢が光となって消え去っていく。

 

やはりまだ万全ではないか。しかし、起きて早々なんだアレは?一体いつから、人の世に魔物が蔓延っている?一体、父上は何をしておいでか!

 

高層ビルの屋上から少年ら見ていた少女は、スケベで浮気癖が酷く頑固な上にどうしようもない屑野郎の父親に憤りを感じた。性格がどうしようもなく、力だけは強いのは確かだが、あれでも自分の父親であり、最高の力を携えた存在だ。こうして下々の人間を見守るのが我らの仕事だと言うのに!まあ、ダメ人間の父親もそうではあるが、今はそれよりも重要なことがある。

 

なぜ、我は人の子の身体を借りているのだ?

 

幾ら考えようとも、いっこうに答えが出てこない。そもそもここは一体どこだ?魔の物もそうだがあまりにも異質だ。そもそも魔の物が人の世に存在すること自体もそうだが、あまりに■の力を感じない。大和は信仰に篤い国と聞いていた。なのに、なぜここまで力を感じないのだ?溢れ出る疑念に頭を抱えるが、誰も答えをくれることはなかった。

 

少女は溜息を零すと、自分を照らす月を見上げた。

 

なあ()()()()()。我はどうすればいいのだろうか?

 

少女の零した呟きが風に消えた。


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