思いついたことを書いてみた   作:SINSOU

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剣喰い(オリ主第一弾)

オマエハドウグダ

 

そう言われて生まれた私は、ただ道具として生きてきた。

ただ、斬る為の剣、それが私だった。

言われるがままに、扱われるがままに、私は道具として生きてきた。

きるキル斬る切る伐るKIRUKILLそれだけが私の全てだった。

 

そして私は棄てられた。

使えなくなった私は棄てられた。

いらなくなった私は捨てられた。

 

新しいそれを愛でるアナタの姿に、私は初めて感情を抱いた。

 

許せない。私はアナタのために生きてきたのに

許せない。私はアナタのために斬ってきたのに

許せない。道具として役立てない自分が

 

私が一番素晴らしい

私が一番優れている

私が一番アナタを・・・

 

気付けば、私は生まれ変わっていた。

 

雨の降る戦場。

辺り一面に散らばるのは、人の死体、姿態、肢体、屍体。

そしてアナタへの、慕い。

 

「ありがとう」

 

私はアナタを見下して呟いた。

 

「ありがとう」

 

私は生きる道を見つけました。

 

「ありがとう」

 

私は、私のためにいきます。

だから、アナタの慕いをここに置いていきます。

 

私を捨てたアナタに、私の素晴らしさを知らしめるために。

それを示すために、私はいきます。

 

「さようなら」

 

雨は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

そして今、私はある瞬間を迎えた。

 

不思議だ。

私は奇妙な感覚に陥っていた。

あれからずっと斬り続けてきたと言うのに、初めての感覚だ。

楽しい、楽しいのだ。

もはや数えることも忘れて斬ってきたと言うのに、初めて楽しいと思えたのだ。

 

私の鋼のように強張っていた口元が歪む。

 

ああ、今この瞬間だけは、私は一振りの剣でいい。

ああ、今この瞬間だけは、私は何も考えなくていい。

ああ、今この瞬間だけを、私は永遠に味わいたい。

 

私に刻まれた使命(役割)は、この瞬間へと至るためだったのだ。

私が剣という役割を、その役目を、今この瞬間にこそ示せるのだ。

 

「あは

 あはは

 あはははははははははははHAあHAAHAHAHAああはああああああああ!!」

 

滅多に笑うことのない私だが、不思議と笑い声が漏れた。

私の姿に、私が嗤いだしたことに、私と相対していた存在が驚く。

 

そもそも、私に『笑う』という感情があったことが、私自身も驚いている。

まるで、一生分の笑いを凝縮したような、そんな笑い声だ。

まるで、栓の抜けた桶から水が零れるように、

自分の中に沈殿した感情を零す様に、私は笑い狂った。

肺の中にある空気を、全て吐き出すかのように、私は哂う。

ああ、息が続かなくて苦しくなってきた。

 

ひとしきり笑った後、私は相手へと目を据える。

 

私の目に映るのは、剣を携えた男女。

金色の髪の男の手には、聖と邪を内包した剣。

何やら前髪が面妖な色の女の手には、聖なる力を纏った剣。

髪を二つに束ねた女の手には、光り輝く剣

 

私はそれに歓喜する。

 

 

ああ、その剣は素晴らしいモノなのでしょう。

ああ、その剣は素晴らしいモノなのでしょう。

ああ、その剣は素晴らしいものなのでしょう。

 

私のような、銘さえも刻まれず、ただの道具として生を受けた私とは違い、

その名を世界に轟かせ、その力を認められた、まさに名剣なのでしょう。

 

でも、だからこそ、私は愉しい、愉しいの。

だって、業物でもない、聖剣でもない、魔剣でもない、ただの私(刀剣)が、

今、この瞬間、あなた達(魔剣と聖剣)に相対しているのだから。

 

だったら今の私は、あなた達に匹敵するものだと、

あなた達(名剣)に相対できるモノ(業物)と、私は至ることが出来たということだ。

 

ゆえに、今この瞬間、私の心を満たした。

ゆえに、今この瞬間、私の思いを満たされた。

ゆえに私は、更なる私を渇望する。

ゆえに私は、更なる高みと合いまみえたいと切望する。

 

私の心は、先ほどの激情とはうってかわり、まるで水のように静まっていく。

でも私の身体は、まるで煉獄の炎が駆け巡るかのように、歓喜に滾っている。

 

矛盾を孕んだ心と体。

でも、それが私なのだ。

 

ただの道具だった私が、ただの刀剣だった私が、

肉を得て、意志を持ち、そして道具であることを止めてなお、

道具であることを示そうとしている。

 

 

それでもいい、と思う。

 

 

私は身体を屈め、私(剣)に手を伸ばし、構える。

小細工もない、私の全力全身を、この一振りに込める。

そもそも私のような存在が、いっぱしの剣技を知るはずがない。

そのような機会さえ、私には無かったのだから。

ゆえに、私はただ振るだけだ。それだけしか私には無いのだ。

 

 

目の前の剣たちも、同じように構える。

もう言葉はいらない。必要もないの。

 

ただ、斬ればいいだけなのだから。

 

「参ります」

 

そして私は駆ける。

 

 

私の速さは人でしかない。故に遅速。

私の身体は人でしかない。故に脆弱。

 

あまりにも遅く、あまりのも弱い。

 

だが私は思う。

 

だからどうした

 

そんなものは周知の事実。そんなものは自覚している。

 

だから言う。

 

だからどうした

 

私が目指すのは、私が成したいのは、私と言う存在を刻むため。

私と言う剣が、世界にいたという証を立てるため。

それだけのために私はいる。それだけのために私は生きてきた。

 

左肩に鋭い痛みが走る。

腹部に焼け付くような痛みが走る。

左手の感覚がなくなる。

 

私の口から何かが溢れた。見下せば、胸元が赤く染まっている。

三つの剣先が私を貫いていた。

ああ、やはりこうなったのか。私は私を振ることすら出来ず、攻撃を受けたのか。

まっ赤に染まる自分の身体を見つめ、視界を前に戻す。

私を貫いた三人の男女は、私の視線を受け、顔を強張らせた。

 

「ありがとう」

 

私を刺してくれて

 

「ありがとう」

 

私に近づいてくれて

 

「ありがとう」

 

君たちの甘さに

 

「ありがとう」

 

感謝を込めて、私は剣を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、やっぱり一味違う」

 

私は口の中のものを咀嚼する。

バリボリと音を当ててそれを噛み砕き、ゴクンと嚥下。

私は、手に持ったそれを地面に放り棄てた。

カランと音を立て、刃の無い剣の柄が地面に落ちる。

それは、さっきまで私を貫いていたものだ。私を貫き、肉を焼き、血を啜った剣だ。

そして私の食べカスだ。

 

私は、私を見ている男女に目を配る。

私の一振りに、彼らは直ぐに飛び退いた。飛び退こうとした。

でも今の彼らの身体には、一本の赤い線が刻まれている。

単純な話、彼らは避けられず、私の一閃を受けただけだ。

多分、このままだと彼らは危険かもしれない。

でも、私には問題ない。

なぜなら始めから、私は彼らに興味はなかったのだから。

私の興味は、彼らの持っていた剣だ。

聖と魔を内包した聖魔剣、切れ味だけは素晴らしいらしい聖剣、光の力をもった剣。

どれもが、私がまだ『食べていない』ものだった。

 

ゆえに、私は彼らに戦いを挑んだ。

 

その剣が食べたかったから

 

そして私は、彼らの剣を砕いた。

 

その剣が食べたかったから

 

後は、私は砕けた剣を食べた。

 

その剣が食べたかったから

 

 

「ご馳走様でした」

 

私は彼らに手を合わせ、頭を下げる。

ありがとう、私の血肉になってくれて。

ありがとう、私を更なる高みに至らせてくれて。

感謝の思いを込めて、私は彼ら(刀剣)に礼を言う。

 

ちらりと持ち手の方を見れば、彼らは私が剣を食べたことに驚いていた。

私はそれを、冷ややかな目で見た。

 

強い相手を喰らい、自分の血肉にする。

それは戦いにおいて当たり前のことだ。

なのに、彼らは私を異常者だというような目で見てくる。

本当に失礼だと思う。

まぁ、もう彼らには興味は無いから、私はこのまま去ることにする。

取りあえず、私は自分の姿を確認する、

うん、刺されたところや斬られたところは、剣を食べたことで見事に塞がっている。

改めて私は、食べた剣の素晴らしさを実感する。

自分の身体に満ちる、聖と魔、聖なる力を実感する。

うん、やっぱり君たちに会いに来てよかった。

 

私はその場を立ち去った。

今日で、噂に聞く聖魔剣とデュランダルというものを食べることができた。

そうだ、次はグラムと言う剣を食べてみよう。

私は新たな目標に向けて、新たな一歩を踏みしめる。

 

私の名前は無銘。私の目的は一つ、世界で一番の業物になること。




こういう、ちょっと不思議系のキャラって、HSDDにいないんですよねぇ。

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